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2022.03.02

【2022秋冬ミラノ ハイライト3】タイムレスファッションへの欲求に応えるメゾンやデザイナー

 2022年2月23日~28日に開催されたミラノ・ウィメンズ・ファッションウィークが幕を閉じた。

 

 1月のメンズコレクションがテーラード傾向に振れたという流れもあってか、ウィメンズコレクションでもクラシックスーツやフォーマルウェアを取り入れたり、メンズスーツに使われるような生地を用いたマスキュリンとフェミニンのミックスを多くのブランドが打ち出した。そのフォルムは肩を大きく強調し、ウエストを絞った構築的なものが多い。そこに、深くスリットの入ったペンシルスカート、ボディコンシャスなドレス、シフォンやチュールなど透け感のある素材やカットアウトやマイクロ丈による肌見せのデザイン、ビスチエ、ガーターベルトやニーハイブーツのようなフェティッシュな要素等でセクシーさを強調したテイストが加わる。復活の希望に溢れてカラフルだった春夏コレクションから一転して、キーカラーは黒、そしてメタリックや原色が差し色になっている。

 

 ファッションウィークがこれだけ普通に戻っている今となっては、コレクションテーマをパンデミックに関係づけるブランドも少ないが、複数のデザイナーが「歴史や伝統を見直して現代風に解釈」というコンセプトを掲げており、それはコロナ禍を経て大量生産と消費の時代は終わり、人々は古きよきものに価値を見いだしていることにつながるのではないだろうか。そしてテーラードという今シーズンの流れも、良質で長く使えるタイムレスなものへの欲求が背景にあるのかもしれない。

 

さて、最終版となる本記事では、2月25~27日にショーを開催したブランドを時間軸で追っていく。

エルマンノ シェルヴィーノ(Ermanno Scervino)

 スピノラ宮にてフィジカルショーを行った「エルマンノ シェルヴィーノ」。今シーズンもブランドのDNAに回帰し、そのアイコンを再発見するという作業を続ける。過去、現在、未来の間に深い感情的なつながりを表現し、同ブランドが提唱する「スポーツ クチュール」のコンセプトを大々的に押し出す。

 

 ピークトラペルのテーラードテイストのジャケットやワイドラペルのクラシックコートにブラトップやチュールのビスチェをあわせたり、メンズスーツにスパンコールを施すなど、マスキュリンな要素とフェミニンな要素をミックス。マクラメ刺繍やカットワークから肌を覗かせたり、スパンコールの刺しゅうを施したチュールスカートやシフォンのバルーンドレスなど透け感のあるアイテムが、品の良いセクシーさを添える。そんな中にアノラックやダウン、ボリューミーなニットカーディガンなどのスポーティなテイストをプラス。

 

 サルトリアル&ハイパーフェミニン、デイ&ナイト、スポーツ&クチュールといった様々な世界観を、ほとんどがワントーンでシンプルなデザインの中に、伝統あるメイド・イン・イタリーの最も洗練された技術で実現。それは見て美しいだけでなく、実際に様々なシーンで使えそうなコレクションでもある。

サルヴァトーレ フェラガモ(Salvatore Ferragamo)

 「サルヴァトーレ フェラガモ」はパラッツォ・レアーレ(王宮)内のサラ・デッレ・カリアティディにて、展示会形式でコレクションを発表。会場を入るとまず、バッグやシューズなどアクセサリーの展示が。バッグは立体的な視覚効果のあるクロコダイルプリントレザーなど新しい素材の「ザ フェラガモ ステューディオ バッグ」、スタッド付きのガンチーニクロージャーが特徴の、グレイニーカーフレザーを用いたソフトなバケット型バッグや、レザーで覆われた大ぶりのチェーンと、マキシガンチーニのディテールが特徴の三日月形のバッグが登場。シューズは1938年にサルヴァトーレ・フェラガモによってデザインされたレインボーシューズを彷彿とさせるマルチカラーソールの新しいユニセックススニーカーに注目だ。

 

