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2022.03.01

【2022秋冬ミラノ ハイライト2】ミラノコレクション中盤 テーラードミックスと女性性の追求

 今シーズンのファッションウィークは珍しく毎日が快晴で暖かい陽気に見舞われた。その一方で、ショー会場が街の中心からかなり離れているところが多く移動には一苦労。そのうえ、25日はストで公共機関が機能していない上に、各所で行われたデモで道がふさがれたため、街中が渋滞し、困難に拍車をかけた。ショーだけでなく展示会も軒並みフィジカルに戻っているので、スケジュールのほうもコロナ以前並みの殺人的なものとなった。

 2月24日後半と25日には「エンポリオアルマーニ」や「グッチ」、「モスキーノ」などのビッグネームがミラノにカムバック。両日の中からハイライトを開催順にレポートする。

エンポリオ アルマーニ(EMPORIO ARMANI)

 1月のメンズファッションウィークでは、感染状況を考慮して直前にショーをキャンセルしたアルマーニグループだったが、ウィメンズでは堂々の復活。「エンポリオ アルマーニ」は「アルマーニ/テアトロ」にて、フィジカルショーを開催した。

 

 コレクションのテーマは“RHYTHM OF COLOUR(色彩のリズム)”。輝き、誘惑、魅惑と言った意味で使われる「グラマー」という言葉の原点は個人個人が持つ魅力から発せられるものであると考え、今シーズンはその魅力を色使いにより強調したのだとか。それはウィメンズではピンクやグリーン、コーラルなどの明るいカラーパレット、一方、メンズでは様々なグレーを使用して表現される。

 

 カラフルなウィメンズの色使いは、パイピングやファーなどのディテールへの部分使いからワントーンやトーンオントーンでのトータル使い、またはジグザグやカーブなどの幾何学模様や未来派の絵画のようなプリントで表現される。そんな中にメンズと呼応するようなグレーやブラックのルックも差し込まれている。

 

 これらはテーラードジャケットやタキシードジャケット、ミリタリーテイストの徽章付きジャケットなどマスキュリンなテイストのものも、バルーンスカートやAラインのドレス、リボンや花のディテールなどガーリーなイメージもある。さらにワンショルダーやローブデコルテ、カットアウトなどの肌見せ要素を取り入れたセクシーな要素も加わる。

 

 着る人の個性を尊重し、着ることで美しく見せるということ常に念頭においてきたアルマーニの本質は決してぶれることがなく、それを今シーズンは色で表現した。

ブルマリン(Blumarine)

 アルカトラズというクラブ(巨大ディスコ)にてフィジカルショーを行った「ブルマリン」。ニコラ・ブロニャーノによるカラフル&キラキラのポップグラマラスが定着した感があったが、今シーズンは黒がメインのセクシー路線を展開。挑発的で大胆、そしてダークな部分も併せ持つ謎めいた女性像を描いた。

 

 全体的にボディコンシャスなシルエットで、マイクロミニドレスやボディスーツ、スキニーパンツが多く登場。マイクロミニから除く脚にはガーターベルト付きの薄手のストッキング。肌の露出も多く、マイクロクロップドジャケットやニットや、上の部分を止めただけでおなかの部分が開いたデザインのトップ達、テーラード風ジャケットは大きく背中が空き、ドレスにはカットアウトが施される。

 

 さらにセクシーさは透け感でも強調され、刺繍やビーズを施したヌードドレスや、ハートで胸の部分を隠したチュールトップなども登場。「ブルマリン」のシンボルであるフラワーや蝶のモチーフは、ミニドレスの胸やヘムの部分、ブラトップの飾りとしてさりげなく登場している。

 

 ポップグラマラスだった「ブルマリン」ガールたちは成長し、大胆でセクシーな大人の女性へ。「ブルマリン」らしく女性性を追求するコレクションは、を強調する服がトレンドになりそうな今シーズンにマッチする。

モスキーノ(MOSCHINO)

 ロックダウン中のデジタル発表の時期を含めると、久々のミラノでの発表となる「モスキーノ」。パラッツォ・デル・ギアッチョというスケート場に、豪華で壮大な邸宅風のセットが作られ、ヨハン・ストラウスのワルツが優雅に流れている。これは、1989年と1990年にフランコ・モスキーノが発表したカトラリーのブローチや蛇口の取っ手などからの連想から、ジェレミー・スコットが今回のコレクションのコンセプトとした“設備の整った家”を具現化しているのだとか。

