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2020.02.27
【2020秋冬ミラノコレ ハイライト2】リフォーメーション、ミクスチャー、アップサイクル・・・進化するデザインアプローチ
(写真左から) マルニ、グッチ、プラダ
「マスキュリンとフェミニンの融合」が広がる2020秋冬ミラノコレクション。マスキユリン要素とフェミニン要素のミックス加減の妙が各メゾンの腕の見せ所だ。ハイブリット、リフォーメーション、ミクスチャーなどの長期トレンドであるデザインアプローチは進化を極め、リサイクルやリメイクをデザインに昇華したアップサイクル手法を採り入れたコレクションも見られた。
グッチ(GUCCI)
1月のメンズコレクションではジェンダーレスを前面に出し、一部子供服のようなアイテムまで登場させて大きな話題を呼んだ「グッチ」。ウィメンズでは今度は特に子供服やヴィンテージドールからのインスピレーションを前面に出した。そもそも男らしさ、女らしさというのは社会の押し付けで、教育によってそれを意識するようにさせられるもの。故に、社会的な縛りを受けない子供の服というのはクリエイティブ・ディレクター、アレッサンドロ・ミケーレにとって自由と解放の象徴なのかもしれない。
まず子供服からのインスピレーションは丸襟のワンピースやスモック、大きなパッチポケットが付いたエプロンスカート、ピアノの発表会で着るようなベロアのミニドレス、さらに動物の耳がついた帽子やデイジーダック風ペンダント、ハイソックスなども効果的に使われる。
ヴィンテージドールのインスピレーションはヴィクトリア調のフリル襟やチュールを何枚も重ねたボリューミーなドレス、大きなリボンのついたフリルドレスなどに見られる。またはワンピースにジーンズをレイヤードしてレザーやスエードのコートを合わせたり、エスニック風のドレスシャツとパンツのコーディネートなどのグランジテイストや、メンズのドレスシャツやタイドアップに合わせたテーラージャケットやベルボトムのスーツなど、メンズライクな要素も。
今回、インビテーションはアレッサンドロ・ミケーレ本人からの「もしお時間があったらショーに来てくださいね」という親近感の溢れるボイスメッセージ。ショーの最初と最後には、逆らい難い映画の魅力やそれゆえに映画館に足を運んでしまうという行いを“儀式”に見立てて語るフェデリコ・フェリーニの声が流れ、コレクションテーマ “Un Repeatable Ritual”を暗喩する。そしてその「再現することのできない儀式」をバックステージを観客に通過させ、メイクや着付けの風景から見せることで執り行った。たった15分程度のショーのためにつぎ込まれる膨大な時間とそこにたどり着くまでの努力を見る人ともシェアするために。そしてアレッサンドロ・ミケーレを支えるスタッフ達へのリスペクトもあったであろう。
今年は彼のクリエイティブ・ディレクター就任5周年。様々な挑発的なメッセージを投げてきた5年でもあったが、その根底には常に服作りに対する彼の真摯な姿勢と、夢を作ってくれるファッションへの熱い思入れがあるということを感じさせられた。
プラダ(PRADA)
アーティスティックな演出に定評がある「プラダ」。今回のコレクションでは1月のメンズコレクションの時と同様にプラダ財団の広大な空間をアレーナ風に仕上げ、観客は斜め俯瞰から見下ろすような舞台が組まれている。ウィメンズではウィーン分離派の建物に描かれていたモチーフの花模様(これはモチーフとしてプリントやニットのパターンにもなって登場する)が描かれた壁のいくつもの出口からモデルが出たり入ったり。真ん中にはギリシャ神話のアトラス像が置かれている。
今回ミウッチャ・プラダが掲げたコレクションのテーマは“SURREAL GLAMOUR”。メンズの時には「反英雄的男らしさ」を 提案していたが、ウィメンズにおいては「内に潜む女らしさ」(プレスリリース曰く)となる。それはただのフェミニンではなく、アトラス像が暗喩するように女性らしさと同居するパワー、ということに繋がるのだろうか。
