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2020.10.08
【2021春夏パリコレ ハイライト1】パリコレに83ブランド参加 強いられる次なる方向性
(写真左から)ディオール、ケンゾー、ドリス ヴァン ノッテン
2020年9月28日から10月6日に渡って開催されたパリコレクション。昨シーズンの参加ブランドが68だったのに対し、今季は83ブランドに増え、ファッションの中心地としてのパリの威信を守り抜いた形となった。その内、18ブランドのみ実際のショーを開催。だが、「サンローラン(SAINT LAURENT)」や「セリーヌ(CELINE)」、「コム・デ・ギャルソン(COMME des GARÇONS)」や「サカイ(sacai)」などの日本勢、「オフ-ホワイト c/o ヴァージル アブロー(OFF-WHITE c/o VIRGIL ABLOH)」など、注目ブランドが軒並み不参加となり、コロナ禍の中にあって、ごく近い将来に次なる方向性の模索を強いられていきそうだ。
初参加は9組(レディースとして初参加の「アミ アレクサンドル マテュッシ(ami alexandre mattiussi)」を含めると10組)で、やや多く感じられたが、これまでにコレクションを発表してきた「アンファン・リッシュ・デプリメ(ENFANTS RICHES DÉPRIMÉS)」などキャリアのあるブランドが多く、純粋なデビュー組はほとんど見られず、発表の場をパリに移したデザイナーが目立っていた。ロンドンからは「ウェールズ ボナー(WALES BONNER)」が、ニューヨークからは「ガブリエラ ハースト(GABRIELA HEARST)」が、コペンハーゲンからは「セシリー バンセン(CECILIE BAHNSEN)」が参加。
アーティスト、スターリング・ルビーによる「エスアールスタジオエルエーシーエー(S.R. STUDIO. LA. CA.)」も、今季がパリコレクション初参加。これまでにラフ・シモンズ時代の「ディオール(Dior)」や、ラフ・シモンズのコレクションでファッションとコラボレーションしてきたが、昨年より服を表現手段に選び、注目を集めている。しかし、今季は現米政権を批判する内容の動画のみを配信し、ルック画像は一切発表せず、多くの謎を残す結果となった。
初日の9月28日は、16時にロズリーヌ・バシュロ=ナルカン文化相による談話の配信でスタート。新しい形態での発表への理解を求め、実際にショーを開催する大きなブランドの存在は、ファッション業界全体を勇気付けることになるとし、「ファッションウィークを是非楽しんでもらいたい」と結んだ。30分後に米女優のシャロン・ストーンによるオープニングスピーチが配信され、17時に「マメ クロゴウチ(Mame Kurogouchi)」のショー動画によって、パリコレクションが幕を開けた。
パリコレクションレポート第一回目は、注目のブランドを中心に、発表順に紹介していきたい。
マメ クロゴウチ(Mame Kurogouchi)
淡い色彩のレーシーな服のシルエットを、粗めの粒子で撮影した奥山由之によるアーティスティックで幻想的な2分半ほどの映像を配信。様々なイメージを多重層的に組み合わせてコレクションを構築する黒河内だが、自粛期間中に外を眺めることが多かったことから、今季は窓の存在に着目。窓のイメージを膨らませ、祖母の家にあったカーテン生地もインスピレーション源の一つとなった。
これまでの「マメ」の作風を踏襲し、レースをはめ込んだワンピースや、総レースのガウンドレス、バックサイドがレースアップになっているジャカード織サテンのAラインドレスやレースのハンカチをはめ込んだかのようなトップスなど、どれもフェミニンで軽やか。柔らかい映像がノスタルジックな雰囲気を生み、フェミニンなアイテムと相まって優しい印象を与える。その対比として、構築的なカッティングのトップスやワンピースなどがコントラストを生み、新しい側面を見せていた。
マリーン セル(Marine Serre)
サーシャ・バルビンとライアン・ドゥビアゴの二人を監督に迎えたショートムービー「AMOR FATI(=運命愛:ニーチェによって提唱された哲学用語)」を披露。イランとオランダのルーツを持つ歌手、セヴダリザと、アンドロジナスな雰囲気を持つアーティスト、ジュリエット・メリーの二人が出演し、様々な環境の中で変化していく二人の姿をSFタッチで描いている。
