NEWS
2018.01.02
2018年にUXデザインを取り巻く7つの変化
先日リリースした「2017年 UXデザイントレンドまとめ」では、去年一年間でUXデザインがどのように変革してきたかを紹介した。それを踏まえ、2018年はそのトレンドがより加速すると考えられる。
その大きな理由としては、ビジネスにおけるデザインの重要性の拡大、テクノロジー面との融合、そしてついにデザインの現場にAIの活用が実現し始めることが挙げられる。
では、具体的にどのような変化が訪れるか、7つのポイントで紹介する。
1. “UXデザイン”の概念が再定義される
ユーザー体験 (UX) を設計 (Design) することを、UX Designと表現される。主にユーザーに商品やサービスを購入してもらい、使ってもらい、使い続けてもらうことを目的により良い体験をデザインすることがゴールとなるが、ユーザーへのタッチポイントの増加やモノよりもコトへのフォーカスのシフトにより、この"体験"と"デザイン"の幅がここ数年で格段に広がってきている。
いわゆる見た目をよくすることから使いやすさの改善に始まり、使っていてなんとなく心地よい、楽しい、面白い、の演出まで、あまりにも多くのシーンで「UXデザイン」が施されるようになってきている。もちろん最終目標はユーザーに満足してもらうこと、そしてビジネスとして利益をアップすることの両立である。
それを考えるとこの「UXデザイン」の重要性は「特定の人々=デザイナーたちだけ」が請け負うには、あまりにも広く深すぎる。かつての「マーケティング」という言葉のカバーする領域があまりにも大きくなりすぎた故に、その単語自体があまり意味をなさなくなったように、UXデザインも、そろそろその定義と役割分担を整理し直すべき時期にきているのかもしれない。
「UXデザイン」という言葉が含む要素を分解すると「リサーチ」「プロダクト」「分析」に分けられるだろう。そしてそれぞれのカテゴリーに含まれる要素は下記になるだろう。
リサーチ
- フィールドリサーチ
- ユーザーリサーチ
- ユーザーインタビュー
- エスノグラフィーリサーチ
- ペルソナ作成
- カスタマージャーニーマップ作成
- 顧客ヒアリング
プロダクト
- ユーザビリティ設計
- タスク分析
- インフォメーション設計
- コンセプトデザイン
- グラフィックデザイン
- インターフェースデザイン
- ヴィジュアルデザイン
- プロトタイピング
- インタラクションデザイン
分析
- ユーザープロフィール分析
- 行動分析
- 価値観分析
- タッチポイント分析
- 利用データ分析
- ユーザーフィードバック分析
- ビジネスプレゼンテーション作成
ざっとリストするだけでもこれだけある。これを見てもわかる通り、一人の「UXデザイナー」がこの全てを請け負うのは到底難しい。むしろスタッフの大部分が「UXデザイナー」的考え方と役割を担う必要すら出てくる。したがって、それぞれのフォーカスポイントに合わせ、例えば「UXリサーチャ」「プロダクトUXデザイナー」「UXストラテジスト」など、UXチームにおけるさらなる役割分担が必要になってくると考えられる。
2. 目的ごとにデザインプロセスの見直しが求められる
一つ前のポイントに関連し、これまで定義されていたデザインのプロセスにおいても見直しが必要になってくる可能性が高い。そもそも、デザインの究極の役割とは何か?それは恐らく、「与えられた制限の中で求められる最大の結果を出すためのプロセスの作成」であろう。そして多くのデザイナーの仕事における最終的なゴールは、デザインを通じて世の中の様々な問題を解決することにある。
そして、デザインの重要性がこれまでにないほど注目されている今、例えばデザイン的考え方=デザイン思考をビジネスに活用するトレンドに代表されるように、世の中の様々な問題をデザインが解決する時代に突入してきている。
これは非常に喜ばしいことなのだが、それと同時にそこに求められるプロセスを今一度冷静に考えてみる必要性も出てきている。これはどういうことかというと、プロダクトのサービス化を実現するサービスデザインや、ビジネスにおけるイノベーションを生み出すことを目的としたデザイン思考など、それぞれの役割に合わせてデザインのプロセスが調整されているということ。
