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2020.07.15
【2021春夏パリメンズ ハイライト】デジタルだからこそできるクリエーションを追求
より高いステージを目指してコレクションを発表するのが新進や気鋭のデザイナーたちのパリコレ参加の目的だ。それは日本人デザイナーの多くも同じ。そこで、コロナ禍でのデジタルファッションウィークを逆手にとり、これまでできなかった表現を採り入れることが多かった。
日本人デザイナーの服は前衛もしくはリアリティが強みだ。前衛性を拡張しアーティスティックなムービーにしたり、生活に映える服であることを表現するためショー会場では表現できない日常や街の様子をロケで収めたり、日本の伝統やライフスタイルを表現したりすることで、それぞれの持ち味をデフォルメするケースが目立った。
ヨウジ ヤマモト(YOHJI YAMAMOTO)
「ヨウジ ヤマモト」は、無観客ショーのムービーを発表。ランウェイショーの進行を映像に収めるだけでなく、各ピースの画像や素材説明のキャプションを差し込んだ。ランウェイだから表現できるシルエットや世界観表現、ショールームだからこそできる商品特性の伝達を兼ね備えた取り組みだ。
映像に映し出されたランウェイは、有機的なグラッフィックがあしらわれたダークな世界観に満ちている。ダークカラーをメインとしたデコントラクトなルックの中で目をひくのは素材の加工感。絞りやムラのような加工がアイテムを立体的に見せていた。また、日本語で書かれたメッセージや和風のグラフィックも特徴的だ。そしてモデルには同ブランドとゆかりのある俳優東出昌大が登場し、SNSでも話題となった。
「オム プリッセ イッセイ ミヤケ(HOMME PLISSE ISSEY MIYAKE)」
「オム プリッセ イッセイ ミヤケ」は、映像ながらもヴィヴィッドなカラーと圧倒的なパフォーマンスで見る者に元気を与えるコレクションを見せた。
3人の男性がそれぞれダンスをしているうちに次々にルックが切り替わる。通気性に優れた厚手のメッシュ地にプリーツ加工を施したスポーティなコレクションを象徴。デニム生地をブリーチすることで爽やかな印象を生み出したアウター、ペインティングナイフで描かれた印象的なストライプ柄など豊かな色彩と快活なパフォーマンスを組み合わせ、映像の特製を最大限いかしてブランドらしさを表現していた。
メゾン ミハラヤスヒロ(Maison MIHARA YASUHIRO)
メゾン ミハラヤスヒロ(Maison MIHARA YASUHIRO )は、パペットとパリの写真を用いてパリでのランウェイ開催を表現するというユニークな動画を制作。
コレクションは解体と再構築を繰り返し、ボトムスにTシャツのパーツが使われていたり、シャツやニットの袖がいくつも後ろ身頃に使用されていたりと、ブランドらしいアイテムの垣根を超えた自由な表現を繰り広げた。新たに登場したのは“吹きつけシリーズ”。京都の老舗加工場で特殊なハンド吹きつけ技術を用いて、まるで染めたような風合いのままスプレー吹きつけを施したものだという。職人技を感じる独特の風合いが強い印象を残した。
ダブレット(doublet)
「ダブレット」は、デザイナーの井野将之がベアーに扮して世界中の人々に服を届けて幸せをもたらし、最後には自分も幸せを知るという心温まるストーリーのムービーでオンラインプレゼンテーションを行った。
出演者がムービー内で着用しているのが2021春夏コレクション。どこかノスタルジックな雰囲気を感じさせるのは、淡いカラーパレットと、子供が好きなものをたくさんモチーフとして取り入れてるからだろう。テディベアやお菓子、誕生日ケーキに書かれた文字のようなロゴ。“Unbirthday For You”というメッセージが、なんでもない日常を大切にしようという、こんな時代だからこそ伝えたいデザイナー気持ちを表しているように感じられた。
ファセッタズム(FACETASM)
「More Memories.」をテーマにした「ファセッタズム」の2021春夏コレクションは、楽しい記憶へと導きたいというデザイナー落合宏理の想いを体現した。
たくさんの変化や挑戦に溢れた2020年だが、コレクションはトラックスーツやハーフパンツなどのカジュアルなアイテムとオーガンジーなどの軽い素材使いでリラックスムードを盛り立てた。そして今シーズンのキーとなるのはプリーツだろう。16世紀のヨーロッパ王侯貴族を彷彿させるような襞襟が印象的。ファセッタズムらしいストリートスタイルの中に相反する要素を取り込むことによってユーモアな表現になっていた。
カラー(Kolor)
「カラー」は、縦に360度回転するアングルでモデルを収めたムービーでコレクションを発表した。今回のコレクションは、「10年前の2011秋冬コレクションの世界観を今表現したらどうなるか」を追求したものだという。
どこか土臭さや懐かしさを残しつつも、今の空気にアップデートしたものになっている。同ブランドらしい、ドッキングやレイヤード手法を多用しながら、キッズアイテムを組み込んで絶妙なバランスを生み出しているのが特徴。ステンカラーやカーディガン、スクールボーイ風のストライプ柄、ローファーなどのトラッド要素をミックスしている点も今季らしい。
ヨシオ クボ(yoshiokubo)
「ヨシオ クボ」は、無観客ショーを収めたムービーを発表。侍とミリタリー、テーラーリングを融合した先シーズンに続き、日本の伝統をインスピレーション源とした。
能の舞台に登場したルックは、和服に通じるデコントラクトなもの。笠やアシンメトリーなノーカラージャケット、ドレープを描くパンツなど着想源である忍者を思わせるものが多い。カラーも役者絵で採用される日本の伝統色をアクセントカラーとして使用。日本の襖や掛け軸に使われるような絵柄も象徴的だ。
ホワイトマウンテニアリング(White Mountaineering)
「ホワイトマウンテニアリング」は、“Functional Repose Form”をテーマにブランドのアイデンティティを踏襲しつつサイズをリラックスシルエットに作り替え、アウトドアやスポーツウェアのルーツを用いたアーバンスタイルを提案した。シンプルなスタイリングの中で幾何学模様のような印象的なチェックパターンがアクセントになっている。
また、2009年にスタートした「BLK ライン」を今シーズン10年ぶりに再開。現代のアウトドアウェアで使われるステッチレス縫製、細幅シームテープなど先端技術を用いたアイテムで、黒のみでスタイリングを完成させるという「ブラックレイヤーノウレッジ(BLK)」としてファッションの可能性を提案していく。
アンダーカバー(UNDERCOVER)
「アンダーカバー」は3Dのルック画像を形式でコレクションを発表した。モデルを回転させたり動かせたりすることにより、ルック全体を360 度にわたって細部まで見ることができるようにしたという。
コレクションはテーラリングジャケットやスーツ、カーディガン、オープンシャツ、ワークジャケットなどをキーアイテムとしながら、カラーやグラフィックなどにレトロな要素を感じさせるものに仕上がっている。
高橋盾デザイナーは、今回のパンデミックにより自宅で行ったデザイン活動についてポジティブに受け止めたという。「初めて自宅でデザインした今回のコレクションですが、あやふやな頭のまま今まで通りの思考で作業を進めていたため、自分の中の変化とは全く別のものに仕上がりました。大きな変化の過程故、それはそれで良いのでは?と自分なりのデザインを進めた結果です」と語っている。
文:山中健、アパレルウェブ編集部