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2021.01.26
【2021秋冬パリメンズ ハイライト1】明るい未来、新たな日常、ブランド原点、アートとの融合・・・オンラインで希望を表現(2)
左から:ジル・サンダー、ロエベ、ドリス・ヴァン・ノッテン、ポール・スミス
ポール・スミス(Paul Smith)
今シーズンの「ポール・スミス」は自身のキャリアの道標となった「サブカルチャー」を通し、新世代に向けて英国の服飾デザインの象徴をリミックスしたのだとか。ロックダウン下の深い考察の時間の中で、昨年、50周年を迎えたその年月においてポールに影響を与えてきたさまざまなサブカルチャーを再発見し、キールックに生かしている。
まずはポールらしいフラワーモチーフが各所に使われている。今回、ネクタイがたくさん登場するのが印象的だが、そのネクタイにはフラワーモチーフを施し、プリントシャツとコーディネートされる。またタータンチェックを始めとする英国調チェックもスーツやコートなどクラシックなアイテムとして登場する。ストライプのモヘアニット、ウールのボンバージャケットやPコート…そして、明るく、甘い色遣いが差し込まれるのもポール・スミスらしい。
ポール・スミスの長いキャリアにおけるハイライトが集結したコレクションは、ハズレがないだけでなく、様々なバリエーションに富んでいるのも楽しい。
ロエベ(LOEWE)
「ロエベ」は前回のコレクションに引き続き、今回もクリエイティブ・ディレクター、ジョナサン・アンダーソン自らがコレクションを説明。彼のモノローグの間に、モデルのウォーキングや商品のアップ画像が差し込まれる。ジョナサンは「JWアンダーソン(JW ANDERSON)」を含め自分の言葉でプレゼンテーションをしており、どうやらこの方法にこだわりがある様子。見るほうとしてもデザイナーの口から直接メッセージを聞けるのはデジタル発表ならでは受けられる恩恵だ。
前回の「Show in a box」に続き、今回は「A Show in a Book」というスタイルだ。これは「ロエベ」がオリジナルで制作した200ページのハードカバー本で、アメリカ人芸術家 作家 兼 詩人のジョー・ブレイナードのグラフィック作品に捧げるものだとか。「彼の思考や行動は、ルールブックやカテゴリーの枠を超えたものであり、彼の作品が持つ軽やかさと即時性は、現在の状況に特にふさわしいもの」だとジョナサンはこの本の前書きで述べている。
コレクションはジョー・ブレイナードの作品で象徴的なフラワーモチーフを、プリントやジャガードなどによって、コートやパンツ、バッグなどにふんだんに使用。ジョナサン本人がお気に入りだと言う、三角形のテント型のフォルムで広げると長方形になるトラウザーズではこのモチーフが両面に使われている。またブレイナードの様々な作品をコラージュしたコートやジャケット、小さな作品として登場するモチーフを大きくプリントしたTシャツも登場する。同じくブレイナードのテーマである“反復”という要素を、Tシャツやポロを三連にしたアイテムや、ムートンとレザーをベルトでぐるぐる巻いたようなパンツで表現する。女性用のキャメルコートをドレープたっぷりに仕上げたバギーパンツも特徴的だ。
そんな足元を飾る厚底のシェルシーブーツやワラビー。またブレイナードの作品の猟犬をプリントしたキャンバスバッグやパンジーを施したパズルバッグとバムバッグ、象のフォルムのエレファントバスケットなど、パンチのきいた小物類が揃っている。
今シーズンもぶれることないアーティスティックで遊び心溢れる楽しいコレクションは、今の時代の重い雰囲気を明るくしてくれる。
ドリス・ヴァン・ノッテン(DRIES VAN NOTEN)
今シーズンの「ドリス・ヴァン・ノッテン」は“Dressing for our days”がテーマ。「ドリス・ヴァン・ノッテン」のDNAとなる主要な要素を強化することで、着慣れたものを新解釈するというものだ。クラシックなアイテムはゆったりしたサイズ感やディテールの遊びやお得意のグラフィカルなモチーフによってモダンな雰囲気を醸し出したり、テイストの違うアイテムをレイヤードやラッピングによってコーディネートすることで、フォーマルとスポーティがミックスされている。
