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2025.01.19

【2025秋冬ピッティ ハイライト】ラグジュアリー&コンフォートがメイントレンド

Courtesy of Pitti Imagine

 

 第107回ピッティ・ウオモが2025年1月14日から17日までフィレンツェのフォルテッツァ・ダ・バッソで開催された。今回のテーマは“火(FIRE)”。メイン館前の広場には、火を映し出したデジタルパネルのインスタレーションが設置された。

 ピッティ協会の発表によると、総来場者数は約 20000 人、うちバイヤーは約13000人(海外バイヤーは+6.5%)となった。出展ブランド数は789で、そのうち45%が海外からの出展だった。

 

 今回の目玉イベントはゲストデザイナーによる2つのショー。15日には「エムエム6 メゾン マルジェラ(MM6 Maison Margiela)」、16日には「セッチュウ(SETCHU)」がランウェイショーを開催した。

 

 

ゲストデザイナーによるランウェイショー

 

エムエム6 メゾン マルジェラ(MM6 Maison Margiela)

 「エムエム6 メゾン マルジェラ」はオルティコルトゥラ庭園の中にあるガラス張りの温室にて初のメンズコレクションを発表。メンズ服の祭典であるピッティ・ウオモでの舞台に、テーラードアイテムをメインとしたメンズの基本的なワードローブを同ブランドらしく再考した。

 

 テーラードジャケット、ボマージャケット、トレンチコート、デニムジャケットとパンツ、マックコートなどのアイテムがフェイクファーからスエード、レザーまで、さまざまな素材とテキスタイル加工で再現されている。

 

 その際のインスピレーション源となったのが、カリスマ的ジャズミュージシャンのマイルス・デイヴィス。デザインチーム曰く「自分を投影し、他人に自分についてわからせるための服」という姿勢を、自分をファッションでアピールする術を理解していたデイヴィスのスタイルと重ねている。そこには彼のアイコニックなスタイルとメゾンのDNAからインスピレーションを受けた黒いサングラス、シャツやジャケットに施された星のプリント、パゴダショルダー、そしてルレックスのきらびやかなスーツなども象徴的に表れる。
 
 
 
 コレクションは「エムエム6 メゾン マルジェラ」の集大成的なコレクションではあるものの、単にアーカイブを集めたものではないとデザインチームは言う。そこにはブランドのヒストリーから引用したベルクロストラップのハイトップ、デイヴィスを連想させるトランペットバッグ、バイカーケースやバイカーヘルメットなどアクセサリーでブランドらしいひねりを利かせている。また「アニェル(Agnelle)」とのコラボレーションによるモジュラーグローブも各所に登場した。

セッチュウ(SETCHU)

 一方、「セッチュウ」はフィレンツェ国立中央図書館にて初の(そして桑田悟史デザイナー曰く最後の)ランウェイショーを行った。“I want less, and less than that(もっと少なく、そしてそれよりも少なくしたい)”というテーマで、「セッチュウ」の核心である究極の削減、そして1枚の折り紙から生まれる2Dを3Dにする世界観、そこに織り込まれる東西の文化、さらに各ピースをさまざまな方法で使用する多機能性を追求した変形アプローチといった「セッチュウ」のキーワードがショーピースとして披露された。

 

 正方形を出発点に、短くできるサファリジャケットやコート、正方形のパネルに拡張できシャツやブレザー、裾を内側に折り込むことができるフロックコートなどが登場。また桑田がバックグラウンドを持つロンドンのサヴィル・ロウで最も古いテーラーである「デイビス&サンズ(Davies & Sons)」と協業し「セッチュウ」らしい折り紙のアイデアが生かされ小さく畳めるようにプリーツが施されているモーニングスーツ、金ボタンのブルーのダブルブレストブレザー、テールジャケット3つの特注品もある。紙、コットン、サトウキビのリサイクル繊維で作り、日本の炭のイメージで染めた軽量のデニムなどサステナビリティのアプローチも見られる。

 

 さらに「源氏物語をセッチュウで作ったらどうなるか」というアイデアから生まれたと言う、源氏物語を同性愛的に解釈した着物風のシルクジャカードのミニドレスや、「死んだタコに形が似ている」と言うところからペニスの形をつなげたレースのドレスなど、ショーならではの華やかで遊び心あるピースも登場する。カラーパレットは白&黒が多く使われているが、これは色や映像に溢れる現代のスマートフォン社会に対し、かつての白黒印刷で情報が伝えられていた時代への思い、ひいては消費社会への警鐘も暗喩されている。また約600万の蔵書がある会場となったフィレンツェ図書館からのインスピレーションでもあるとか。

 

 ショーの後は、2階で桑田のデザインインスピレーション源を19のキャビネットを使ってプレゼンテーション形式で展示。ナプキンを使った折り紙の仕組み、タコの死骸から生まれた男根モチーフレースと春画、趣味である釣りの関連品と魚型のリップ、襟など取り外しができるピースとガンダムのプラモデルを並べて展示するなど、思わず微笑んでしまうようなほっこりしたコレクションの謎解きがなされる。ショーの前には「このショーは皆様への感謝をこめて、楽しんでもらえるものにしたい」と語っていた桑田のおもてなしが現れていた。

