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2025.01.21
【2025秋冬ミラノメンズ ハイライト1】新進気鋭が新しい風を吹き込む
写真左から「ドルチェ&ガッバーナ」「プラダ」「エンポリオ アルマーニ」「マリアーノ」
2025年1月17~21日、「2025秋冬ミラノメンズ・ファッションウィーク」が開催された。イタリアファッション協会の発表によると、20のショー(うち4つがデジタル)、41のプレゼンテーション、7のイベント、計68の発表が行われた。
今回はミラノデビューとなる「ピエール ルイ マシア(PIERRE-LOUIS MASCIA)」がショーとしてのオープニングを飾り、「ゼニア(ZEGNA)」が今回もフィジカルショーの幕を閉じた。
今シーズンは「グッチ(GUCCI)」、「エトロ(ETRO)」、「ディースクエアード(DSQUARED2)」、「モスキーノ(MOSCHINO)」、「ジェイ ダブリュー アンダーソン(JW ANDERSON)」など2月のウィメンズファッションウィーク中にメンズ・ウィメンズ合同ショーを予定しているブランドが多く、また「フェンディ(FENDI)」も100周年の大イベントを2月に行う予定のため、多くの大手メゾンを欠いたカレンダーとなった。
その一方で、前出の「ピエール ルイ マシア」のミラノデビューに加え、ロンドンからミラノに発表の場を移した「サウル ナッシュ(SAUL NASH)」、そしてこれまではプレゼンテーションを行ってきた「ピーディーエフ(PDF)」や「プロナウンス(PRONOUNCE)」がショーを行うなど、新進気鋭のブランドたちがミラノに新しい風を吹き込んだ。
さて、ハイライト1では、そんなミラノ初登場の旬のブランドと、ミラノメンズの先端モードブランドを中心に紹介する。
プラダ(PRADA)
今シーズン、お馴染みのミラノのプラダ財団の会場には、インダストリアルな鉄骨構造による3階建てのランウェイが組まれた。これは床にひかれた、衣装デザイナーのキャサリン・マーティンによる、柔らかで上質なカーペットとコントラストをなしており、これらの何の関係性もないマテリアルが共存するセットは、テーマである“UNBROKEN INSTINCTS(揺るぎない本能)”をテーマとするコレクションにつながる。
このテーマのもとに今回のコレクションでミウッチャ・プラダとラフ・シモンズは、根本的な創造性のツールとして人間の本質や基本的な本能を探求したのだとか。そんな学習されていない自動的な反応、原始的な衝動によって作られるがゆえに、想定外のコントラストが発生するが、それが予期せぬ魅惑的な組み合わせをもたらしているのがこのコレクションの特徴だ。
オーセンティックなテーラードジャケットやコートにシアリングのボウやラペルをあしらってゴージャス感を加え、体にフィットするニットウェアには、野球やバスケットのボール、アーカイブからの引用の錨など、意味を持たない金属のシンボルがお守りのようについている。(シルクではなく実はレザー製の)パジャマにグラムロックのテイストのチェックのコートをあわせたり、90年代風のボリューミーなダウンをダブルで重ねてスリムなスラックスをコーディネート。タキシードの上にはダメージデニムのアウターを羽織り、コサージュを付けたボンバージャケットには、(実はシルク製の)ジーンズを合わせる。ミリタリーコートにはポケット部分にジップを使ってパンクテイストを加えたり、N3BCはキャンバス地になって登場。
ウエスタンが小さなキーワードになっており、ウエスタンブーツ、またはメリージェーンタイプのウエスタンシューズが登場。ウエスタンシャツのディテールを使ったグランジテイストのニットもある。アクセサリー類はヴィンテージ仕上げを施したボーリングバッグやトートバッグ、そして小花プリントにシアリングのボアを施したフーディのハットが登場する。
ウィメンズの2025春夏コレクションではスタイルに全く一貫性がないコレクションを発表し、各々が自由に自分の好きなように装うことを提案していた「プラダ」だが、今回のメンズもそれにつながるものを感じた。ちょっと懐かしく親しみやすい、人間味に溢れるコレクションでもあるため、デイリーユースで着やすいアイテムが揃っているともいえる。
ドルチェ&ガッバーナ(DOLCE&GABBANA)
ここ数シーズン、ブランドのルーツである仕立てにこだわった。クラシックなエレガンスをテーマにしてきた「ドルチェ&ガッバーナ」だが、今シーズンは“PAPARAZZI(パパラッチ)」がテーマ。ちなみにこの“パパラッチ”という言葉の語源となった映画「La dolce vita(甘い生活)」は「ドルチェ&ガッバーナ」がイメージとして好んで引用する作品でもある。
ランウェイ上には大人数のパパラッチが待機し、モデルが登場するごとにフラッシュの光を浴びせる演出だ。今シーズンのイメージは、そんなパパラッチに追いかけられるセレブたちが纏う華のあるアイテムで、それを「DAYTIME」というカテゴリーのカジュアルでリラックスしたデイリーウェアと、「EVENING」というカテゴリーのレッドカーペットなどでのフォーマルなイブニングウェアの2部構成で繰り広げる。
