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2014.09.17
「キーワードは“不易流行”」 ケイオス澤田充代表が語る商業施設論
樋口尚平の「ヒントは現場に落ちている」 vol.9
前回までは、関西一円の様々な商業施設の現状を基にコラムを書いてきたが、今回は少し趣向を変えて、商業施設の開発に携わる人物のインタビューをベースに、その在り方や変遷について考えてみたい。大阪では有名な商業施設「イーマ」や「なんばCITY」のリニューアル、「グランフロント大阪」など複数の商業施設の開発、コンセプト作り、リーシングに携わったケイオスの澤田充(さわだ・みつる)代表取締役である。流通の現場に精通しておられる方で、私自身の商業施設に関する知識や志向を確認、リセットする意味も兼ねて、久しぶりにお会いした。
過去20年間で様変わりした流通の現場
私が澤田氏に初めてお会いしたのは、2002年4月の「イーマ」の開業時。大阪・梅田に開業した同施設は当時、新進気鋭のファッションビルで、「ユナイテッドアローズ」や「ジャーナルスタンダード」「エディション」といったセレクトショップの有力店舗や、革製品を扱う「クエルクス」などエッジの利いたテナントが数多く集積していた。あれから12年余、関西圏にも多くの商業施設が開発されたが、その頃から現在に至るまで、流通の現場はどのように変わってきたのだろう。
「商業施設は“不易流行”(ふえきりゅうこう)だと思います。施設を造る時は、時代性や場所、流行を加味するので、そうしたあらゆるものをインプットすると自ずと出てくる答えは施設ごとに変わってくる。過去20年間で、商業施設を運営するプレーヤーも変わりました。今では電鉄系、不動産系、百貨店系とバラエティーに富んでいます」
「イーマ」が開業した同じ年に、東京・丸の内ビルディング(丸ビル)が開業している。飲食店舗が全体の40%を超える高い比率で、それまで平均的だった比率5%を大きく上回っていた。
「2002年に丸ビルが出来てから、商業施設に占める飲食店の比率が増え出しました。物販面積の5%くらいで推移していた割合が、丸ビルは40%を超える比率に増え、業界的にとてもインパクトがありました。その半面、駅ビルはそもそも飲食主体だったものをファッション、物販主体に変えてきた流れがあります」
丸ビルの立地環境はオフィス街で、元々、持っているDNAはオフィスワーカー需要。それは「ランチ需要」と「接待需要」だという。そうした需要に目的性を加え、40%超の飲食テナントを集積したということらしい。
「現在の流れを汲む過渡期として、丸ビルが開発されたと思います」と語る澤田氏。飲食テナントが注目される昨今の土壌はこの頃から形成されてきたようだ。実は「イーマ」も開業時、飲食店が21店(物販が26店)と40%を超えている。オフィスワーカーが多いという点で梅田も丸の内と共通点があったということか。
東京・丸ビルが飲食テナント注目のきっかけに
では、昨今どうして飲食関連テナントに対するメディアの注目度が高いのか。ファッションで同質化が進んでいることも背景にある。飲食は同じ企業でも異なる業態を開発・展開しているケースが多いため、エンドユーザーから見れば目新しく見えやすい面があるという。
「メディアがそうした流れを作ってきた面もあるでしょうが、現代は情報の消費社会なので、常に新しいものを求めていく風潮が強いと思います。アパレルメーカーもセレクトショップも新しいものを作ろうと工夫しているが、飲食の方が生活者に対するアピール度が高いのではないでしょうか。テレビメディアはエンドユーザーがすぐに反応する内容の番組を作る傾向が強いと思う。だから飲食関連テナントが注目される割合が多いのでは? 一方、テレビ離れ、雑誌離れも進み、SNSなど自分たちのネットワークを通じて情報を収集しているエンドユーザーが増えたことにより、マス媒体の推すファッションに興味をいだかなくなっているのではないでしょうか。特にファッションでは、自分らしいブランドを選ぶ傾向にあると感じます」
一方アパレルでは、雑貨を絡めた“ライフスタイル型”のショップも増えてきたと感じている。カフェや雑貨を取り入れるケースも多々あるし、商業施設自体がそういうテナントを取り込んでいく流れも見られる。
「新しい業態開発は来店頻度の向上につながりますが、現在はそれを飲食が担っている。しかし昨今のセレクトショップも陳腐化しないために、努力して色々な業態を開発しています。今までは本ラインの別業態やスピンアウト型のショップが多かったが、様々な切り口を提案できるライフスタイルを打ち出すようになりました」
澤田充代表取締役
ようやくマス化した「コト消費」
商業施設の変遷は常々、「“モノからコト、コトから人”だと思っている」と語る澤田氏。マーケティングの世界では20年以上も前から次は「コト消費」だと言われていたという。しかし、その新しい発想がエンドユーザーに浸透しマス化するまで、かなりの年月を要したようである。
「今まさに小売りの現場で『コト消費』が起こっているが、業界の最先端のトレンドと比べると20-30年ものタイムラグがあると感じる。当時はニッチだったコト提案がようやくマス化したということでしょう。自身の経験で興味深いのは、かつて商業施設へ提案する企画の中で『コト消費』を盛り込んでいたのですが、当たり前になり、とりわけて強調しなくても自然に入り込んできた頃になって、それを実行するだけの市場環境が整い、エンドユーザーに訴求するポイントになった。時代が変化していくことと、生活者が実感するのには時差があります。かつて7-8年前にパンケーキ屋をやっていた人がいるが、その方は『早過ぎた』と言われていた。こういう話は結構よくあることです」
不易流行、変化しない部分を持ちつつ新しい流行を取り入れていくことを指す四文字熟語だが、商業施設に当てはめると、コンセプトは維持しつつ、トレンドに見合ったテナントを随時、導入していく――という風にも解釈できる。そういう見地から再度、商業施設を見直してみることにしよう。
樋口 尚平
ファッション系業界紙で編集記者として流通、スポーツ、メンズなどの取材を担当後、独立。 大阪を拠点に、関西の流通の現場やアパレルメーカーを中心に取材活動を続ける。
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