これが例えば、よりクリエイティブな発想が生み出される組織にしたい。会議をより効率的なものにしたい。スタッフの遅刻が減るカルチャーの会社にしたい。などのそれぞれの目的に合わせてデザインのプロセスを再定義する必要がある。その点においては「時代の変化でこれから生まれる8のデザイナー職」で紹介されているプロセスデザイナーという役職が今後より注目を集めるかもしれない。
3. ユーザー体験がブランド形成の主軸になる
これは、最近顧客むけにブランディングサービスを提供していて気づいたことなのであるが、企業やブランドが一方的に発信する「ブランディングメッセージ」というものはすでに時代に適合しておらず、過去の異物になり得ると感じた。これまでは、企業のロゴやコーポレートI.D.、広告やマーケティングキャンペーンなどを通じて、消費者やユーザーに対してのブランド形成が一般的であった。
しかし、ふと考えてみると「うちのブランドはこれを強みとしており、貴方にこんな価値を届けます」と表現するだけでは、あまり意味がない。消費者としてはむしろ「では、実際にそれを体験させてみてよ」と言いたくなる。これは、ミレニアル世代をはじめとして、誰もが簡単に体験を受け取ることのできるこの時代に生きる人たちの視点からすると当たり前の価値観だろう。
逆に企業やサービス提供側からしてみると、ユーザーに対する全ての接点=タッチポイントがそのブランドを形成する要素になり得る訳で、そこに一貫した定義と方向付けが不可欠になる。これをうちの会社では「UXビジョン」と定義し、企業のビジョンとUXの方向性をつなぎ、次世代のブランド構築手段として位置付けている。ちなみに、このUXビジョンに関しては近いうちにブログでも紹介しようと考えている。
4. デザイナーには人工知能 (AI) 技術の活用が求められ始める
2017年一年間を振り返ってみると、人工知能 (AI) に関するニュースがあまりにもあふれていた。人工知能 (AI) の出現でどのような仕事が生まれ、そして失われるのか。どこまでが人間が行い、どこからが機械の役割になるのか。スタートアップ業界においては、「人工知能を活用した○○サービス」が羅列し、すでに我々の日常生活においても、人工知能 (AI) の恩恵が広がっている。など。
では、これをUXデザインのフィールドに当てはめていくとどうなるであろうか?実はとても相性が良いと考えられる。理由として、もっとも優れたユーザー体験は、ユーザーが気づかないうちに彼らが求める結果を「そっと」提供することで時間とストレスの軽減を実現することであるからである。日本語で言うところのいわゆる「お・も・て・な・し」がこれに当たる。
これまではサービス提供側が知恵を絞って顧客に対しての最高のサービスを考えてきた。デザイナーであれば、どのように設計すればユーザーにより喜んでくれるデザインになるであろうかを考え、リーンUXなどのプロセスを通じて短いスパンでリリース、データ収集、分析、改善を行ってきた。
もしこのプロセスの一部、もしくは大部分が機械学習などを活用することでよりユーザーに最適な体験を設計することができれば、デザイナーの目的により効率的に近づくことができるようになる。
今年、2018年の段階でどれだけ人工知能の実装が現実的かは定かではないが、対話型のインターフェースや、音声コマンドによる情報のやり取りなどは、近い将来に来るべき「人と機械のハーモニー時代」を見据えてのデザイントレンドだと考えられる。
これをふまえ、デザイナーが今するべきことは、今後「その先」が人工知能になることを想定したデザインを施し、時代が進むにつれ、少しずつ手作業のデザイン部分が人工知能によって置き換わることを想定する。
例えばアプリであれば、バージョンアップするごとに人工知能の実装部分が増えることにより、より精度の高いユーザー体験を提供するイメージでデザインを考えていく必要があるだろう。これはまるで、産業革命時の職人による完全手作業から一部ベルトコンベアによる自動化へのシフトが始まっているに近い考え方だろう。