実験室の場面で登場するのは、「マリーン セル」のアイコンである三日月モチーフのムーン・ロザンジュと呼ばれるジャカード素材をあしらったテーラード群。手まで覆ったインナーも同じモチーフで、強い視覚効果を見せる。自然界のシーンでは、クチュール素材であるタフタモワレをスポーティーにあしらったオーバーオールやコート類のほか、カーペットをアップサイクルしたフローラルモチーフのジャカード素材のシリーズなどが登場。水の世界のシーンでは、リサイクルタフタをあしらったジャケットやビーズ刺繍を施した彫刻的なシルエットの3Dドレス、三日月モチーフをジャカードで表現したボディスーツなどを見せている。全身を服で覆う傾向は更に強まり、以前にも増してグラフィカルな印象。フューチャリスティックかつスポーティなコレクションとなっていた。
当日の夜には、パリ市内の劇場にて関係者を集めて上映会を開催し、「マリーン セル」のアイテムをまとったサポーターたちを歓喜させた。
コペルニ(COPERNI)
セバスチャン・メイエールとアルノー・ヴァイヤンによるコペルニは、前回に引き続き、パリ南東部に位置するスタートアップキャンパスであるステイションFでショーを開催した。「コペルニ」は2013年にスタートし、2015年より2年間、クレージュのコレクションを手掛けた期間は休止していたが、昨年より活動を再開。フューチャリスティックでミニマルなフォルムを追求する姿勢を崩さず、回を追う毎に注目を集めている。
今季はスポーティなテイラードとワンピースからスタート。ウェットスーツのようなパンツとジップアップジャケットや、ジップアップのシンプルでリーンなドレスは全てシームレスで、そのまま海に飛び込めそうな厳格な作りを見せる。長方形の布を圧着した独特のシルエットを生み出すファブリックは、シャツドレスやワンピースなどに多用され、また折り紙のようなハチの巣状に織られたファブリックは後半のミニドレスにあしらわれ、素材の独自性と新鮮な美しさを見せる。ニットジャージーをグラフィカルにパッチワークしたタンクトップドレスなども交え、クチュールテイストもしっかりと織り込み、その力量を巧みにアピールしていた。
アンリアレイジ(ANREALAGE)
平手友梨奈が出演するオープニングと、富士山を背にモデルを撮影した2つのシーンで構成される動画を配信した「アンリアレイジ」。コレクションタイトルは“Home”。デザイナーの森永邦彦は、洋服を移動可能な家として捉え、家のような服であり、服のような家である、衣と住の間にあるものを作ろうとしたという。
三角錐や球体のテントに被せられた服は、シキボウによる「フルテクト」と呼ばれる抗ウイルス加工が施されている。各アイテムはベルトで締めたり、ギャザーを作りながらコードでサイズダウンさせたりすることで、独特のボリューム感とフォルムを生み出している。暗闇で光を放つという特徴を持たせた、このブランドのアイコンともいえるパッチワークによるアイテムも登場。富士山の麓の暗闇でネオンカラーを発するアイテムの様子も動画で捉えられており、その視覚的な面白さも目を引いた。また立体的なヘッドギアを建築家の隈研吾が担当したことも大いに注目された。
ディオール(Dior)
チュイルリー公園の特設テントで、招待ゲスト数を極限にまで絞ってショーを開催した「ディオール」。会場内のステンドグラスのように見える装飾は、60年代に活躍したイタリ人アーティスト、ルチア・マルクッチによるコラージュで、今季も女性作家にスポットを当てている。
アーティスティック ディレクターのマリア・グラツィア・キウリは、中世から現代までのあらゆる時代、そしてアジアから西欧までの様々な国々を縦横無尽に旅するかのように、多面的なイメージを巧みに組み合わせながら、フェミニンでモダンな装いを提案。イカット模様とペイズリー、そして西欧風フローラルプリントを組み合わせたガウンには、フローラルジャカードのニットのチューブトップとペイズリーのショーツを合わせ、リラックスした部屋着のイメージ。
打って変わり、様々な中世風フローラルプリントのボリュームあるパッチワークドレスには、刺繍を施したハードなレザーベストをコーディネートし、硬軟の妙を見せる。マクラメレースのドレスや、ウォッシュデニムをあしらったセットアップなど、マリア・グラツィア・キウリらしさは健在。特にショーツにシースルードレスを合わせたルックは、今季も様々なスタイルで登場している。そして、最近のアイコンでもあるタイダイは、ジャケットからスポーティなブルゾンまで幅広いバリエーションを見せる。ディオールのアイコンであるバージャケットは、今季はノーカラーの柔道着を思わせるフォルムで見せ、バージャケットの歴史に新しい1ページを加えていた。
コシェ(KOCHÉ)
ビュット・ショーモン公園内でショーを開催した、クリステル・コーシェによる「コシェ」。今季も、性別・民族などの境界線を超越するモデルのキャスティングで、フォーマル・カジュアルの差異を無くしたスタイリングを見せた。
ボンバースジャケットをボールガウン風に羽織ったルックでスタート。タンクトップ風のランジェリードレスや、ランニング用のセットアップとロングブルゾンのセットアップなど、スポーツの要素にクチュールのエッセンスを加えている。
