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2020.01.24

【パリメンズ 2020秋冬 ハイライト1】エレガンス本格復権 テーラリングの提案がさらに広がる

(写真左から)ディオール、ルイ・ヴィトン、ダンヒル

 2020年1月20日に閉幕したパリファッションウィークメンズ(以下パリメンズ)。トレンドの本流にあるのは「エレガンス」だ。2019秋冬パリメンズで台頭したエレガントなテーラリングルック。「ディオール」や「ダンヒル」などの提案した優雅なテーラリング、「ルイ・ヴィトン」による新解釈テーラリングなど、次のトレンドの兆しとして注目されたが、今シーズンはまさに大きなうねりとなった。先シーズンでは、ビッグシルエットやドレープに効いた難易度の高いルックが多かったが、今シーズンは、身体にフィットするテーラリングルックが広がっている。ミラノメンズともシンクロしているトレンドであり、マーケットへも広がるであろう。

ディオール(Dior)

 キム・ジョーンズによる「ディオール・メン」は、コンコルド広場の特設テント内で最新コレクションを発表。昨年逝去したロンドンのスタイリストでアクセサリーデザイナー、ジュディ・ブレイムにオマージュを捧げ、彼の活動した1980~90年代のスタイルを巧みに取り入れながらも、1970~80年代にマルク・ボワンが手掛けていた時代の「ディオール」のイメージも交え、メンズのカテゴリーにおける新しいエレガンスを表現した。

 

 マルク・ボワン作品を彷彿とさせるモワレのタフタ素材によるコートと、刺繍を施したペイズリー柄のニットでスタート。パールを刺繍したロンググローブをコーディネートし、オートクチュールを思わせるスタイリングを見せた。ユンによるアクセサリーはジュディ・ブレイムからインスパイアされたもので、様々なチャームが付いた安全ピンのブローチや、安全ピンで構成したポケットチェーンなどはパンクのイメージでまとめられている。ドレスのようなロングシャツをジャケットに合わせたルックや、左身頃にだけペイズリー柄の長いライニングを合わせたジャケットなどは、今季の特徴的なスタイリング・アイテム。トワル・ドゥ・ジュイのモチーフをインターシャで表現したニットや、カットすることでポケットや縫い目を表現したミンクのファーコートなど、コレクションはアイデアに満ちている。

 

 ジョン・ガリアーノに新聞モチーフの使用を進言したのは、実はジュディ・ブレイムだったことから、今季は新しい新聞モチーフも復活。来シーズンは「ディオール」のコレクションと共に、ジュディ・ブレイムの足跡にも注目が集まりそうだ.。

 

Text by Tomoaki Shimizu

ダンヒル(DUNHILL)

 マーク・ウェストンによる「ダンヒル」は、グラン・パレを会場に最新コレクションを発表した。比翼仕立てのコートとイール(ウナギ)スキンのパテントのパンツでスタート。今季は多くのルックにイールスキンのパンツやレザーパンツがコーディネートされ、トップのジャケットやブルゾンなどはやや大きめのシルエットに仕上げ、色と素材でコントラストを生むスタイリングとなっている。PVC素材のコートや、刺し子風素材のスウェット、あるいはベルト使いのコートなど、これまでの「ダンヒル」には無かった若々しいフレッシュなイメージのアイテムも多く見られた。

 

Text by Tomoaki Shimizu

ジバンシィ(GIVENCHY)

 クレア・ワイト・ケラーによる「ジバンシィ」は、ジョルジュサンク大通りの本社ビルでコレクションを発表。1930年代にインドのマハラジャが、渡米時にインドと欧米のスタイルをミックスする着こなしをしていた、という史実を基にコレクションを構築。

 

 カジュアルでスポーティなアイテムは少なく、テーラリングが中心となっている。インナーにオリエンタル風のデコラティブなアイテムを組み合わせたスーツや、インド風のビジュー刺繍のジャケットなど、直接的にマハラジャを思わせるルックから、ラテックスのフェティッシュなトップスや、安全ピン使いのスーツなど、パンクの要素を散りばめたルックまで、表情豊かな内容。

 

 チェーンロゴのニットや、身頃に差し色を配したジャケットなど、今季のキーカラーは赤で、ベーシックな黒とグレーとのコントラストを見せ、またバルキーなニットやブルゾンとリーンなスーツのシルエットのコントラストも強調されていた。

 

Text by Tomoaki Shimizu

ベルルッティ(Berluti)

 クリス・ヴァン・アッシュによる「ベルルッティ」は、オペラ座ガルニエ宮の回廊スペースでショーを開催。フューシャピンクやライムグリーン、オレンジやコバルトブルーなど、目の覚める爽やかな色使いは定番となりつつあり、今季も多くのルックを華やかなものにしていた。

 

 ファーストルックは深紅のタートルネックニットにバギーパンツを合わせたブルーのスーツ。ジャケットはウエストシェイプでややドロップショルダーに仕上げているのが特徴。ただ、スーツについては細身のパンツも多く、コントラストを付けたルックが目を引いた。ヘリンボンモチーフのファーコートやマルチカラーのファーブルゾン、あるいはヘリンボンモチーフやグラデーションのニットプルは、秋冬らしい今季を象徴するアイテム。

