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2021.01.26

【2021秋冬パリメンズ ハイライト1】明るい未来、新たな日常、ブランド原点、アートとの融合・・・オンラインで希望を表現(1)

写真:ディオール ©_ADRIEN DIRAND_

 2021年1月19日から24日、2021秋冬パリ・メンズ・ファッションウィークが開催された。「キディル(KIDILL)」、「カラー(kolor)」、「ダブレット(doublet)」など、日本勢の中に東京でのフィジカルファッションショーの映像を使っているブランドもあったが、参加した68ブランドは基本的にすべてデジタル形式での発表となった。ミラノ同様、仏オートクチュール・プレタポルテ連合協会が運営する「パリ・ファッションウィーク」の専用ページから自由にアクセスが可能で、映像は公開後も再生可能だ。

 

 同ページ上では、「EVENT」というコーナーからデザイナーたちのミニインタビュー映像が公開されたり、ラジオノヴァによるスペシャルプレイリストのスポティファイやアーティストたちのライブパフォーマンスのインスタグラムに飛べるようになっている。また「INSIDER」というページからは、フォーカスブランドやファッション界の著名人へのQ&A、ファッションエージェンシーの紹介なども掲載している。

エルメス(HERMÈS)

 パリのモビリエ・ナショナル(フランス国有動産管理局)の大階段を使って撮影した「エルメス」の映像は、インタラクティブなマルチカメラシステムにより、視聴者がカメラを選択することでさまざまな視点や角度からショーを見ることができるという画期的な仕掛け。モデルたちは階段を上がったり降りたり、部屋に入ったりそこから出たり。すれ違う際には挨拶をかわし、立ち止まって話をし、時には合流して別のところに移動、また違う人と出会う・・・という小さな絡みの連続が映し出される。

 こんな軽快な映像とつながるコレクションは、全体的に快適でノンシャランな雰囲気の中にエレガンスが漂う。フォーマルとインフォーマルの境界線をあいまいにし、ルック同士がどう絡み合っても違和感のないようなハーモニーのよさが強調される。

 

 パンツはドローストリングスや、サイドラインの入ったデザイン、またはクロップド丈や太目の折り返しのあるものなどスポーティな雰囲気。そんなボトムたちを、上質の柔らかい素材によって作られたブルゾン、テーラードジャケット、シャツ、パーカなどオーセンティックなデザインのトップに合わせる。そこには少し傾けて重ね合うようにつけられたポケットや、ちょっと真ん中からずらしたジップパーカのアシンメトリーな遊びなどを加えたり、鞍づくりの技を生かした「ピキュール・エトリヴィエール」や「ピキュール・フィラント」のステッチによるグラフィックが効いている。

 大きめのチェックのコートやパーカ、シャツやニットに使われるグラフィカルなモチーフもアクセントとなっている。そして各所に使われる、クミンイエロー、オレンジ、ミントブルーなどの明るい差し色も軽快な雰囲気を与える。

 

 映像のフィナーレは、みんなが外に出て集合写真を撮るというシーン。実際のところはこんな当たり前の触れ合いさえ持てないような現状のなか、一瞬の楽しさと、明日への明るい夢を見させてくれた。

ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)

 「ルイ・ヴィトン」が今回のコレクションで掲げたテーマは“Ebonics / Snake Oil / The Black Box / Mirror, Mirror“。アーティスティック・ディレクター 、ヴァージル・アブローは人種やジェンダー、性別などを超えて、すべての子供たちが自由な夢を持つことへの人道的なメッセージをコレクションに込めたと言う。これは社会規範の中で形成された無意識な偏見、古い規範や先入観をファッションで変えていくという試みで、中でも特に黒人文化を象徴的に取り上げている。アメリカの黒人作家ジェームス・ボールドウィンが、黒人としてヨーロッパで経験したエッセイからのインスパイアで、映像はスイスの雪山から映像は始まり、ヨーロッパ建築を象徴するような大理石に囲まれた都会的な雰囲気のランウェイに移動する。語り部的な役割をするのも黒人シンガーたちだ。

 そこで繰り広げられるのは、メンズのワードローブのオーセンティックなアイテムに崩しを入れ、様々なカルチャーミックスがなされた世界。フォルムとしては正統派のチェスターコートやトレンチでありながら、それは床を引きずるほどのマキシロングだったり、スーツはタイドアップして着るものの、シャツとネクタイが同素材だったり。またはボタンを掛け違えたように着付けされていたり、誇張されたブートニエールがつけられたものもある。スーツのパンツだけが引きずるように長いワイドパンツだったり、モノグラムのクラシックなコートには、シルバーラミネートやナイロン加工のインパクトの強いものが登場する。またスコットランドのキルトのようなスカートとのレイヤードやガーナのケンテ、エスキモーが着るようなファー付きのロゴ入りコート、カウボーイハットやウエスタンブーツなど、民族衣装的なテイストも交じっている。スタジアムジャンパーとワイドデニムにキャップはもはやアメリカの民族衣装なのかもしれない。

