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2020.09.29

【宮田理江のランウェイ解読 Vol.67】自然体の自分らしさ、郷愁帯びたロマンティック 2021年春夏ニューヨーク&ロンドンコレクション

左から:トム フォード、コーチ、バーバリー、アーデム

 

 楽観とノスタルジーが伴走し、ナチュラル感が寄り添った。2021年春夏シーズンに向けた、ニューヨーク・ファッションウィーク(2020年9月13日~16日)とロンドン・ファッションウィーク(2020年9月17日~22日)では、花柄や鮮やか色が装いを彩った。懐かしげでロマンティックなシルエットも登場。不安の時代にファッションパワーで立ち向かうかのように、過去に視線を送りながらも前向きなムードが打ち出された。リアルのランウェイショーは激減し、大半はオンライン配信のデジタル発表に切り替わったが、野外撮影やマスクコーディネートを織り込んで、ニューノーマル下の表現や手法を探る試みが相次いだ。

■NYコレクション

◆トム フォード(TOM FORD)

 セクシーでグラマラスな装いを得意とする「トム フォード」は、リラクシングで伸びやかな「ホームルック」へと、大胆に身をひるがえした。ジャージーライクな生地でボディにしんなり沿う、見るからに着心地よさげなルックを連発。カフタンやゆったり幅パンツも繰り出した。

 

 装いを華やがせたのは、アニマル柄やフローラルモチーフ、1970年代気分を呼び込んだグラフィック模様。モノトーンのほかに、パープルやブルー、ピンクなどのヴィヴィッドカラーを投入。つやめいた生地でカラーパンツ姿を彩った。シャツの胸元を広く開けて、ブラトップをのぞかせるスタイリングも披露。コンフォートとドレスアップを両立させた装いは、距離を保ったプールパーティーに似合いそう。モデルには非白人を多く起用。繰り返し登場した、笑顔を見せたルックは、「ファッションの力」を信じる楽観を醸し出していた。

◆アナ スイ(ANNA SUI)

 ニューノーマル下で一躍、おしゃれアイテムに出世したマスクを、巧みに取り入れたのは、アットホームな設定のプレゼンテーション動画で発表した「アナ スイ」。バケットハットとマスク、ロング丈スカートの3点セットを、おそろいの花柄でまとめ上げ、ハートウォーミングな着映えに仕上げた。花柄のほかにも、どこか懐かしげなモチーフやくすんだパステルトーンを多用している。

 

 「withコロナ」を意識しつつ、昔を懐かしむような、ノスタルジーを帯びた雰囲気を演出。自宅や近所で着やすいホームドレスをコレクションの柱に据えて、家ごもりでもおしゃれを忘れない暮らしぶりに誘った。ソックスとスポーツサンダルの足元がほっこり感をまとわせている。かぎ針編みや刺繍、パッチワークなどのディテールがヒューマンな絆の大切さを印象づけていた。

◆アリス アンド オリビア(alice + olivia)

 「アリス アンド オリビア」はマルチカラーや花柄で着姿を華やがせ、ポジティブ感を押し出した。アイキャッチーなエキゾチックモチーフで全身を色めかせ、マスクも同じ柄でトータルコーディネート。おしゃれの「邪魔者」になりがちなマスクまでも、楽観ルックに組み込んでみせた。高発色のグリーンやレッド、ピンクなどの色を採用し、エナジーをまとうようなムードを表現した。

 

 モデルキャスティングではダンサーを起用。アクロバティックなダンスの動きをコレクションと融け合わせている。ボディーラインになじむ、コンパクトな装いは、フレッシュでアクティブ。レインボー配色や黒×白ルックには、多様性や人種を巡るメッセージも匂わせる。ミニワンピースからデニムパンツまで多彩なバリエーションをそろえて、おしゃれの楽しさを印象づけた。

◆コーチ(COACH)

