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2020.09.30
【2021春夏ミラノハイライト2】有力ブランドがフィジカルショーを開催 イタリア礼賛でルネッサンス(再誕)を願う
左からドルチェ&ガッバーナ、ヴァレンティノ、エトロ
2020年9月23~28日、2021春夏ミラノファッションウイークが開催された。64ブランドがショーを行い、うち23ブランドがフィジカルショーを行った。先立って行われたロンドンやNYではほとんどのブランドがデジタル発表だったことと比べると、ミラノではかなりフィジカルイベントが多く、新型コロナウイルスで大きなダメージを受け、コレクション発表においても停止ムードのファッション業界に明るい希望を与えた。
またデジタル発表を行ったブランドにも、今シーズンからラフ・シモンズをCOデザイナーとして迎えた「プラダ(PRADA)」が、デジタルショーの後、一般から公募した質問にミウッチャ・プラダとラフ・シモンズが二人で答える形のインタビュー映像を公開したり、「ジョルジオ アルマーニ(Giorgio Armani)」がテレビ放送にて、無観客ショーを放映するという新しい試みもあった。それは、これまでは業界外には扉を閉ざしていた感のあるファッション界が、一般の人を巻き込んで一緒に再度復活していこうという姿勢にも見える。コレクション全体でも、人、自然、または自国イタリアなど、内なる部分や身近な世界をより重視するようなテーマを掲げていたり、旅への憧れや「おうち時間」を意識した、実用的でエフォートレスなアイテムやニュートラルカラーに明るくエネルギッシュな色を交えたカラーパレットを展開するブランドが多かった。また(それができるブランドに限るが)、オーセンティックなものが求められる時代に、イタリアならではの職人技をこれでもかとばかりに前面に押し出す傾向も見られた。
ヴァレンティノ(VALENTINO)
7月のデジタルファッションウィークで発表したムービーをイタリア・ローマのチネチッタで撮影を行った「ヴァレンティノ」は、ミラノでのショーは初めてとはいうものの、今回のコレクションでもブランドの母国イタリアに戻り、観客入りのショーを行った。会場となったのはミラノ郊外にある1936年建設のメタル工場。まるで廃墟のような(実際は使用している)スペースには花や緑が飾られ、ピアノの生演奏によって、シンガーソングライターのラビリンスのライブと共にショーがスタートした。
登場したのはストリートキャスティングをしたかのような、いろいろなタイプの「モデル」たちだ。とはいえ、それは一時期大きく取り上げられたダイバーシティモデルではなく、いわゆる「普通」の人たち。彼らが纏うコレクションもバリエーションに富んでいて、ミニマルなドレスやショーツとトップのセットアップから、カラフルにフラワープリントをあしらったボリューミーなマキシドレスまで。通常イブニングに使われる「ヴァレンティノ」らしいマクラメレースがシャツやジャケットに使われたり、「リーバイス(Levi’s)」とコラボしたクラシックLevi’s 1969 517ブーツカットにゴージャスなレイヤードフリルのシフォンのシャツをコーディネートするといった意外な打ち出しも見られる。メンズライクなオーバーボリュームのシャツやかっちりしたジャケットもあれば、フリンジ袖のメタリックなドレスやマイクロプリーツやAラインのフェミニンなドレスも。でも最後はやはり「ヴァレンティノ」らしいシフォンのドレス。鮮烈な「ヴァレンティノ」レッドのドレスが大トリを務めて、圧巻のフィナーレを締めくくった。
これはクリエイティブディレクター、ピエールパオロ・ピッチョーリによる、画一化された完璧な美ではなく、それぞれのアイデンティティとパーソナリティを重視し、個々の自由な視点と表現を大切にしようという姿勢であるらしい。それは、ウイルス感染防止によって行動が制限される中、皆が自分自身や身近な世界を見つめなおし、本質的な部分を追求している現代の流れを反映しているようにも見えた。
ドルチェ&ガッバーナ(DOLCE&GABBANA)
