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2020.05.01

苦境乗り切る支援策続々ECプラットフォーマーが店舗サポート、ツールや販促、資金繰りなど

 新型コロナウイルスの感染拡大による人々の外出自粛や店舗の休業などにより、経済活動が停滞している中、ネット販売事業者にもその影響が出てきている。巣ごもり需要で一部では恩恵を受けている側面があるようだが、商品調達が滞ったり、売り上げ不振に陥ったりする事業者は少ないようだ。こうした事態を受けて、ECで事業者に「売り場」を提供する仮想モール運営者や通販サイト構築支援サービスの展開業者らが利用者である通販事業者を支援する取り組みに乗り出している。 

出店料の減免も弾力的に対応

 日本最大の仮想モール「楽天市場」を運営する楽天では新型コロナウイルスの感染拡大を受け、4月6日に出店者へのアンケートを実施し、感染拡大の店舗運営における影響や課題、リモートワークの導入状況などを調査した。その結果も踏まえ、感染拡大の出店者の店舗運営において必要な対応や各店舗の感染防止対策などにおいて、ツール支援、販促支援、資金繰り、オペレーション支援などのサポートをしている。

 3月30日には新型コロナウイルス発生に伴う相談窓口を開設。商品の入荷遅延、在庫不足によるユーザー対応の相談のほか、「資金繰りに問題が出ている場合の出店料はどうすればいいか」など、楽天へ支払いの相談も受け付けた。野原彰人執行役員は「(出店料の減免は)『運営できなくなるほど困っている』ということを定義するのが難しいので一律での対応は厳しいが、相談状況に応じながら私の判断で弾力的に対応している」と明かす。翌日配送サービス「あす楽」対応についても、不可抗力な理由で配送遅延が発生した場合の補償は楽天負担とし、違反点数の加点対象外とする措置を取っている。


 楽天市場の一部出店者で組織する「楽天市場出店者友の会」は4月8日、新型コロナウイルス感染拡大により「多くの出店店舗が店舗運営に支障を来している」として、楽天に出店手数料減免などを求める要望書を書面で提出している。野原執行役員は「特別扱いするつもりは全くないが、いろいろな要望があったので、しっかりと受け止めていく。是々非々で対応していきたい。友の会とは引き続き円滑なコミュニケーションをすることで、店舗が今何を困っているか、どんな方向に向かっているかを当社が理解し、お互いにより良い楽天市場を作っていくということで合意している」と話す。

 ユーザー向けの販促企画は「食べてつながる支援の輪」(=画像)を実施。特設ページに全国各地の食品を掲載したもので、掲載アイテムの購入1商品につき、100円を楽天から感染症対策支援募金に寄付する。すでに「北海道お土産探検隊」(運営は山ト小笠原商店)では例年開催される北海道物産店が中止となって行き場がなくなった商品をまとめた「北海道ふっこう復袋」を販売、人気となっているが「同じパターンの企画が他県でも広がっている。特設ページの露出はまだ足りないと思っているのでもっと集客して販売のお手伝いをしていきたい」(野原執行役員)。

 補助金や助成金を受けやすくするための仕組みづくりも検討。「普通の中小企業の経営者なら断念してしまうほどこれらの申請は面倒。例えば新型コロナで休業した店舗に国はエビデンスを求めるが、ネットは証明が難しいので『ショップが閉店中』とか『売り上げが大きく下がっている』といったデータを提供するなど出店者が公的機関からサポートを受けやすい体制づくりをしていきたい」(同)という。

 また、「楽天大学まなびウィーク」としてオンライン会議システム「ZOOM」を活用した無料のオンライン講座を、4月20~30日まで開催(6面参照)。「店舗がZOOMを活用するきっかけづくりにもなると思う。また、リアルの講座だと『聞くのが恥ずかしい』とあまり質問が出ないことも多いが、オンラインなら質問がどんどん出てくるので、コミュニケーションしやすいツールであることを再確認した。参加者の満足度も非常に高く、『中小企業でもこういうツールを使って効果的にコミュニケーションできるんだ』という気づきも与えられるのではないか」(野原執行役員)。

