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2020.07.20

【2021春夏ミラノハイライト1】デジタルファッションウィーク開催 フィジカルなショーも復活

フィジカルなショーを行った「ドルチェ&ガッバーナ」

 2020年7月14~17日、ロンドン・ファッションウィーク、パリ・オートクチュール、パリ・メンズに続き、ミラノ・デジタルファッションウィークが開催された。9月に開催されるウィメンズコレクションにメンズを統合するため今回は不参加という大手ブランドもいくつかある一方で、デジタルファッションウィークでウィメンズのプレコレクションを発表するブランドもあり、合計42ブランドが参加した。そのほか、新鋭ブランドに発表の機会を与えるページや、ショールーム機能を果たすページも開設し、デジタルという利点を最大に活かした配信がなされている。

 

 これまでの各都市のデジタルファッションウィーク同様、作品はカレンダーに沿って公開されるものの、その後もサイト上から再生して視聴が可能。アクセスも一般に広く開放し、日本の朝日新聞を始めとした他国のストリーミングパートナーからの配信も行う。

 

 そんな中、デジタルファッションウィークにおいてのミラノの唯一の他都市との違いは、「エトロ(ETRO)」と「ドルチェ&ガッバーナ(DOLCE&GABBANA)」が、ポストコロナ初の観客入りのランウェイショーを開催したこと。パンデミックからの復活に向けてのポジティブなメッセージとなった。

ドルチェ&ガッバーナ(DOLCE&GABBANA)

 「ドルチェ&ガッバーナ」は、コロナウイルス対策への研究支援等を続けているウマニタス大学のキャンパスで観客入りのランウェイショーを開催。これはチャリティーショーも兼ねており、クラウドファウンディングを通じて集められた寄付金はすべてその研究に提供される。また研究支援に賛同し、設営やケータリングなどすべての関連会社が、無償で今回のショーに関わったという。

 

 1960年代のデザインやイタリアの建築物、特にイタリア人建築家ジオ・ポンティがデザインしたソレントのホテル「パルコ デイ プリンチピ」からのインスピレーションで作られたコレクションは、ボリュームやコントラストが活かされた構築的なシェイプやバランス感が強調されている。デニム、ウール、コットン、ニットなどピースごとに異素材を使ったり、パッチワークやインサートを施したり、またはレイヤードで異なったシェイプを重ねたり・・・。さらにオーバーサイズのジャケットやコートからマイクロ丈のカーディガンまでボリューム感も様々。特にここ数シーズン、王道的テーラースタイル色が強かったドルチェ&ガッバーナだが、今回はひと味違ったアプローチだ。

 

 色使いはジオ・ポンティがこのホテルのために作ったブルーとホワイトのセラミックタイルからのイメージで、白と様々なニュアンスのブルーのトーンが基調。ジオメトリックに描いたDGのロゴや魚やタコなど海のモチーフを盛り込んだマヨリカ柄のプリントが夏らしい。「ソレントに帰れ」に始まり、「ヴォラーレ」に至るまで、オペラ歌手ユニット、イル・ヴォーロによる生BGMでイタリア感も満載。圧巻の全103ルックを発表し、リアルショーの素晴らしさを見せつけた。

エトロ(ETRO)

 「エトロ」は、2021 春夏メンズコレクションと2021ウィメンズリゾートコレクションの観客入りのランウェイショーをフォーシーズンズホテルにて開催。「エトロ」のシンボルである、ペイズリーやペガサス柄を多用、「エトロ」らしいアースカラーを中心とした優しいニュアンストーンで展開。

 

 メンズコレクションはウィメンズのリゾートコレクションと同調するようなリラックスした雰囲気。ストライプやマドラスチェック、花々や野生の動物を描いたプリントやパッチワークなどが多く登場し、アンコンスーツやジャケット、ニットのアンサンブル、クロップドパンツやバミューダなどが登場。首に巻いたバンダナやクロスボディポーチも旅への冒険心を感じさせる。

 

 一方、ウィメンズリゾートコレクションは、ペイズリーやフラワーモチーフのプリントがなされたエアリーなマキシドレス、オーバーボリュームなシャツの裾を結んだスタイリング、ホワイトのワイドパンツやバミューダなどフェミニンで上品なリゾートムードが漂う。そこにメンズライクなテーラードジャケットを羽織ったり、足元にはフラットシューズやブーツを合わせるなど、マスキュリンなテイストが同居する。

 