例えば、クラシックなテーラードスーツやテーラードジャケットも、パンツがかなり裾の長いワイドなフォルムで、リング状の金具のベルトが合わせてあったり、クロップドパンツやひざ丈パンツがコーディネートされている。シャツが多く登場するが、モロッコのデジャバのようにひざ下までの長さで作られていたり、太いボウタイ付きになってデフォルメされていたり、アノラックとコーディネートしたり、シャツ同士をレイヤードするなどあえてセオリーから外れた着こなしを見せる。一方、伝統的な小紋のネクタイのようなグラフィックはカジュアルなアイテムにクラシック感を与える。
「心の奥に秘めた感情や感覚を優しく表現することに重きを置いた」という今回のコレクションは、門の中からモデルが一人ずつ登場し、少し外に出てまた門の中に戻るという動きを定点から撮影した、静的な映像にも表れているようだ。
ジル・サンダー(JIL SANDER)
「ジル・サンダー」のデジタル発表は、モデルたちが廊下を歩き、部屋に入るとソファやいすなどに座り、また立ち上がって歩いていくという演出のムービーだ。以前、ルーシー&ルーク・メイヤーは、ウイメンズのショーでもモデルが最後には全員椅子に座る演出をしていたことがあったが、座ったり立ったりすることで、洋服の動きが良くわかり、映像の場合はディテールが良く見える効果がある。
今回のコレクションでは、張り感のある素材を直線的なフォルムで描き、そこにディテールの遊びを入れているのが目立つ。ドライウールのジップポケット付きのスーツ、ダブルフェイスのウールや防水コーティングされたコットンのコート、または細長いシルエットのレザーコートなど。それにノーラペルだったり、逆に襟の部分が強調されたり、大きなパッチポケットがついていたりといった個性的なディテールが施されている。1920年代の写真家フローレンス・アンリによるバウハウスの女性アーティストやデザイナーのポートレート写真を、拡大してキャンバスにプリントしたものが縫い付けられたジャケット、コート、ニットなども登場する。そんな足元には、厚底のパステルカラーのひざ丈ブーツに合わせているのも印象的だ。
そして全体的に強調されているのがシルバーアクセサリー使いだ。アフリカの民族衣装のような大ぶりな首飾りから、コインを繋げたようなデザインのもの、「MOTHER」という文字の入ったシンプルなネックレスまで。この「MOTHER」のモチーフは今まで以上に必要な家族との関係を表現していると言う。“相反するものの共存”を常にテーマとしているルーシー&ルーク・メイヤーだが、そんなテイストは、シャープなシルエットの中に入れ込んだ遊びや温かさに現れている。
トム・ブラウン(THOM BROWNE)
「トム・ブラウン」は本メンズファッションウィーク最大のサプライズとなる、自身初のチルドレンズウェア コレクションを発表。キャス・バードの手による映像は、整然としたオフィスでタイプライターをたたく子供達が、時間の経過と共に走り回って大騒ぎするシーンへと移行していく。冒頭のシーンでは、かつて「トム・ブラウン」がピッティ・ウオモでヨーロッパ初のショーをした時の、モデルたちが整然とタイプを打っていた演出を思い出したが、このムービーでは最後に子供らしいやんちゃな動きが見られて安心した。
発表された映像はモノクロなので、ブランド側からの商品紹介を引用すると、ミディアムグレースーパー120sウールツイルスーツ、ベルベットの襟付きのチェスターフィールド オーバーコート、4BARが施されたクラシックカーディガン、そしてホワイトのクラシックオックスフォードシャツなどのラインナップが揃うとのこと。大人用のトム・ブラウンの世界観がそのまま小さくなった、本格的なチルドレンズウェアが誕生した。
Y/プロジェクト(Y/PROJECT)
滑走路のような指標が床に描かれた暗い空間を、モデルたちが交差するウォーキング映像を発表した「Y/プロジェクト」。クリエイティブ・ディレクター、グラン・マルタンは今シーズン、通常のラインを曖昧にし、既存の服作りの規範に挑戦している。そこに登場するのは、ワイヤーによって作られた、くしゃくしゃに丸められたりねじられたり、跳ね上がった状態で止まっているようなディテール。この手法はメンズ、ウィメンズともに使われ、シャツ、ジャケット、パンツ、スカートなど様々なアイテムに登場する。
