PICK UP

2020.07.15

【2021春夏パリメンズ ハイライト】ファッションウィークのDX化を実現 メンズトレンドはテーラリング、細身、アートコラボ、デコントラクトが継続

(写真左から)エルメス、ディオール、ベルルッティ

 2020年7月9日から3日、ロンドン・ファッションウィーク、パリクチュールに続いてデジタル形式でパリ・ファッションウィーク・メンズが開催された。例年メンズファッションウィークの大取りを飾っていたパリだが、今年は異例でミラノより早いスケジュール。ビッグメゾンから新進気鋭のブランドまで、70近いブランドが2021春夏コレクションをオンラインで発表した。

 

 ロックダウン中に制作活動が行えなかったロンドン・ファッションウィークではコレクションピースの発表よりもデザイナーのメッセージ発信の場と化していたが、パリ・ファッションウィーク・メンズでは、新進気鋭ブランドを中心に新作コレクションをオンラインで発表するケースが多く、ファッションウィークというプラットフォームの役割を果たした。ただ、ビッグメゾンは9月のウィメンズウィークで本格発表をするため、ティザームービーの公開やカプセルコレクションの発表にとどめているケースも見られた。

エルメス(HERMÈS)

 同ファッションウィークに先駆けて7月5日にライブパフォーマンスを行った「エルメス」。アーティストのシリル・テストとのコラボレーションによるライブ映像でコレクションを発表した。

 

 バックステージの風景をドキュメンタリー映画のように収めた映像の中で披露したコレクションは、シンプルさを極めたもの。無駄な装飾は一切なく、柄も細いストライプや淡い切り替えなどが中心。ブルーグラデーションやアースカラーなどの詩情豊かなカラーパレットのテーラードジャケット、スウィングトップ、シングルライダース、ヘンリーネックシャツ、ドローコードパンツなどが登場した。

 

 ブラウジング、ロールアップなどでどのルックもリラックスムードが漂い、アーティスティック・ディレクターのヴェロニク・ニシャニアンが提案する「シンプリシティ、ノンシャラン、軽やかさ」そのもの。歩くたびに風をふくんで膨らみをフリュイド要素、画面越しでも伝わる素材の上質さ、そしてネオンカラーやグラフィックなどによる遊び心などが印象に残るコレクションであった。

ディオール(DIOR)

 「ディオール」は、ガーナ生まれでウィーンを拠点に活動するアーティストであるアモアコ・ボアフォとのコラボレーションコレクションを2部構成のムービーで発表した。

 

 第1部は、ビデオアーティストのクリス・カニンガムが編集とサウンドトラックを手がけ、ロンドン、そしてガーナにあるボアフォのアトリエで撮影したもの。クリエーションの経緯や思いを語るボアフォと、フィンガーペイントを用いて仕上げた肖像画のメイキング映像をシンクロしながら、同コレクションのストーリーを伝えている。

 

 第2部はジャッキー・ニッカーソンが監督したルックのイメージ映像だ。テーラージャケット、細身のロングジャケット、カマーバンドなど、「ディオール」らしいメンズエレガンスと、スポーツアイテムをミックスしたルックがメイン。フローラルモチーフやウィメンズウェア由来のテキスタイルやニット、ベリーショートパンツなどもミックスし、女性性をミックスして独自の男性像を描いた。中でも目を引くのはボアフォの描いた肖像画を大きくあしらったアイテムの数々。黒人のマスキュリニティへの認識を探るボアフォの作品がオートクチュールの技法に乗せて新たなメッセージを放った。

ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)

 「ルイ・ヴィトン」は、「Message in a Bottle (瓶詰の手紙)」と題する2021春夏メンズコレクションのプロジェクトのプロローグともなるムービーを公開した。

 

 同プロジェクトは、海を漂う瓶詰めの手紙のように、パリから上海へと航海するという国際的な取り組み。ムービーは、パリ郊外アニエールにあるルイ・ヴィトン家の邸宅から始まる。運送業者が輸送用コンテナを梱包して荷船に積み込み、セーヌ川を下ってパリを越えて航海する様子を描いている。「ズームと仲間たち(Zoooom with friends)」と呼ばれるカラフルなアニメーションキャラクターたちが身を隠しながら航海する物語の始まりだ。

 

 今回を皮切りに2020年末までのいくつかのチャプターに分けて段階的にコレクションを発表。2020年8月6日には上海でショーを開催。「ズームと仲間たち」も現実世界でモデルとして登場するという。パンデミックにより分断された世界の暗い世相に灯をともす取り組みとなりそうだ。

ロエベ(LOEWE)

 「ロエベ」は映像だけでは留まらない仕掛けで2021春夏コレクションを発表した。公式スケジュールの12日に先駆けて「Show in a box」と名付けたボックスを発表。これは、コレクション制作のプロセスをひも解くためのセットで、デジタル配信だけでなく、「体験」を「感触」と共に楽しんでもらいたいというクリエイティブ・ディレクター、ジョナサン・アンダーソンの想いから生まれた。一部のペーパートイなどは公式ホームページから型紙をダウンロードできるようになっている。

 