 先日、逝去したイタリア人作曲家、エンニオ・モリコーネへのオマージュであるサウンド・トラックの生演奏BGM、回廊と緑が美しいフォーシーズンズホテルの庭園、そして肩を組んで登場するキーン&ヴェロニカ兄妹から溢れる家族愛・・・そんなイタリアらしさもショーに花を添えていた。

グッチ(GICCI)

 現地時間8時〜20時という12時間のロングストリーミングを発表した「グッチ」。2月のファッションウィークでは、ファッションショーを“再現することのできない神聖な儀式”としてとらえ、その舞台裏を明らかにすることで視点を反転させて観客にクリエイションの解釈を委ねるというアプローチをとった。

 

 そして第二弾として5月には、シーンや撮影、脚本、プロデュースなどをモデルたち自身に任せ、決められた道から外れた状態で何が起きるかを探るような広告キャンペーンを展開した。今回のコレクションはこの実験的コレクション三部作の最終作として「エピローグ」と名付けられ、「グッチ」のアトリエスタッフ達がモデルとなってコレクションピースを纏い、通常はショーの資料として撮影されるリハーサルのルック写真を公開する形でコレクション発表が行われた。それと一緒にしばしば野菜の画像が挿入されるが、それは多分ダイバーシティーを強調するためと思われる(野菜は時々プリントなどのモチーフにもなっているが)。

 

 そんな様子を終日、各所に配置されたカメラを通じて、メイク風景からランウェイとなる(実際には歩かないが、そうであろうと考えられる)庭をとらえる映像、宮殿の館内各所の風景などが映し出され、製作の裏側が見られる仕組みとなっている。

 

 コレクションは、ロゴ使い、レトロテイストやボヘミアンテイスト、ジェンダーレス、フローラルモチーフなど、アレッサンドロ・ミケーレの「グッチ」らしいテイストの集大成という感じだ。さらに、これまでもスヌーピーやミッキーなどもはや定番となってきたキャラクター使いに、今回はドラえもんが登場しているのにも注目だ。モデルではない人達、そして色々なタイプの人が着ることによって、「グッチ」らしいバリエーションがさらに強調されている。

 

 こういう現場に慣れている我々にとっては当たり前の風景だが、一般に広くこれが公開されるということを考えると、これは衝撃的な「ネタバレ」なのかもしれない。そしてこの発表が今のファッションの世界が守り続けているルール、役割、そして機能への疑問を提示し、新たな直感を生み出し、それが未来へと向かうための出発点となるというアレッサンドロ・ミケーレの新たな挑戦を意味しているのだろう。

プラダ(PRADA)

 プラダ(PRADA)は“THE SHOW THAT NEVER HAPPENED(決して起こらなかったショー)”と題し、ウィリー・ヴァンデルペール、ユルゲン・テラー、ジョアンナ・ピオトロヴスカ、マルティーヌ・シムズ、テレンス・ナンスの5人のアーティストによる5つのチャプターでコレクションを発表。

 

 無機質なモノクロの空間で見せるスーツスタイル、機械室の様子を背景に機械音と共に映し出すワークスタイル、パフォーマンスで見せるデイリースタイル、シアターを舞台にしたレトロなエレガンススタイル、プラダ財団の庭で繰り広げられるスポーツスタイル、そしてランウェイ風にモデル達がウォーキングして大団円を迎える。

 

 最後には、ランウェイショーの時と同様に、ミウッチャ・プラダが少しだけ顔を出して会釈し、ビデオは終了する。コレクションは全体的に、シルエットは細く、素材は軽く、ピースはほとんど装飾のないシンプル&ミニマルだ。わずかにフラワーモチーフがあったものの無地がメイン。リサイクルナイロンやリネア・ロッサ(プラダスポーツ)の革新的なスポーツウェア素材が多用され、混乱の時代だからこそ、ファッションにシンプルで実質的なモノを求める「プラダ」の方向性を感じさせる。

エルメネジルド・ゼニア(ERMENEGILDO ZEGNA)

 今年110周年目を迎えるエルメネジルド・ゼニア(ERMENEGILDO ZEGNA)。1910年に生地メーカーとして創業した同社は、現在ではサステナビリティーを念頭に置いた最先端の生地開発力を武器に、トータルラグジュアリーブランドのトップの一社として君臨している。今回の「フィジタルショー」では、テーマを“NATURE | MAN | MACHINE”とし、歴史と未来感、自然とテクノロジーといった対照的なものを包含する同社の現在を強調するかのように、オアジゼニア(ゼニアが管理する自然公園)から、本社工場で稼働する機械の間ややストックルームの通路をモデル達が通り抜けていくランウェイを作った。