 野原執行役員は「楽天市場の良いところは『集合知の世界』であること。良いアイデアを店舗から出してもらい、それを当社がつなげていくというのが成長の原動力。今回の新型コロナ問題を奇貨と捉え、こうした取り組みを進めることで楽天市場の良さを深めていきたい」と話す。  「ネット販売は相対的には良い方だと言っていいだろう」と語る野原執行役員だが、外出自粛の影響で、ファッションなど厳しい状況に置かれているジャンルがあるのも事実。野原執行役員は「例えばアパレルは通販以上に実店舗は壊滅的な打撃を受けているわけで、当社としてもこうしたジャンルにどんな支援ができるかは見えてこないのが実情だ」とため息をつく。

 


中止の催事用商品の販売を支援

  無料で通販サイトが作れるサービス「BASE」を提供するBASEでは、新型コロナウイルス感染症拡大の影響をうけて中止となった物産展等の催事・イベントの出店者に対し、オンラインでの催事用商品の販売を支援する取り組みを3月から展開している。山村兼司取締役COOは「これまでは実店舗でしか商売をしていなかった飲食店の出店が増えている。出店するのが簡単で費用がかからず、ネットショップを始めようと思ったその日から通販サイトを開設できるのは、『BASE』にしかない価値だ」と話す。

 人気店や有名店の出店も目立っている。例えば、「予約が取れない店」として有名な、東京・曙橋の焼肉店「ヒロミヤ」では、毎日午後3時から焼肉セットを販売しており、数分で売り切れる人気ぶりだ。非常事態が続く中で、今までは通販に縁が無かった外食店が通販に参入するケースが加速している。「『同業者が使っているから』という理由で出店するケースも多いようだ。ファンが多い店の場合、出店してからすぐにネットでも人気になっている」(山村取締役)。

 こうしたネット販売初心者向けには、受講料無料のセミナーを、毎週月曜日に「ZOOM」で実施している。内容は、アカウント取得からショップ公開までの要点と便利なオプションを紹介するというもので、質問はチャットで受け付ける。

 4月1日からは、売上金の入金日を最短で翌営業日に短縮できる「お急ぎ振込」の利用手数料を無料化した。「お急ぎ振込」は午後10時までに振込申請した分が翌営業日に入金されるというサービスで、申請金額の1・5%となる手数料が4月30日まで無料となっている。新型コロナの影響を受けているショップオーナーのキャッシュフロー停滞解消が目的だ。山村取締役は「こうした事態が長期化することを前提として支援手法を考えていきたい」としており、手始めに手数料無料期間を5月末まで延長するという。

 また、飲食店だけではなく、インバウンド向けホテルなどに商品を卸せなくなり、在庫を抱えて困っている卸業者が出店するケースも増えている。「BASE」はブランドが出店するケースが多く、卸業者がこうした形で活用するケースは想定していなかったという。山村取締役は「今までネットの活用を考えていなかった飲食店の出店が増えていることも含めて、何年か先に起きると考えていた流れが急速にやってきている」と驚く。

 新型コロナの感染拡大を受けて、販売チャネルを一極集中することのリスクを実感している小売り企業は多いようだ。山村取締役は「今回の問題が収束しても、働き方やビジネスのありかた、価値観そのものが変わってくるではないか。販売チャネルについては、ネットだけ、リアルだけというのではなく、どちらも力を入れていく。ネット販売も国内だけではなく越境ECも手掛けるなど、リスクを分散する流れは加速していくだろう」と予測する。

 このほか、主な仮想モールおよびサイト構築サービス運営者支援策の状況については「ヤフーショッピング」「PayPayモール」を運営するヤフーでは3月2日から、一定の水準に達した出店者を優良店と認定して広告の優遇措置などを行うなどする出店者評価指標「ストアパフォーマンス」で新型コロナウイルスに関連する物流業者の配送の遅れが影響していると判断して、出荷の速さや出荷遅延率などの一部項目を一定期間、集計から除外する対応をとっているという。

 「ポンパレモール」ではもともと出店者から基本出店料を徴収していないため、各出店者の店舗運営にかかるコスト負担は軽微とみていることから特別な対応は行っていないもよう。販促では4月は定期のポイント還元企画を実施しており、5月も従来通りの企画を行う予定。  通販サイト構築サービス「STORES(ストアーズ)」を展開するストアーズ・ドット・ジェーピーでは新規利用企業を対象に有料プランの月額費を1カ月分、無償にする取り組みを4月2日から開始。あわせて希望者に同社スタッフが新規申込者のサイト開設を支援する試みも行っている。 

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