 映像では、ジョナサン自らがコレクションについて語るというプレゼンテーションスタイル。彫刻のようなアプローチで挑んだという今シーズンは、構築的なボリュームがポイントとなっている。伝統的なトレンチコートは袖からヨークがパラシュートのように膨らみを帯びている。バスケットをインスピレーションにしたというベストは立体的なアートピースを纏っているような唯一無二の存在感を示していた。また、絞りを使った染色を用いるなど、コレクションを通じて伝統的なクラフツマンシップに敬意を表した。

ベルルッティ(BERLUTI)

 パリメンズ初日のフィナーレを飾った「ベルルッティ」。2021春夏シーズンは、先シーズンもコラボレーションしたアメリカ人陶芸家のブライアン・ロシュフォールとタッグを組んだ。

 

 コレクションは、コラボレーションの舞台裏を撮影した動画を発表。クリスがパリのアトリエで、ブライアンがロサンゼルスのスタジオでそれぞれのアートワークを創り上げる基調な映像が見られる。特徴的なブライアンのセラミック・アートを、プリントやニットのパターンとしてファッションに取り入れるクリス。色鮮やかで若々しいコレクションを紡ぎ上げた。

JWアンダーソン(JW Anderson)

 「JWアンダーソン」はショーを開催できない今だからこそのプレゼンテーションを行った。コレクション発表に先立って世界各国のエディターやインフルエンサーに“Show in a Box”と呼ばれる、コレクションで使った生地の見本やルックのイメージなどが入った箱を送り、コレクションを”体験してもらう“ことを実現。

 

 コレクションは、ブランドらしいデフォルメされたディテールを見せながら、伝統的なトレンチをカラートーンの違うパッチワーク表現したり、大胆なアートをアイテムで表現したりと、ブランドのDNAを強く感じさせるものとなった。

「リック・オウエンス(Rick Owens)」

 「リック・オウエンス」はルックブックのシューティング風景を収めたムービーでコレクションを発表した。今シーズン披露したのはランウェイで見せてきたコンセプチャルなルックではなく、街で着用できるルックの数々。

 

 特に目をひくのがテーラリングを多用している点だ。大きく尖ったショルダー、白のステッチやラインづかいなどにリックらしい前衛性を見ることができる。アバンギャルドなデザインが効いたコレクションであるが、靴やレインコートに再生プラスチックを使用するなどサステナブルな制作姿勢も示している。

「ブルー マーブル(BLUE MARBLE)」

 デザイナー アンソニー・アルバレジが2018年にパリで設立した「ブルー マーブル」。世界各地のユースカルチャーやサブカルチャーをインスピレーションに、ストリートをベースとした多様な表現を繰り広げている。

 

  パリの街中や郊外の自然の中を歩くストリートランウエイの様子を映像で配信。デザイナー自身の夏の思い出を詰め込んだというコレクションは、夏の太陽を感じさせるオレンジやイエローをキーカラーに、タイダイでヒッピーを表現。こんな時代だからこそ、あえてリラックスしたムードにしたという。

「ウォルター ヴァン ベイレンドンク(WALTER VAN BEIRENDONCK)」

 “MR MIRRORMAN”と題された今シーズン。ウォルターのクリエイティビティは、映像でも溢れるほどに伝わってきた。妙にリアルなフィギュアのようなマネキンがコレクションを纏う。鏡を多数はめ込んだビッグシルエットのアウターやニットは、タイトルの通り今シーズンのシグネチャーアイテム。稲妻型でハウンドトゥースを表現したようなパターンや、独特なタイダイ、全身レオパードなど、ウォルターらしい遊び心も至る所で見せつけた。

「キコ コスタディノフ(KIKO KOSTADINOV)」

 ロンドンを拠点に活動する新進気鋭のブルガリア人デザイナー「キコ コスタディノフ」。機能性の高いデザインでありながら、アーティスティックでディテールにもこだわったコレクションは世界のバイヤーやエディターからも支持が厚い。2018年にはアシックスとコラボレーションするなど注目を集めた。

 今シーズンは、18世紀ロココ時代の衣装にインスピレーションを受けた。レースやボタン、カフスなどのディテールにこだわったロマンティックなコレクションだが、アノラックをマントのようなシルエットにしたり、ブルゾンをロングコートのように仕立てたりと、スポーティな要素で機能性の高さも見せつけた。

「ボッター(BOTTER)」

 ルシェミー・ボッター(Rushemy Botter)とリジー・ヘレブラー(Lisi Herrebrugh)のデザイナーデュオが展開する「ボッター」。2018年「ニナ リッチ(NINA RICCI)」のアーティスティック・ディレクターに就任し、彼らのオリジナルブランドである「ボッター」も注目を集めている。

 

 これまでも環境問題への問題提起をショーで表現したり、メッセージ性の強いコレクションを創り上げてきた同ブランド。今シーズンは“Black Lives Matter”で世界的な問題となっているレイシズムへの強いステイトメントを映像の冒頭で発表した。ルックにはすべて黒人モデルを起用。コレクションは、鮮やかな花柄のプリントを施した透け感のあるシャツや真っ白なセットアップ等、麻やコットンなどのナチュラルな素材感が伝わってくるアイテムを発表した。

メールマガジン登録