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2022.02.28

【2022秋冬ミラノ ハイライト1】ビッグネームのカムバックや個性的な初参加組で完全復活

左から「フェンディ」「プラダ」「ディーゼル

 2022年2月23日~28日の期間で、ミラノ・ウィメンズ・ファッションウイークが開催。イタリアファッション協会が発表したカレンダー上には、トータルで169項目、57のフィジカルショー、8つのデジタルショー、59のフィジカルプレゼンテーション、10のデジタルプレゼンテーション、そしてカクテルパーティ等のイベントの予定が並んでいる。

 

 「ボッテガ・ヴェネタ(BOTTEGA VENETA)」、「ディーゼル(DIESEL)」、「グッチ(GUCCI)」、「トラサルディ(TRUSSARDI)」、「プレイン スポーツ(PLEIN SPORT)」などビッグネームがミラノコレクションに復帰した上、「アンブッシュ®(AMBUSH®)」、「フェラーリ(Ferrari)」、「アンドレアダモ(ANDREADAMO)」などミラノコレクション初登場のブランドも加わって、華やかなラインナップとなった。

 

 ミラノではだいぶ感染状況が落ち着いたことをうけて、大部分はフィジカルイベントを復活した。が、その一方で、感染防止対策はますます強化され、ショーは引き続き招待客数を削減、入場の際には「スーパーグリーンパス」というワクチン接種か感染免疫がある場合のみに発行される証明の提示を必須とし、さらにそのパスの偽装を防ぐための身分証明書提示を必要とするブランドもあった。

 

 とはいえ、会場内のシートを1m以上離して配置しているブランドはほとんどなく、隣同士はコロナ前の様に詰め詰め、FFP2マスクが義務付けられている割にはマスクをしていない人もちらほら。会場外のパパラッチや出待ちに関しては、もしかしたらコロナ前以上の混雑ぶりかもしれない。本当はまだ完全に終わったわけではない上に、長かった2年間のコロナ禍だったが、何事もなかったかのように昔に戻ってミラノファッションウィークは驀進している。

ディーゼル(DIESEL)

 クリエイティブ・ディレクターのグレン・マーティンスによる、初フィジカル・ファッションショー。会場となったスーパースタジオマックスというイベントスペースには、「ディーゼル」のデニムに身を包んだ、空気を入れた巨大な人形たちがセクシーなポーズで鎮座し、その間を抜けるようにモデルたちが歩く。

 

 キーワードとなっているのは、「破壊的でセクシー、流動的で楽しい」といった要素で、デニム、実験、反抗、遊びといった「ディーゼル」の世界観をグレン風に爆発させた感じだ。ショーは「ディーゼル」を象徴するデニムのオンパレード。超ワイドなパンツやボリューミーなロングコートから、ブラトップやベルトが巨大化したようなマイクロミニまでアイテムは様々、かつしばしばトータルルックで登場する。ブロークン&ウォッシュトデニムをメインに、フィルムコーティングを施した光沢感のあるデニムや、デニム風のトロンプルイユ・プリントが施されたキャットスーツやディストレスデニムをジャガードで再現したパンツ、または手作業で細断しループ状に加工されたフェイクファーのようなデニムコートなども差し込んで素材のバリエーションを加えている。一方で、パネルやドローストリングを備えたシフォンのパーカードレス、カラフルなメタリックのドレス、サテンのフレアスカートなどフェミニンな要素も混じる。さらにレーシングパンツやトラッキングパンツ、ランニングやナイロンパーカなどのスポーツテイストも加わる。ちなみにコレクションには完全にリサイクルされたデニムやコットン、ポリウレタンを、水を使わずにインディゴ染めを施したリサイクル素材を取り入れているのだとか。

 

 「ディーゼル」が誕生した頃の自由でちょっと破天荒なテイストを、グレン風にさらにパワフルにアップデート。イタリアンデニムに革命を起こし、常に出世街道(?)を驀進してきた「ディーゼル」の輝かしい歴史にグレン・マーティンが華やかに新しい1ページを書き込んだ。