 奥の部屋に展示されているコレクションは、インフォーマルな現代の流れに対応しつつ、カジュアルのコードを一度分解して自由な解釈を与え、ジェンダー間でシェアできる共通のコードを組み合わせて再構築。

 

 イブニングウェア的なフリルをニットで表現したり、伝統的なシルエットのイブニングドレスにストライプ柄のシアリング生地を採用。シンプルなニットのボディスーツとレザーのミニスカート、ニットポンチョとフレアパンツのコーディネートにはストリート感が満載だ。

 

 フォーマルウェアと同様のアプローチで選ばれた素材と高い技術で作られる「サルヴァトーレ フェラガモ」のカジュアルウェアには、隠しきれない品の良さが漂う。

ジル サンダー(JIL SANDER)

 前回に続きミラノにてフィジカルショーを行った「ジル サンダー」。テイストのミックスを得意としてきたルーシー&ルーク・メイヤーは、今シーズンは特にマスキュリンとフェミニンの融合を提案する。ウールやブークレを使ったメンズのテーラードテイストのダブルブレストジャケットは砂時計フォルムでウエストが絞られ、シャープなシングルジャケットにはマクラメ編みで肌が見えるロングドレスをコーディネート、またクラシックなトレンチは大きな襟が施され、フェミニンな要素が加えられている。とはいえ、ほとんどのルックはスカートとドレスで構成され、帯のようなリボンがアクセントになったミニドレス、裾の部分にフリルがあしらわれたスカート、ドレープを活かしたロングパフスリーブのドレスなど、全体的にはフェミニンでロマンティックな雰囲気のほうがやや強いかもしれない。

 

 直線的なシャープさやシンプルさを誇張することも多い「ジル サンダー」だが、今回のコレクションは構築的なクチュールテイストを感じさせる。それは奇をてらうことのない真の女性らしい美しさだ。

ドルチェ&ガッバーナ(DOLCE&GABBANA)

 「ドルチェ&ガッバーナ」は同ブランドが有するメトロポールにてフィジカルショーを開催。1月に発表されたメンズコレクションに引き続きアメリカのラッパー、マシン・ガン・ケリーの音楽が流れ、メンズ同様のグラフィカルなネオンのランウェイが設置されている。今回のコレクションのキーワードは「メタバース」、「彫刻的、ジオメトリックなシェイプ」、「80年代の美学」、「ゲーム、バーチャル世界のヒロイン」だとか。サイバー世界やゲームの中にいるようなニューヒロインたちを表現した。

 

 「ドルチェ&ガッバーナ」らしいブラックが全体に使われる中、光沢素材やラミネートによる未来的な雰囲気のメタリックカラーやシルバーが差し込まれる。フォルムは肩を強調した逆三角形の彫刻的なオーバーボリュームで、そんなマスキュリンな要素の中に、マイクロミニにガーターベルトのコーディネート、深いスリットのペンシルスカート、ボンディングテイストのトップやドレス、Tシャツのプリントやドレスにアップリケされたビスチェのモチーフ、シフォンやレースなどの透け感のある素材で、セクシーさが強調される。その一方で、マルチアーティスト、ジャンピエロ・ダレッサンドロによるイラストがプリントされたアイテムもあり、ゲームやアニメ的な世界観もプラスする。今シーズンのトレンドとなっているバラクラバが、フードのように頭からかぶるタイプのアウターやトップとつながっているような仕様になっているのも特徴的だ。

 

 NFTにもいち早く取り組んで大成功を収めている「ドルチェ&ガッバーナ」。メタバースを駆使し、征服した後、今度はフィジカルショーにデジタルの世界観を持ちこむという逆輸入的な発想をやってのけた。ミラノの大御所の一つとして君臨する同ブランドだが、いつの時代にもアップデートして、時代の先端を行く。

マルニ(MARNI)