「ドルチェ&ガッバーナ」は、7月のデジタルファッションウィーク中に観客入りでメンズショーを行った数少ないブランド。そして9月にもピッティ主催でフィレンツェにてアルタ モーダの一連のフィジカルイベントを行っている。そして今回は本拠地であるミラノのメトロポールでウィメンズの観客入りのショーを行った。
今シーズンのテーマとして同ブランドが掲げたのは“シチリアのパッチワーク”。シチリア島は地中海に突き出た島という位置上、スペイン、アラブ、ノルマン、フランスと様々な勢力の支配を受けてきたため、その影響が混ざり合った文化が現代も息づいている。今回「ドルチェ&ガッバーナ」はそんなシチリアの多様性をパッチワークとして表現した。また、パッチワークという手作業による高度な技術は同ブランドのクラフツマンシップを物語っており、さらに昔のアーカイブ生地を今の生地とつなぎ合わせて使うことで、サステナビリティへの貢献にもなっている。
マヨルカ焼き、フラワー、フルーツ、アニマル、ドット、ブロケードなど「ドルチェ&ガッバーナ」お得意のモチーフが、ポプリン、デニム、ジョーゼット、シフォンなど様々な生地で、形や大きさも様々にパッチワーク、またはパッチワーク風のプリントによって、カラフルに展開される。アイテムはベルスリーブやパフスリーブ、バルーンスカートやサーキュラースカートなどレトロでロマンティックなテイストものから、マイクロミニのドレス、ショーツやサイクリングパンツなどカジュアルなテイスト、またはチュニックやガウン、ミニベストなど民族衣装的な雰囲気のするものまで様々に登場。
フィジカルショーを選ぶことについて、「ショーのこの一瞬は他の手段では表現できない」と語っていたデザイナーたち。一面にパッチワーク柄が施された舞台とランウェイ上にモデルが勢揃いした圧巻のフィナーレを見れば、彼らが言わんとしていることがよくわかる。
エトロ(ETRO)
この7月には2021春夏メンズコレクションと2021ウィメンズリゾートコレクションの観客入りショーをフォーシーズンズホテルにて開催した「エトロ」。今回も本来なら同ホテルのガーデンでショーを行う予定だったが、あいにくの雨のため、これまでも会場としてよく使用してきたガレージにて開催することになった。この会場の変更が今回特に残念に思われたのは、“イタリアの夏”をテーマとした、マリン感覚あふれるコレクションだったから。レモンの木いっぱいに装飾されたガレージも素敵だったが、やはりこのショーは庭園の自然光の下で見たかった・・・。
そんなマリンのテーマはイタリア人が愛してやまない青と白、そして赤を加えた色使いや金ボタンやボーダーなどのセーラーマンテイスト、旗、錨、ロープやイタリアンリヴィエラのプリントなどの様々なディテールで登場。メタルとロープを組み合わせたベルトやレースアップサンダル、スカーフをモチーフとしたプリントは90年代風のテイストも感じさせる。アイテムにはマキシロングドレスやレイヤーフリルのミニドレス、フィッシャーマンズセーター、ミニショーツやホワイトデニムなどリゾート感覚あふれたものが多い。
感染防止による渡航規制のため、今年の夏はイタリア人の多くが国内でバカンスを過ごした。そんな中、クリエイティブディレクターのヴェロニカ・エトロはこのコレクションにおいて改めて自国イタリアの美しさを前面に出し、人々に旅への憧れや希望を引き起こすようなポジティブなメッセージを放った。
ヌメロ ヴェントゥーノ(N°21)
自社の施設、スパッツィオ・ヌメロ・ヴェントゥーノにて観客入りショーを行った「ヌメロ ヴェントゥーノ」。以前は混合ショーを行っていたのを、前回はまたメンズ・ウィメンズそれぞれを分けた形に戻してコレクションを行ったが、今回はまた以前のように混合ショーの形に。正直なところ、このブランドに関しては、混合ショーのほうがそのバランスのうまさがよくわかって面白いと常々思っているのだが、今回は特にアレッサンドロ・デラクアが得意とする「マスキュリンとフェミニンのミックス」というテイストが色濃く出ている。