 一方では、ニューヨークの高層ビルやパリの代表的建物風の飾りをつけたルックも登場。「ルイ・ヴィトン」が旅にゆかりのあるブランドであることと、移動を制限された現状においての旅への強い憧れが反映され、全体的に飛行機のモチーフが多用されているのも特徴的だ。ニットの柄やスーツやコートのボタンが飛行機だったり、飛行機のデコレーションのボストンバッグや、飛行機の形のモノグラムバッグが登場する。春夏コレクションでは「ズームと仲間たち」というアニメーションキャラクターが「案内役」になっていたが、今回も子供心をちょっぴり効かせている。そしてファッションは「コード」ではなく、子供のように無邪気に楽しむべきものだと気づかせてくれる。

ディオール(DIOR)

 今シーズンはランウェイ形式の王道的なコレクション発表をした「ディオール」。メンズ アーティスティック ディレクター、キム・ジョーンズはメゾンのオートクチュールのサヴォアフェールからのインスパイアで、歴史やヘリテージを物語る、贅を尽くしたセレモニー服やコスチュームをコレクションへと昇華した。

 

 目につくのは将校の軍服のようなラグジュアリーなユニフォームのテイストだ。スタンドカラーで飾りボタンがつけられたかっちりしたジャケット、そこに施されるパイピングや金糸のエンブロイダリー、または紋章や腕章をモチーフにしたような装飾、サイドラインの入ったゆったり目のトラウザー。それをブーツインするコーディネート・・・等々。

「ディオール」2021秋冬コレクション ©Brett Lloyd.jpg

 そして、コンテンポラリーアーティスト、ピーター・ドイグとコラボレーションし、コート、シャツ、ニットからスティーブン・ジョーンズがデザインする帽子に至るまで、様々なアイテムに彼の作品を登場させる。これらのアイテムは、フォルム自体はクラシックだが、ドイグの作品が乗せられることよって現代的に表情を変える。また、多くのアイテムに使われたオレンジやイエローなどの鮮やかな色も印象的だ。

 

 歴史の中で培われてきた社会的役割を表すためのコスチュームを見つめなおしたコレクションは、「ニューノーマル」を探り、フォーマルの中にもリラックス感を提案するブランドが多い今シーズンにおいて新鮮であり、「ディオール」の匠の技を尽くした現代のダンディ像は、ファッションの醍醐味を味わわせてくれた。

リック・オウエンス(Rick Owens)

 「リック・オウエンス」の今回のコレクションのテーマは“ゲッセマネ(GETHSEMANE)”。ゲッセマネとはキリストが十字架刑前夜に祈りをした庭だが、そんな不穏な静けさと胸騒ぎのするような雰囲気を、解決策を待つだけの緊張した日々を送る現代のわれわれに重ねている。形を成さないほどのアシンメトリーな穴のあるカシミアニット、ちぐはぐにピースを繋いだようなダウン、十字架にかけられたキリストの腰布のようなブリーフにニーハイブーツ、マイクロ丈だったり、袖の部分が不完全なテーラードジャケット・・・など、退廃的なイメージのルックが特徴的だ。また、マキシロングのフード付きローブからマイクロショートのボンバージャケットまで、またはスキンタイトなレザーボディスーツからワイドでロングなパンツまで、ボリュームは様々に強調される。洋服とつながっている手袋や、手が見えないほどのロングスリーブ、または顔がすっぽり隠れるようなフードやマスクがディテールとして使われ、重々しく肉体を防備している。

 

 イタリア・ヴェネチアのリド島で撮影された映像では、ムスタングのヴィンテージカーがとまる高級リゾート地らしい海沿いの道を抜けて、モデルたちはテンピオ・ヴォティーヴォという教会に向い、最後は煙の立ち込めるミステリアスな教会を後にして、また海沿いの道をどこかに向かっていく・・・というストーリーだ。最後の審判の後に復活するキリストにモデルを重ね、彼らがダークな世界からまた日常に戻る様子を描くことで、未来への希望を描く、と考えるのは少々深読みしすぎだろうか。

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