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2019.09.17
【2020春夏ニューヨークコレクション ハイライト1】パステルとヴィヴィッドなネオンカラーでポジティブに オプティズム(楽観主義)が力強いトレンドに
ニューヨークでは9月5日から11日まで、2020春夏コレクションとなるニューヨークファッションウィークが開催された。シーズンごとに縮小していく規模に対応して、今季は一日短い7日間の開催となった。メイン会場はトライベッカにあるスプリングスタジオで、その他ブランドによってさまざまな場所で繰り広げられた。
多くのブランドがショーを取りやめているニューヨークファッションウィークだが、一方では「ラルフ ローレン」、「トミー ヒルフィガー」、「マイケル・コースの」のような大物が大規模なランウェイを打つなど、ブランドとしての底力を感じさせた。そんな2020春夏コレクションからハイライトをご紹介しよう。
今季に多く感じた空気感のひとつがオプティズム(楽観主義、前向きな考え方)だ。アメリカの世相は必ずしも明るくないのだが、デザイナーたちがこぞって打ち出しているのはオプティミスティックで希望ある世界観だ。
シルエットはリラックスした方向性にむかっていて、ゆったりとしたラインや膨らんだ袖が主流をしめる。カラーパレットも美しく、柔らかなパステルカラーと、ヴィヴィッドなネオンカラーが目を奪う。まずオプティミスティックでフェミニン、装飾やフェスティブなディテールを提案したブランドをまとめて紹介していこう。
トリー バーチ(TORY BURCH)
「トリー バーチ」が2020春夏コレクションのランウェイの会場に選んだのは、ブルックリン美術館だ。館内に緑をあしらった作ったセットは、あたかも庭園のよう。今季のテーマは「ダイアナ・スペンサー」、すなわち故ダイアナ妃だ。といってもダイアナ妃のルックをそのままなぞったものではない。
ファーストルックは白のロングドレス、トリー・バーチ自身が見つけたアンティークのハンカチーフにちなんだというハンカチーフモチーフが施されており、足元はスニーカーと軽快だ。イングリッシュガーデンを思わせる小花プリント、パフスリーブ、大きなリボン、ゆったりとソフトなシルエットのワンピースなどは、ダイアナ妃が若かった頃の英国レディスタイルを思わせる。
またハーレムパンツやワイドパンツ、ソフトなバルーンシェイプのブルゾンは、80年代調を感じさせる。レザーとギャバジンを合わせたトレンチコートやダブルブレストの白いパンツスーツがマスキュリンな一面を添える。スタイリングはウエストを幅広いサッシュでマークする着こなしが強調されていた。
カラーパレットはメロン、ラベンダー、レモンなどの繊細なパステルカラーと、クリーム、ホワイト、カーキ、ネイビーといったネイチャーカラーをミックスしている。レディライクをアップデイトした明るいコレクションとなった。
セルフポートレイト(self-portrait)
「セルフポートレイト」の2020春夏コレクションは、前シーズンに比べると、シンプルでリラックスした方向にシフトした。
大きく開いた襟もとや、ビスチェでセクシーさも出しながら、全体的にゆったりとリラックスしたシルエットが多い。Aラインのデイタイムドレスや、たっぷりしたシルエットのドレスが多いのも、今まで「夜のゴーイングアウト」のイメージが強かった同ブランドにとって新しい方向だ。
カラーパレットは定番のブラックの他、カーキがキーカラーで、フューシャピンク、ライラック、スカイブルーが投入されている。プリントはなく、ボールドカラーでの展開だ。
「セルフポートレイト」のシグネチャーであるレースは健在で、レースのドレスやショーツの裾などに施された。またフリルも多用され、エンパイアウエストのトップスやドレスにもフリルもたっぷりあしらわれ、リブ編みのボーダーニットドレスにもフリルが飾られた。素材ではコットンポプリンが多く登場して、張りのあるクリスプな仕上がりが春夏らしさを演出した。
アリス アンド オリヴィア (alice+olivia)
「アリス アンド オリヴィア」のプレゼンテーションは、ライラックの咲く丘に寝そべる女の子たちやピンクの雲の上でブランコに乗る女の子たち、あるいは巨大な花園、熊のヌイグルミが敷きつめられた部屋など、まさにガールズドリームを絵に描いたようなセットで行われた。そこに南仏風フラワープリントのロマンティックなドレスや、繊細な白レースのドレスなど、「アリス アンド オリヴィア」らしいフェミニンなピースが並ぶ。
今季、特に目を引いたのは、ネオンカラーのボールドなシリーズだ。ネオンカラーのカラーブロックのボリュームスカートやハイウエストのワイドパンツ、サテン地のスカートやスリップドレスなど、80年代~90年代を彷彿とさせるスタイルが提案された。