また、コート、ジャケット、セーター、ポロなどのトップには、ネックホールが二つあって、襟やラペルの外側から首を入れるようになっているようなディテールが。または裏地が外についたようなデザインのジャケットもある。一方、ボトムはいくつかのピースに引き裂かれたようなスカートや、ボタンで不完全に止められたパンツ、ウィメンズでは、裏表反対、または表地をたくし上げて裏地が見えているようなスカートも登場する。
登場しているラインナップは、ワードローブにおけるベーシックな物ばかりで、多分、元々のアイテム自体のフォルムはクラシックなのだろう。それをねじったり、二重構造にしたりして創り出すアシンメトリーにゆがんだ洋服たちは、非現実的な今の時代を象徴しているのだろうか。
ルメール(LEMAIRE)
今シーズンの「ルメール」は、大部分が無地のモノトーンまたはトーンオントーンで、配色も差し色の赤を除いてはアースカラーを使った落ち着いた雰囲気が流れる。そして基本的にゆったりしたフォルムの、暖かく柔らかいアイテムが揃う。シャツジャケットやパジャマシャツ、ローブジャケットなどは、リラックスした着心地ながらエレガントさを引き立てる。またミリタリーコートやニットなどの多くのアイテムがリバーシブルで使用でき、マルチポケットがついたベストや、首から下げられるミトンの手袋など、機能的なアイテムも揃っている。
これらを時にはコートの上にジャケットを羽織ったり、モンゴリアンファージレの上にダッフルのカバンコートを着たりといったひねりのきいたレイヤードで着こなす。それでも、良質な素材を使い、同色で統一されているので、突飛な印象を与えることはない。ひけらかすものではなく、着ている人が快適であることの大切さ。「ステイホーム」を強いられる現代の生活の中で、クリストフ・ルメールとサラ=リン・トランは、洋服の本質的な部分についてのメッセージを投げかけているのかもしれない。
イザベルマラン(ISABEL MARANT)
「イザベルマラン」は1分20秒というショートムービーで、“CLASS OF 2021”というテーマのコレクションを発表。
ストライプのニットポロシャツ、グランジテイストのあるチェックのフリース、花柄のダウンコートなどのアイテムが象徴するように、ヴィンテージのスポーツウェアに着想を得ている。そこにテクニカルウインドブレーカーや、ロゴ入りパーカ、キャップやエナメルハットなどがモダンさを添える。クロークルームや体育館?を舞台に、若者たちが躍動的に動き回るムービーは、様々な規制のある今の状況からの脱出への夢を物語るかのようだ。
ベルルッティ(Berluti)
2021秋冬コレクションを3月にデジタルで発表する予定の「ベルルッティ」は、ティザー動画を公開。テーマは“Living Apart Together”。オレンジ、ピンク、パープルなどの鮮やかな色遣いやグラデーションを用いたポップなイメージの1分強の映像が公開された。
アニエスベー(agnès b.)
パリのアトリエからのドキュメンタリー風映像を公開した「アニエスベー」。アニエスのスケッチ風景やフィッティングの様子など、新作コレクションの制作過程や、デザイナーのメンズウェアに寄せる想いを語る風景が映し出される。
文:田中美貴
「パリメンズ」2021秋冬コレクション:
田中 美貴
大学卒業後、雑誌編集者として女性誌、男性ファッション誌等にたずさった後、イタリアへ。現在ミラノ在住。ファッションを中心に、カルチャー、旅、食、デザイン&インテリアなどの記事を有名紙誌、WEB媒体に寄稿。アパレルWEBでは、コレクション取材歴約15年の経験を活かし、メンズ、ウイメンズのミラノコレクションのハイライト記事やインタビュー等を担当。 TV、広告などの撮影コーディネーションや、イタリアにおける日本企業のイベントのオーガナイズやPR、企業カタログ作成やプレスリリースの翻訳なども行う。 副業はベリーダンサー、ベリーダンス講師。