 今シーズンも「マルニ」は一風変わったフィジカルショーを開催。デポジト・ジェネリ・ディ・モノポリオというミラノ郊外の旧たばこ工場で行われたショーはオールスタンディングで、一部は舞台があるものの、舞台を降りたモデルたちは観客を押しのけて好きに歩き、それがランウェイになる。うっそうと木や植物が茂る真っ暗な会場の中、モデルがどこを歩いてもよいように、後ろからモデルをトーチで照らす人も続く。故に観客とモデルの距離は非常に近く、パフォーマンスを交えた前回のショーに続き、今回も会場全体が一体化したような演出となった。それはすべてが1つの世界、「マルニ」のコミュニティーの一員であり、同じワードローブを共有しつつ、それぞれが独自の方法で服をまとい、コミュニケーションを共有するということなのだとか。

 

 そこでは、直して使っている古いものと新しいアイテム、そしてモデルたちの私物も混ぜてコーディネートされている。シルエットは全体的にボリューミーで、着こなしはルーズ。テーラードスーツ(アットリーニのオーダーメイドだそうで、商品化するときはどうなるのか気になるが)にブラトップやロングスリーブのニットを合わせる。クラシックなコートやイブニングドレスも縁の部分がほつれ、スリップドレスはフリンジの様に引き裂かれている。パッチワークのパンツ、ブロークンデニムなどの裾は長く引きずり、擦り切れている。穴の開いたニットやアップサイクルされたアウターなど、「誰かのお古」のような感じも漂う。

 

 古いものを直して新しいものと組み合わせることを、ダメージを受けた今の状態を修復して未来につなぐことにオーバーラップさせる。そこには人間らしい弱い部分に向き合い、個々を尊重しながら皆で勇気をもって克服していこうというメッセージが込められているらしい。ショー会場を出ると、中庭には晩餐会の準備が整った長いテーブルが置かれ、暗い世界から抜け出た後の明るい未来への希望を象徴していた。

ボッテガ・ヴェネタ(Bottega Veneta)

 「ボッテガ・ヴェネタ」は新クリエイティブ・ディレクター、マチュー・ブレイジーの初コレクションを、ミラノでは久々となるフィジカルショーで発表した。「ボッテガ・ヴェネタは実用性を兼ね備えたレザーグッズを中心に取り扱っており、バッグはどこに行くときも共にある」という考えに基づいており、同ブランドが誇るレザーと職人技を前面にだしつつ、動きのある躍動的なコレクションとなっている。未来派の芸術家、ウンベルト・ボッチョーニの1913年の彫刻「空間における連続性の唯一の形態」からのインスピレーションでもあるそうで、それが構築的なラインやスピード感に表れる。

 

 ヌバックにプリントされたトロンプルイユのデニムやシャツドレスに始まり、クロップド丈のパンツスーツやフリンジのアンダースカートがついたサーキュラースカートやドレス、トレンチやピーコート、そしてイントレチャートのミニスカートなど、様々なアイテムでレザーが使われる。あえて下着を見せる透け感のあるカクテルドレスや、ジップによって深くスリットの入るコートドレスなど、今シーズンのキーとなるセクシーさも上品に差し込む。

 

 そして小物類では、つなぎ目のないイントレチャートのワンハンドルバッグ「カリメロ バケット バッグ」、クッションのようなクラッチの「ピローバッグ」などが登場。シューズはイントレチャートのサイハイブーツやプラットフォームハイヒールなどが登場する。

 

 ブランドのオリジンはレザーグッズだということを念頭に置き、魅力的な小物を揃え、レザーを実にうまく使ったコレクションを見るにつけ、新クリエイティブディレクターは堅実にブランドを前進させているという印象を受けた。

フェラーリ(Ferrari)

 昨年、マラネッロのフェラーリ・ファクトリーにて初のファッションショーを開催した「フェラーリ」は今回、ミラノファッションウィークに初参加。フィエラミラノシティという見本市会場内に赤と青の光線が彩る長い一本のランウェイを設けてショーを開催した。

 

 クリエイティブ・ディレクター、ロッコ・イアンノーネは、「フェラーリとはシステムであり、そこでは美的研究はブランドの歴史で表現されてきた倫理観と決して切り離されたものではなく、また、創造性をプロジェクトに変換するイタリアの能力を統合したもの」だと考え、テクノロジーとイタリアが伝統的に持つ美や創造性をコレクションに盛り込んだ。