トモ コイズミ(TOMO KOIZUMI)
先シーズンにエディターのケイティー・グランドに見出され、ニューヨークコレクションに鮮烈なデビューをした「トモ コイズミ」。メトロポリタン美術館で開催されている「キャンプ」展にも作品が展示されているほど、脚光を浴びている。今季もマークジェイコブスがマディソン街の店舗を提供して、プレゼンテーションを発表した。メイクはパット・マグラス、ヘアはグイード・パラウというドリームチームだ。
トランスジェンダーのモデル、アリエル・ニコルソンが、3人の着つけアシスタントをつけながら、次々と7つの衣装を着替えていくというパフォーマンス形式で披露した。ポリエステルオーガンザの細かいフリルで作りあげられたピースは、そのカラフルな色彩と手の込んだ質感で、観客を魅了した。
タダシ ショージ(TADASHI SHOJI)
「タダシ ショージ」の今季のテーマは、真正面から扱った「日本文化」だ。
日本の伝統的な曲をBGMにして現れたファーストルックは、キモノスタイルの打ちあわせに仕立てたキモノ・ドレス。漆器の装飾モチーフを刺繍で施したり、北斎が描いた波がドレスのプリントとシルエットで再現されたり、日本画調のフラワープリントが施されたロングドレス、帯にヒントを得た結び目などで表現された。チュールに花の刺繍を施したドレスもいくつも登場したが、その刺繍も日本庭園を彷彿とさせる。
シャーリングを使ったピースも多く、3人のプラスサイズモデルが登場したが、ふくよかな曲線を魅力的に見せるタダシの強みがいかんなく発揮されていた。
アナ スイ(ANNA SUI)
「アナ スイ」の2020春夏ランウェイは、コーラルやアプリコットといった春らしい色彩パレットでスタート。その後もミントやベイビーブルー、ライラックといったパステルの色彩が展開された。
薄いシフォンをレイヤードしたルックが多く、すべて軽やかでエアリーだ。クラシックな花柄やパフスリーブ、立ち襟のレースブラウスなど、ビクトリア調を感じさせるモチーフも多い。従来の「アナ スイ」よりもガーリーで、スイートなコレクションとなった。
アディアム(ADEAM)
前田華子が率いる「アディアム」は、「ヨコハマ」をテーマにコレクションを打った。
ランウェイにはマリーンをモチーフにしたストライプやセーラーカラーが登場。エンジェルヘアーコットンのニットはオイスターベージュ、アクアブルー、ネイビー、テラコッタで展開される。ボタンで留め外しができる袖になったニットは、ボタンを少し外すことで肌を見せられ、それにテイラードのパンツやセイラージャケットを組み合わせて見せた。
イヴニングドレスはパールやクリスタルで飾られたピースが披露され、ピーチ色のオーガンザドレスが美しさを添えた。
マーク ジェイコブス(MARC JACOBS)
ニューヨークファッションウィーク最終日のトリを飾った「マーク ジェイコブス」。パークアベニューにある巨大なアーモリー(元造兵庫)を使った会場では、それぞれ異なる形の白いチェアを配置。奥のほうに客席を作り、反対側の入り口から、いっせいにモデルたちが現れて、笑いさざめきながら近づいてくる。カラフルな色彩、フリル、グリッター、フラワープリント、ふわふわの塊。とてつもなく明るいカーニバルのような集団が観客の脇を通りぬけて、後ろの楽屋に。これだけでフェステイバル感が一気に昂揚する。
それからあらためてモデルがひとりずつキャットウォークしていったのだが、モデルたちの歩き方や態度も、ボブ・フォッシーのミュージカルを見ているようだ。
サンローランやカール・ラガーフェルド、アニタ・パレンバーグなど、スタイルアイコンたちに捧げたルックも多い。レモンイエローの三つ揃いパンツスーツ、ダサかわセーターにコーデュロイのハーレムパンツ、メタリックパンツにTシャツのサーファールック、ケリーグリーンのグランマスーツ、紫のグリッターパンツスーツ、オーガンジーの花だけでできているようなふわふわのドレス、ゴールドのロングドレス。半分だけ生足が出たジーンズというトリッキーなピースも登場した。
パンツスーツはアンドロジナスなスタイルを、そしてドレスは極端にオーバーサイズで、マキシ丈のボリュームあるシルエットを提案。ジジ・ハディッドはベイビーブルーのニットミニドレスをまとい、裸足でウォーキングをしてみせた。多くのルックでは中折れ帽など帽子をスタイリングしており、トランスジェンダーな雰囲気を醸し出す。
デザイナーノートには「人生、喜び、平等、個性、楽観主義、幸福、耽溺、夢、未来の祝福」と書かれていたが、まさにダイバーシティーと個性を前面に打ち出した、生きる喜びを感じさせるショーだった。