メンズコレクションの時にも見られたようなユニフォーム的要素は、テーラードジャケットに合わせた、フリンジや大胆なスリットや縦に切り裂かれたスカートや透け感のあるワンピースとのコーディネートで見られる。またテーラードジャケットはしばしばビジュー使いや巻物状になったフリンジで装飾される。ウエストマークするベルトには、バックルの部分にミニケースがついている。これらのディテールで移ろいゆく感じ、柔らかさや繊細さといった女性らしいニュアンスを表現。またはシープファーのコートをそのまま肌に着るコーディネートや、ビーズをあしらった透け素材のドレスなどセクシーな要素が入り、ラミネートしたシープスキンやエコニルをつかったボリューミーなアウターなどスポーティとフェミニンのミックスも。
ファッションウィーク中に「プラダ」は、ラフ・シモンズが共同クリエイティブ・ディレクターとしてデザインに関わることを発表。デザイナーの引退や買収劇によって急に後任クリエイティブ・ディレクターを据えては交代劇を繰り返すパターンが多い現在のファッション界において、デザイナーが健在かつ好調のうちに後継者について考えるミウッチャ・プラダのやり方は実にスマートだ。今後の「プラダ」にはさらに注目したい。
ヌメロ ヴェントゥーノ(N°21)
今年10周年を迎える「ヌメロ ヴェントゥーノ」。前回はメンズ・ウィメンズ混合ショーを行ったが、今回はまたそれぞれを分けた形に戻してコレクションを発表。いつも最後かかるパット・ベネターの「Love is the battlefield」が流れてショーはスタート。10周年を祝うべく、クリエイティブ・ディレクターのアレッサンドロ・デラクアが好んで使ってきた要素を満載させつつ、“OUT OF SCALE”という今回のコレクションテーマにもあるように、「常道から外れた」スタイルを作り出した。
例えば、デラクアが本コレクションを作る出発点となったと言うメンズのブルーのピンストライプシャツがミニドレスになって繰り返し登場したり、ムートンコートにゴージャスなラメ使いがされたりと、デラクアの永遠のテーマであるマスキュリンとフェミニンのミックスが見られ、お得意のヌードカラーはオールインワンやチェスターコートで登場。でもそこには今回の特徴である大きなメタルチェーンや安全ピンがまるでビジューのように施され、実は意外とパンクな仕立てになっている。
デラクアが愛するマクラメレースを使ったアシンメトリーなドレスにも安全ピンのデコレーションとのコンビになっていて、お得意のニット類でも安全ピンがビーズやスパンコールの代わりに花模様を描き、胸元が大きく開いたセンシュアルなドレスにはメタルのチェーンが施されている。
でもこうやってデラクアらしくない材料を使ってもやはり彼の服になってしまうのには驚きだ。「ヌメロ ヴェントゥーノ」としては10年とはいえ、そのデザイナーとしてのキャリアは30年を超えるアレッサンドロ・デラクア。真の「デザイナー」とは彼のような人のことを言うのだと常々思っているが、それを再確認させられたショーだった。
ミッソーニ(MISSONI)
今シーズン、「ミッソーニ」がインスピレーション源としたのは、エドウィン・アボット・アボットの小説「フラットランド 多次元の冒険」。二次元に住む住民が二自分の世界を紹介し、三次元の住民と出会う話だが、この物語から受ける次元や視覚的効果についての根底が崩されるような感覚が、今回の「ミッソーニ」の幾何学模様プリントに活かされているのであろう。千鳥格子を崩したようなパターン、間隔が均等でないストライプやチェック、デフォルメされたジグザグ、パッチワークのように様々なパターンが混在するプリントなどが登場する。
ボリューミーなロングコートやブルゾンとパンツのセットアップなどマスキュリンなアイテムもニットならではの柔らかさが、またカーディガンをミニスカートのように使い、コートをそのまま素肌に纏うコーディネートではレギンスをあわせてキュートに。プリントが盛りだくさんな分、色使いはかなり抑え目でシックな仕上がりになっていて、色々な意味で差し引きがしっかり計算されたコレクションだ。
スポーツマックス(SPORTMAX)
