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2017.04.19

「神戸BAL」が全館リニューアル 上質な時間消費を提案

 中澤株式会社(京都市)が手掛けるファッションビル「神戸BAL」(神戸市中央区三宮町)が3月17日、全館リニューアルオープンした。2015年に建て替えオープンした「京都BAL」との“価値統一”を図った。別館の「アネックス」も同時に改装し、“BALタウン”として、提案を一新した。地域密着を意識した様々な試みが盛り込まれている。

男性客、ファミリーも取り込む大改装

 「京都BAL」は上質な時間消費を意識したフロア内容で、各テナントの売り場面積が広く、各ブランドの世界観を十二分に表現することができる構造だ。「神戸BAL」もベースは「京都BAL」のコンセプトを受け継ぎつつ、「上質な時間消費を提案するショッピングタウン」をテーマにして、地域特性に適したフロア内容に改めている。

 

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 改装のきっかけは、「京都BAL」の建て替えオープンに触発されたわけではなく、現状打破が目的だった。1994年9月の開業以来、定期的に改装を実施してきたが、最近は「無印良品」のイメージが強くなっていた。これは決して「無印良品」がいらないという意味ではなく―現に「無印良品」の売り上げは好調な推移だった。しかし、このままでは市況の変化に取り残されてしまうという危機感から、今回の改装を決断したようだ。通常、館全体で改装を実施する場合、競合他社が出店した、あるいは売り上げが下がってきたためにテコ入れするといったケースが多いが、「神戸BAL」の場合はこうした理由ではなかった。改めて、新規の顧客層を開拓するべく、全面的なリニューアルに踏み切った。

 

 従来、本館の顧客層は女性に偏っていたというが、もっと幅広い層のエンドユーザーを取り込もうと考えている。男性客やファミリー層などである。元々、地階には子供服系テナントが入っていたこともあり、ファミリー層の来店はあったというが、さらにその幅を広げようという試みである。

 一例が、1階に出店した新業態の「アガット・アンドメモリア」。家族の“記念日”に特化したアクセサリー類を扱うショップで、母娘など親子連れで買い物をするケースが多い神戸の地を意識している。ファッション系は「アネックス」に比重を置いて、本館はインテリアやライフスタイル系の商材を強化した。1階のコスメ「サボン グルメ」や「スリー」、生活雑貨・食品の「トゥディズスペシャル」などの新規テナントがその象徴的な事例だ。ちなみに「無印良品」もリニューアルし、本館の4-6階で展開している。引き続き、優良なテナントの1つである。

高感度ファッションを集積した別館「アネックス」

 改装の先鞭を付けたのは昨年11月、「アネックス」にオープンした「エストネーション」だった。同時期にオープンした「イザベル マラン」、既存店の「ロンハーマン」と併せて、高感度ファッションを求める「神戸にフィットしたテナントが集積した」(中澤、山本健太開発マネージャー)。「アネックス」は別棟で、計7つのテナントで構成する(一部改装中)。大丸神戸店や心斎橋店の周辺店舗のように、見た目は独立した路面店然とした店構えが特徴だ。

 

 本館の外観は、大正・昭和初期の洋館をイメージしたデザインで、「京都BAL」のイメージを踏襲している。「建物の環境を変えることで、新しい見え方が可能ではないか」(山本マネージャー)と考えた。テナントの坪数も、「京都BAL」に倣い、最大限ブランド観を演出してもらえるよう、大きめにしてある。

 改装オープン後は好調な推移だという。特に新規テナントの「スリー」などが人気を集めている。「京都BAL」と同様、リピーター確保のため、新生「神戸BAL」を「どれだけ発信し、来館を促していけるか。神戸にBALあり、ということを認知してもらう」(山本マネージャー)ことを重視している。新しい店構えは、滞留時間を長くしてもらうための工夫であることは明らかだが、同館の位置する場所――三ノ宮駅と元町駅の中間――も関係している。三ノ宮駅はJRや阪神電鉄、神戸市営地下鉄などが集まるターミナル立地で、ビジネスパーソン向け。「神戸BAL」の立地は商店街があり、お買いもの区画。「休日に過ごす場所」(山本マネージャー)だという。(七五調ではないが)「週末に過ごしてもらう『神戸BAL』」を狙っているわけだ。

 

 参考までに、建て替えオープンから2年目に突入した「京都BAL」だが、入館数も売上高も前年並みと堅調な推移だ。オープン景気の影響が大きい1年目との比較だと考えると、前年並みキープでも健闘していると言えるだろう。中でも、入館客数は昨年12月に(微増だが)前年を超えた。クリスマスなどオケージョン需要に対し、効果的なイベントを企画できたことがプラスに働いたという。

 

 「神戸BAL」も「京都BAL」も、上質な時間消費を提供するファッションビルとして、新しいスタートを切った。両館とも、短期的な売り上げ増を考えておらず、数年かけてじっくりと顧客を開拓する姿勢である。短期間で回収を目指す平均的な商業ビルとは少々、趣が異なっている。


 

 

樋口 尚平
ひぐち・しょうへい

 

ファッション系業界紙で編集記者として流通、スポーツ、メンズなどの取材を担当後、独立。 大阪を拠点に、関西の流通の現場やアパレルメーカーを中心に取材活動を続ける。

 

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