フェンディ(FENDI)

 ミラノショールームでフィジカルショーを発表した「フェンディ」。今シーズンのインスピレーションは、ジュエリー・アーティスティック・ディレクターのデルフィナ・デレトレズが、母親であるシルヴィア・フェンディのワードローブから見つけたプリントブラウスを身にまとった姿からインスピレーションを得たのだとか。これをきっかけにキム・ジョーンズは、「フェンディ」の歴史を探求。芸術運動に対するカール・ラガーフェルドの愛を称える1986春夏コレクションを再発見し、そこで発表された幾何学プリントやテーラードのスタイリングと、2000春夏コレクションの透ける素材の軽やかさを融合して構成したと言う。

 

 そんなコレクションで主役になるのはシフォン。スリップドレスやスカート、トラックパンツからパーカまで、様々なアイテムとして登場。そこには未来派のイラストを思わせるようなパターンや、メンズでも登場した、1986年発表の「オーロック」というイヤリングをモチーフにしたジオメトリックプリントが施されたものも。シフォンのスカートやパンツにはメンズライクなツイードのテーラードジャケットやピーコートをコーディネートし、マスキュリンとフェミニンを同居させる。同時に、シフォンの軽さとツイードの重厚感、または涼しげな透け感のあるシフォンに対し、多くのモデルが着用しているカシミアのロンググローブの暖かみのコントラストも強調されている。

 

 中には透けるシフォンからあえて見せるように作られたブラやショーツ、シャツの上にコーディネートされたビスチエ、ファーのような質感のシアリングのゴージャスなコートなど、トータルでセクシーまたはガーリーなものもあり、その一方でショーツとジャケットやノーカラージャケットとテーパードパンツを合わせたパワーウーマン的なルックもある。

 

 そこに、25周年を祝ってカシミア、シアリングで縁取りされたレザー、インターシャミンクの型が復刻された「バゲット」や、「ハンド イン ハンド」プロジェクトで作られた「フェンディ ファースト」などが登場。

 

 「女性の生活の様々な側面に寄り添う、あらゆる世代の女性のためにデザインされたワードローブ」とキム・ジョーンズが言うように、様々な要素が凝縮されたコレクションであると同時に、「フェンディ」がファミリーで築いてきた老舗ならではの確固たる歴史とモダンなクリエーションが邂逅したコレクションでもある。

ヌメロ ヴェントゥーノ(N°21)

 今シーズンもガレージヴェントゥーノにてメンズ、ウィメンズ混合ショーを行った「ヌメロ ヴェントゥーノ」。今回のテーマは“A SPONTANEOUS UPDATE”。アレッサンドロ・デラクアが得意としてきたマスキュリンとフェミニンのミックスというテーマを、今回のコレクションではより大々的に前面に押し出した。そのアプローチは何世紀も前の技術や表現方法を現代風にアップデートし、歴史通りのステレオタイプなスタイルを新しく書き直すというもの。

 

 ウィメンズ用のボディやショーツ、プリーツスカートなどがメンズスーツに使われるような生地で作られたり、逆にシフォンドレスにはハリスツイードの縁取りがなされる。その一方でメンズではアウターやポロの上にチュールを羽織っていたり、スカートを合わせたコーディネートが。デザイン面でもテーラードジャケットやレザージャケットに古典的なコルセットのフォルムを活かしてぐっとウエストを絞ったものにしたり、スラックスを解体したようなスリット入りのロングスカートもある。さらに、スパンコールのスリットスカートにテーラードジャケットやモヘアニットをあわせるなど、素材のコントラストも見られる。これらは、デラクアが得意とするもう一つのテーマであるレイヤードで、意外性のあるスタイリングが組み立てられている。

 

 前シーズンに引き続き、透け感のある素材や、深く入ったスリット等の肌見せ要素など用いたセンシュアルな雰囲気は継続。また前コレクションでも登場していた南国風のテイストが今回はさらに強調されていて、ヴィンテージハワイアンテイストのパームツリーのモチーフがシャツやスカートのプリントやニットのデザインに使われている。

