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2022.03.03

顧客との接点を取り戻せ!米国ティーンブランドの現在

 クールなモデルや店員のみを起用していたことにより10代の消費者層が数年離れていたAbercrombie & Fitch(アバクロンビー&フィッチ)は、再び何年もの時間をかけてリブランディングしました。ブランドの象徴だったロゴ、店舗の激しい音楽や鼻をつく香水の匂いは姿を消し、明るい照明の店舗へと変化したことで、顧客の年齢層も上がったように思えます。同様に、スーパーモデルを起用し続けたことでリアルな消費者層との間に生まれたギャップが反感を買い、シェアが落ち込んで失速したVictoria’s Secret(ヴィクトリアズ・シークレット)も、ここ数年を費やした変革の効果が徐々に現れ、店頭には客足が戻っているようです。一方、両社の競合であるAmerican Eagle(アメリカン・イーグル、以下AE)は、さまざまな戦略が功を成しパンデミック禍も好調にすり抜けてきましたが、先述したような競合他社の多様なターゲット見直し戦略が進む中、新たなアプローチを行っているようです。このティーンブランド3社の直近の動きを見ていきます。

OFFLINE by Aerie  ニュージャージー州・ガーデンステートプラザ

自分の時間を取り戻す!OFFLINE by Aerieで新たなアプローチ

 AEの姉妹ブランド「Aerie(エアリー)」のサブブランド「OFFLINE by Aerie(オフラインバイエアリー)」が昨年9月にスタートしました。NIKEやlululemonを筆頭としたアクティブウエア市場は飽和状態と言えますが、OFFLINEでは人気の「Chill」、「Play」、「Move」コレクションの延長のラインとして、少し肩の力を抜いた日常生活に取り入れやすい服を提案しています。目覚めてそのまま犬の散歩をする時や、ワークアウトの初心者やインドア派の女子がソファーから離れる一歩となるような“ゆるい”感覚がコンセプトにあるといいます。ブランドロゴの「I」の文字が斜めにデザインされているのは、パーフェクトでなくても良い、不完全でOKということを消費者に思い出して欲しいという意味が込められています。

 

 同ブランドは、2014年にスタートした「AerieReal」キャンペーンの成功により、さまざまな人種や体型の女性に支持され、NPDによると、2018年には米国の女性向けアンダーウエア市場の3%を占め、Victoria’s Secretに次ぐECブランドまでに成長しました。SNSでも実生活でも常に“オン”の状態が当たり前の時代に、“オンからオフへ”気を緩めることを良しとしたOFFLINEの立ち上げは、単なるアクティブウエアにとどまらず、新時代の消費者を予測し、次のステージを見据えています。OFFLINEは2021年中に30店舗をオープン予定と発表しており、第3四半期の決算時点では13店舗を運営。閉店や縮小する競合が多い中、異例のスピードで展開しています。

 

 同ブランドが55ドルで販売する「Real Me Xtra Crossover Pocket Legging」は適度なサポートと360度ストレッチが特徴の第2のスキンのような感触。“毎日着たい“レギンスとして、2022年の「Self Certified Activewear Awards」で1位にランキングされました。

VS Store of the future シカゴ店の試着室 Courtesy Photo

ダイバーシティとインクルージョンでパブリックイメージをアップ

改革の時を迎えたヴィクトリアズ・シークレット

 昨年8月、L-ブランド(Bath&Body Works社に社名変更)からスピンオフされ、別会社となったVictoria’s Secret(ヴィクトリアズシークレット)は、「#Metoo」ブーム最盛期に失った顧客を取り戻すべく、あらゆるタイプの消費者へのアプローチを使命としています。姉妹ブランド「PINK(ピンク)」の店頭(写真参照)では、ぽっちゃり体型のマネキンが使用され、これにより消費者はサイズ設定に幅があると気付かされます。最近のプレスリリースでは、TikTokで活躍するカーブモデルのREMI BADER(レミ・バダー)氏をブランドアンバサダー兼コンサルタントとして契約しました。さらに、Love Cloudコレクションでは、多種多様な年齢、人種、体型、経歴を持つ18名の女性達を起用しました。例えば、サッカー選手Megan Rapinoe(ミーガン・ラピノー)氏、LGBTQモデル兼活動家のValentina Sampaio(ヴァレンティーナ・サンパイオ)氏、初のダウン症モデルのSofia Jirau(ソフィア・ジロー)氏、そしてキャンペーンモデルには、消防士、医療従事者、ピラティスのインストラクター、アーティスト、障害者モデルなどが登場します。直近の四半期の売上は14億ドル、通年の全体の売上は25%増加すると予測しています。