今シーズンの「スポーツマックス」のテーマは“A brighter future”。ハイパーテクノロジーあふれる未来と、より深い自己意識とのつながりをバランスよく二分した世界観を提案する。その対照的なバランス感は、シャイニーやメタリックな素材とジャガードやレザーなどのマットで温かい素材のミックスや、コートやジャケットに使われた大きなボタンや構築的なヒールのニーハイブーツとかレザーのハーネスのような宇宙的なテイストのあるディテールとクラシックなアイテムに使われることで象徴的に表現される。
だが、それは、テーラードテイストのジャケットがウエストマークされていたり、メンズライクなコートがコクーン袖だったり、またはミニマルなアイテムに丸い穴があいて肌が見えるようになっているような、マスキュリンとフェミニンの共存にも通じる。またはアシンメトリーなシルエットのルックが多数登場する。
ところで今年誕生50周年を迎えた「スポーツマックス」は、ファッションウイーク中、デパート「ラ・リナシェンテ」でカナダの舞台・オペラ演出家兼デザイナーのロバート・カーセン氏が手掛けた8つのウィンドウディスプレイを展開。またファッションウィーク初日の2月19日には同店で、50周年アニバーサリーブック「SPORTMAX」のローンチイベントを行った。
マルニ(MARNI)
今シーズンの「マルニ」のコレクションはパッチワークとコラージュのオンパレード。布帛あり、レザーあり、光沢素材やメタル素材あり・・・。様々な素材を様々な大きさと形で繋げ合わせてある。そしてこれらのパッチワークたちがマキシコート+ミニドレス、それにパンツを加えたレイヤード、といった感じにアンサンブルでコーディネートされている。
それは後半になると半身ずつスカートの長さの違うドレスやコートのドッキングとなり、さらなる不協和音を奏でる。使われているパッチワークのピースにボタンホールが残っている生地が使われており、前シーズンではサステナブルを大々的に出していた「マルニ」だけに、アップサイクルに対応するためのパッチワークなのかもしれない。
ニットも同様で、ローゲージ、ハイゲージ、モヘアなど様々な種類のニットが、あえて乱暴にかつ適当に縫い合わせたような縫い目によって、袖や身ごろの一部を継ぎ足したようにくっつけられている。またメンズの時にも登場したようなオイルコーティングのオーバーボリュームのコートはあえて色があせたような染めになっており、ドレスなどに使われるベロアはブリーチされて色むらが出来ていたり。
クリエイティブ・ディレクターのフランチェスコ・リッソが最後にウサギのお面をかぶって登場したことからも、今シーズンの「マルニ」のテーマはどうやら“不思議の国のアリス”らしいのだが、あえてすべてを不完璧にしているこのコレクションは、常識が通用しない不思議の国に舞い込んだアリスの気分なのだろうか。そんな中、使い古して使命を終えたものがまた形を変えてより素敵な新商品へと変わるというのは、終わりのないパラドックスを表現しているのかもしれない。
エムエスジーエム(MSGM)
「エムエスジーエム」は、1月のメンズコレクションに続き、クリエイティブ・ディレクターのマッシモ・ジョルジェッティが昔からファンだったイタリアのホラー映画の巨匠、ダリオ・アルジェントとのコラボを行い、“NOTTE(夜)”というテーマでコレクションを発表。今回のミューズは、アルジェントの名作「サスペリア」の主人公のような私たちの理解を超えた力を持つ女性で、この世界の常識から脱出したもう一つのパラレルユニバースを描いているらしい。
ゆえに登場するルックはシュールレアリスティック。クラシック、または古典的なアイテムに加工がされていたり、サイケな色やプリントとコーディネートされている。例えばマスキュリンなツイードコートやテーラードジャケットに、メンズにも使われた「サスペリア」、「私は目撃者」、「フェノミナ」などの映画のパンフレットに使われていた画像や黒猫や蝶などのプリントしたスカートやシャツをコーディネート。ヴィクトリアン風のレースのドレスの下には不気味柄が見える。エレガントなドレスシャツがむら染めになっていたりラメ仕上げだったり、またはフリルやプリーツのついたロマンティックなアイテムもメタリックやネオンカラーでしあげられている。
マッシモ・ジョルジェッティは、トレンドとは全く関係ない自分の個人的趣味に走っていながらも、そこに時代のキーワードをきちんと入れ込んでコレクションを作るのが本当にうまい。
