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2022.03.03

【宮田理江のランウェイ解読 Vol.79】官能的でクチュール「夜遊び復活」誘う 2022-23年秋冬ニューヨーク&ロンドンコレクション

 2022-23年秋冬のニューヨーク、ロンドン両コレクションでは、春夏で盛り上がった楽観的なムードを受け継ぎつつ、夜遊びやパーティーに誘うかのような官能的でグラマラスな装いが打ち出された。両コレクションに共通していたのは、クチュール感の高まりとフォーマルの再定義。SDGs時代を迎え、長く持ち続けるだけの価値を備えた「オンリーワン性」を示すクリエーションが目立つ。夜会服やゴシック、Y2K、80~90年代調、スポーツテイストなど、方向感の異なる新アレンジが持ち込まれ、トレンドの多様性が一段と強まっている。

■NYコレクション

 

◆マイケル・コース コレクション(Michael Kors Collection)

 夜のドレスアップに誘った。クールなニュートラル色のワントーンで、パワードレッシングスタイルに仕上げている。テーラード羽織り物とミニ丈ワンピースを組み合わせて、ボリュームのめりはりをこしらえる。アウターのふくらみを生かして砂時計フォルムを際立たせた。キャメルをキーカラーに据えつつ、イエローやピンクなどで勢いをプラス。ワンショルダー、ボリュームファー、サイハイブーツなどで量感を操り、グラマラスなシルエットを描き出した。

 

 ジャケットの肩掛けでタフなムードを演出。コートの大襟やフード、ケープといった、顔・肩周りを華やがせるディテールを用意。深いスリットや大胆なカットアウトで肌見せ。マニッシュなスーツ姿には90年代調の凜々しさが漂う。スパンコールやアニマルモチーフでナイトプレジャー気分を盛り上げた。イブニング服をアスレティックに仕立てる提案がディナーシーンの復活を予感させた。

◆コーチ(COACH)

 アメリカの過去50年をノスタルジックに振り返るようなテイストを詰め込んだ。パッチワークを施した、パフィーなムートン調シアリングコートがキーピース。黒いブラトップやコーデュロイのカラーパンツで合わせて、70年代ムードをまとわせている。ビッグサングラスやポンチョ、ネオンカラーはヒッピー気分を帯びた。フランネルシャツやオーバーサイズアウター、チェック柄などを盛り込んで、90年代グランジ風味も漂わせている。

 

 レザーをキャップ、ベスト、コートなどに用いて、クールでフェティッシュなたたずまいに。ハンドクラフトから始まったブランドヘリテージへの敬意も示した。ミニ丈ウエアを並べて、初々しいガーリーテイストにも目配り。ベビードールドレスやクロッシェ(かぎ針編み)レース・ワンピースを披露した。アートワーク風のグラフィティ柄が装いにパワーを注ぎ込む。懐古趣味とロマンティックが交じり合うアメリカンタイムレスなコレクションに仕上がった。

◆トリー バーチ(TORY BURCH)

 楽観主義や健やかさを印象づける装いを打ち出した。ジャージー素材のタートルネックや短めジップのプルオーバーがヘルシーなボディラインを描き出す。セカンドスキンのようなスイムスーツ風トップスは若々しいアスレティック気分を帯びる。ワンピースやロングスカートと組み合わせて、ミニマルとエレガンスを交わらせた。

 

 コルセット風の太いベルトでウエストをシェイプ。裾に向かってすぼまったバギーパンツや素肌をのぞかせたワンショルダーもシルエットに抑揚をもたらしている。グラフィックなカラーブロックが装いを弾ませた。ジャージードレスをネオンカラーで彩って、80年代気分をリバイバル。プリーツを利かせたパンツにも懐かしいムードが漂う。テーラードとアメリカンスポーツウエアのコントラストがルックにこなれた品格をもたらした。

◆プロエンザ スクーラー(Proenza Schouler)

 NYコレクションの幕開けを飾ったコレクションで「ソフトなフォーマル」を打ち出し、ポストパンデミックを見据えた新シーズンを方向づけた。20周年を来年に控えたデュオはデビュー当初へ原点回帰。ウエストシェイプを利かせたドレッシーな装いを披露。足首まであるフルレングスのフレアドレスをそろえて、ナイトシーンの復活を前祝いしているかのよう。コルセットやペプラムで砂時計シルエットを描き出している。

 