 

 また、シカゴにオープンした「VS Store of the future」では、最新のテクノロジー活用を特徴とし、試着室には買い物客がリラックスできるゴージャスなピンクのソファーと充電ステーションを備えています。以前と比較して照明は明るく、友人と訪れる買い物客が楽しめるソーシャルハブとしての役割を担っています。さらに、試着室にはデジタルカタログが設置され、オンラインで購入し自宅に発送できるほか、商品を試しながら、多言語対応のスクリーンを通して、商品のサイズ、色、特徴などを販売員とコミュニケーションすることが可能となっています。シカゴ店のフォーマットをパイロット版として、他のエリアにも広げていくといいます。ブランドや店舗の変化、サービスの快適さに気付き、若年層を中心に支持が戻ってきているようです。

新生アバクロンビーは徹底したデータ分析と<br>

トップTikTokerとの提携でシェア奪取!

 数年にわたるブランド改革を経て、EC販売とデータ分析にフォーカスするAbercrombie & Fitch(アバクロンビー&フィッチ)はかつて、セクシーでクールな大学生をターゲットにしていました。一方、現在は、幅広いサイズ展開を重視し、若いミレニアム世代(25歳前後)に向けた品揃えにギアチェンジ、ロゴ商品はすっかり消えモダンなデザインに一新しています。2021年第3四半期のEC売上は前年比8%増で、売上全体の46%を占めるまでに成長しました。2022年はあらゆる職種の社員がデータ分析のスキル向上のための「Data Academy」を発足するそうです。同社の技術、データ分析以外の業務を行う社員も巻き込むことで、顧客の多様なニーズのデータ化をリアルタイムで実現する狙いです。

 

 また、インフルエンサーとのパートナーシップも重要な戦略の一つです。例えば、160万人以上のフォロワーを持つTikTokのインフルエンサー”MIK” ZAZONは同社との提携でボディポジティブにフォーカス。「#Abercrombie」では、2億1,470万回、「#abercrombiehaul」では3,340万回の動画再生とその効果を発揮しました。さらに、姉妹ブランドのHollister Co.(ホリスター)では、トップTikTokインフルエンサー姉妹のチャーリー&デイキシー・ダメリオと提携し、トレンドにフォーカスしたブランド「Social Tourist(ソーシャル・ツーリスト)」を昨年5月にスタートしています。姉妹の父親のマークは30年間に渡りファッション業界に在籍していたことから、専門知識を活かし、姉妹とともにマーケティングなどに携わっています。Social Touristは、デジタルネイティブな環境で生活するZ世代独自のセンスを象徴したブランドだと言えます。同時に、なんといってもこの姉妹、フォーブス誌による2021年にもっとも稼いだTikTokerとして、トップ2を独占しています。フォロワー数は2億5000万人を超え、Hollister Co.以外にも、コスメブランド「Morphe(モーフィー)」、歯科矯正器具「invisalign(インビザライン)」との契約や、リアリティ番組出演、音楽活動歴などもあり、報酬は二人あわせて2,750万ドル(約30億2,000万円)と推定されています。絶大な影響力を持ったZ世代インフルエンサーは、デジタルと現実の世界の間で成長している典型的なモデルと言えます。そんな彼女たちが手掛けるブランド、Social Touristは、真の顧客と繋がることに成功するのか、どのような影響を生み出すのか非常に興味深いです。

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