 

 コレクションには全体的にリラックス感が漂い、ウール、ヘンプ、原繊維、リネン、ペーパーシルク、ナッパなど軽めの素材を用いた流れるようなボリュームで展開。ジャケットはややオーバーボリュームで、肩を落としたり、襟を下げたり、レイヤードフォームやボリュームの拡がりを可能にする特大のポケットやジッパーも特徴的だ。それにワイドパンツやバミューダを合わせるという、着やすくリラックスしたコーディネート。それをニュアンスのあるベージュやからし色、アイスグレーやペールトーンなど自然を感じさせる色揃えで表現する。

 

 最後は本社屋上でモデルが勢揃いするというお馴染みの壮大なフィナーレで、リアルショーに引けを取らないほどの迫力をデジタルで展開した。

エムエスジーエム(MSGM)

 先シーズンはメンズ、ウィメンズとも、ホラー映画監督のダリオ・アルジェントとのコラボで、ダークめな路線に寄っていた「エムエスジーエム」だが、今回は「Non so dove, ma insieme(どこかはわからないけど、一緒に)」というタイトルの、明るい往年の青春ドラマ風ムービーを発表。とはいえ、同性カップルや人種の違うカップルなどもさりげなく差し込まれてダイバーシティーも意識されているのが現代っぽい。

 

 コレクションはシャツ、Tシャツ、パーカ、バミューダなどカジュアルなアイテム達が、「エムエスジーエム」らしいロゴや、カラフルな色使いとプリント、特に同ブランドが好んで使うタイダイ柄を使って作られていて、誰もがデイリーユースに着こなせそうなアイテムが多い。スタイリングもTシャツの上にシャツを羽織ったり、パーカからTシャツをチラ見せするレイヤードなどストリート感覚満載だ。ビデオの後半にはモデルとして登場した若者たちが幸せ、人生、愛などについて語ったメッセージも挟まれていて、明るい希望を与えてくれる。

 

ディースクエアード(DSQUARED2)

 2021プレスプリングコレクションを、撮影セットのバックステージ風な映像で発表した「ディースクエアード」。デザイナーのディーン&ダン・ケイティンがプレゼンテーターとなり、前半はモノクロでタキシードやスリムスーツや背中の大きく開いたセンシュアルなドレスが登場。後半は、夏やトラベルをテーマにしたスポーツウェアを展開する。インパクトのあるブランドロゴやモチーフが入ったパーカやTシャツ、パッチワークデニムやワークパンツなど、デイリーユースなアイテムが揃い、D2風タイムレス&エフォートレスという感じだろうか。

 これまでもランウェイショーの導入などで、インパクトのある映像をしばしば入れ込んでいた彼らにとってはこの手のショートムービーはお手のもの。ディーン&ダンのエンターテイナーぶりも相変わらずの切れの良さだ。

ヴェルサーチェ(VERSACE)

 AJトレーシーがキャンペーン撮影現場を訪れ、自分自身もコレクションピースを身に纏い、モデルと共に新トラックのお披露目ライブを展開するというストーリーで、2021春夏フラッシュコレクションを発表した「ヴェルサーチェ」。AJトレーシーが着るのは、「ヴェルサーチェ」らしいスカーフプリントのシャツ+バミューダと、パフォーマンスの際のパイソンモチーフのセットアップ。

 

 キャンペーン撮影風に登場するのは、パワーショルダーのマイクロミニドレスやジャケット、アニマルプリントのスキニーまたはワイドパンツのウィメンズモデル。メンズモデルはメドゥーサプリントのシャツ+バミューダ、胸元が丸く開いたトップ+クロップトパンツといった、かなりエッジの効いたピースが多い。ゆるぎない「ヴェルサーチェ」の独特なパワフルさとエネルギー・・・世界中が落ち込んでいる今の時代にはこれが必要なのかもしれない。

モスキーノ(MOSCHINO)

 カラフルながら装飾の少ないシンプルなセットで、しっかりとそれぞれのルックを見せた「モスキーノ」の2021プレスプリングメンズコレクションプレゼンテーションビデオ。パーカ、トラックパンツ、トレーナーやニットなどスポーティアイテムを中心に、比較的オーセンティックなジャケットやブルゾンなどが加わる。が、それらのアイテムすべてに、色々なタイプのブランドロゴや、落書きのようなUFOのイラスト、ドットやオプティカル柄、そして原色やパステルカラーなどのポップな色使いが施されていて、とにかく遊び心満載だ。コレクションにパンチがあるだけに、複雑なストーリーや舞台セットを作らなかったのは正解と言えそうだ。