 自然体のムードを帯びたのは「コーチ」。公式NYファッションウィーク後に発表した。過剰に飾り立てることを避け、しなやかで伸びやかに整えている。モデルは各地の山野や公園、植物園など、主に屋外で撮影に臨み、解放的な気分をルックに宿らせた。パステルトーンやベージュ系の色味が気負わないエフォートレス感を寄り添わせている。ゆったりしたオーバーサイズやニットの風合いも、心をほどく。

 

 主役に位置づけたトレンチコートは軽やかなスタイリングに仕上げた。ソックスとスニーカーやサンダルの足元コンビネーションは穏やかな風情。ニューノーマルの暮らしにマッチした、程よく力の抜けた装いは、やさしげで朗らか。植物染料で染めたバッグはナチュラルなたたずまい。モデルの人選に年齢や地域の幅を持たせ、ダイバーシティーへの目配りを示した。

■ロンドンコレクション

◆バーバリー(BURBERRY)

 山や森、庭園など、緑に着想を得るデザイナーが相次ぐ中、「バーバリー」は海をテーマに選び、ロマンティックとクラシックが響き合うコレクションを発表した。ブルーをキーカラーに据えて、サメと人魚のイラストモチーフを迎えた。サマートレンチコートは軽快なシーズンレスの着映え。ブランドアイコンのトレンチには、両袖を裁ち落としたり、軽やかなドレスライクに仕立てたりと、多彩なアレンジを加えた。

 

 デニムを組み込み、レザーをあしらうなど、テーラードとストリートを交わらせる素材ミックスも試した。透ける生地やきらめくクリスタルパーツで、装いに軽やかさとリュクスを同居させている。パンツルックは細身で小気味よい。オレンジカラーやシャイニー素材もポジティブ気分に誘う。ケープをあしらって、伝統的な英国貴婦人のムードもまとわせていた。

◆アーデム(ERDEM)

 イギリスの原生林にランウェイを用意した「アーデム」は、ナチュラルな背景と、花柄を融け合わせた。全体に英国テイストを濃くし、エンパイアシルエットのワンピースを披露。自然体の貴婦人ルックを打ち出した。パフスリーブでワンピースの袖を膨らませ、優美な宮廷ムードを漂わせている。目を惹くネックスカーフを、首を覆い隠すように巻いて、顔周りに華やぎを添えた。

 

 フローラルモチーフは古風な植物柄を選んで、ノーブルな表情。カーディガンや細身パンツをレイヤードに組み込んで、フォーマルな装いから抜け感を引き出した。カーキ色のミリタリーウエアも差し込んで、ユーティリティー感を帯びさせている。英国服飾史を落とし込んだアレンジがタイムレスな新レディー像を生み出していた。

 

 

 手探りでのチャレンジとなったNY・ロンドンの両ファッションウィークだったが、参加したクリエイターたちはリラクシングな着心地やファンタジーを宿したデザインに希望を託した。あえてハッピーカラーや享楽的モチーフを取り入れて、「おしゃれの楽しさ」の再発見に導いた。ナチュラル感やアウトドア性が高まったのも、新シーズンの傾向だ。

 

 パーティーやイベントは減ったものの、ホームドレスや散歩向きコーデを用意して、ドレスアップしての「プチお出掛け」に誘った。ジェンダーレスやシーズンレスなどの継続トレンドを踏まえつつ、自分らしく着回しやすい装いを提案。時代が求める安心感や穏やかさ、人間味などを写し込むかのようだった。


 

 

宮田 理江(みやた・りえ)
ファッションジャーナリスト

 

複数のファッションブランドの販売員としてキャリアを積み、バイヤー、プレスを経験後、ファッションジャーナリストへ。新聞や雑誌、テレビ、ウェブなど、数々のメディアでコメント提供や記事執筆を手がける。

コレクションのリポート、トレンドの解説、スタイリングの提案、セレブリティ・有名人・ストリートの着こなし分析のほか、企業・商品ブランディング、広告、イベント出演、セミナーなどを幅広くこなす。著書にファッション指南本『おしゃれの近道』『もっとおしゃれの近道』(共に学研)がある。

 

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