 ムードはフォーマルでも、素材はニットやジャージーでエフォートレスに整えた。着心地を重んじた「イージーリュクス」のドレスアップだ。靴もバレエフラットを迎えている。アニマル柄を大胆にあしらったのも楽観主義の表れ。テーラリングとボディコンシャスを調和させ、構築的な官能美に導いた。フォルムを誇張しつつ、アメリカンスポーツの軽快さも組み込んで、ボリューミーな「崩しフォーマル」に仕上げている。鮮やかなパープルやイエローの色彩もゴージャス気分を盛り上げている。

■ロンドンコレクション

 

◆アーデム(ERDEM)

 

 ダークロマンティックな夜会に誘うかのような装いを柱に据えた。スーツやドレスで細身のシルエットを軸に据えながらも、スリリングな気分を醸し出している。ワンピースには透けるブラレットを重ねた。スタッズを配したロンググローブは夜の貴婦人ムード。首から巻き垂らした、細く長いスカーフがフェティッシュな風情。スパンコールやビーズでまばゆいきらめきをちりばめた。

 

 テーラードジャケットに花柄刺繍を施し、マスキュリンとフェミニンをねじり合わせたジェンダーレスの先へ向かった。誰が着ても構わないようなスーツやワンピースが性別の壁を溶かす。レースやフリンジが動感とあでやかさを添えた。エッジィでノーブル、クチュールでアンダーグラウンドというミックスムードで、新たなロマンチズムを提案した。

◆エドワード クラッチリー(Edward Crutchley)

 ゴシックと官能性の融合を試みた。トップメゾンを支えたテキスタイルの専門家であるデザイナーは2015年にロンドンの俊英としてデビューを飾った。今回は80年代ムードを濃くして、ジェンダーの枠を取り払っている。ライラックのスリーピース・スーツはゆったり仕立ててあり、誰でも着やすそう。ベルベットやルレックスでつやめきをまとわせている。オーバーサイズ気味のロングカーディガンはでろりと垂れ下がり、ボディの輪郭を隠す。

 

 ヴィクトリアンなムードが妖しいクラシック感を漂わせた。ベアショルダーのロングドレスで素肌見せ。たっぷり膨らませたバッスルドレスは古風でグラマラス。赤と紫の響き合いがなまめかしさを呼び込んだ。グランジテイストも匂わせている。ボディコンシャスな白のワンピースは服のあちこちを不ぞろいに丸くカットアウトして、フェティッシュを薫らせた。足元には白ソックスと厚底靴でゴス感とコケットさを添えている。

◆トーガ(TOGA)

 ブランド創設から25周年を迎え、目先のトレンドに流されないプラウドな装いを一段とくっきり描き出した。気負わないジェンダーレスのさじ加減が芯の強いキャラクターを印象づける。ワンピースとパンツのコンビネーションが能動的なハイブリッドルックに導いている。細いストラップのドレスにも黒パンツを引き合わせた。巧みなレイヤードが装いに差し色を添える。ブルーのワンピースは黒コートのあちこちからあふれさせ、シックでクールなツートーンに仕上げた。

 

 腰から膝にボリュームを与え、シルエットにめりはりを演出。パフィーなレッドアウターにハイウエストの黒スカートといった組み合わせで動感を引き出した。コンパクトなブラックドレスは肩や腕で素肌をヘルシー見せ。シャイニーなジャケットは足元にマニッシュなムードを呼び込んだ。大ぶりバッグのクラッチ持ちも、朗らかなボリュームを寄り添わせていた。

 

 

 

 有力ブランドが独自タイミングでの発表を選んだり、ファッションウィークへの参加を見合わせたりといったケースが相次ぎ、新鋭ブランドの存在感が大きくなったニューヨーク&ロンドンコレクション。ジェンダーの決まり事にとらわれない提案はもはや当たり前となり、モデル選びにも変化が目立つ。フォーマルとデイリーの境界線も越え始めた。バラクラバやヘッドウエアの採用が広がって、顔周りが様変わり。「ポスト・コロナ」への期待感から、「失われた2年間」を取り戻そうとするかのような「モード復活」の提案がファッションの存在価値をあらためて証明していた。


 

 

宮田 理江(みやた・りえ)
ファッションジャーナリスト

 

複数のファッションブランドの販売員としてキャリアを積み、バイヤー、プレスを経験後、ファッションジャーナリストへ。新聞や雑誌、テレビ、ウェブなど、数々のメディアでコメント提供や記事執筆を手がける。

コレクションのリポート、トレンドの解説、スタイリングの提案、セレブリティ・有名人・ストリートの着こなし分析のほか、企業・商品ブランディング、広告、イベント出演、セミナーなどを幅広くこなす。著書にファッション指南本『おしゃれの近道』『もっとおしゃれの近道』(共に学研)がある。

 

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