5. 流動的なインターフェースが広く普及する
上記に関連して、ユーザーにはよりパーソナルな体験と、時間節約を目的とした機能の実装がどんどん加速すると考えられる。それに合わせて、人と機械をつなぐインターフェースの役割にも変化が訪れる。そもそも一つのインターフェースをさまざなタイプのユーザーに当てはめること自体に無理があり、今まではそこに対して、より精度の高いペルソナ設計やカスタマージャーニーマップ作成を通じてできるだけ「最大公約数」を狙って設計を行ってきた。
そかし、もし今後それが異なるユーザーのタイプや利用シーン、そしてコンテンツ内容によってインターフェースを流動的に変化させることができれば、それぞれにとってより良い体験を提供することも可能になる。例えば、自動車であれば、顔認証でそのドライバーに合わせたシートのポジション、ハンドルの位置、ダッシュボードのデザイン、ミラーの角度、そして社内の香りまでが変化する。そんな体験がどんどん増えれば、次世代のユーザー体験の設計もどんどん可能になる。
これからは「これを取るためにこれを切り捨てる」をしなくてもよくなるかもしれない。
6. 多様性を理解することの重要性がアップする
そして、その異なるタイプのユーザーとは、そのニーズの違いや価値観の違いを理解し、それに最適な体験をデザインすることが重要になってくる。そのために我々は、ユーザーリサーチやフォーカスグループ、エスノグラフィーリサーチなどの手法を通じ、ユーザー理解を進めてきた。
その一方で、世の中の多種多様なユーザーの考え方を理解するのにもっとも重要なのは、そのチーム自体に多様性があること。ここは実は日本企業がもっとも苦手とするところで、いわゆる「日本人的価値観」で考えれば一目瞭然な事柄でも、世界のユーザーからは全く理解されないケースも少なくはない。
例えば、クリスマスシーズンになれば、サンタと"Merry Christmans"の文字をあしらったキャンペーンを打つことが当たり前だと考えてしまうが、実はアメリカではこれに対して違和感をもつユーザー (非キリスト教) もいることから、彼らを気遣い、"Merry Christmas"の代わりに"Happy Holidays"を使うことが多くなってきている。このようなアイディアもチーム内にそのような発想を持っているスタッフがいないと気づかなかったりもする。
より良い体験を作りたければ、多様性のあるチーム作りから。これは多くの企業における2018年の一つのテーマとなるかもしれない。
7. デザインでストーリーを届ける時代に
冒頭にデザインの役割は、問題解決におけるプロセスと説明した。が、実はこれも時代が進むにつれ、変わってきているかもしれない。というのも、多くの問題がすでに解決され、どんどん便利になっていく世の中で、問題を解決するよりも、ユーザーを正しい方向に導いたり、心に響く体験を提供したりなど、いわゆる「ストーリー」を通じて体験を提供する事で、ユーザーの満足度と企業の業績をアップさせることも可能であるからだ。
Airbnbのサービスはまさにストーリーテリングをユーザー体験の核としており、新しい機能やサービスを考えるときには必ずストーリーボードを使って説明するようにしているという。Airbnbのアプリを使ってみると綺麗にストーリーが届けられているのがわかる。
日本の例だと星野リゾートの躍進も顧客に対してサービスのストーリーをしっかりと体験として落とし込んでいるところが成功の鍵となっていると思われる。ディズニーランドはその最たるもので、問題解決とは異なるベクトルのデザイン活用方法である。
こう考えてみると、以前に「デザインとアートは全く違う」と説明したこともあったが、これも若干怪しくなる。デザインを通じてストーリーを体験としてユーザーに届ける。そこの裏には多少なりともアートの領域も隠されているかもしれない。今後デザイナーにはより広い視点と、多種多様な文化的背景が求められるかもしれない。
筆者: Brandon K. Hill / CEO, btrax, Inc.