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2022.04.07

【宮田理江のランウェイ解読 Vol.80】 ヴィンテージ感や遊び心 平和志向をうたう 2022-23年秋冬東京コレクション

 「東京モード」が華やぎと遊び心を取り戻した。「 楽天ファッション・ウィーク東京(Rakuten Fashion Week TOKYO)」として開催された2022-23年秋冬・東京コレクションでは、ヴィンテージ・古着テイストや装飾性、アート感覚がルックを彩り、東コレらしいキッチュ感が復活。平和志向のメッセージも目立った。外出する喜びをブランドそれぞれの解釈で演出。ファッションショーならではの凝った舞台装置やストーリー仕立ては「ポスト・コロナ」気分を予感させた。

◆トモ コイズミ(TOMO KOIZUMI)

 日本発のファッションブランドを楽天が支援するプロジェクト「by R」のランウェイショーでは実力派女優がレッドカーペットを歩き、別格のセレモニー感を漂わせた。キャスティングは主に俳優や歌手を起用。各モデルが引き立つデザインでカスタムメイドドレスを仕立てた。フロアレングスの量感ドレスを、アイコニックなフリルディテールで飾り立て、パンツスーツの襟やパンツ脇にフリルを施した。ストライプ飾りやネオンカラーがアクセントに。風格を帯びた、重厚なあでやかさを印象づけた。くすみ色や玉虫色など、複雑な深みを宿した色使いが装いに奥行きをもたらしていた。

◆フミエ タナカ(FUMIE TANAKA)

 官能性とヴィンテージ感のハイブリッドにミリタリーまで盛り込んで、異界に誘った。デフォルメ襟、ティアード、ハーネス使い、シースルーなど、多彩な表現で引き出しの多さを証明している。ブラウンのパンツ・セットアップは膝上に横スリットを入れた。カーゴパンツ風にフラップポケットを備えたパンツも用意した。ジャケットの上からダブルベルトを締め、コルセットライクにウエストをシェイプ。ロングコートは優美に裾が躍る。ゆったりしたドッキング仕様のワンピースは異素材感が際立つ。つやめきパンツにも膝から下に毛足の長いファーをあしらっている。特大の耳当てが垂れ下がる帽子は朗らかな表情。ニットトップの上から花柄のブラトップをオン。終盤に登場した髪の毛フリンジはシュルレアリスムにも通じるアート感を帯びていた。

◆マラミュート(malamute)

 強みとしているニットの表現を押し広げた作品をそろえた。ラメ糸でプリーツスカートを仕立て、しなやかでまばゆい着映えに。セットアップやロング丈ワンピースで格上ニットの装いを組み立てている。ファスナーとのコンビネーションが多彩。正面にダブルジップを走らせたカーディガンは動感に富む。モッズやミリタリーに目配りし、MA-1ジャケットをカスタマイズ。ビッグポケットを配したパンツも見せた。編み地を切り換えたり縁取りを施したりして、表情を加えている。フラワーモチーフをあしらって、70年代ムードを漂わせた。裾はフリンジやスリット越しに素肌をのぞかせている。パンツ・セットアップを彩ったのは、ネオン明滅のようなグリーンとイエロー。ピンクとブルーの差し色も利かせている。布帛とのマリアージュはバリエーションが広がった。アート風味を宿した装いをそろえて、「ポスト・コロナ」の高揚を呼び込んだ。

◆ベッドフォード(BED j.w. FORD)

 ショー構成でリアルとバーチャルを融け合わせた。手持ちのスマートフォンで各ルックをまとった、仮想空間内のモデルを眺めることができる一方で、目の前のランウェイにはリアルモデルが登場。映像に没入できるゴーグル形ヘッドマウントディスプレイも用意された。サイケデリック調に彩られたフェイクファーのハットはクラウンが高いジャミロクワイ風。ニット帽は長い耳当てがのどか。ジャケットは高い位置にワンボタンで留め、裾を遊ばせている。コードやベルトを垂らす小技が縦に長いシルエットを印象づけた。ライダースジャケットはロングジレ(ベスト)風に仕立て、ブルゾンにはパッチワークを施している。イエローやピンク、ペールブルーなどのポジティブな色を多用。セーターの胸にはピースマークが大きく編み込まれ、平和を願う気持ちをにじませた。

◆ハルノブムラタ(HARUNOBUMURATA)

 肩から滑り落ちるコートを押さえる仕草のような、細やかな「所作の美」を服に写し込んだ。シルエットはミニマルなのに、ほのかにノーブル。朗らかな曲線的カッティングで、無地生地の上質感を引き出している。ロングドレスやテーラードジャケットなど、オーソドックスなアイテムにふくらみやずり落ち感で抑揚を加えた。上質な素材使い、カーヴィーなシルエットに、ウィットフルな立体感が穏やかな動きを添える。ポケットに手を差し込むとか、バッグを小脇に抱えるといった所作に品格をまとわせる服づくりが「ミニマルの先」に導いていた。

