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2020.10.03
【2021春夏ミラノハイライト4】進化するデジタルショー 手法も演出も多様化
画像:プラダ
フィジカルショーの復活が多くみられたとはいえ、やはり半数以上を占めたのはデジタル発表だ。その中にはフィジカルショー並みのボリュームを無観客で行うブランドからルックブックテイストで見せるブランドまで、素人からドールやアバターまでモデルも様々、ロケーションも本社や地元の美しいスポットを効果的に使うブランドから、世界規模でカメラを回すブランドまで。そこにはブランドそれぞれの個性を生かした趣向がなされており、洋服のコレクションだけでなく映像を含めた、総合的なクリエーション発表となった。
プラダ(PRADA)
ラフ・シモンズをCOデザイナーとして迎えた「プラダ」は、初コレクションのお披露目をデジタルで発表。ショーの後には、一般公募した質問に対してミウッチャ・プラダとラフ・シモンズが二人で答えるインタビュー映像も公開した。
今シーズンの「プラダ」は“DIALOGUES(対話)”というテーマを掲げているが、これは今シーズンから始まった二人のデザイナーの協働を意味していると同時に、ロックダウン中に唯一の人をつなぐツールだったテクノロジーの大切さを痛感し、人間と機械やインダストリアルとの切っても切れない関係性を表しているものでもあるとか。
そんな人間的なものと無機質なものの共存は、多くのルックで繰り返し登場するディテールに現れる。例えば、ラフ・シモンズが長年コラボしてきたアーティスト、ピーター・デ・ポッターによるフレーズを散らした機械的なグラフィックが、「プラダ」のアーカイブからのフラワーモチーフやオプティカル柄とミックスされたり、繰り返し使われる逆三角形のロゴはアップリケだったりコサージュをつぶした上にスタンプされていたり。その一方、「プラダ」の根底に流れる「ユニフォーム」の概念もクローズアップされ、機能的で信頼がおけ、確実にプロテクトしてくれる服という視点から再現されている。多くのルックでモデルたちは長方形の布(商品化の際はマジックテープなどが付く予定だとか)を巻いて胸のところで握りしめて登場する。またケープのように巻き付けるポーチやラップスカートなどもあり、“巻く”という仕様が重視される。さらに、大きなワーク風ポケットやベルトや裾の部分に使ったシートベルトのバックルのような作業着的なディテールも見られる。
グラフィックにインパクトがあり、オーバーボリュームのアウターやパンツのセットアップなどが多いので、どちらかというとラフ・シモンズらしさが目立つが、ドット柄にカットアウトされたニットやインナー、ラップスカートなどにミウッチャらしさもあり、両方のテイストのバランスがよくでているのではないだろうか。デザイナーの交代劇が繰り返されるファッション界において、個人的にはこのコラボが末永く続いてくれることを願っている。
エンポリオ アルマーニ(EMPORIO ARMANI)
「エンポリオ アルマーニ」は、アルマーニの自社ビル「アルマーニ/テアトロ」、「アルマーニ/シーロス」で撮影したムービー「Building Dialogues(対話の構築)」を公開。特に「アルマーニ/テアトロ」は安藤忠雄建築としても知られる、打ち放しコンクリートで作られた幾何学的造形が美しいビルだが、それらはまるでこの動画のために作られたセットのようだ。
そこに登場するモデルや女優、ダンサーたちが整然とグループになって歩いたり、一人一人がパフォーマンスを始めたりと、静→動に移行する中で、ピースたちは自然光を受けて軽やかに映える。エアリー素材を多用し、シャツやドレス、コートやアノラックからパンツスーツまで全体的にトランスペアレントなイメージ。またシャープなイメージのアイテムには光沢素材が多用されるが、パンツスーツもジャケットがスリーブになっていたり、ボトムはワイドパンツだったりとリラックス感は忘れない。シャツのフロントやパンツやショーツの裾の部分に使われたノットのディテールも特徴的だ。そんなアイテムたちには白、グレー、ベージュ、淡いブルーなど全体的に優しいペールトーンが使われている。ムービーの最後には球体が登場し、SF映画のような雰囲気を醸し出すが、これは今の混とんとした世界を救ってくれる救世主ということなのだろうか。
エムエスジーエム(MSGM)