エトロ(ETRO)
ガレージでショーを開催したメンズコレクションから、ウィメンズはミラノ音楽院へと場所を移してはいるが、メンズ同様に壁には同家が所有している古い肖像画(本物!)を飾った「エトロ」のショーの舞台セット。今回のコレクションのテーマになっている時代や場所を超えた無限の世界観が、これらの古い肖像画ともリンクする。
コレクションではメンズでも登場していたブランケットやカーペットのような生地が目を引く。それらは今シーズンっぽくフリンジがあしらわれ、ジャケットやマントなどで登場する。アルゼンチンの乗馬パンツ、ハットやウエスタンブーツといった南米っぽいテイストや、またはエスニックテイストの刺繍や「エトロ」らしいペイズリーがアラブっぽいモチーフで展開される。
そんな中にボウタイシャツや英国調刺繍が施されたシャツ、ベロアのタキシード、ジレやカマーバンドなどメンズのイブニングやダンディの要素がまじりあう。さらに、コーディネートは必ずベルトでウエストマークされていたり、透け素材にパフスリーブやベルスリーブのドレス、金糸の刺繍を施したりメタリック素材使ったアイテムなど女性らしいセクシーさやゴージャスさもプラスされる。
「エトロ」がこよなく愛するノマディックスタイルに様々な要素をミックスした盛りだくさんのコレクションだが、結局のところ品のあるフェミニンさが全体に漂っているので、不思議と統一感がとれている。
ショーの最後には全員の?モデルがみんなウォッシュド加工されたペイズリー柄のコーティングキャンバスのブラックトレンチコートに、ラッカーバージョンのブラックペガソバッグで登場したのも印象的だ。
プランC(PLAN C)
プレゼンテーションでは、デザイナーのカロリーナ・カスティリオーニの自宅にあるおもちゃを影として映し出すユニークな演出を行った「プランC」。コレクションはメンズライクなビッグサイズのダブルブレストコートにニットケープ、プリーツのミニスカートとスリムパンツを合わせるなど、レイヤリングの遊びが。ノスタルジックなフラワーモチーフやドットなどのパターンがドレスやシャツに使われ、アイコンとなっている娘が描いた絵や、娘のシルエットがパターンに。いつもどこかに楽しい要素を入れる「プランC」らしさが満載だ。
ヘルノ(HERNO)
「ヘルノ」は、前回の春夏コレクションで登場し、1月のメンズファッションウイーク中に大々的に紹介された「ヘルノ グローブ」の進化形をウィメンズでもお披露目。天然色素配合比率50%で染色したリサイクルナイロンの「オニベジ」、環境負荷を測定することによる認証プロジェクトPEFに基づいた製品作りという2点に続き、20 デニールのファブリックで仕立てた5年で自然に戻るナイロン(通常のナイロンは分解まで50年必要)、再生ナイロン「エコニル」100% のアイテム、リサイクルウール、といった3つのプロジェクトを追加した。
サステナビリティは今やどこのブランドも謳うテーマだが、この問題に早い時期から取り組み、様々な方法でアプローチする「ヘルノ」。老舗らしい伝統を保ちつつ、常に時代の先を行く企業精神に敬意を払いたい。
また今回、「ヘルノ」初のスニーカーライン「ヘルノ ラミナー アッソルート」はウィメンズラインも登場。トレッキングシューズなどで有名なイタリアの老舗、スカルパ社とコラボし、防水性、防風性、透湿性を兼ね備えたスニーカーは、カントリーライフから街歩きまであらゆる状況に対応する。
ロロ・ピアーナ(LORO PIANA)
今シーズンの「ロロ・ピアーナ」は大都会の風景を背景に、豪華でシンプル、そして柔軟性に富むワードローブを様々なコーディネートで展開。パッチポケットとエポレットが特徴的なダブルフェイス・カシミヤのボタンレス・トレンチコート、ベビー・カシミヤのリバーシブル・ニットコート、シアリング加工されたリバーシブル・ケープ、リブ編みタートルネックとティールメランジュのカシミヤのアーガイル柄ニットドレスなど機能性とラグジュアリーを備えたアイテムが揃う。カシミヤを起毛加工させた新しい素材、カシファーや「ロロ・ピアーナ」では初の試みのラバーソールを使ったブーツやブーティーも登場。
取材・文:田中美貴(Text by Miki Tanaka)