◆タナカダイスケ(tanakadaisuke)

 田中大資氏が2021年にスタートさせたブランドが母校・大阪文化服装学院からサポートを受けて東コレで初のショーを開いた。刺繍作家でもあるデザイナーならではのデコラティブ(装飾的)なクリエーションだ。シルキー生地やビーズ、パールモチーフ、ビジュウ使いがきらめきを添えた。丁寧なクチュール仕事が光る。ダブルブレストのジャケットにはフラワーコサージュを散らしている。大襟やフリル袖がロマンティック。ロンググローブや大ぶりアクセサリーも貴婦人テイストを醸し出す。ファンタジーの世界に遊ぶかのような非日常感が漂って見えた。

◆ノントーキョー(NON TOKYO)

 社交界デビューを飾る人たちを指す「デビュタント」をテーマに選んで、みずみずしい装いを並べた。チャーミングなストリートテイストに上流階級テイストや舞踏会ムードをミックス。10段以上の総ティアードワンピースはパープルが艶美。オーガンジー系のシアー素材を、ショートパンツのセットアップにレイヤード。バラクラバは目出し部分に網目ベールをあしらった。手塚治虫の漫画『リボンの騎士』がプリントされた大判ストールも登場。ウクライナ国旗カラーのドレスは二重襟にスーパーティアード。大襟やラッフルがゴージャスな量感を生んでいる。

◆マリオン ヴィンテージ(MALION vintage)

 古着リメイクの手法を貫くブランドが東コレに初参加した。ネクタイやデニムパンツなど、様々なアイテムをばらしたり、つなぎ合わせたりして、別物に仕立て直している。今回のキーマテリアルはネクタイだ。つやめきを帯び、色・柄が多彩なネクタイはリメイクにうってつけ。たくさんの「元ネクタイ」を垂らし遊ばせたフリンジスカートはそれぞれのずれ加減が楽しい。ネクタイ特有の渋い色柄は束ねると、リュクス感を増す。パッチワークのワイドパンツ、デニムのビスチェも表情が深い。ヘリンボーン生地はセットアップに、バルキーセーターもショート丈トップスに再構成。白ブラウスの上からはオーバービスチェを重ねた。時流に乗っかった「アップサイクルもどき」ではない、古着愛とハンドクラフト熱がランウェイをぬくもらせていた。

◆ネグレクトアダルトペイシェンツ(NEGLECT ADULT PATIENTS)

 ふかふかの巨大ベッドを据えて、「眠り」をランウェイに持ち込んだ。ブランド名を略した「NAP」は英語で仮眠を指す。素足のモデルはまるで寝起きのような雰囲気でウォーキング。近ごろは珍しくなった芝居がかった演出だ。ウエアもジャージー・セットアップやロング丈スウェットシャツなど、ナイトウエア風をそろえた。フードで顔以外をくるむスウエットはバラクラバドッキング形。ファニーモチーフのTシャツには、チェック柄ジャケットを重ねて、ずれ感を生んでいる。レオパード柄ブルゾンやブランドロゴ入りトラックパンツがアイキャッチー。モデルが歩きながらカップ焼きそばを食べるという恒例の場面は、ロング丈ニットワンピース1着を2人が前後で着る「二人羽織」式。持ち前のパンク感とほのぼのムードが融け合った。

◆コンダクター(el conductorH)

 もともとメンズブランドとしてスタートしたが、初のウィメンズラインを発表した。モデルは全員、アイホールを黒く塗りつぶし、黒い口紅のモデルも登場。愛憎の二面性をテーマに、ダークな危うさをはらませた。透けたブルゾンにクラシックなチェック柄スカートで合わせ、足元は「コンバース」のスニーカー。ツイードのショートパンツ・セットアップもTシャツとスニーカーで合わせ、不ぞろいのノイズを奏でた。スタジアムジャンパーは袖先からフリルブラウスをあふれさせている。左半分の身頃がタイガーモチーフのコートもアシンメトリーの意外感が高い。シャツのエレガント柄に般若や有刺鉄線のモチーフを忍び込ませ、不気味さを宿した。コートやヘッドアクセサリーにフェイクファーを用いて、妖しさも漂わせていた。

◆リトルビッグ(LITTLEBIG)

 東京・渋谷のビル屋上でのランウェイショーにふさわしい「渋谷流ミックス」を打ち出した。テーラードとスクールテイストをねじり合わせている。タキシードやパンツスーツをストリート風味で着こなし、足元は白ソックスにキャンバス地スニーカー。スタジアムジャンパーとテーラードジャケットのハイブリッドも試した。ジャージー風セットアップはクールにアレンジ。ベロア調のつやめきが妖しげ。ロング袖ニットはパープルやレッドでグランジ風に色めかせた。ぼかしたオンブレチェック柄を多用。差し色が強めで、ピンクを効かせた。スカートはストライプ柄が斜めに走り、バランスをゆがめている。程よい違和感やずらしが反骨マインドを感じさせた。