マイクロショートのトップ、アシンメトリーなシルエットやカットアウト、バランスの違うアイテムのレイヤードや切りっぱなしや縫い代が残ったようなディテールなど、そのテイストはメンズにもウィメンズにも共通する。それどころかマイクロショートのパーカーやグランジテイストのチェックシャツなどはアイテムそのものがほぼ同じだ。
それにもかかわらず、両性的にもならず、やりすぎにもならないのは、パーカーやローゲージセーターなどメンズライクなトップにフェザーやビジュー使いのスカートをコーディネートしたり、テーラードスーツにはビジューのブラを合わせるなどのコーディネートのうまさにもあるのだろう。「おうち時間」が長くなった現代において、ジェンダーの差を超えて着まわせるスタイルというのが、これからの流れなのかもしれない。
サルヴァトーレ フェラガモ(Salvatore Ferragamo)
先日のヴェネチア国際映画祭では、創業者サルヴァトーレ・フェラガモのドキュメンタリーフィルムが公開されたばかりの「サルヴァトーレ フェラガモ」だが、クリエイティブ ディレクターのポール・アンドリューは今シーズンのコレクションのインスピレーションを、「鳥」、「マーニー」、「めまい」などアルフレッド・ヒッチコック監督の映画から得たという。
そんなイメージに合わせて、ロトンダ・デッラ・ベサーナの回廊を使用して行われたフィジカルショーは、開始前にはちょっと不気味な鳥の鳴き声が会場に流れて、ミステリアスムード満載。そこから、前出の創業者の自叙伝的映画を撮ったルカ・グァダニーノ監督による、ミラノの各所を舞台に数人の男女が出会ったりすれ違ったり、追ったり逃げたり・・・といったサスペンスタッチのムービーでスタートした。
とはいえ、コレクションにおいては、ヒッチコック作品のサスペンスの部分というよりは、その色彩に影響を受けているようだ。映画「めまい」の中で、めまいや悪夢をあらわす際のイラストに登場する様々な鮮やかな色たち、「マーニー」の主人公が恐れる赤など、映画に登場する色彩を忠実にコレクションに再現している。またフェザーのディテール使いは映画「鳥」からの連想のだろうか。アイテムについては、カットワークやストリングスカートなど職人技のディテールを入れこんだミニマルなシルエット、またはメンズライクなグレンチェックやジャケット、オールインワンやランニングなど実用的でエネルギッシュなものが多い。ロックダウン中にヒッチコック監督作品を見て、現在の自分が置かれている世界のシュールさに気付いたというポールは、そんな映画の世界の色彩を今度は現実社会の日常生活において映し出して見せた。
マックスマーラ(Max Mara)
今回の「マックスマーラ」は、これまでよくショーを行ってきたセナート宮やボッコーニ大学ではなく、ブレラ絵画館の回廊を使ってフィジカルショーを開催した。これは今回のコレクションにおいて「マックスマーラ」が、ルネッサンス時代を駆け抜けた不屈のヒロインをテーマとしたことに通じているのかもしれない。
ゆえにコレクションに登場するのは、ルネッサンス期の絵画に登場するような、切り替えになったパフスリーブ、官服のタバードのようなスリットが各所に生かされたコート、コントラストをきかせた縁飾りやダマスク織のパッチワークなどの特徴的なディテールだ。そこに大きな作業用ポケット、スナップ留め、ドローストリングなどのワークやストリートのディテールがミックスされる。カラーパレットもウンブリア派のフレスコ画のパステルを思わせるようなオーク、アンブラ、ホワイトなどにぼかしを入れたようなニュアンスカラーが揃う。とはいえ、アイテム自体はトレンチやアノラック、パーカーなどワークやストリートのテイストがあふれる実用的なものばかり。それらをドレープの入った流れるシルエットにしたり、ギャザーを使ってベアショルダーやウエストマークにすることでフェミニンさが加わる。
いつの時代もパワーウーマンを応援してきたマックスマーラ。そんなマックスマーラが先の見えないこの時代からのルネッサンス(再誕)のために提案するのは、プラクティカルでエフォートレス、でもちょっとラグジュアリーに自分を元気づけてくれる服だ。
スポーツマックス(SPORTMAX)