トッズ(TOD’S)

 「トッズ」は“インサイド・トッズ・ストゥディオ”というタイトルで、原点となるコンセプトからクラフツマンシップを生かして実際の製品が作り出される最終工程までをドキュメンタリーで見せる映像を発表した。

 

 その語り部的な役目として、登場するのがクリエイティブ・ディレクター、ヴァルター・キアッポーニ。彼のインスピレーション、ブランドやモノ作りへの思いなどの言葉と共に、「トッズ」の世界観と2021プレスプリングコレクションが紹介される。人生を謳歌し、家族や友人との時間も大切にするライフスタイル、人生に対してより貪欲であった70年代が着想源だそうで、メンズコレクションにはちょっと軽さを、ウィメンズコレクションにはちょっとマニッシュさが加わり、タイムレスなエレガンスの中にアイロニックな遊びがある。

 

デザイナー本人からコレクションについてのコメントが聞けたり、作業風景が見られるのはデジタルファッションウィークならではの醍醐味。ミラノはこのパターンが意外に少なかっただけに、「トッズ」の映像は印象的だった。

サルヴァトーレ フェラガモ(SALVATORE FERRAGAMO)

 「Shaping a Dream」というプレゼンテーションビデオで、フェラガモの成功までの輝かしい軌跡から近々のコレクション、そして2021のメンズ・ウィメンズプレコレクションを発表した「サルヴァトーレ フェラガモ」。フィレンツェの街やフェラガモ本社のあるスピーニ・フェローニ宮殿などの美しい映像がふんだんに、さらに職人技やコレクションの制作風景までちらりと差し込まれ、かなり盛りだくさんな内容となっている。

 

 そのほか、まさに“ORIGINI(起源)”というそのタイトル通り、地元、マルケ州の美しい自然をふんだんに活かしつつ、同社のアイコン的アイテム、モンクストラップ、タッセルローファー、レザースニーカーなどを美しく映像で見せた「サントーニ(SANTONI)」、本社工場をメインロケーションに生地作りからスーツの完成までを、職人技の極みをふんだんに見せる映像を発表した「キートン(KITON)」など、イタリアならではの美しいロケーションを前面に押し出した作品も多かった。

 

またウィメンズのプレコレクションのみ発表したブランドも。“Everyone is a landscape”というテーマで、デザイナーのカロリーナ・カスティリオーニがロックダウン中に過ごしていたという美しい自然をセットに撮ったショートムービーを発表した「プランC(PLAN C)」、ミラノ、ローマ、ナポリなどのイタリアの名所をモデルが歩いているようにモンタージュした映像で2021リゾートコレクションを発表した「アルベルタ フェレッティ(Alberta Ferretti)」、トスカーナの美しい庭園をロケーションとした映像で2021プレコレクションを発表した「エルマンノ シェルヴィーノ(ERMANNO SCERVINO)」など。

 

 そして「チルドレン オブ ザ ディスコーダンス(CHILDREN OF THE DISCORDANCE)」、「ジエダ(JIEDA)」といった日本ブランド達がミラノ・コレクションに初参加したことも特筆したい。前者はスケートボードで夜の東京をモデル達が走り回る映像、後者は昭和のチンピラ映画風?のショートムービーを発表したが、いずれも日本で撮影した映像は、“美しきイタリアの風景にはお腹いっぱい”な中で、逆に新鮮でインパクトがあった。

 

■「ミラノ ファッションウィーク デジタル」公式サイト

https://milanofashionweek.cameramoda.it

 

取材・文:田中美貴

田中 美貴

 

大学卒業後、雑誌編集者として女性誌、男性ファッション誌等にたずさった後、イタリアへ。現在ミラノ在住。ファッションを中心に、カルチャー、旅、食、デザイン&インテリアなどの記事を有名紙誌、WEB媒体に寄稿。アパレルWEBでは、コレクション取材歴約15年の経験を活かし、メンズ、ウイメンズのミラノコレクションのハイライト記事やインタビュー等を担当。 TV、広告などの撮影コーディネーションや、イタリアにおける日本企業のイベントのオーガナイズやPR、企業カタログ作成やプレスリリースの翻訳なども行う。 副業はベリーダンサー、ベリーダンス講師。

 

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