 

 全体的にテーラリングが生かされ、マスキュリンとフェミニンがミックスされる。内側のステッチを外側に用いて縫製されたペンシルスカートのスーツ、レーシングスーツのようなレザーのパッドが施されたトレンチに、「フェラーリ」レッドのベルトやハイヒールをコーディネート。このアイコニックなレッドはレザージャケットのシアリングの裏地や、ニットドレスのディテールにも使われる。

 

 「フェラーリ」を象徴する跳ね馬のモチーフはかなりデフォルメされたグラフィカルなプリントとなって使われ、フェラーリのロゴはスパンコールのドレスやメンズのダウンジャケットのステッチで描かれるが、遠くから見ないと一見ではわからないような視覚効果が施されている。カーボンファイバーを使ったスーツやジャケット、メタリック素材で仕立てた玉虫色に見えるテーラードスーツも登場する。

 

 「フェラーリ」の洋服と言うと、つい赤いポロシャツや跳ね馬ロゴのキャップを想像してしまいがちだが、本来の「フェラーリ」とはイタリアの職人技とデザインの最高峰であり、イタリアの美と創造性を象徴するもの。本格的なコレクション発表に乗り出した「フェラーリ」が繰り広げるクリエーションの今後が楽しみだ。

ジョルジオ アルマーニ(Giorgio Armani)

 「エンポリオ アルマーニ」同様、「ジョルジオ アルマーニ」も1月のメンズファッションウィークではコロナの感染状況を考慮してキャンセルされたが、今回はボルゴ・ヌオーヴォ通りのオフィスのあるビルにてフィジカルショーを開催。1月に発表できなかったメンズコレクションも併せて披露された。今シーズンは “Signs of Light (光のサイン )”というテーマで、自身のスタイルを象徴するサインとはどういうものなのかを再考したコレクションを繰り広げる。

 

 縦に長いシルエットをメインにし、多くのルックがスリムフィットなジャケット、ミニマルなトップ、ロングチュニックなど。そこにテーパードパンツやロングスカートを併せている。カラーパレットのメインはブラックとミッドナイトブルーだ。キーワードとされている光の輝きとは、スパンコールやメタル素材はもちろんのこと、ベルベットやシルクサテンのような光沢のある素材の輝きもある。そこには幾何学なモチーフが加わり、ルックにリズムを与えている。光を伴うコレクションは、ジョルジオが常に愛してきたアール・デコの直線性やモダニズムも反映されている。

 

 「ジョルジオ アルマーニ」は、今起こっているウクライナ侵攻で悲劇に巻き込まれた人々への気持ちを表して、開始数時間前にこのショーを無音で開催するという決断をした。ちょうど2年前の今頃にコロナ禍が始まった時も、感染対策のための無観客ショー開催を最初にアナウンスしたのはジョルジオだったように記憶している。ミラノファッション界の頂点にいる人物としての影響力を自覚し、あえて社会的なメッセージを投げるジョルジオの勇敢なアクションについても付記しておきたい。

 

取材・文:田中美貴

https://apparel-web.com/tag/miki-tanaka

 

2022秋冬ミラノコレクション

https://apparel-web.com/collection/milano

田中 美貴

大学卒業後、雑誌編集者として女性誌、男性ファッション誌等にたずさった後、イタリアへ。現在ミラノ在住。ファッションを中心に、カルチャー、旅、食、デザイン&インテリアなどの記事を有名紙誌、WEB媒体に寄稿。アパレルWEBでは、コレクション取材歴約15年の経験を活かし、メンズ、ウイメンズのミラノコレクションのハイライト記事やインタビュー等を担当。 TV、広告などの撮影コーディネーションや、イタリアにおける日本企業のイベントのオーガナイズやPR、企業カタログ作成やプレスリリースの翻訳なども行う。 副業はベリーダンサー、ベリーダンス講師。

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