 

 デラクアのお得意を集結したようなコレクションは、まさに今シーズンのトレンドに合致する。が、これはデラクアがトレンドに影響されているのではなく、トレンドがデラクアに歩み寄ったものなのだ。

ブルネロ クチネリ(BRUNELLO CUCINELLI)

 ミラノショールームでフィジカル展示会を行った「ブルネロ クチネリ」。今シーズンは“NORDIC NOTES & SARTORIAL ALLURE(北欧の香りとサルトリアルの魅力)”がテーマ。これらの要素を香水に例え、トップノートからミドルノートへと香りが変わっていく感じをイメージしてコレクションが構築されている。ラメ、サテン、スパンコール入り刺繍などを使ったデイウェアとスペシャルな装いを融合した「トップノート」のアイテムから、今シーズンの最も重要なテーマである北欧のイメージを、象徴的な北欧パターン、ブークレ、起毛ニットやフリース風ニットの柔らかな質感、カシミアなどの高級素材のキルティングを使用することによって都会的に実現した「ミドルノート」。そして「ベースノート」としては、ニュートラルな色合い、最高品質の素材、職人技といった同ブランドの本質を、イングリッシュリブやメンズの定番柄をフェミニンなテイストと融合させたアイテムによって表現する。「ブルネロ クチネリ」のウィメンズラインでは、常にメンズのテイストが少しずつ生かされているが、今回はいつも以上にマスキュリンとフェミニンのミックスが強調されていた。

マックスマーラ(MaxMara)

 これまでもしばしば歴史上、活躍してきた女性たちをインスピレーション源としてきた「マックスマーラ」だが、今シーズンは、建築家、ダンサー、テキスタイルデザイナー、画家、彫刻家として活躍したチューリッヒダダイズムの中心的人物、ゾフィー・トイバー・アルプに焦点を当てる。特に、トイバー・アルプの1918年の作品「キングスタッグ」のためにデザインしたマリオネットのフォルム、彼女がデザインしたタペストリーの色柄使いが強調されている。ウエスト部分から大きく膨らんだ、キルティングやテディベアファブリックのマキシロングスカートはマリオネットが着ている服のようで、キルティングが施されたクレープソールのニットキュイサール、そして多くのモデルが被っているバラクラバやニットのロングスリーブグローブも人形の関節構造を連想させる。一方、マットで暖かい色彩に黒を効かせた色彩や、ニットに施された幾何学模様は彼女がデザインしたタペストリーからの連想であろう。

 

 また、ワイドボリュームのスラックスやリブパンツと体にフィットしたタートルやウエストを絞ったサファリジャケットやタキシードジャケットなどのトップと合わせたり、マイクロミニスカートにロングコートを合わせ、ボリュームや長短のコントラストを効かせたものもあれば、ニットやロングコートなどボリュームのあるアイテム同士を掛け合わせたものもある。それでも多くのルックがワントーン、またはトーンオントーンのため、すっきりとまとまっている。そんな中、各所に使われたジップ使いや大きなポケットなどのディテールが、モダンなイメージや機能性を添えている。

 

 コレクションテーマは“Modernist Magic(モダニストの魔法)”。日常的なものにも魔法をかけ、神秘性を与えるモダニストだったトイバー・アルプのように、様々なコントラストをトリックとして使い、エレガントでありながら躍動的、厳粛でありながら暖かみのあるコレクションとなった。

プラダ(PRADA

 プラダ財団にてフィジカルショーを行った「プラダ」。セットは1月のメンズコレクションで使われた、光のトンネルから抜け出てくるような仕組みだ。現在のリアルな男性像を評価し、それを優雅に洗練されたものとして提案したメンズコレクションでは、使い捨てのファッションではなく、長く続き、関連性があるクラシックのコンセプトをプラダ風に見直したものだったが、今度は女性の日々の出来事のそれぞれの瞬間に重要性を持たせつつ、人々の歴史、人生の記憶、価値あるものが映し出され、フェミニリティを追求する。女性性を強調するためか、パンツは全く登場せず、ボトムはスカートのみだ。