メンズモデルには、敢えてフリルのブルゾンを着せたり、レースのパンツを合わせたり、レディース感を持たせ、またレディースモデルには敢えてネクタイを締めるなどしてメンズ感を演出し、このブランドらしいダイバーシティを体現。「シャネル(CHANEL)」が所有する羽のアトリエ、ルマリエのディレクターも務めるクリステル・コーシェらしい羽使いのアイテムも、ボールガウンのフォルムだがラインを入れてスポーツウェア風にアレンジ。
最後はブランドの方向性を強調するかの如く、レースラフルのトップスにスウェットパンツとデニムをドッキングさせたパンツを合わせたメンズモデルと、タンクトップと羽のロングスカートをまとったメンズモデルが新郎新婦のように登場して締めた。
テベ マググ(Thebe Magugu)
昨年のLVMHプライズでアフリカ人デザイナーとして初のグランプリを獲得し、先シーズンよりパリコレクションに参加して最注目株となっていた「テベ マググ」。今季もアフリカンエレガンスを体現したコレクションを披露した。タイトルは“Counter intelligence”。アパルトヘイト政策のために諜報活動をしていたスパイのコミュニティにインスパイアされている。
配信された動画はヨハネスブルグで撮影され、粗い画質により70年代のスパイ映画風に仕上げ、絶妙な緊張感と脱力感を見せる。フリンジを垂らしたジャカード織のファブリックによるシンプルでリーンなワンピースや、白人女性のポートレートをプリントしたシャツドレスには、スパイをイメージしてホルスター風のレザーアクセサリーをコーディネート。ラフルを飾ったデニムジャケットには、ベルボトムパンツを合わせて70年代風に。
注力するニットは、タンクトップ風のワンピースや、アシメトリーのワンショルダーのドレス、ブランドロゴをインターシャで表現したニットポロドレスなどが登場。たった14点のミニコレクションだが、特徴的なカッティングは魅力があり、来シーズンへの期待を抱かせるに値するコレクションとなっていた。
ケンゾー(KENZO)
クリエイティブ ディレクターにフェリペ・オリヴェイラ・バティスタが就任して初のコレクションに続き、仏国立パリ聾学校の広大な庭を会場にショーを開催。1900~1910年代のパイプをくわえる蚊よけのキャップを被る男性のポートレートが掲げられ、ディスタンスを保つものとしての虫よけのキャップがイメージソースの一つとなった。
コレクションタイトルは“Bee a Tiger”。今季は虎から離れて、ミツバチがコレクションの象徴となっている。そして思想的には、パンデミックの最中にあって、喜びと憂鬱、悲観と楽観、不測と想定など、相反する要素を持ち合わせる、二分的思考の再興をイメージしたという。
帽子から服まですっぽりと覆うブルゾンとワンピースのルックでスタート。その姿は養蜂家そのもので、蜂を避けるための薄手の布がディスタンスを保ち、今の時代を感じさせるスタイリングになっている。アーカイブから引用したポピーのモチーフは、敢えて泣いているかのような、絣を思わせる効果を加えたという。
アシメトリーのチュールのタンクトップドレスにも、チュールのキャップをコーディネート。アシメトリーの要素は、マルチカラーのニットドレスや、レースとメッシュをはめ込んだミニドレス、ジップでフォルムに変化を加えることの出来るドレスなどに見られ、フェリペ・オリヴェイラ・バティスタらしさを感じさせる構築的なアイテムとなっていた。
ドリス ヴァン ノッテン(DRIES VAN NOTEN)
意外な新境地を見せた「ドリス ヴァン ノッテン」。ダンスをするモデル達に強い色のヴィジョナリー・フィルム(ニュージーランド出身のアーティスト、レン・ライの作品)を当てた、ややアングラ感の漂うヴィヴィアン・サッセンによる動画を配信したが、個々のアイテムは明るくてカラフル。
そして同じくヴィヴィアン・サッセンによるルック写真は、享楽的なリゾートウェアのようなイメージのものも含まれ、「ドリス ヴァン ノッテン」の新しい側面を引き出している。オプ・アートを思わせるグラフィカルなモチーフのワンピースや初のスイムウェア、タイダイのような大胆なモチーフのワンピースなど、全てのモチーフは先述のレン・ライの作品から引用されたもの。
またレン・ライの書いたエッセイもプリントモチーフとして採用されている。イングリッシュレースを思わせるレーザーカットのレザーによるアイテムや、ハニカムネットのジャケットやスカート、レン・ライのフィルムをプリントしたプリーツ素材を花弁のようにあしらったドレスなど、様々な色・形・素材をあしらった意匠がコレクションを彩る。象徴的なYOUの文字は、MEの時代の終わりを促すものとして登場。その鋭さとユーモアに、「ドリス ヴァン ノッテン」の機知を感じ取ることができるだろう。
取材・文:清水友顕(Text by Tomoaki Shimizu)
2021春夏パリコレクション