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2019.09.12

【現地レポート】香港アパレルの復興を“techstyle(テックスタイル)”で支える 老舗紡績企業・南豊集団の新施設「ザ・ミルズ」【2/2】

イノベーションとビジネスを結ぶ スタートアップのための小売りスペース「Techstyle X」

  • 2019年4月4日にオープンした「techstyle X」

  • 2019年4月4日にオープンした「techstyle X」

2019年4月4日にオープンした「Techstyle X」

 ザ・ミルズが2019年4月、ショップフロア内にオープンしたのが、「Techstyle X」。スタートアップ企業が、自身のプロダクトを一般消費者に販売できる小売りスペースで、順調に客数を伸ばしている。

 

 「「Techstyle X」は、ザ・ミルズ・ファブリカの実験的かつ体験的なストアです。ザ・ミルズ・ファブリカに入居しているスタートアップ企業が、自身のプロダクトを一般消費者に販売できる場ですが、業界関係者や企業向けに自分たちのテクノロジーを紹介する場でもあります。新しいビジネス・コンセプトや、顧客とのインタラクティブな対話が生まれる可能性を秘めています。従来型の常設店舗ともポップアップストアとも違う、集客力が高く、かつフレキシブルな条件で利用できる小売りスペースです。

 

 これまでに「Snaptee」「ORII」「Unspun」「TG3D Studio」「Facha」「UNQ」「Vacanza Shirts」「UN / FOLD STORIES」といった企業・ブランドがポップアップストアを立ち上げました。来店したお客様は、新しい小売り体験、技術とスタイルの融合、素材やサプライチェーンの革新など、最新のTechstyleを体験をすることができます。

 

 現在、ザ・ミルズの物販エリア「ザ・ミルズ ショップフロア」全体で、毎週数万人の来訪がありますが、そのうち「Techstyle X」は毎週約1万人の来店があり、順調に客数を伸ばしています」(チャン氏)

香港ファッション産業のいま

ザ・ミルズ ファブリカの共同ディレクターを務めるアレックス・チャン氏

 イノベーションやスタートアップなどの動きを含め、現在の香港ファッション産業をどう見ているか?チャン氏に聞いた。

 

 「香港のファッション産業はいま、エキサイティングに成長している段階だといえます。ザ・ミルズをスタートする前、ファッション関連のイノベーションやスタートアップは非常に少なかったのですが、ここ数年で、香港あるいは香港で事業展開したいと思っているイノベーターが順調に成長しています。ザ・ミルズ ファブリカは、先ほどお話しした「ファッション フォー グッド(Fashion for Good)」やH&M財団とのパートナーシップを結んできました。これによりザ・ミルズ ファブリカは、特に香港の企業とアジア市場での可能性を探ってみたいというスタートアップにとっての受け入れ先として役に立てると思います。これまでに数社の投資先企業を受け入れていますが、香港のファッションシーンそのものが成長し、海外から多くの関心が集まることを期待しています」

 

 2018年における香港の研究開発費総額は前年同期比約8%増の212億香港ドル。対GDP比は0.8%を占めており、この数値を2017年からの5年間で約2倍の1.5%までに引き上げることを目標としている。また、イノベーション分野において中国本土との連携を強化しており、深セン市と香港の境界線近くに「深セン・香港科学技術イノベーションパーク」を建設中。さらに中国本土は、香港における「国際イノベーション科学技術センター」の建設を支持し、広東・香港・マカオによる「グレートベイエリア(粤港澳大湾区)」におけるイノベーション・科学技術および国際化の能力向上を掲げている。

 

 ザ・ミルズ ファブリカも、イノベーション産業の育成を目指す香港・中国本土のこの動きに恩恵を受けることができるだろうか?