「DAYTIME」のキーワードは「EFFORTLESS CHARM(エフォートレスな魅力)」。ゆったりしたシルエット、そしていかにもセレブたちが好みそうなヴィンテージテイストにしばしばゴージャスなアイテムをミックスし、スターたちのオフのリラックス感を演出する。オーバーサイズのアウター類は、ファーやボア使いでラグジュアリー感を出しつつ、ワイドデニムやカーゴパンツなどのカジュアルなボトムと合わせる。ボリューム感のあるローゲージニットはアウターにも、タートルネックでも登場。コートからフーディや開襟シャツ(またはニット)をのぞかせるなど、ノンシャランなレイヤードも効果的に使われ、オフタイムのセレブ感漂うキャップや伊達メガネがアクセサリーとして使われる。
第二幕的な「EVENING」のキーワードは「RADIANT TOUCH(光り輝くタッチ)」。職人技が生きるタキシードやドレスジャケットに、1940年代にインスパイアされた花やリボンのデザインのビジューやアンティークゴールドを使った大ぶりのブローチを合わせているのが特徴的だ。様々なブラックスーツが登場する中、白のサテンシャツとクラシックなトラウザーズのコーディネートや、ボリューミーな白のファーコートを合わせたルックが目を引く。アクセサリーにはパピヨン、アスコットタイ、カマーバンドなどが使われ、レッドカーペットを想起させる。
会場を出ると、まるでさっきのショーがデジャブだったかのように大勢のパパラッチ(と出待ちの人たち)で溢れていた。その様子を見るにつけても今回のテーマは、長年、様々なセレブから愛されてきた「ドルチェ&ガッバーナ」ならではだったことを痛感した。
エンポリオ アルマーニ(EMPORIO ARMANI)
Courtesy of EMPORIO ARMANI/Photo by SGP
昨年9月にリニューアルオープンした、マンゾーニ通りのメガストアを象徴するポールを会場の真ん中に設置したランウェイにて、「EA7エンポリオ アルマーニ(EA7 EMPORIO ARMANI)」のスキーウェアでショーがスタート。2026年のミラノ冬季オリンピックに向けて、ウィンタースポーツムードが高まる。
本コレクションは“魅惑”がテーマ。「魅了するとは、人を引きつけ、心を奪うこと。魅惑的とは、言葉や所作、スタイルを通じてその道を極めている人」とアルマーニは考え、ゆったりしたシルエットで気負いなくエレガンスを醸し出す、スタイルのある男性像を描き出した。
肩を強調したジャケットやタイドアップしたスリーピースのスタイルにも深いプリーツのワイドなハイウエストパンツを合わせてノンシャランな雰囲気をプラス。または光沢のある流れるようなベロアのスーツやパンツも多数登場する。ロングコートも様々な素材で繰り広げられ、ビーバー加工やレザーから今シーズンのトレンドになりそうなファー襟付き、シアリングまで。ブロケードやタペストリーを思わせるクラフトパターンを施したボンバージャケット、アニマル柄とメタリック糸で織り上げたニットなど目を引くアイテムも差し込まれる。カラーパレットにはタバコ、コニャック、ブライヤーウッド、チョコレートのような落ち着きのある色を使い、さりげない大人の男の色気を醸し出した。
マリアーノ(Magliano)
ミラノの中心から外れた、やや危険なゾーンにあるボクシングジムに、冬の海(浜辺)をイメージしたセットを設置してショーを開催。ランウェイの両サイドには砂が敷かれ、崩れかけた砂の城や、消えかけた砂の上の落書きなども見られる。それは夏にはバカンス客で溢れるが、冬になると誰もいない本来の自然の姿に戻るイタリアの海の様子を物語っている。このコレクションでルカ・マリアーノは、季節によって様相が変わる海からのインスピレーションで、物事の流れを覆し、そのものが持つ本来の可能性を探った。
それは素材の転換という部分に現れる。リブ編みコットンジャージーでジャケットを作るなど本来はインナーに使う生地をテーラードスーツに使ったり、パンツにトランスペアレントなモヘアを使用したり。また人間本来の姿=ヌードにも焦点を当てており、下着からインスピレーションを得た新しいレーベル「Nudo By Magliano」をローンチ。ショーではアンダーウェアを外側にかぶせたバッグが登場していた。また、「マリアーノ」がしばしばコレクションに入れ込む子供時代の思い出と結びついた要素も見られ、ミニカーが描かれたニットやテディベア模様のマフラーなどもある。
全体的には、(「マリアーノ」にしては)かなりミニマルでクリーンな印象。ロマンティックで繊細な、新たな一面を見せてはいたが、奇をてらわなくても「マリアーノ」らしさは十分に発揮されていた。
ピエール ルイ マシア(PIERRE-LOUIS MASCIA)
Courtesy of PIERRE-LOUIS MASCIA