 

 そこに住まう女性たちは、品の良いスーツやセットアップ、ワンピースやドレスなどをかっちりと身に纏う。が、そこにはシルバー類やドアノブ、手鏡などが飾りとして付いた小さな遊びが。そんな遊びはショーが進むにつれてエスカレートし、荘厳なお屋敷の調度品たちが洋服になっていく。全身が置時計に、またはショルダー部分が二つの時計になっているルックもあれば、シャンデリアや楽譜立て、壺やキャンドルスタンドを頭に付けたモデルもいる。金の額縁のモチーフをネック部分やショルダー部分に施したドレス、カーペットやタペストリーのようなプリントがコンシャスなロングドレスやミニドレスとして登場。中国風の屏風がそのままドレスになり、ブラの部分がシャンパングラスになったお盆がトップになり、最後にはハープがトレーンになったゴールドのドレスも。一見突拍子もないように見えるが、それはよくクラシックな衣装にアイロニーを加えていたフランコ・モスキーノへの敬意でもあり、テーラードなどの過去の服飾文化を再構築する今シーズンの傾向にもつながる。

 

 フィナーレでは映画「2001年宇宙の旅」のサウンドトラックと共に、赤い宇宙服を着て登場したジェレミー・スコット。コレクションとのつながりは理解できなかったのだが、コレクションで描いたシュールレアリスティックな日常と、(少なくとも1968年の公開当時は)未知で不可解だったこの映画の世界を重ねたのかもしれない。

トッズ(TOD’S)

 今シーズンもPAC(現代アートパビリオン)にてショーを開催した「トッズ」。今回のテーマは“ITALIAN BEAUTY”。ショー会場にはデジタルアーティスト、アルベルト・マリア・コロンボにより、デフォルメされたイタリアを象徴する美しい建造物や風景の映像が映し出される。

 

 今回のコレクションではエッセンシャルなコレクションが作りたかったというヴァルター・キアッポーニ。黒を軸にブラウン、キャメルなど限られた色のみを使用してシンプルに仕上げた。ファーストルックはオールブラックのマスキュリンなパンツスーツにクラシックなコート。このようなテーラードスーツはレザーでも登場し、しばしばクラシックなカラーピンを付けたシャツとコーディネートされる。

 

 そこに90年代風ミラノの上級階級のカントリースタイルのルックが続き、キルティングヌバック、パディングレザー、シアリング加工のジャージーで実現したトレンチコートやボンバージャケット、それらにはゴンミーニ風のエルボーパッチが施されているものなどが次々と登場。様々なルックで登場するローゲージニットは、パーツによって編み方を変えたり、アナトミックなアプローチで構築的に作り上げてある。キルティングや複合素材のケープ、フリンジ付きニットのマントやスワロフスキーが施されたマントなど体を包み込むアイテムも特徴的だ。

 

 小物類では、ボリュームのあるソールを備えた「W.G. アンクルブーツ」、ソフトレザーでくしゃっと小さくすることができる多機能バッグ「ディ アイ バッグ」や「T タイムレス バッグ」にニットやラフィアとレザーのコンビバージョンなどが登場。

 

 色使いや無駄な装飾を極限に減らすことで本質的な美しさを強調したコレクション。それは「トッズ」ならではの上質な素材のミックスや緻密な職人技という後ろ盾があるからこそできることなのだ。

スポーツマックス(SPORTMAX)

 今回もフィジカルショーを行った「スポーツマックス」は、セナート宮という歴史的建物の回廊部分をドアが延々と並ぶ廊下でふさいだランウェイを設置。怪しげなピンク色の光の中、パワフルでボディコンシャス、エロティックなシルエットを前面に押し出した官能的なコレクションを発表した。それには砂時計シルエットのジャケットが登場した1940年代、ビッグショルダーとペンシルスカートのコンビネーションが主流の1980年代、そしてアンドロジナスなミニマリズムが台頭する1990年代・・・これらの女性の社会進出を象徴するパワードレッシングの3つの黄金時代の要素を取り入れたのだとか。

 