 

JFWとのパートナーシップにより日本ブランド進出が増加

  • 「Jクオリティー」

  • 「Jクオリティー」

  • 「Jクオリティー」

  • 「Jクオリティー」

  • 「Jクオリティー」

 今回から一般社団法人日本ファッション・ウィーク推進機構(JFWO)とのパートナーシップが結ばれたことを受けて、日本ブランドのますますの進出が見られた。5回目を迎え存在感を確立した感のある「Jクオリティー」は、カジナイロン、エミネントスラックス、谷繊維が初参加したのに加え、コート専門としては珍しい青森工場で作られた「100年コート」や「青森ダウン」を発表した三陽商会の「サンヨーコート」をゲストブランドに迎えた。

 

  • 「ジャパン・レザー・ショールーム」

  • 「ジャパン・レザー・ショールーム」

  • 「ジャパン・レザー・ショールーム」

  • 「ジャパン・レザー・ショールーム」

  • 「ジャパン・レザー・ショールーム」

 今回は、廃棄素材をアップサイクルした谷繊維、ストック品を製品染めして新しい商品として提案する内田染工場など、サステナビリティをテーマとした新しい取り組みにも挑戦した。また、経産省のサポートによる「ジャパン・レザー・ショールーム」は今回6ブランドが参加。昨年、日本のレザーブランドで初めてサステナビリティのグローバル認証「B コープ」を取得した「エイチ・カツカワ(H.KATSUKAWA)」や、原料から製造まですべて日本製で作られた、柔らかく、薄い仕上げにも耐えうるレザーでトータルファッション展開する「エーレザー(A Leather)」などが展示を行った。

 

  • 「ハイドサイン(HIDESIGN)」

  • 「ハイドサイン(HIDESIGN)」

  • 「ハイドサイン(HIDESIGN)」

  • 「ハイドサイン(HIDESIGN)」

  • 「ハイドサイン(HIDESIGN)」

 さらに「ハイドサイン(HIDESIGN)」がそのコンセプトや素材開発を伝えるビデオインスタレーションとミニショー形式によるコレクションを発表した。

 

 

メイントレンドはラグジュアリー&コンフォート 温暖化への対応も

  • 「サルトリオ(Sartorio)」

  • 「マッキントッシュ(MACKINTOSH)」

  • 「マヌエルリッツ(MANUEL RITZ)」

  • 「イートン(Eton)」

  • 「ヘルノ(HERNO)」

 かつてはクラシコイタリアの王道だったピッティ・ウオモがカジュアル化、多様化方向に向かってから久しいが、昨今のクラシックやエレガンスへの回帰傾向から、ラグジュアリーで品の良いコンフォート志向がさらに進んでいるように思う。それはトラディショナルとイノベーションの融合で、見た目には高級感がありながら実は機能性で快適、という提案だ。テーラードアイテムの外側はカシミアなどの高級天然素材ながら、内側には防水、防寒機能をもったテクニック素材を使用する一方で、スポーティアイテムに天然素材を使用したり、またはテーラードジャケットにフードなどのカジュアルなディテールをつけたり、スポーツウェアにグレンチェックなどのクラシック柄を使ったり。そんな伝統とスポーツの融合の象徴として、英国風カジュアルをテーマと挙げるブランドも多かった。

 

  • 「ディーベック(D-VEC)」

  • 「ディーベック(D-VEC)」

  • 「ディーベック(D-VEC)」

 また多くのブランドが温暖化対策のために、アウターはより素材を薄くしたり、通気性を持たせたり、ニットにはウールやカシミアを綿混にするなど、本格的な冬が短い分、夏の終わりや春先まで長い期間提案できる3シーズンアイテムを積極的に打ち出している。同時に、モードのトレンド同様に、ピッティでもジェンダーレスやユニセックスの傾向がより進んでいるが、それによってより購買層を広げるための戦略の一環でもあるのではないか。

 

  • 「カルーゾ(CARUSO)」

  • 「ブルネロクチネリ(Brunello Cucinelli)」

  • 「エコアルフ(ECOALF)」

  • 「ロベルトコリーナ(ROBERTO COLLINA)」

  • 「セッテフィーリ カシミア(Settefili Cashmere)」

 春夏に続き、2025秋冬もパンチのきいたカラーが重要視され、今年はさし色としてバーガンディを軸に、テラコッタやアンティークローズ、ダークレッドからパープルまでのレンジが多くみられた。

 

取材・文:田中美貴

 

田中 美貴

大学卒業後、雑誌編集者として女性誌、男性ファッション誌等にたずさった後、イタリアへ。現在ミラノ在住。ファッションを中心に、カルチャー、旅、食、デザイン&インテリアなどの記事を有名紙誌、WEB媒体に寄稿。apparel-web.comでは、コレクション取材歴約15年の経験を活かし、メンズ、ウイメンズのミラノコレクションのハイライト記事やインタビュー等を担当。 TV、広告などの撮影コーディネーションや、イタリアにおける日本企業のイベントのオーガナイズやPR、企業カタログ作成やプレスリリースの翻訳なども行う。 副業はベリーダンサー、ベリーダンス講師。

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