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2021.01.28
【2021秋冬パリメンズ ハイライト2】気鋭のデザイナーがデジタルならではの手法でブランドらしさを表現 東京からフィジカルショーの映像も配信
2021年1月19日から24日にかけて開催された2021秋冬パリ・メンズ・ファッションウィーク(以下PMFW)では日本ブランドも多く参戦。デジタル・ファッションウィークという新しい表現が求められる中で、「キディル(KIDILL)」や「ダブレット(doublet)」が見せたフィジカルでのランウェイショーの映像や、「ターク(TAAKK)」のようにストーリーが感じられるショートフィルム風の映像、「メゾン ミハラヤスヒロ(Maison MIHARA YASUHIRO)」が見せたアート作品のような映像など、発表の手法が千差万別で、それぞれブランドの個性を見せつけた。
(写真左から)フィジカルショーを行った「キディル」「ダブレット」「カラー」
キディル(KIDILL)
デザイナー末安弘明が手掛ける「キディル」は、ブランドとして初めてパリ・メンズ・ファッション・ウィークの公式スケジュールで発表した。映像での発表だが、その映像は1月15日に東京・江東区のイベントスペースで開催されたランウェイショーのものであった。ショーは、ミュージシャン・灰野敬二の演奏にのせて行われた。得意のストリート、モード、パンク、グランジのミックススタイルにあしらった大胆なアートワークが印象的。このアートワークは、アメリカのビジュアルアーティスト、ジェシー・ドラクスラー(Jesse Draxler)とのコラボレーション。ダークな世界観でありながらも洗練されたアートワークで、「コロナ禍という世界が不安に包まれている時だからこそ強い服を作りたい」というデザイナーの想いを表現した。
2020年から継続している「エドウイン(EDWIN)」とのコラボレーションデニムは今シーズンも登場。帽子は「カシラ(CA4LA)」、ワークパンツは「ディッキーズ(Dickies)」、アクセサリーは「マルコムゲール(Malcolm Guerre)」と積極的なコラボレーションでアイテムに多様性をもたらした。
ダブレット(doublet)
「ダブレット」は“STRANGEST COMFORT”をテーマに、文字通り“STRANGE(風変わり)”なコレクション発表の手法を見せた。公式スケジュールではランウェイ映像での発表だったが、そのランウェイは事前に日本で開催されたもの。瓦礫が積みあがり、ショベルカーが作業する荒廃した雰囲気の中モデルたちが登場する。一見通常のランウェイショーに見えるのだが、モデルの動きがぎこちなく、スクラップされるはずのものは逆に作られていく。これは、撮影した動画を逆再生しているのだ。動きのぎこちなさはどこか力強さにも見え、逆境を乗り越えていくというメッセージにも受け取れる。
どこかレトロな雰囲気を纏ったコレクションは、昨シーズンに続きデザイナー井野自身の思い出を反映させた。チョコレート菓子のおまけのシールを思わせるようなモチーフや、ぬいぐるみのマフラーやスリッパが登場。セットアップのようなオールインワンやフードがパンダの顔に見えるダウンなど、大人のアイテムに幼さというスパイスを加えてブランドらしいウィットに富んだ表現を繰り広げた。
オム プリッセ イッセイ ミヤケ(HOMME PLISSÉ ISSEY MIYAKE)
「オム プリッセ イッセイ ミヤケ」今シーズンのテーマは”Never Change, Ever Change – 変わらないもの、変わり続けるもの -”。クラシックやスタンダードとされているスタイルに改めて目を向け、独自の視点と技術を取り入れることで、ブランドの新たな基本となる服のかたちを見出したコレクション。ブランドのコアであるプリーツ制作のシーンからモデルたちのウォーキングやダンスシーンなどを取り入れた映像で、「一貫したものづくりの姿勢を持ちながら、生活に順応して進化していく服をつくる」というブランドの意志を表現した。
ブランド初となるのは、再生ポリエステル100%の生地を使用した「SOLID PLEATS」シリーズや、先染めのポリエステル糸を織り上げた生地にプリーツをかけた「TWEED PLEATS」シリーズ。定番である「TAILORED PLEATS」は、鮮やかながらも深みがある色調で表現した。印象的なのは、アフリカの編み籠をモチーフに描かれた柄をプリントした「BASKET」シリーズ。籠が持つ表情を手描きのタッチで大胆に再現することで、動くたびに生き生きとした印象を与え、不安な世の中を励ましているかのようだった。