 肩を強調し、ウエストをマークしたテーラードジャケットやコートにネクタイを合わせ、スリットの入ったペンシルスカートや丈長のスリムパンツやスラックスを合わせる。ベアトップやワンショルダーのボディコンシャスなドレスや、カットワーク、深いスリット、大きく背中が開いたトップスなど、ドキリとさせられるディテールが満載だ。ビスチエやボディスーツはクラシックなロングコートやボリューミーなファーコートとコーディネート。マスキュリンなスーツには小物やシャツなどの小さい面積で鮮やかな赤やアニマル柄を入れてアクセント。

 

 シャープで男性的なテーラリングとのミックスや黒を基調とした厳格な色使い、曲線美を大胆に強調した潔さなど、いくつものトリックがあるからこそ、官能的ではあるのだが下品にならないコレクションに仕上がっている。

エトロ(ETRO)

 ミラノ音楽院にてフィジカルショーを行った「エトロ」。今シーズンは“ETRO REMIX”をテーマに、1968年創業の「エトロ」がこれまで培ってきた独自のテクスチャーやモチーフを再発見して再構築。

 

 「エトロ」を象徴するペイズリーやアニマル柄は巨大化したモチーフとしてシフォンドレスやドローストリングスのパンツ、パッチワーク風のジャケットなどとして登場。ジオメトリックなボタニカルモチーフや南米の民族風パターンも華を添え、さらにパッチワーク的な要素も加わって、様々に「リミックス」される。

 

 それをメンズライクなオーバーボリュームのフォルムで、体を包み込むような暖かく重厚な素材や人の手を感じる仕上げでコレクションに昇華する。

 

 特に手作りの温かさを感じさせるのが、様々な編みの技術で仕上げられたニット類で、スリット入りロングスカートやセットアップスタイル、ブラトップやミニドレスなど様々なアイテムとして登場。そこにはフリンジやタッセルなど「エトロ」らしいボヘミアンテイストのディテールが添えられている。

 

 外からの資本が入り、エトロファミリーの独自経営でなくなっても、「エトロ」らしいカラフルで自由なノマドテイストが溢れた、安定感のあるコレクションにはほっとさせられる。そして老舗ブランドの持つ魅力を損なうことなく新しくアップデートできるのも、ファミリーの一員であるヴェロニカがデザインしているからこそであろう。

オニツカタイガー(Onitsuka Tiger)

 2021秋冬、2022春夏とデジタルショーにてコレクションを発表した「オニツカタイガー」だったが、今回、コロナウイルス流行以降初めてのフィジカルショーを開催。コレクションテーマである“Shadow(陰影)”とは、豪華絢爛が美の絶頂とされていた西洋美学に対し日本の純粋さと質素さという美学が衝撃を走らせた、80年代へのオマージュなのだとか。

 

 クリエイティブディレクターのアンドレア・ポンピリオは、そんなモノトーンの中にシルエットやディテールで美を加える日本らしい世界観と、当時のアンダーグラウンドのカルチャーシーンを映し出していたレイヤードや並外れたボリューム感をコレクションに取り入れた。

 

 来場のお礼のアナウンスが日本語で流れ(英語訳等はナシ)、ショーがスタート。ショーピースのすべてが黒と、ディテールに使われる一部の白だけで繰り広げられる。それはオーバーサイズのTシャツをレイヤードしたり、グラフィカルな刺繍が施されたカフタンにワイドパンツをあわせたコーディネートなどのストリート的なテイストや、レイヤードフリルやベロアのドレスなどのゴシック&ガーリーなイメージで表現される。そんな中にボリューミーなダウンやクロップド丈のスカジャンなども加わる。オーバーフォルムのニットやナイロンジャケット、トラッキングパンツには炎のようなプリントも見られる。そしてレザーのパンキッシュなフラットソールのシューズ、薄いナイロンのキルティングのバルキーなプラットフォームソールのスニーカーが足元を飾る。

 

 80年代のジャパニーズファッションと言われても、すぐピンとくる欧米人は少ないかもしれないが、黒を基調として今のトレンドに昇華したアクティブでジェンダーレスなテイストは、国境を越えて評価されるであろう。

グッチ(GUCCI)