7月のデジタルファッションウィークでは往年の青春ドラマ風ムービーに仕立て、最後にモデルの若者たちによる「幸せとは?愛とは?」といったテーマについてのメッセージを流していた「エムエスジーエム」。今回はその発展形ともいえるような、モデルたちへのパーソナルなインタビュー仕立てに仕上げたショートムービーを発表した。
モデルたちが纏っているコレクションには、「エムエスジーエム」らしいオレンジ、イエロー、フューシャピンクなどのキャンディカラーが使われ、それらはストライプ、タイダイ、グラフィカルプリントとしても登場する。バルーンスカートやパフスリーブ、フリルやギャザーもふんだんに使われており、キュートでロマンチックな雰囲気が満載だ。
“I am what I am”というタイトルのムービーは、こんな時代だからこそより自分に向き合う様子が描かれ、それは映像を見る人それぞれに投影される。そして全体的に流れるハッピームードとポップなコレクションによって、ポジティブさが見ている人にも伝染するかのようだ。
ディースクエアード(DSQUARED2)
まるでルックブックのようにひたすらモデルたちの全身写真が流れていくシンプルなショートムービーを発表した「ディースクエアード」。エンターテイナーとして定評のある(?)デザイナーのディーン&ダン・ケイティンも今回は全く登場せずちょっと意外。だが、もちろん洋服が良く見えるという点ではとても効果的な作品だった。
今回のコレクションでは、同ブランドがお得意とするミリタリーテイスト、デニム、パンクテイストなどをエレガントに昇華。ボリューミーなミリタリーパンツにはコンシャスなレースのトップを合わせたり、マイクロショートのミリタリージャケットにはコンパクトなボディを、オーバーサイズのトレンチにはランジェリードレスを・・・という感じで、コントラストのあるコーディネートが特徴。カットアウトが施されたボディーコンシャスなドレス、レザーのシガレットパンツやマイクロ丈のシャツ、スリットの大きく入ったスカートや透け素材のドレスなど官能的なアイテムも多いが、カットがシンプルなのでクラシックな雰囲気だ。デニムはスーパーデストロイ、ブリーチ、ラミネート加工など様々な特殊仕上げがなされているので、カジュアルさは薄れてモードな感じに。がらりと雰囲気が変わったように思えるコレクションだが、これが「ディースクエアード」風のニューノーマルなのかもしれない。
モスキーノ(MOSCHINO)
マリオネットたちが繰り広げるランウェイショーの模様を描いたムービーでコレクションを発表した「モスキーノ」。正直なところ、7月のデジタルファッションウィークで発表したメンズの2021プレコレクションプレゼンテーションビデオが意外とシンプルだったので、今回はようやくクリエイティブ ディレクターのジェレミー・スコットの真骨頂という感じ。
ムービーでは人形たちによるサロンスタイルのランウェイショーが行われ、そこに登場する人形のモデルたちが纏っているミニチュアのルックたちが今回の新作コレクションだ。ショーの招待客(もちろんこちらも人形)には米ヴォーグのアナ・ウィンターや英ヴォーグのエドワード・エニンフルなど有名編集長たちが。そしてショーの最後には(これだけがあまり似てない)ジェレミー・スコットがご挨拶。
今回のコレクションでジェレミーは、一瞬のうちにこれまでの常識が覆され逆さまになった今の世界において、今まで隠されていた内面を前面に押し出してそこから構築する、というアプローチをとった。
ブロケード使いのドレスやコート、チュールをたっぷり使ったドレス、長くたなびくトレーン、リボンやビジュー、フェザー使いなど、ロマンチックかつ上品でクチュールテイスト溢れるアイテムが揃うが、実はそれらは裏表が逆になっていて、エッジ、シーム、コルセットの骨組み、ダーツなどこれまで服の内側にあったものが外に出てディテールとして使われている。ゆえにスカートの裏地がオーバースカートになっていたり、コルセットがビスチェ風トップになっていたり。
パラダイムが変わろうとしている今の時代、次に来る革新的な未来のために「新しいことを始めるには、小さな一歩から」なのだ。
トッズ(TOD’S)
「トッズ」はこれまでもメンズコレクションのプレゼンテーション会場として使用してきたヴィッラ・ネッキにて撮影した、“THE SONG”というタイトルのムービーをデジタルで発表。これには人の声や複数の楽器が奏でるハーモニーという意味が込められているようで、ライブ演奏の音楽に合わせて邸宅の各部屋を自由に動き回るモデルたちは、世界中のインフルエンサーたちとビデオミーティングのようにつながっているという仕掛けになっている。
クリエイティブ・ディレクター、ヴァルター・キアッポーニが提案するのは、上品でありながら素のイメージや未完成さを醸し出すアイテムたち。ロングスカートやロマンチックなフリルワンピースには洗いっぱなしのような微妙なシワ感があり、ジャケットやシャツの裾や袖口は切りっぱなし。ウォッシュ加工スエードやパッチワークレザーのブルゾンにはアンティークテイストも。またキャンバス地のサファリジャケット、厚手の靴下にINしたリラックスパンツ、またはワーク風のパッチポケットのディテールに、「トッズ」らしいトラベルのテイストが表現されている。
一方、シンプルなウェアを引き立てるアクセサリー類はバリエーション豊か。レースアップタイプのゴンミーニサンダル、コルクの厚底ウェッジサンダル、プレキシガラスのアワーグラスヒールのサンダルなど夏らしいシューズや、ミニバージョンのバケツバッグ、ホーボータイプのオーボエバッグなどが登場した。
ジョルジオ アルマーニ(Giorgio Armani)
いつもショー会場としている「アルマーニ/テアトロ」にて無観客ショーを行った「ジョルジオ アルマーニ」。その模様は、ブランドのオフィシャルサイトやイタリアファッション協会のミラノコレクションページで配信するだけでなく、La7というイタリアのテレビチャンネルにて、ゴールデンタイムでお茶の間にも放映した。最初の20分ほどはブランドにまつわる過去の画像やジョルジオ・アルマーニの昔のインタビューなどを交えたドキュメンタリービデオ「Timeless Thoughts(時代を超越する想い)」を流してブランドの軌跡を紹介。このビデオによってアルマーニの一貫した信念を改めて思い知らされ、同時にアルマーニという人物が、イタリアにとってどれほど大きな意味を持つのかを実感させられた。
さて、ショーのほうは、厳格さと官能性、都会的モダンさと異国情緒といったアルマーニのキーワードが終結した“THEアルマーニ”ともいえる大作。シンプルで縦に長いシャープなカットだが、光沢素材やエアリー素材など様々な表情を持ち、動きと共に柔らかく流れるようなシルエットを描く。ノーラペルのジャケットやスタンドカラーのシャツ、胴着の帯のようなリボンなどの東洋的なテイストも健在だ。様々なトーンのグレーやベージュなどニュートラルな色に黒や青など寒色系の色使いが上品で、トーン オン トーンで統一された幾何学模様はフローラル模様にはロマンチックさとクールさが共存する。これらのルックには、アルマーニが言っていた「第二の肌のように着られる服」、「日常生活の中で使える服でなければ意味がない」という言葉がオーバーラップする。
ちなみにショーの後の番組枠では、同ブランドが衣装協力をした映画「アメリカンジゴロ」を放映。イタリアのアルマーニファンにとっては夢のような一夜となった。
マルニ(MARNI)
今シーズンは“MARNIFESTO(マルニフェスト)”というテーマで、デジタル発表を行った「マルニ」。マニフェスト(宣言)という言葉に掛けた「マルニ」からの革命宣言ともいえるテーマは、これまでの「モデル」、「ランウェイ」、「会場」、「ショー」といった常識を作り直そうという姿勢から生まれている。そして必要性、単一性、不平等、美しさ、孤立、 親密さ、緊縮、変化、そして闘争といった今の瞬間を表しているという。
ムービーはミラノ、ロサンゼルス、ニューヨーク、ダカール、上海、ロンドン、パリ、日本・・・と世界中を舞台に、近しい人たちの間で撮ったライブ映像によってそれぞれの生活の一部を切り取った40以上の物語で構成している。
登場する「モデル」たちが纏うのは、グラフィティのような強烈な柄やアートペインティングのようなストライプ、わざとほつれた裾処理や糸が引きつっているようなディテール、極端に長い袖縫うべきところをひもで結んだようなデザイン。身ごろによって色の違うピースや半分しかないオーバースカートなどアシンメトリーなフォルムも目を引く。
これまでのコレクションでもあえてちぐはぐにしたり、不完全な染め、縫いや編みなどを未処理にするディテールはしばしば見られたが、今回はそれらの総集合という感じだ。ダイバーシティという考え方も今やだいぶ定着したが、「マルニ」はますますこの路線を突き詰める様子だ。
エリザベッタ フランキ(ELISABETTA FRANCHI)
当初は観客入りのショーも検討していたという「エリザベッタ フランキ」。そんな経緯もあってか無観客ショー形式のムービーは、フィジカルショーに勝るとも劣らないスケール。こんな風に見せてくれるならデジタル発表でも十分満足感が味わえるというものだ。
さて、今シーズンのコレクションは、再生と新たなスタートとしての自然の力をテーマとした“春の賛歌”なのだとか。ふんだんに使われるフラワープリント、花びらのようなカッティングや様々な形や大きさで展開されるフリル、ボリュームのあるローズのデコレーションなどのフラワーモチーフがそんなテーマをストレートに表している。また、ラベンダー、ライム、パウダー、ローズゴールドなどのニュートラルなカラーパレットも春らしい。
全体的には、パフスリーブやベルスリーブ、パニエスカートやマイクロプリーツスカート、ボリューミーなチュールスカートなどのアイテムが象徴するように、貴族的なエレガントさが漂っている。が、そんな中にもサファリ風ジャケットやデニムシャツなどのカジュアルなアイテムも交じり、はたまた玉虫色のスパンコールやフリンジを聞かせたゴージャスなドレスも登場。今回もバリエーション豊かなコレクションだった。
アツシ ナカシマ(ATSUSHI NAKASHIMA)
東京の増上寺を舞台にコレクションをデジタルで発表した「アツシ ナカシマ」。“和魂洋才”をテーマとして掲げたコレクションは、和と洋のミックス・・・というよりは、かなり和の要素が強く、正直なところやや衝撃的。特攻服からインスパイアされた刺しゅう入りのトレンチコートやシャツやパンツ、くノ一のさらしのような白のベアトップや昔の装束のようなボリューミーなパンツ、龍やトラのイラストがプリントされたスカジャンやシャツ。帯紐のようなベルトや忍者のようなマスクなども使われている。中盤以降には和柄を使ったカットの美しいドレスや和服と洋服が半身でくっついたようなアシンメトリーなアイテムなど、これまでの「アツシ ナカシマ」らしさが出てきてちょっと安心。
とはいえ、人々の目が内に向いている現在、イタリアンブランドの中にも自国をテーマにイタリア礼賛のコレクションを発表したところは多い。日本人デザイナーが自国・日本のモチーフを今一度見つめなおし、それを自分のクリエーションの中に生かそうとするのには大いに共感できる。
エムエム6 メゾン マルジェラ(MM6 Maison Margiela)
ルックブック撮影中のスタジオのドキュメンタリームービー風な仕立てでコレクションを発表した「エムエム6 メゾン マルジェラ」。そのコンセプトは“Business on top, party on the bottom(トップはビジネス仕様、ボトムスはパーティー仕様)”。
オンラインミーティングやスマートワーキングといった、新しい日常生活を意識したアイロニックなアイテムが多数登場。例えばトップはトレンチでボトムはレギンス、そのトレンチのボトムの半身はカジュアルなノースリーブトップに合わせるコーディネート。プロジェクターによって映し出されたようなプリントも。後ろに大きな布がついていて、広げると背景を隠せる仕組みのシャツや、椅子のカバーを服にしたようなドレスなど、オンラインミーティングにぴったりのアイテムには思わず苦笑いだ。
(取材・文:田中美貴)
2021春夏ミラノコレクション
https://apparel-web.com/collection/milano
ミラノファッションウィーク公式サイト
https://milanofashionweek.cameramoda.it/en/brands/
田中 美貴
大学卒業後、雑誌編集者として女性誌、男性ファッション誌等にたずさった後、イタリアへ。現在ミラノ在住。ファッションを中心に、カルチャー、旅、食、デザイン&インテリアなどの記事を有名紙誌、WEB媒体に寄稿。アパレルWEBでは、コレクション取材歴約15年の経験を活かし、メンズ、ウイメンズのミラノコレクションのハイライト記事やインタビュー等を担当。 TV、広告などの撮影コーディネーションや、イタリアにおける日本企業のイベントのオーガナイズやPR、企業カタログ作成やプレスリリースの翻訳なども行う。 副業はベリーダンサー、ベリーダンス講師。