◆ピリングス(pillings)

 ニット主体のクリエーションにシュルレアリスム的なアート性が加わった。あちこちに虫食い状の穴を開けた、不ぞろいのセーターがキーピース。ほつれやゆがみを編み込んで、不定形で不完全なノイズを響かせている。小襟のブラウスやナロースカートは、異形のボリュームニットとのずれ感を際立たせる。全体にけだるさを帯びていて、デニムスカートは床に垂れ、ニットの袖は指先を覆ってまだ余る。セーターには重層的なこしらえが施された。太めのロープや花びらのコサージュを組み入れて、立体感を強めている。たくさんのアリをはじめ、トンボやハチなどの昆虫モチーフが編み込まれ、非現実的ムードを醸し出す。全モデルが掛けたメタリック眼鏡もナードな雰囲気をまとわせていた。

◆ベースマーク(BASE MARK)

 「シュルレアリスム」をテーマに選んで、不思議な立体感を盛り込んだ。Tシャツは2枚重なっていたり、ダッフルコートの襟がねじれていたり。服を着脱するときの途中の視界が閉ざされる状態を表現。奇妙な生き物のイラストも夢うつつのよう。レイヤードを多用して、量感とたわむれた。巻き付けたようなケープ、服と一体化したマフラーなどはファニーなたたずまい。ゆるめのリラックスフォルムを軸に据え、オレンジやグリーンなどのポジティブカラーで彩った。ネックウエアやフリンジを垂らして動きを加えている。トッグルからフリンジを垂らしたダッフルコートはのどかな景色。バラクラバ風にフードを生かして、顔周りを朗らかに見せていた。

◆リコール(RequaL≡)

 

 古着リメイクの可能性をさらに深掘りした。アイコニックな古着シャツは何枚もドッキングさせて、ワンピースにトランスフォーム。何種類ものチェック柄をレイヤードで響き合わせている。全体にダボッとしたオーバーサイズに仕立て、性別に関係なく着られる服に仕上げた。スーパーフレア裾のパンツ・セットアップや、ジャンボ襟の崩しトレンチコートなどは部分的にデフォルメ。古着に特有のしわやアタリ、ほつれといったディテールを再現するギミックも凝らしている。有名スニーカーブランドやアウトドアブランドのパロディーロゴがウィットフル。人間の服を愛犬の服にリメイクする「FLAFFY」とコラボレートして、じゅうたん風のおそろいルックを用意。性別や立場を超えたピースフルな装いにペットまで巻き込んでみせた。

◆トーガ(TOGA)

 楽天の支援プロジェクト「by R」のサポートを受けて、約5年ぶりに東京でショーを開いた。テーラードを軸に、お得意のジェンダーレスを深化させている。腰から膝にかけて、ボリュームを与え、シルエットのめりはりを際立たせた。ジャケットを太もものあたりでいったん上下に切り離したかのような構造が縦長イメージを増幅させている。ペプラム付きのビスチェドレスや、ジャケットの裾下からペプラムをあふれさせるレイヤードを披露。モデルが動くたびに裾がスウィングし、リズミカルな動感を引き出した。ショート丈のボレロ風レザージャケットや、肩と袖がスーパーボリューミーな異形ジャケットなども量感が楽しげ。パフィーなアウターはつややかなフードで顔周りを覆った。正統派のスーチングを大胆に読み換えて、着る人の気持ちまで弾むような装いに誘っていた。

 

 

 ダイバーシティー(多様性)に弾みがついたのも、今回の東コレの傾向だ。シュルレアリスムやパンクが勢いづいた一方で、正統派のテーラードが盛り上がった。堂々とフェミニンをうたい上げる装いが増えた半面、もはやジェンダーレスは当たり前の存在に。手法ではアップサイクルや刺繍が広がり、手仕事技の表現が深まった。一見、まとまりを欠くようだが、もともと東コレにはいい意味での「ばらつき」があり、今回はその持ち味が戻った。新鋭と中堅・ベテランが思い思いのアプローチを示し、東コレは新時代に踏み込んだように見えた。


 

 

宮田 理江(みやた・りえ)
ファッションジャーナリスト

 

複数のファッションブランドの販売員としてキャリアを積み、バイヤー、プレスを経験後、ファッションジャーナリストへ。新聞や雑誌、テレビ、ウェブなど、数々のメディアでコメント提供や記事執筆を手がける。

コレクションのリポート、トレンドの解説、スタイリングの提案、セレブリティ・有名人・ストリートの着こなし分析のほか、企業・商品ブランディング、広告、イベント出演、セミナーなどを幅広くこなす。著書にファッション指南本『おしゃれの近道』『もっとおしゃれの近道』(共に学研)がある。

 

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