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2020.05.15

米国の「巣ごもり消費」の中で注目される「コネクテッドフィットネス」とは

 ニューヨークでの自粛生活がスタートしてからかれこれ数ヶ月が経とうとしています。冬の終わりを感じないまま迎えた春の訪れを、窓から眺める新緑が教えてくれました。スーパーの買い出しから戻ってきたマスクをする人の姿を見て、今日は暖かいのかな、なんて想像する日々が続いています。

倒産危機を直面する米国の小売業界

百貨店の「Nordstrom(ノードストローム)」

 ファッション業界では5月に入り、「J.CREW (J・クルー)」や「 Neiman Marcus(ニーマン・マーカス)/Bergdorf Goodman(バーグドルフ・グッドマン)」の経営破綻のニュースが続き、会社の規模に関係なく今後も倒産のニュースを耳にするかもしれないと思うとやはり気分が落ち込みます。

 

 そして今月初旬、百貨店の「Nordstrom(ノードストローム)」が16店舗のフルプライスショップを閉店するという発表がありました。ノードストロームは現在116店舗のフルプライスストアを展開していますが、新型コロナウイルスの影響で3月半ばより一時休業に入り、そのまま再開することのない16店舗の中に、以前リサーチのために訪れたフロリダのウォーターサイドショップスというショッピングモール内の店舗も残念ながら入っていました。

 

 

 私がこの店舗に訪れたのは2年近く前になります。「GUCCI(グッチ)」、「Tiffany(ティファニー)」、「Louis Vuitton(ルイ・ヴィトン)」などのラグジュアリーブラドの他に、「lululemon(ルルレモン)」 、「Brooks Brothers(ブルックスブラザーズ)」、「Tory Burch(トリーバーチ)」などのファッションブランド、また「Williams Sonoma(ウィリアムズソノマ)」や「Pottery Barn(ポッタリーバーン)」などのキッチン&ホームブランドのショップも並び、敷地内に設置された橋の両側それぞれにノードストロームと「Saks Fifth Avenue(サックス・フィフス・アヴェニュー)」が建てられた実にバランスの良いショッピングモールという印象でした。

ロイヤリティープログラムの「Nordy Club」

 ただ平日の日中だった事もあるのでしょうか、都会的な雰囲気さえも感じさせるモールは全体的に閑散としていて、楽しみに向かったノードストロームの店内も買物客がまばらで、私自身も、その時期にちょうど開始された同社のロイヤリティープログラムの「Nordy Club」や、クリック&コレクト(ECサイト注文の店舗受け取り)のピックアップの流れを確認するだけで長居をしなかったことを思い出します。店員さんも感じがよく、綺麗で雰囲気の良いフルプライスショップではあったものの、あの客入りの状態では閉店16店舗の中に入っていても仕方がないと個人的には納得してしまいました。

「巣ごもり消費」の中で注目される「コネクテッドフィットネス」

「Peloton(ペロトン)」の公式ページより

 そんな寂しいニュースが続く中でも、当然明るいニュースもあります。「コネクテッドフィットネス」の「Peloton(ペロトン)」は、日本語版のTechCrunchの記事にもあるように、5月6日に発表され2020年四半期決算で66%増の売り上げを記録。会員数はQ2の200万人からQ3は260万人になり、前期比30%増となりました。同社は2012年にニューヨークで創業し、フィットネス動画のサブスクリプションを提供するスタートアップ企業です。ビジネスモデルとしては、ユーザーが家に居ながらアプリを通して、インストラクターのレッスン(月額有料動画コンテンツ)を見ながら自宅でレッスンを受けることができます。同社は家庭用トレーニングバイク(フィットネス機材)も販売しており、このトレーニングバイクにはディスプレイが搭載されており、ユーザーがレッスン動画を見ながらトレーニングができるという便利さが特徴的で、動画のサブスクリプションとトレーニングバイクを一緒に購買されるユーザーも多くいるといいます。

The Retail’s Big Show 2020に登壇されたジェン・パーカー氏(右)

 今年1月ニューヨークで開催された全米小売業協会主催のThe Retail’s Big Show 2020 で、ペロトンのリテールのシニアバイスプレジデントであるジェン・パーカー氏がスピーカーとして登壇したブランドエクスペリエンスについて語るセッションに参加しました。

 

 セッションの中では、2019年のクリスマス前にオハイオ州にオープンした最新のショールームの映像が先行公開されました。ショールームの手前部分にはバイクやトレッドミルだけではなくアクティブウェアも並べる事によってペロトンというブランドの世界観を伝え、また店舗奥にはバイクやトレッドミルを実際に試す事ができる“プライベートルーム”を設けています。これまでの様な商品だけに焦点を置いてきたショールームではなく、ペロトンが提供するエクスペリエンスの全てを満喫できる場所となっているそうです。

オハイオ州にオープンした最新のショールームの映像

 この最新フォーマットのショールームは、カリフォルニア州サンディエゴにも今年初旬にオープンしています。ペロトンの様なインターネットに接続して運動をする“コネクテッドフィットネス”と呼ばれるものや、いわゆる “ホームフィットネス”というカテゴリーは、2019年のトレンドになるとすでに2018年から囁かれていました。ペロトンの他にもホームフィットネス商品を展開するブランドは多数ありますが、個人的には等身大の鏡型の「MIRROR(ミラー)」というブランドも気になっています。「MIRROR(ミラー)」はマンハッタンにショールームがあり、昨年アパレルウェブのAIL(アパレルウェブ・イノベーション・ラボ)が開催するN Yリテール研修ツアーでも視察に訪れました。

 

 自宅中心での生活(STAY HOME)だけでなく、日頃の健康維持の方法も、自宅での運動 (WORKING OUT FROM HOME)へと切り替わり、今は誰もが新たなスタンダード作りを模索している最中だと思います。自分たちにとって、また顧客にとって、何がベストなのか分からなくなってしまった中で、少しでも前へ進んでいくためには、もしかしたら“これまでの”にこだわらない方が、新しいアイディアが生まれやすく、また強固な土台を作りやすくなるのかもしれません。

 

 一生懸命積み上げてきた“これまでの”に別れを告げなくてはならないのは悔しさや寂しさがありますが、ビジネスとして生き残るためだけでなく、より良い明日を作っていくためにも、先ずは真っ白なキャンバスが必要なのかもしれません。


 

 

R I N A

90年代の米国がネットバブルだった頃に米国にて日本向けのファッションポータル事業にコンサルタントとして関わる。

 

以降、「ファッション」と「インターネット」上で行われるビジネスを中心とした事業に15年ほど携わり、Web製作やディレクション、ビジネスのコンサルタントを行う。現在は米国のファッション事情やトレンド、ファッションとIT関連を中心とした執筆、今までの経験と知識を活かしビジネスサポートも行っている。

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