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2020.07.16

少しずつ経済再開を迎えたニューヨークのリテールの今

 先日ファッションリテールが沢山並ぶ、マンハッタンのアッパーイーストからミッドタウンにかけて、運動をかねて歩きました。こんなに沢山の距離を歩くのは約4ヶ月ぶりです。できるだけ早い時間に歩き始めたものの、冬場とは異なり、気温の高い中でマスクを着用し歩くのは思いの外大変で、立ち止まり水分補給を繰り返しながら目的地へと向かいました。地域の今の雰囲気を伝えるのは実はとても難しく、訪れている日時やエリアによっても異なりますので、今回の内容は私が当日に目にした雰囲気や感想が中心となりますことを予めご了承いただいたうえで、ご紹介したいと思います。

150周年を迎えるメトロポリタン美術館

メトロポリタン美術館

 アッパーイーストからミッドタウンへ向けて私が歩いたのは平日の朝から午前中にかけて。すれ違う人は、目的地へ向かっている人、散歩している人、ベンチで飲み物を飲みながら本を読んでいる人など様々。通常ならばメトロポリタン美術館では毎年、5月の第一月曜日にファッションの祭典「Met Gala(メットガラ)」が開催されます。私にとって、春の訪れを感じさせるファッション業界の行事の一つで、今年この場所で開催されなかったことは本当に残念でした。そしてこの日静まりかえった美術館前を通った時に感じたどことない寂しさは忘れることはないでしょう。

 

 一方、今年、メトロポリタン美術館は誕生から150周年という大きな節目を今春迎え、1870年から2020年までにわたる美術館の歴史を伝えるエキシビション「Making The Met, 1870 – 2020」の開催が8月29日に美術館のリオープンに合わせて開催される模様です。

少しずつ外食を楽しむ人も

 現在、経済活動再開フェーズ2にあるニューヨークでは、レストランやカフェなど、店先に一定距離を保ちながらテーブルを設置しての営業が可能となった為、フィフス・アヴェニューやマディソン・アヴェニューを歩いていると、優雅に朝からレストランの店先のテーブルで朝食を楽しんでいる年配層の人も見かけました。きっと馴染みの店なのでしょうか、リラックスして食事されていました。同じ情景はマディソンアヴェニューにある「Ralph Lauren(ラルフローレン)」でも見られました。今、マディソンアヴェニューのフラッグシップストアには、コーヒーショップの「Ralph’s Coffee(ラルフスコーヒー)」があります。店外に用意されたテーブル数は限られていますが、朝のコーヒーを楽しまれている方を見かけました。

ウェルカムバックの歓迎の言葉で再スタート

百貨店の「Saks Fifth Avenue(サックス・フィフス・アヴェニュー)」

 ミッドタウンの五番街にある百貨店、「Saks Fifth Avenue(サックス・フィフス・アヴェニュー)」は本来ならば10時開店ですが、私が気になって見に行ったリテールはほとんど11時から営業開始。サックス・フィフス・アヴェニューも11時からだった為、早く到着してしまった私はウィンドウのみ確認してきました。「WELCOME BACK.  WE MISS YOU. 」の言葉には、とても複雑な気持ちにさせられました。と言うのも、お店という場所は店舗ならではのサービスや空間を体験する場所だと思うので、今まで普通に体験していたサービスが完全な状態で出来ないのであれば、ニュー・ノーマルの状況下においては、「完全なる体験やサービスとはどんな形なのだろう?」と考えてしまいます。「お店に立ち寄る、服を何となく見て回る、気に入った服は試着もする。」今の状況の中で私にはこの図式が見えてこないのです。

 

「Balmain(バルマン)」と「A BATHING APE(アベイシングエイプ)」の出店が予定されている

 サックス・フィフス・アヴェニューの近くには、閉店した時期こそ異なりますが、「POLO RALPH LAUREN(ポロラルフローレン)」、「Henri Bendel(ヘンリベンデル)」、「Gap(ギャップ)」の3つの大型店がありました。しかし今もなお全ての跡地は空き物件のままです。観光シーズンのニューヨークでは、沢山の人がミッドタウンを訪れショッピングや観光を楽しんでいます。それを思い返すと、午前中にもかかわらず、日曜日の早朝のような静けさ。五番街のアップルストアのみ、事前予約し来店したと見られる人々が店外に列を作っていました。出来る限り自粛する生活が続く中でも、工事は行われています。59丁目とマディソン・アヴェニューの辺りはこの数年でラグジュアリーブランドのお店が入れ替わりでオープンしています。角には「Celine(セリーヌ)」と「Balenciaga(バレンシアガ)」、そして直近では、「Balmain(バルマン)」と「A BATHING APE(アベイシングエイプ)」の出店が予定されています。バレンシアガへ行ってみましたが、現在店内の入場人数を24名まで制限していると入り口に書かれていました。入店の際、体温計測は必要ではありませんが、マスク着用を促し、体調の優れない人の来店はお断りしているようです。

ブルーミングデールズも営業を再開

百貨店の「Bloomingdale’s(ブルーミングデールズ)」

 百貨店の「Bloomingdale’s(ブルーミングデールズ)」では入り口、店内のあちらこちらに安全対策のサインや除菌液が用意されています。レジ前にはシールドを設置しています。暑さで歩き疲れてしまったため、一階のコスメ売り場、そして二階のコンテンポラリー売り場のみ、少し見て回りましたが、来店人数は思った以上に多かった印象を受けました。さらに接客を受け、ちょうど試着を始めようとしている人も見かけました。因みに“思った以上”というのは、私含む4、5人程度しか居ないだろうと思っていたのが、入店したところで手を除菌していた時も何人かの来店客と行き交いましたし、フロアでも数えられるほどですが、見かけました。主に40-60代と見られる年齢層の方々です。

 

 サックス・フィフス・アヴェニュー同様に、ストアウィンドウは再びお客様を迎えるメッセージのVMDが設けられていました。店内のいたるところに安全対策のサインも設置されていました。人によっては設置しすぎではないかと思うかもしれませんが、私たちは今、新たなライフスタイルのルールに慣れていかなければならない局面に直面している段階だと思いますので、これでもか!という位がちょうど良いと私は思っています。というのも、入り口で手を除菌していた際、後から入ってきた来店客や退店する顧客の一部は、目の前の除菌液をそのまま通り過ぎる人もいたからです。ニューヨークに限らず、どの国や地域でも、これから段階を踏み、(元の生活ではなく)新たな生活へと前進し、あるいは後進することになるかと思います。ニューヨーク州では7月6日よりフェーズ3に入りました。飲食サービス、ホテルが経済社会活動の再開の対象となります。残念ながら現時点ではレストランの店内での飲食は見送りとなっています。ビジネスの再開は誰もが望むことですが、先ずは互いの安全を守ることの意識を高めることが大切です。多少時間がかかったとしても、協力をし合うことで再び世界中のビジネスに活気が戻ってくることを望みます。


 

 

R I N A

90年代の米国がネットバブルだった頃に米国にて日本向けのファッションポータル事業にコンサルタントとして関わる。

 

以降、「ファッション」と「インターネット」上で行われるビジネスを中心とした事業に15年ほど携わり、Web製作やディレクション、ビジネスのコンサルタントを行う。現在は米国のファッション事情やトレンド、ファッションとIT関連を中心とした執筆、今までの経験と知識を活かしビジネスサポートも行っている。

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