ヨウジヤマモト(YOHJI YAMAMOTO)
「ヨウジヤマモト」も映像でコレクションを発表。モノクロで強いブランドの世界観を打ち出した。ファーストルックから登場したのは、印象的なボンディングのオーバーサイズコート、羽織るだけで佇まいに存在感をもたらしてくれる。そしてブラックのコートには白い文字で「Are you bohemian?」「You have to take me hell」などのメッセージが書かれており、この混沌とした世の中でも意に介さないかのようなアナーキーさを感じさせる。だが、モデルはみなマスクをつけていて、新しい生活の中でのモードな提案も忘れない。ストリングや、フックやベルト等に用いられたメタルパーツ使いなど、パンクを思わせるスタイルも登場。何か、現状を打破したいと思っているような強い意志を感じさせるコレクションであった。
ヨシオ クボ(yoshiokubo)
「ヨシオ クボ」は動画でのコレクション発表を行った。テーマは、芸術領域における日本文化の基層となる理念の一つである”幽玄”。動画は創立110年を超える三越製作所で撮影された。ここ数シーズン特に際立っている日本文化をモダンなテーラリングやストリートに落とし込んだブランドらしいスタイルは、さらに洗練されたように見える。年輪にインスピレーションを得たようなパターンや、作務衣を想起させるジャケット。道着のようなダウン、さらに帯のようなベルト使い等、至る所に日本らしさを忍ばせた。
メゾン ミハラヤスヒロ(Maison MIHARA YASUHIRO)
「メゾン ミハラヤスヒロ」は、アートと現実をコラージュさせたようなアーティスティックな映像作品でコレクションを発表。アイテムひとつひとつも、様々な要素や素材がまるでコラージュのように繰り広げられる。スリーブのパーツをいくつもつなぎ合わせたMA-1や種類の異なるレザージャケットが侵食し合っているかのようなアウター、デニムとミリタリーパンツが途中で切り替わるパンツなど、組み合わせの自由度がパワーアップしている。また、ショルダーを強調したシルエットも印象的。ビリヤードボールをヒールに用いたシューズや、ニュースペーパーパターンのシャツなどの「ミハラ流」遊び心にも注目だ。
ホワイトマウンテニアリング(White Mountaineering)
「ホワイトマウンテニアリング」は、タフな環境に耐えられるコレクションであることを映像で示唆した。映像に映し出されるのは、スノーボーダーたちの日常、吹雪の中雪山を歩くフォトグラファー、氷に覆われた中で彫刻を鑑賞する男性。寒く厳しい環境の中でも自分の信念に基づいて自身のやりたいことを貫き通す、そんな男性のためのアイテムであることを表現している。映像内で「Stay true to yourself. Won’t stop moving forward.(自分自身に正直であれ。前進することをやめるな)」という言葉は、デザイナー相沢陽介のコレクションに込めた想いであり、今、タフな時代を生きている世界中の人々に向けた強いメッセージだろう。
アイテムは、GORE-TEXのアウターやパテッドパンツなどのアウトドアウェアはもちろん、タウンユースにも映えるショールカラーダウンやチェックパターンのブルゾン、リラックスシルエットのテーパードパンツなども揃った。マウンテンブーツは「ダナー(Danner)」、スニーカーは「ミズノ(Mizuno)」など、コラボレーションアイテムにも注目が集まりそうだ。
カラー(kolor)
「カラー」はランウェイショーを日本で開催し、その模様をPMFW公式スケジュールにてリアルタイムで公開した。メンズ・ウィメンズ同時公開だが、ゆったりめなストレートパンツやハイブリッドなジャケット、ニットなどジェンダーフリーで着こなせるアイテムが大半だ。昨シーズンパリにカムバックし、また世界での活躍が期待される「カラー」。2017秋冬コレクション以来、4年ぶりとなるランウェイショーで唯一無二の存在感を見せつけた。
サルバム(SULVAM)
「サルバム」はモデルのウォーキングを定点カメラで撮影した映像を公開。演出がなく後ろ姿から正面まではっきりと捉えるこの手法は、服をしっかりと見て欲しいというブランドの自信の表れにも思える。カラーパレットはブラック、レッド、グレー、ホワイトという最小限で抑え、カッティングやパターンのオリジナリティを強調した。
ターク(TAAKK)
