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2020.01.21

キーワードは「ビジョン」 全米小売業大会リテールズ・ザ・ビッグショー2020が見せた10年先の小売とは

photo: National Retail Federation

  今年で109回目となる全米小売業大会(NRF:National Retail Federation)主催の国際小売り展示会「リテールズ・ビッグ・ショー2020(NRF Retail’s Big Show 2020)」が、マンハッタンのジャビッツセンターで開催されました。小売業に特化した世界最大のカンファレンスイベントであるNRFビッグ・ショーには世界中から4万人以上参加しました。

  • マイクロソフト社:CEOサティア・ナデラ氏 (photo: National Retail Federation)

  • ウォルマートUS社:CEOジョン・ファーナー氏(右) (photo: National Retail Federation)

  • レント・ザ・ランウェイ社:創設者兼CEOのジェニファー・ヘイマン氏 (photo: National Retail Federation)

  • ノードストローム社の共同社長:エリック・ノードストローム氏(左) (photo: National Retail Federation)

 今回キーノートに登壇したのは、老舗リテーラーからテクノロジー企業、デジタルネイティブ企業まで日常備幅広い小売業のトップたち。米マイクロソフト社CEOサティア・ナデラ氏や、昨年11月にウォルマートUSの社長兼CEOに就任したばかりのジョン・ファーナー氏、レント・ザ・ランウェイの創設者兼CEOジェニファー・ヘイマン氏、ノードストローム共同社長エリック・ノードストローム氏、グープの創設者兼CEOを務めるグウィネス・パルトロー氏などが揃い、今回も充実したラインナップを誇っていました。

 

 ニューヨークで開催されるNRFビッグ・ショーではNYのリテールツアーも実施しています。最近新たにオープンした商業施設や話題のD2Cブランドのリテール、そしてテクノロジーを活かしたリテールなどをまわる内容が用意されており、海外から訪れる人にとっては嬉しいサービスとなっています。会場では、リテールツアーに含まれる企業の創設者がスピーカーとして登壇するセッションも行われていました。

リテールビジネスは“死んだ”のではなく、進化している

ニューヨークのノーホーにある「ショーフィールド(SHOWFIELDS)」の店舗

 世界で最も面白いリテールのひとつとして紹介されている「ショーフィールド(SHOWFIELDS)」がニューヨークにオープンしたのは2018年の12月。まだオープンから1年ほどですが、消費者の間だけでなく、リテール業界からも注目されており「世界中の人々が行ってみたいリテール」としての存在感をしっかりと確立しはじめています。

 

 この10年の間に続々と誕生したDTCブランドのほとんどはデジタルネイティブブランドです。こうしたブランドがいざリアルな店舗を出店しようとしても、自分たちのブランドがフィットするリテールの選択肢が多いわけでもなく、自分たちの店舗を(自力で)出店する資金力もないというのが現状です。そんな現状をみて、ショーフィールドの共同創設者兼CEO Tal Zvi Nathanel氏は以下の3点に気づいたと言います。

 

1.今も昔も変わらず、店舗出店には資金が必要。

 

2.オンラインでのビジネスからオフライン(リアル店舗)へとビジネスを拡大する際に、やり方がわからないブランドもいる。。

 

3.古いタイプの消費者に加え、新しいライフスタイル・ニーズを持つ新たなタイプの消費者が生まれ、ブランドは新しいタイプの消費者にどう対応していくか求められている。

 Tal Zvi Nathanel氏は、ブランドがオンラインからオフラインへとビジネスを拡大する際に大切なのは、新しいタイプの消費者が求めている新しいリテールの形に対応することだと感じ、アートとリテールとを融合させた、エクスペリエンス溢れるリテール「ショーフィールド(SHOWFIELDS)」をオープンさせました。「ショーフィールド(SHOWFIELDS)」は、ブランドにとってストレス無く、シームレスに出店しやすいサービスを提供すると同時に、訪れる顧客にとってはエモーションに溢れる、最高に面白いお店であることを目指しています。

 

 ショピファイ(Shopify)のようなサービスの存在により、インディーズブランドでさえも簡単にオンラインショップを開くことができるようになった今、オフラインにある店舗も大きく進化していかなければならないと言う創設者の考え方は、店舗を持たないブランドや、日本を含む海外ブランドにチャンスを与えるだけではなく、変化する消費者のニーズにもこたえる結果となっているのでしょう。

 

ショーフィールド(SHOWFIELDS)
11 Bond street, New York, NY
https://www.showfields.com/

セルフチェックアウトサービスは着実に浸透

エキスポエリアの様子

 ジャビッツセンターの全フロアわたるエキスポエリアの中で、最も面白かったのはスタートアップ企業と小売りに関連する最新テクノロジーを紹介する「イノベーション・ラボ」がある4階フロアでした。

 

 昨年のNRFビッグ・ショーの記事でも紹介しましたが、「ケイパー(Caper)」はニューヨークを拠点とするAIを使ったスマートセルフチェックアウトカートのサービスを提供するIT企業です。2019年10月、北米最大のグローサリーチェーン:ソビーズ(Sobeys)とパートナーシップを組んだことを発表、すでにオンタリオ(カナダ)にある店舗でサービスがスタートしているそうです。米国内でもニューヨークのクイーンズ地区にあるグローサリーストアでサービスを提供しているそうなので、ぜひ体験をしに行ってみたいと思っています(レポートはAILの会員誌でお伝えする予定です)。

コンテンツでECの売り上げを向上

Tangiblee社のブース

  「Tangiblee」や「Hexa」は、ECの商品情報をよりインタラクティブなコンテンツにし、サイトを訪れた人がその商品により深くエンゲージできる様なサービスを提供しています。

 

 レベッカミンコフのECではTangibleeのサービスをハンドバッグや時計の商品詳細ページに導入しています。商品詳細ページに”SIZE ME UP” というボタンが用意されており、それをクリックすると、ポップアップ画面が表示され、そこで身長や服のサイズを選び、自分の体型を設定すると商品詳細のコンテンツが2Dから3Dに変化!画面上で気になっているバッグのサイズ感がわかるという仕組みです。Hexaも同様のサービスを提供しており、サイズ感が気になる商品にはとても有効だと感じました。こうしたサービスは、ECの売上をもう少し増やしたいというブランドには良いサービスではないでしょうか。

 

 2020年を迎え、新たな10年がスタートしました。これからは時代の変化に対応したサービスを提供できるよう進化するだけではなく、サステイナブルな職場環境や商品開発にも取り組んでいかなければなりません。今回のNRFビッグ・ショーがメインテーマに掲げたのが「ビジョン(Vision)」であるように、単なる事業計画だけでなく、企業としてどのようなビジョンとミッションをもち、自分たちが生きる地球を守りながら成長していくことができるのかをこれまで以上にはっきりと伝え、実行していかなければならない…そんなスタートラインに立ったのだと感じます。

 


 

 

R I N A

90年代の米国がネットバブルだった頃に米国にて日本向けのファッションポータル事業にコンサルタントとして関わる。

 

以降、「ファッション」と「インターネット」上で行われるビジネスを中心とした事業に15年ほど携わり、Web製作やディレクション、ビジネスのコンサルタントを行う。現在は米国のファッション事情やトレンド、ファッションとIT関連を中心とした執筆、今までの経験と知識を活かしビジネスサポートも行っている。

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