 ミラノでのフィジカルショーは久々となる「グッチ」は「Exquisite Gucci」コレクションを発表。本社、グッチハブに歪んだ鏡で左右を囲んだランウェイを設置し、幻想的な世界を演出した。「鏡の効用は単に物を映すことではなく、昔信じられていたように逸脱、魔力、ゴーストの召喚といった不思議な特性を持っていて、ワンダーカマー(驚異の部屋)に設置されて現実を拡張し変容させる機械のように作用する」という考えの元、アレッサンドロ・ミケーレは、「衣服を作るために必要な操作も、卓越した魔法の鏡と同様であり、衣服は世界における自分の魅惑を取り戻す手段」であり、「洋服によってアイデンティティと潜在的な自己表現能力を明示している」という論を展開する。

 

 ジェンダーレスと言う言葉は、これまでにも何度もミケーレの「グッチ」を形容するときに使われてきた(そして本当はもう今さらあまり使いたくない)が、今回のコレクションではメンズのテーラードスタイルを活かした形でジェンダーレスが前面に出ている。ダブルのスーツやチェスターコート、タキシードやドレススーツなど正統派のメンズクラシックスタイルや、ピンストライプ、ウインドーペーン、グレンチェックなどメンズスーツの素材を使用したピークドラペルやノーカラーのジャケット、クロップトパンツなどちょっとひねりを入れたアイテムが多く登場。その一方で、深いスリットの入ったペンシルスカート、透け感のあるチュールやビスチエのトップなどセクシーなテイストや、コクーンシルエットのコートやパフスリーブのフリルドレスなどロマンティックなテイストも混ざるが、それをメンズモデルが着用しているルックもあって、ここでも性別はもはや問題ではなくなっている。さらに前後両方につばのあるベースボールキャップや鋲付きのバンブーバッグ、メタルのネクタイなどの攻めたアクセサリーも華を添える。

 

 そんなルックたちの多くには、今回の大きな話題となっている「アディダス(adidas)」とのコラボによる、同ブランドのトレードマークの「スリーストライプ」と「トレフォイルロゴ」を入れることでテーラードスタイルとスポーツを共存させている。それによってスーツのトラウザーがトラックパンツになり、イブニングドレスがストリートウエアになる。コラボではシンプルにシグニチャーがプラスされているだけなのに、ルック全体に全く新しい魅力が加わるのは、「グッチ」というブランド自体が確固たるスタイルを持っているからこそだ。

エリザベッタ フランキ(ELISABETTA FRANCHI)

 コロナ以降、デジタルで発表していた「エリザベッタ フランキ」は、久々にフィジカルショーを復活。今回はプロのモデルだけでなく、同ブランドを長年愛する普通の女性たちもランウェイに登場し、「エリザベッタ フランキ」が様々な種類の女性達に幅広く愛され、洋服によってごく普通の女性たちを輝かせていることを証明した。

 

 そんな今回のコレクションはボディコンシャスなサテンやシフォンのミニドレスや、体にフィットしたオールインワン、ベアトップやカットアウト、大きくスリットの入ったドレス、透け感のあるシフォンやレースのオーバードレスなど官能的なアイテムが多い。黒を基調としながら、鮮やかな赤やエメラルドグリーンなど目を引く色使いもさしこまれる。今シーズンのトレンドであるマスキュリンな要素もテーラードスーツなどで表現される。

 

 激しく、強く、セクシーな女性像を展開しつつも、普通の女性たちを起用することで親しみや現実味を増した今回のコレクション。熱狂的ファンの多い「エリザベッタ フランキ」だが、その人気の秘密はトレンドも取り入れながら、一般の女性たちがきれいに着こなせるデザインと仕上げがなされていることにありそうだ。

 

 

取材・文:田中美貴

https://apparel-web.com/tag/miki-tanaka

 

2022秋冬ミラノコレクション

https://apparel-web.com/collection/milano

田中 美貴

大学卒業後、雑誌編集者として女性誌、男性ファッション誌等にたずさった後、イタリアへ。現在ミラノ在住。ファッションを中心に、カルチャー、旅、食、デザイン&インテリアなどの記事を有名紙誌、WEB媒体に寄稿。アパレルWEBでは、コレクション取材歴約15年の経験を活かし、メンズ、ウイメンズのミラノコレクションのハイライト記事やインタビュー等を担当。 TV、広告などの撮影コーディネーションや、イタリアにおける日本企業のイベントのオーガナイズやPR、企業カタログ作成やプレスリリースの翻訳なども行う。 副業はベリーダンサー、ベリーダンス講師。

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