 

 「ベルルッティ」のシューズの代表的なテクニックであるパティーヌを用いたレザーアイテムは、今シーズンはグリーンのブルゾンが登場。リボン状にカットしたレザーをグレンチェックに編んだ素材のブルゾンも、一際目を引いたアイテムだった。

 

Text by Tomoaki Shimizu

ロシャス(ROCHAS)

 2019秋冬コレクションでメンズのクリエイティブ・ディレクターに就任したフェデリコ・クッラーディ。彼にとって初のショーをパリ左岸のルーマニア大使館で行った。

 

 コレクションは、ベーシックなワードローブをとびきり上品に表現した。フェデリコが想像する”Rochas man”、それは自身を色や言葉で語り、自分だけの美を創れる者。今シーズンのコレクションでは実在するアーティストにインスピレーションを得たがそれがまさに”Rochas man”であったようだ。白いシャツ、ウールのジャケット、ニットカーディガン、簡単な、いつものワードローブでありながら、どこかフェミニンな印象を与えるシルエットや、シャツのボタンを大きく開けて首元を見せる艶っぽい着こなしなど、個性的でありながらも上品さを失っていない。

 

 色も、ブラック、グレー、ベージュ、ホワイトなどベーシックなカラーパレットで主張せず、縦長のシルエットをきれいに見せていた。

ストリートの雄やコンテンポラリーブランドもテーラリングにシフト

 

オフ-ホワイト c/o ヴァージル アブロー(OFF-WHITE c/o VIRGIL ABLOH)

 ヴァージル・アブローによる「オフ-ホワイト c/o ヴァージル アブロー」は、ルーヴル美術館の地下に位置する展示会場カルーセルでショーを発表した。タップダンサー、カルティエ・ウィリアムスによるパフォーマンスからスタート。コレクションはフォーマルなスーツからカジュアルなアイテムまで、「オフ-ホワイト c/o ヴァージル アブロー」らしいハイファッションとストリートスタイルの融合を見せた。

 

 昨年の10月のレディースコレクションで見られたエメンタールチーズを思わせる穴あきのスーツや、シャンパンボトルや手のモチーフをジャカードで表現したスーツなど、楽しさで目を引くアイテムも散りばめられている。スローガンの入ったスウェットやTシャツなどは影を潜め、インターシャのプルやアイコンのXモチーフのローゲージベストなど、ニット類が充実しているのが特徴。

 

 フィナーレでは、体調不良により半年ほど姿を見せていなかったヴァージル本人が登場し、会場からは割れんばかりの拍手喝采が。今季はこれまでの「オフ-ホワイト c/o ヴァージル アブロー」らしさに多様性とクリエーションの豊かさを加え、ヴァージル・アブローのカムバックと相まって、新生「オフ-ホワイト c/o ヴァージル アブロー」を印象付けるメモリアルなコレクションとなった。

 

Text by Tomoaki Shimizu

アミ アレクサンドル マテュッシ(ami alexandre mattiussi)

 アレクサンドル・マテュッシによる「アミ アレクサンドル マテュッシ」は、モンマルトルの麓に位置する劇場・クラブ「トリアノン」で9周年コレクションを発表。9はマテュッシにとって重要な数で、今年は記念すべき年となっている。

 

 これまでベーシックなイメージのあった「アミ アレクサンドル マテュッシ」だが、今シーズンはラフルの揺れるシャツや、スパンコールを刺繍したグリッターなニットなど、グラマラスな側面を加えている。山高帽のアクセサリー使いから、テレビシリーズ「ジ・アヴェンジャーズ」や映画「時計仕掛けのオレンジ」など1960~70年代のムードを漂わせ、深いグリーンやパープルのカラーパレット、あるいはシースルーのシャツは当時の「イヴ・サンローラン(Yves Saint Laurent)」を彷彿。よりドレッシーなクリエーションを見せ、新鮮な驚きを与えた。最後はステージにパリの下町のセットが現れ、モデルが一斉に並んで拍手喝采に。パリらしさを最後まで貫いたショーとなった。

 

Text by Tomoaki Shimizu

ポール・スミス(Paul Smith)

 「ポール・スミス」の2020秋冬コレクションは、50周年のアニバーサリーコレクションとなった。これまでのアーカイブを映像で見せることでショーはスタート。

 

 コレクションは、英国のトラディショナル テーラリングにプレイフルなカラーやモチーフを盛り込んだポール・スミスらしさが全開だ。体に沿う、細身シルエットのテーラリングはピークトラペルで洗練された雰囲気に。ダウンやワークジャケット、太めのパンツは、カモフラージュパターンでテーラリングスタイルとは対照的に強いインパクトを与えていた。

 

 今季特徴的なのは、スパゲッティ柄と筆記体ビッグロゴ。シャツやニットのパターンとして用いられ、ポール・スミスらしさを伝えるアクセントとして際立っていた。

 

取材・文:清水友顕、アパレルウェブ編集部

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