デザインと建築の複合施設、トリエンナーレを会場として、フィジカルショーを行った「スポーツマックス」。
今シーズンは、作家ウォルト・ホイットマンが 1855 年に書いた自分を知ることで自然に生まれる官能的な純粋さを謳った情熱的な愛の讃歌「I Sing the Body Electric(ぼくは充電されたからだを歌う)」と、名女優ロミー・シュナイダーの輝くような美しさがテーマだとか。
ハイテクな素材とやわらかい肌触りの生地を組み合わせた透け感のあるレイヤード、ボディに沿った細く長いシルエット、ツイストやカットアウトによって部分的に肌を見せるディテール、またはアシンメトリーなバランスや切りっぱなしの処理による不完全なフォルムも危うく官能的な雰囲気を醸し出す。そんな中にオレンジやレモンイエローなどの今年っぽい差し色や、絞り染めやメタリックなどパンチのきいた要素が入り、モダンさや未来感を添えている。「スポーツマックス」らしい革新的なコレクションは、先に進む希望を与えてくれているかのようだ。
ブルマリン(Blumarine)
ニコラ・ブロニャーノをクリエイティブディレクターとして迎える初のコレクションを、テノハにてフィジカルショーで発表した「ブルマリン」。「子供の頃、ファッション誌でブルマリンのコレクションを見て、ロマンティックでセンシュアル、繊細だけれど強さを秘め、軽やかでトゥーマッチではない多面的なパーソナリティを楽しむ女性の物語を伝えたいと思った」とニコラは語る。
そんな新生「ブルマリン」は、細めのシルエットにベアショルダーやワンショルダー、マイクロミニやウエストの出るマイクロトップ、ランジェリードレス、そして太ももまでレースアップされたサンダルなどパンチのきいた官能的なテイストが満載。もちろんバラを始めとしたフラワーモチーフやアニマルモチーフ、フリルやフリンジやフェザーなどのブルマリンらしい要素もふんだんに登場し、ミントグリーン、キャンディピンク、グラッセブルー、クリームなどのパステルカラーもロマンティックさを添えている。またblumarineのロゴのベルトやヘアアクセサリーも印象的だ。
要素としては「ブルマリン」のDNAがしっかり継続しているのだが、雰囲気ががらりと違うのは、男性デザイナーと女性デザイナーが作る服の違いだろうか。エッジをきかせて生まれ変わった「ブルマリン」の今後に大いに注目したい。
フェンディ(FENDI)
今シーズンの「フェンディ」は、ミラノショールームにてフィジカルショーを行った。優しい光が入り、純白のカーテンから入るそよ風が吹き抜けるようなランウェイに、壁やフロアーにプロジェクションされる窓から影のように映し出さ
そんな優しい雰囲気からそのまま抜け出たように、リネン、チュール、コットンなど清楚でエアリーな素材が多く使われ、窓の影をそのまま映したようなプリントがあしらわれているアイテムも。カラーパレットも白からベージュ、パステル、そこにプラムレッド、オレンジ、レモンイエローなどの今シーズンっぽい差し色が使われている。そして、はしご刺繍をはじめとした家庭用リネンに使われるような温かい雰囲気の刺繍や、フラワーモチーフの透かし模様、格子細工のファーなど、イタリアの職人技の粋を集めたようなディテールが満載だ。いつにも増してイタリアらしいクラフツマンシップの素晴らしさが前面に出たコレクションは、こういう時代だからこそ求められるオーセンティックな世界観を象徴しているかのようだ。
(取材・文:田中美貴)
2021春夏ミラノコレクション
田中 美貴
大学卒業後、雑誌編集者として女性誌、男性ファッション誌等にたずさった後、イタリアへ。現在ミラノ在住。ファッションを中心に、カルチャー、旅、食、デザイン&インテリアなどの記事を有名紙誌、WEB媒体に寄稿。アパレルWEBでは、コレクション取材歴約15年の経験を活かし、メンズ、ウイメンズのミラノコレクションのハイライト記事やインタビュー等を担当。 TV、広告などの撮影コーディネーションや、イタリアにおける日本企業のイベントのオーガナイズやPR、企業カタログ作成やプレスリリースの翻訳なども行う。 副業はベリーダンサー、ベリーダンス講師。