 

 「ザ・ミルズ ファブリカは、テクノロジーとスタイルを融合させた“techstyle”をコンセプトに、スタートアップを育成しています。“techstyle”とは、業界の最前線にいる革新的な起業家と、適切なパートナーや機会を結びつけることでもあります。イノベーションとテクノロジーの分野において、香港と中国本土の省庁間の協力を仰ぐことを視野に入れつつ、足場を強化し、より多くの地域でネットワークを拡大するための機会を提供していきたいと思います。

 

 具体的に言うと、私たち南豊集団の企業の多くは香港に本社を置き、法律や資金調達システム、香港のブランドと地理的に近いという点などにおいて、その利点を最大限に生かしています。それと同時に、中国本土に頻繁に出向き、現地でよりよい繊維製品の製造拠点がないかを探っています。私たちは、中国本土における私たちの不動産や小売り事業を通して、中国本土の市場開拓に興味がある投資企業をさらにサポートしていきたいと考えています。言い換えれば、香港においても、中国本土においても、十分な支援ができるということです」(チャン氏)

techstyleが変える ザ・ミルズが描くファッション産業の未来

ザ・ミルズには香港のファッション産業の歴史を語るアートが

 最後に、ザ・ミルズ ファブリカの中長期的なビジョンについてたずねた。チャン氏は、「インキュベーションと投資を通じ、“techstyle”スタートアップ企業の成功事例を生み出すサポートをしていきたいと思います。そして、イノベーションの最新動向についてシェアしながら、グローバルな“techstyle”コミュニティーを構築し続けていきたいと考えています」と話す。

 

 「また、私たちの使命の一環として、ザ・ミルズ ファブリカは英国に活動の場を広げ、オープンプラットフォームを作りあげるとともに、アジアとヨーロッパのギャップを埋めながら、2つの地域の“techstyle”スタートアップをサポートしていきます」(チャン氏)

 

 レイ氏は、「ザ・ミルズがイノベーションとクリエイティビティーを象徴するランドマークとなり、インスピレーションを求めている地元の人々や観光客の目的地となることを願っています。 特にザ・ミルズ ファブリカは、世界中にいる“techstyle”スタートアップをサポートし、ナレッジを共有するための中心的存在となることを願っています。また、CHATで行われる展示会や活動が、コミュニティーと深く関わりながら、芸術や文化的なイベントの最高峰となることを願っています。物販エリアのザ・ミルズ ショップフロアに関しては、お客様が、香港のほかの商業施設と比較し、より楽しく過ごしユニークな体験をすることができる場となれば嬉しいです。

 

 誰かが香港で行くべきスポットを尋ねられ、ザ・ミルズがそのリストにあがったとき、私たちは目標を達成したといえるでしょう。そして最も重要なのは、南豊紗廠を知る高齢の方々がザ・ミルズが保有する資産を懐かしさや親しみを感じてくださること。また、若い世代が古いものと新しいものを融合させるというザ・ミルズのコンセプトに共感してくださるということだと思います。

 

 ザ・ミルズの成功は、多面的なビジネス運営と長年に渡りイノベーションを起こしてきた南豊集団ならではのレガシーを生かし、次の新しい世代の起業家たちを支援することが鍵になると思います。繊維産業は、もはや香港経済の主要な柱ではなくなってしまいましたが、香港の製造業の黄金時代と南豊集団の歴史を振り返りながら、未来を再考していきたいと思います。伝統と革新を組み合わせ、“techstyle”なスタートアップによる成功事例を香港から生み出していきたいと考えています。それは、textile(テキスタイル)を生産していたかつての紡績工場から、techstyle(テクスタイル)が生まれるムーブメントを作り出そうとする試みでもあります」

「ザ・ミルズ(The Mills )」公式サイト
「ザ・ミルズ ファブリカ」公式サイト

 

【参考】
https://www.hketosf.gov.hk/sf/whatsnew/2019/ecosystem.htm
https://www.jetro.go.jp/ext_images/_Reports/02/2019/0ac1b547b80737a0/innovation-environment-in-hongkong.pdf

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