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2019.09.18
【2020春夏ニューヨークコレクション ハイライト2】ニューヨークの大物デザイナーが訴える「ダイバーシティー」「ジェンダーレス」「明るい未来がある世界」
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ニューヨークでは9月5日から11日まで、2020春夏コレクションとなるニューヨークファッションウィークが開催された。ショーの中からハイライトで第2弾をお届けしよう。
今季のもうひとつの大きな流れが、リラックスとジェンダーレスだ。よりシンプルなスタイル、ストロングショルダーのパワースーツ、ユーティリティ、そしてノージェンダーのコンセプトが多く見られた。いよいよ2000年代に生まれたジェネレーションZがファッションの購買層になってくる時代だ。ジェンダーレスな装いやコンセプトはより広がって行くだろう。
ここではアメリカンスポーツウェアを土台にしたブランドを紹介していく。
ラグ&ボーン(rag&bone)
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3年ぶりにニューヨークファッションウィークのステージに戻ってきた「ラグ&ボーン」は、ファッション、音楽、最新テクノロジーを融合したショーを披露した。
テーマは「コントラストと視点」。メンズ、ウィメンズを同時に発表し、アメリカのワークウェア、ブリティッシュテーラーリング、ミリタリー、スポーツなどを盛りこんだ、「ラグ&ボーン」の原点ともいえる世界を見せた。
意図的に性別を定義することを避け、メンズとウィメンズのアイテムを両方ミックスしたルックを提案した。なかでも目立っていたのは、バランスを大きく変えたチルデンセーターでクロップ丈のもの、オーバーサイズのものが、ウィメンズ、メンズともに登場する。
スカーフのように軽やかな素材に線のモノクロのグラフィックを施した素材はドレス、スカートに使用された。また日本のセルビッチデニムがジーンズやシャツに展開された。
3.1 フィリップ リム(3.1 Phillip Lim)
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「3.1フィリップ リム」は、ブルックリンでメンズとウィメンズの合同ショーを開催した。
ファーストルックはイエローのテック素材を使ったロングドレスとブルゾンで、ユーティリティでありながら、フェミニンさも表現。機能性をモードに落としこみながら、メンズとウィメンズをリンクさせつつ、ニュアンスで変化をつけてみせた。続くルックもリラックスしたパンツスタイルやミディ丈が多い。
テーラーリングも軽やかだ。ユーティリティはデイウェアとイブニングウェアで新しいシルエットを表現して、明るい女性らしいシェイプにメンズウェアのユニフォームを合わせている。
メンズコレクションの柄はラウシェンバーグや古いポストカードから着想を得たという。またリゾートシーズンから引き続き、40%のサスティナブルな努力も試みているのも大きな特徴だ。
トミー ヒルフィガー(TOMMY HILFIGER)
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久しぶりにニューヨークに戻ってきた「トミー ヒルフィガー」は、伝説のアポロシアターでランウェイを披露した。ゼンデイヤとのコラボである「TOMMY X ZENDAYA」のコレクションで、シーナウ・バイナウとなる。
屋外に設けられたランウェイには、楽器を弾くミュージシャンたちやオープンカーが並べられ、ファンキーな雰囲気だ。そこに登場するモデルたちもソウルトレインのように踊りながらキャットウォークする。
70年代を彷彿とさせるベルボトムパンツスーツに、オーバーサイズのボウタイシャツ、ハウンドトゥースやスネーク柄、そしてメタリックニットやメタリックのドレスなど、強くてセクシーな女性像を打ち出した。
ザ ロウ(THE ROW)
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アシュリー・オルセンとメアリー=ケイト・オルセンが手がける「ザ ロウ」は、トライベッカにある白いミニマルな空間で、ランウェイを打った。
その空間と同じく登場したのはミニマルで静謐(せいひつ)なルックだ。ファーストルックはブラックのボクシーなシャツに、ストレートで若干クロップ丈のパンツの組み合わせ。続くルックもブラックのジャケット、ロングコート、そして白のジャケットとミディスカートといった徹底的にミニマルなスタイルが繰り広げられる。どのピースもプロポーションが磨きぬかれていて、シルエットが美しい。
ジッパーファスナーの立ち襟のジャンパーやシャツ、オーガンザやベルベットにフローラルなカットアウトを施したドレス、ワニ革をエンボスしたレザーのセットアップやコートが新しさを添えた。ブラックとホワイトの他、サンドベージュ、爽やかなスカイブルーも色彩パレットに加わった。
マイケル・コース(MICHAEL KORS)
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「マイケル・コース」は、ネイビーヤードにある巨大なイベント会場で、メンズ、ウィメンズ合同のランウェイを打った。合唱団が歌う明るい「アメリカンパイ」のメロディに乗ってランウェイが始まった。そこに現れるのは、明るく希望に満ちたアメリカだ。
ファーストルックは前が大きく開くようにデコンストラクトしたトレンチコートで、ネイビーとベージュ、ホワイトを中心にしたプレッピーなルックが続く。キールックが、美しく立体的に作られたマトンレッグスリーブのジャケットで、ボリュームスリーブのニット、パワーショルダーのジャケットなど、袖コンシャスなルックが展開された。
アメリカ愛を反映した星条旗のシンボルである星のビス打ち、また錨のビス打ちを施したピースもキーモチーフとなっている。
ドレスはフリルをあしらい、ぴったりと体の曲線に沿うフェミニンなスタイルを提案。水玉、ギンガム、そして定番の小花プリントで装う。さらに古き良きアメリカを彷彿とさせるレモンやサクランボのモチーフも登場して、ドレスやシューズに落とし込まれた。
ジャケット類はウエストをベルトでマークするスタイリングで演出。ラストのイブニングドレスはきらめきを放つスタイルで、ゴージャスさを添えた。
メンズでも同じく錨のビス、ストライプ、チルデンセーター、アーガイルのモチーフが用いられた。メンズ、ウィメンズともに現れた“HATE(ヘイト) ”に否定マークを入れたカシミアセーターには、マイケルコースが「ヘイトのない世界」を提案していることが伝わってくる。
ラインウェイの最後には「ラブトレイン」が歌われ、気持ちをポジティブに持ちあげてくれるショーだった。
“ポジティブでいよう!” ニューヨークのデザイナーたちが多く訴えていたのが、このメッセージだと感じた。アメリカのデザイナーたちはきわめて政治に積極的だが、2020春夏は次の選挙に向けてのシーズンとなる。彼らが贈りたいイメージは、ダイバーシティーがあり、ジェンダーレス、そして明るい未来のある世界ではないかと感じられた。恐れと排他主義からシフトしようとするデザイナーたちの意志を感じさせるニューヨークコレクションだった。
取材・文:黒部エリ