 

 今回のコレクションの特徴は、様々な質感や重さを持つ素材達のミックス、そしてフェミニンな雰囲気の中に加えられるマスキュリンテイスト。ウール、レザーなどの重厚な素材と、刺繍やスパンコールで飾られたチュール、メタルのネットなどの透け感のある素材、それにメタル糸を混ぜた「プラダ」オリジナルの素材が加わり、2~3段につなぎ合わされたスカートが、各所に登場する白のスポーティなコットンタンクトップやメンズライクなテーラードジャケット、オーバーボリュームのニットなどとコーディネート。このタンクトップはメタルのネットやチュールのスリップドレスの下にも使われる。または生地をたっぷり使った変形プリーツスカートとメンズ用生地を使いウエスト部分を絞ったシェイプのジャケットとのセットアップも登場する。前シーズンも登場したビッグボリュームのボンバージャケットに、今回はフラワーモチーフのスパンコールがあしらわれ、メンズでも登場した袖の部分のフェザーはウィメンズでもメンズライクなコートやジャケットにあしらわれる。今回は、プリントは全く登場せず、過去の「プラダ」のコレクションに登場したいくつかのモチーフがニットのパターンとなって登場する。

 

 これまでも「プラダ」はしばしば歴史、特に過去の事象からの連想でコレクションを作り上げてきたが、常にその焦点はそれに関わる人間(女性)だった。今回のマスキュリンとフェミニン、歴史と現在、様々な素材とテイストが交じり合わせながらフェミニンさを追求したコレクションは、その集大成でもあり、「プラダ」自身の歴史を振り返るものでもある。

 

エムエム6 メゾン マルジェラ(MM6 Maison Margiela)

 今回もミラノにてフィジカルショーを行った「エムエム6 メゾン マルジェラ」。今シーズンは、ストリートで見かける着こなしや服の中に隠された美しさに注目したとか。そんなコレクションでは、クラシックなテーラリングをベースにし、一見通常の「エムエム6 メゾン マルジェラ」に比べるとかなり日常的なデザインがなされているように見えるが、そこには意外な遊びが加えられている。

 

 例えば、スーツやピーコートは、誇張されたピークラペルや肩を強調したボクシーシェイプで作られ、ウエストを絞ったり、ノースリーブに。シャツは後ろ身頃だけが長くてトレインの様になっていたり、またはシャツを裏返したようなローブデコルテのトップなども登場する。

 

またブランド名にちなんだ「6」がロゴ的な要素で各所にちりばめられ、レザーベストにはSixの鋲、ジャケットには「6」をアップリケしたり、メタルボタンにも使われる。また蛇のモチーフも各所に使われ、円状になった蛇が真ん中に大きく描かれているシャツやニット、蛇柄のロンググローブ、そして蛇自体がトップになっているルックまで登場。

 

 小物類は「ジャパニーズ」バッグシリーズのノッテッドハンドルのミニトートや、ブラッシュカーフスキン製のアコーディオンシルエットが登場。またサロモンとのコラボレーションによるスニーカーもデビューした。

 

 

取材・文:田中美貴

https://apparel-web.com/tag/miki-tanaka

 

2022秋冬ミラノコレクション

https://apparel-web.com/collection/milano

田中 美貴

大学卒業後、雑誌編集者として女性誌、男性ファッション誌等にたずさった後、イタリアへ。現在ミラノ在住。ファッションを中心に、カルチャー、旅、食、デザイン&インテリアなどの記事を有名紙誌、WEB媒体に寄稿。アパレルWEBでは、コレクション取材歴約15年の経験を活かし、メンズ、ウイメンズのミラノコレクションのハイライト記事やインタビュー等を担当。 TV、広告などの撮影コーディネーションや、イタリアにおける日本企業のイベントのオーガナイズやPR、企業カタログ作成やプレスリリースの翻訳なども行う。 副業はベリーダンサー、ベリーダンス講師。

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