「ターク」はショートフィルム仕立ての映像を発表。一人の男性が思い出の地を巡っているストーリーで、場面に合わせてスタイリングも変化していく。公園や学校、線路沿いの道、一人暮らしの部屋、そんな、何でもない日常がある風景。思い出と現実が溶け合う場所。そんな情景を、それぞれのアイテムに落とし込んでいた。ジャケットが、ウエストにかけてブルゾンへと変化していく。カーキのビロードの艶めきの中にインディゴの深みが光によって浮かびあがってくる。裾に向かって淡い色に変化したり深い色に切り替わったりする。人が生きていく過程で経験する様々な変化が、アイテムによって表現されているようだった。
また、PMFWでの大きな注目のひとつは、世界各国の新進気鋭のブランドが参加することだ。フランス、アメリカ、スウェーデン、イスラエルなど今シーズンも各地の気鋭のブランドが勢いのあるコレクションを発表した。
1017 アリクス 9SM(1017 ALYX 9SM)
昨年「ジバンシィ(GIVENCHY)」クリエイティブ・ディレクターに就任したマシュー・M・ウィリアムズが手掛ける「1017 アリクス 9SM」は“UNREAL”をテーマにメンズ、ウィメンズのルックを公開。スタイリングは世界的に人気の高いロッタ・ヴォルコワが担当した。スリムなシルエットながらも肩を強調したシルエットが印象的。メンズは少しゆとりをもたせたストレートパンツで縦長のシルエットを強調。ボックスシルエットのショート丈アウターは、ムートンやレザーなど様々な素材、デザインで登場した。ウィメンズではボディコンシャスなドレスが登場し、艶やかなコレクションを見せた。
エチュード(Études)
「エチュード」の映像は、人々が行き交うパリの街中、メトロの駅やコインランドリー、ショッピングセンターなどでモデルが躍るというシュールな演出。ダンスの演出はゆったりとしたリラックスシルエットの快適さを表現したのだろう。太目のストレートパンツや肩幅の広いジャケットは70年代風ながら今の時代には新鮮に映る。カラーパレットはブラウンやレッドを基調としたあたたかみのあるカラーをベースに、ストリートの中にも洗練された雰囲気をもたらした。
ナマチェコ(NAMACHEKO)
スウェーデン発のブランド、「ナマチェコ」は、70年代から80年代に活躍したドイツの映像作家ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー(Rainer Werner Fassbinder)の作品をインスピレーションにコレクションを紡ぎ上げた。ファスビンダーの作品で描かれたアンダーグラウンドの世界で⽣きる若いアウトサイダーたち。彼らが持つ強い精神こそが、生きることの困難さが浮き彫りになった現代に必要だとデザイナーのディラン・ルーは考え、彼らのパンキッシュでボヘミアンなスタイルを独創的で神秘的なデザインで表現した。
ヘンリック・ヴィブスコフ(HENRIK VIBSKOV)
「ヘンリック・ヴィブスコフ」は、ブランドらしい奇抜でアーティスティックなショートフィルムでコレクションを発表。チェックやドット、フラワーなど、パターンは豊富だがくすんだような色合いで古着のようなレトロ感を感じさせる。だが、流れるようなドレープに立体的なスリーブ、レイヤードのバランスでしっかりとモードに仕上げている。
ヘド メイナー(HED MAYNER)
「ヘド メイナー」は、クラシカルなテーラリングを軸に、生地を贅沢に使用した流れるようなシルエットと構築的なボリュームでブランドの独自性を見せつけた。現在パリを拠点に活動しているデザイナーはイスラエル出身で、伝統的なユダヤのテーラリングからもインスピレーションを得ている。優しいアースカラーをベースとし、どこか歴史的な宗教服を思わせる雰囲気も纏ったコレクションであった。
ボッター(BOTTER)
「ボッター」はキューバ・カリブ海の環境破壊についての問題提起を行い、実際のサンゴ礁保全の様子を映した映像からスタートした。コレクションは海からインスピレーションを得た美しい青や白のセットアップや、フィッシングベストを想起させるジャケットなどが登場。ルアーを装飾として全面に配したジャケットは強烈なインパクトを残した。
ゲーエムベーハー(GmbH)
ドイツ・ベルリン発の「ゲーエムベーハー」は、未来社会を描いた1970年代の映画「あやつり糸の世界」をインスピレーションに、無機質でフューチャリスティックな世界観を表現した。オフショルダーのアウターがブランドらしいジェンダーレスを表現していた。
「パリメンズ」2021秋冬コレクション: