PICK UP
2020.10.02
【2021春夏ミラノハイライト3】イタリアらしい職人技を堪能する フィジカル展示会ならではの醍醐味
写真:エミリオ・プッチ
ショーだけでなく、プレゼンテーションにおいても、ゲストを招いて実際に商品展示を行うブランドが多かったミラノ。ここではそんなフィジカルプレゼンテーションを行ったブランドを紹介する。
さらにこれらのうち多くのブランドはデジタル発表も並行して行っており、コレクションイメージや製作背景はムービーで、実際のサンプルは展示会で見ることができて、見る側にとっては例年以上に濃密だった。イタリアブランドの魅力はモノづくりにあるだけに、実物を見せることの意義は大きい。
エミリオ・プッチ(EMILIO PUCCI)
「エミリオ・プッチ」はミラノショールームにてフィジカル展示会を開催。前シーズンからゲストデザイナーを迎えてカプセルコレクションを発表している同ブランドだが、「コシェ(KOCHÉ)」のクリステル・コーシェに続く第二弾となる今シーズンは、日本人デザイナーの「トモ コイズミ(TOMO KOIZUMI)」が手掛けた。デザイナー本人も日本からこのためにミラノに駆け付け、展示会会場にて招待客を迎えた。
アーカイブプリント「ヴェトラーテ」にインスピレーションを得て作られた11の作品では、「トモ コイズミ」独特の壮大な立体感と「エミリオ・プッチ」の鮮やかなプリントが絶妙なハーモニーを奏でる。ヴェトラーテの色使いをラッフルで3Dに昇華したカラフルなルックと、ヴェトラーテプリントを裏地として使うことで人の動きに合わせてプリントが見え隠れする仕組みの純白のルックが登場。さらにTシャツやサンダルなど、ラッフルが部分使いされたアイテムも展開される。
一方、本コレクションは、カプリ島の旅からのインスピレーション。カプリ島を美しく描いたアーカイブプリント、「Piazzetta di Capri」、「La Canzone del Mare」「Conchiglie」、そして花柄プリントの「Tropicana」、「Ortensia」を使用。白を基調とし、清潔感とリゾート感覚溢れるコレクションとなっているが、プレーンなシャツや膝丈のスカート、パジャマ風パラッツォパンツやマイクロプリーツドレスなど、リゾートにもデイリーライフにも使えるようなルックが多く揃う。チュールスカートやレースアップサンダルなど、今年っぽいアイテムも多い。これは旅への憧れを満たしつつ、家でも過ごせるようなアイテムたちは今の雰囲気を反映している。
またコレクションのテーマに合わせて、ブランドのHPやイタリアファッション協会のミラノファッションウイークページでは「SULLA RIVA(海辺にて)」というショートムービーも公開された。
ブルネロ クチネリ(BRUNELLO CUCINELLI)
ミラノのショールームにおいて、観客入りの展示会を行った「ブルネロ クチネリ」。あわせて、ブランドのHPやイタリアファッション協会のミラノファッションウイークページにてムービーも公開。水辺や砂浜などのロケーションで、新コレクションを纏ったモデルたちが優雅に自然と戯れる様子が映し出される。そんな今シーズンは“PURE SPIRIT(ピュア・スピリッツ)”がテーマ。家で過ごす時間が多くなった昨今において、着心地やリラックス感にあふれるラウンジウェアを意識したコレクションを展開した。
スポーツシック・ラグジュアリーという「ブルネロ クチネリ」のテイストはそのままに、リネンやジュート、麻、シルクなどの植物から作られた天然素材が多用され、素材の心地よさや柔らかさを生かしたスタイルが際立つ。カラーパレットもホワイトからベージュ、淡いグレーなどのニュアンスカラーをメインに、今年らしいローズ、スカイブルー、ライムなどの差し色で展開される。そんな中に、マクラメやロープ、かぎ針編みのラフィア、そして編み込みのロープのベルトとサンダル、麦わら帽子、キャンバス地のバッグなどのアクセサリーなど、夏らしいカジュアルさが盛り込まれている。
外にひけらかすのではなく、内の部分での充実が求められる現代において、心地よさを肌で感じられるハイクオリティの素材や、自分らしくいられるようなスタイル。それは「ブルネロ クチネリ」が提案するラグジュアリーとは本質の豊かさであるということを物語っているようだ。
ミラ・ショーン(mila schön)
ミラノのショールームにおいて、フィジカル展示会を行った「ミラ・ショーン」。会場には「Mila sono io」というタイトルの、過去のコレクションや若き頃のミラ・ショーンのポートレートをコラージュしたボードで作ったボックス状のインスタレーションを展示。その中のいくつかのルックはモデルの顔の部分が丸く切り取られていて、観光地でよく見かける、穴から顔を出して記念写真が撮れるような遊び心ある仕掛けになっている。
会場ではクリエイティブディレクターのグン・ヨハンセン自らが招待客を歓待。そんなグンは、日ごろからデザインする際には、音楽のリズムを作り出すように色やモデルを重ねていくそうだが、今回もそんなリズム感を波やムーブメントをテーマにしたコレクションに投影した。「ミラ・ショーン」のアーカイブから見つけた波打つようなプリントのロングドレス、ハンドソーイングでドゥブレに仕上げたリバーシブルのスカラコート、シルクルーレックスのイブニング、または蚕に無理のかからない育て方をしたスローシルクのドレスなど、「ミラ・ショーン」らしいミニマルでエレガントなルックが揃う。そんな中、デニムのサファリジャケットなどカジュアルなアイテムも差し込まれる。オーセンティックでタイムレスなコレクションは、大量消費やスピード重視から、スローライフやクオリティを尊重する流れに移りつつある今の時代にマッチしている。
セラピアン(SERAPIAN)
「セラピアン」は本社を構えるヴィッラ・モーツァルトにてフィジカルプレゼンテーションを開催し、新作コレクションの発表に加え、1928年の創業以来、メゾンのアイデンティティとして広く認知されてきたビスポークサービスについての展示を行った。ヴィラ・モーツァルトのラグジュアリーな中庭には、内装のビスポークオーダーを手掛けたクラシックカーが置かれ、エントランスには世界中でトランクショーを行う際にサンプルマテリアルを入れるビススポークトランクも展示。またそのサービスを担う熟練の職人が、実際に手作業でモザイコを製作する様子を見学できる「モザイコクラフトアトリエ」を公開した。ビスポークサービスではこのモザイコを30種類のカラーバリエーションのナッパレザーを自由にコンビネーションし、「セラピアン」のバッグを好みの色柄で仕上げるだけでなく、あらゆる製品をレザー仕上げにすることが可能だ。
一方、2021春夏コレクションでは、アイコニックなモデルたちの新バージョンとして、「ミニシークレットバッグ」や「ソフトクラッチ」が登場。さらに夏らしいキャンバスを使用したバッグや、新色のブロンズをあしらったコレクション、ワインを作る際のブドウのカスから作られたエコレザーのコレクションなども展示された。
ヴァレクストラ(VALEXTRA)
ミラノ本店にて観客入りの展示会を行った「ヴァレクストラ」。今回は、アイコンバッグの「イジィデ」に大理石のディテールを施した特別プロジェクト「MARVLES」が発表された。このプロジェクトは建築デザイン界のスター、パトリシア・ウルキオラが大理石のディテールをデザインし、それを大理石メーカー、ブドリ社によって製作されるもので、注文販売のみでの扱いとなる。ウルキオラは瑪瑙(めのう)からのインスピレーションで、岩のような自然のイメージでデザインされたFUSE、ジオメトリックなアーチ形が特徴的なBOW、アールデコ調の未来的なデザインのEDGEという3シリーズ、19種類のディテールをデザインした。
フィジカルプレゼンテーションと共に、ウルキオラのコメントや制作風景などを撮影した貴重なムービーも公開。「ヴァレクストラ」とブドリ社の職人技に溢れるモノづくりに迫るドラマチックな映像は、このバッグのクオリティと芸術性の高さを物語る。
ブルガリ(BVLGARI)
ミラノブティックにて、フィジカルプレゼンテーションを行った「ブルガリ」。このところグラマラスなイメージをアップデートしてきた「ブルガリ」だが、今回のコレクションは“ARKADIA21”と名付けられており、それは不可能を可能にする理想郷をイメージしているのだとか。
AUTENTICITÀ (正統性)、AMORE(愛)、そしてARMONIA(ハーモニー)という3つのムードでセルペンティのコレクションを展開する。ゴールドチェーンのショルダーストラップがついたセルペンティマルチチェーンバッグ、幾何学的なカットでゴールドに輝くセルペンティブリリアントカットクラッチなど高貴なイメージのアイテムたちが「オーセンティック」なムードを、ブラムレッドの明るい発色のセルペンティマキシチェーンバッグやグラデーションに染められたセルペンティキメラパイソンなどデイリーなイメージのアイテムたちが「愛」のムードを、そしてパステルカラーで虹色に染められたセルペンティスプリングシェードパイソンや鮮やかな色遣いになって帰ってきたセルペンティカボションなどが色彩豊かに「ハーモニー」のムードを代表している。
サントーニ(SANTONI)
Photo by Sam Wilson
ミラノショールームにて、アポイント制のフィジカルプレゼンテーションを開催した「サントーニ」。デザイナー、アンドレア・レニエリが手掛けた新カプセルコレクション「GALLERIA.01」のお披露目がなされた。イタリアのルネサンス期にインスパイアされた同コレクションにはアートや建築の要素が多くみられ、同時にインダストリアルデザインを学んだレニエリの構築的なエッセンスも加わっている。
ルネサンス建築の円柱や回廊から自然光が漏れ、様々に映し出される影からインスパイアされているCHIOSTROシリーズ、彫刻的なヒールとナッパレザーが柔らかいボリューム感、シェイプ、ノットやディテールを創り出すDRAPPOシリーズ、前二者のコンセプトに職人技を合わせて発展させたNODIシリーズ。エレガントでモダンなシェイプに、結びや編み、ツイスト、そして「サントーニ」らしいフリンジなどクラフツマンシップが生きたディテールが印象的だ。
合わせて、同ブランドのサイトやイタリアファッション協会のページにて、「Galleria 01」のムービーも公開。「サントーニ」の本拠地マルケ州にあるウルビーノのドゥカーレ宮にて撮影された映像は、このコレクションの芸術的で構築的な雰囲気にマッチする。
バリー(BALLY)
「バリー」はミラノブティックにて、アポイント制のフィジカルプレゼンテーションを行った。今シーズンは“エレメンタルバランス”をテーマに、自然と調和した暮らしを受け入れることから着想を得たクラフトマンシップあふれるコレクションを発表。
伝統と革新は対峙するものではなく共存し、自律的で自由であるということを表現しているというコレクションでは、細かく編み込んだレザー、織り合わせたストロー、ラフィアなどの自然の素材がふんだんに使用され、職人技をきかせて仕上げられている。カウボーイブーツやフリンジのサンダルにはちょっとワイルドな雰囲気も。また洋服のコレクションにも「バリー」らしいソフトなレザーに加え、シルク、リネンなどナチュラルでソフトな素材を多用。同ブランドおなじみのBチェーンやフレームパターンがグラフィカルなモチーフとしてモダンなイメージで使われている。
また「バリー」はオフィシャルサイトやイタリアファッション協会のミラノファッションウィークページにて、アントニオ・モンフレーダ監督によるショートムービー「DAYDREAM」も配信。トスカーナの自然の中で撮影したムービーには、このコレクションの雰囲気がよく表れている。
(取材・文:田中美貴)
2021春夏ミラノコレクション
田中 美貴
大学卒業後、雑誌編集者として女性誌、男性ファッション誌等にたずさった後、イタリアへ。現在ミラノ在住。ファッションを中心に、カルチャー、旅、食、デザイン&インテリアなどの記事を有名紙誌、WEB媒体に寄稿。アパレルWEBでは、コレクション取材歴約15年の経験を活かし、メンズ、ウイメンズのミラノコレクションのハイライト記事やインタビュー等を担当。 TV、広告などの撮影コーディネーションや、イタリアにおける日本企業のイベントのオーガナイズやPR、企業カタログ作成やプレスリリースの翻訳なども行う。 副業はベリーダンサー、ベリーダンス講師。