前回のピッティ・ウオモのゲストデザイナーとして、フィレンツェで初のランウェイショーを行った「ピエール ルイ マシア」が、今シーズン、ミラノにてデビュー。テーマである“Bright Star”は、ジェーン・カンピオン監督が、夭折したイギリスの詩人ジョン・キーツとその恋人ファニー・ブローンの悲恋を描いた映画のタイトルからの引用で、コレクションはその詩的でメランコリックな雰囲気、そしてキーツの詩の世界観を融合させている。会場となった「テノハ」のイベントスペースの、無機質でインダストリアルな雰囲気とは対照的に、登場人物たちが放浪の旅の中で自分自身を認識し、感情を共有し、不確かな世界に抵抗しようとする世界を描き、時間が止まって引き延ばされているような新たな時空間を探求したのだとか。
「ピエール ルイ マシア」らしいプリントと素材使いはもちろん健在で、今回もコモの老舗テキスタイルプリント工房「アキーレ・ピント」と協業し、20の新しいオリジナルプリントを発表。それらは、ジュリア・マーガレット・キャメロンによるポートレートやオーブリー・ビアズリーの絵画など耽美でメランコリックな作品の影響から、お得意のフォークロアテイストのプリントや小花モチーフ、そしてクラシックな英国調チェックに至るまでプリント・オン・プリントで繰り広げられる。今回はそんな中に、ロゴ使いやボーダー、アニマル柄などカジュアルな柄が混じっているのが特徴だ。
アイテムもお馴染みのゆったりしたドレスやパンツ、ロングコート、ストール、ベルベットの着物やキルティングジャケットなどに加え、ボンバージャケットやデニム、オーバーシルエットのTシャツ、ベースボールキャップなどスポーティなアイテムが差し込まれている。
今回、2回目となったショーでは、コレクションの要素にバリエーションが加わり、より完成されたように思う。生地のクリエーションは安定した素晴らしさだが、今回は洋服のコレクションとしても緩急が加わっており、今後、ミラノファッションウィークのメインブランドのひとつとして浮上しそうだ。
ピーディーエフ(PDF)
前身のブランドではヤング・サグやトラヴィス・スコットと交流を持ち、リアーナやジャスティン・ビーバー、ドレイク、ドージャ・キャットなどの衣装を手掛けてきた、イタリア人デザイナーのドメニコ・フォルミケッティが率いるストリートブランド「ピーディーエフ」。昨年6月のミラノでのイベントの大成功を受けて、今回は初のランウェイショーを開催した。
今シーズンは90年代と2000年代のヒップホップからの影響で、「ボーイズン・ザ・フッド」、「不倫の報酬」、「ポケットいっぱいの涙」など、黒人系のギャングアクションや麻薬密売人のドキュメンタリー映画からインスピレーションを受けたとか。オーバーサイズのアウター、バギーデニム、クロップドパンツなど、ヒップホップなスタイルに、オーバーオール、キルティング アウターウェアなどスノーボードギアの実用的なデザインからヒントを得たアイテムを入れ込む。ジャケットにパラシュートパンツを合わせたスーツやバラクラバのようになったネクタイなど「ピーディーエフ」風のテーラードスタイルも見られる。「ヒップホップとスノーボード、ストリートと山など、文化がどのように衝突し、その交差点がまったく新しいものを生み出すかがテーマ」とフォルミケッティは言う。
ショーの最後にはランウェイに設置された白壁にスプレー落書きをする(そして最後は警察に追いかけられる)というパフォーマンスも、「イタリアあるある」という感じだ。イタリアの美しい建築物が汚い落書きで台無しになっている現状を憂い、嫌悪を感じる筆者としては、たとえ自虐のボケだったとしても全く笑えないが、スタイルは今のイタリアンファッションにはあまりなかったもので、まさにイタリアの若者たちが欲しかったものだろう。そしてそれがメイド・イン・イタリーならなおさらのこと。
プロナウンス(PRONOUNCE)
李雨山と周俊の中国人デザイナーデュオによるブランド「プロナウンス」は前回展示会で初登場、そして今シーズンは「テアトロ・プリンチペ」というミニシアターにてランウェイショーを開催した。テーマは“Romantic Sharpness(ロマンティックなシャープネス)”。コレクションノートには「隠した武器」、「優しい戦士」といったキーワードも並んでおり、繊細さと強さ、甘さと鋭さの融合がポイントとなっている。
テーラリングにコンテンポラリーなひねりを加えており、ニットのテーラードスーツやマオスーツが登場。そしてそこには天然石のボタンを施してアクセントを加えている。またパワーショルダーのかっちりしたテーラードジャケットにはショーツやスカートを合わせたり、ロープ編みのハーネスを上から装着してコーディネート。3Dボリュームのコクーンシルエットのディテールが施されたセットアップも印象的だ。またアーティストのLu Zhengとのコラボの木製の丸い形のコンセプトバッグや、クリエイティブチーム998Eとのコラボによるサングラスも登場した。
クラシックをモダンに昇華しようとするのは多くのブランドが試みることだが、それはモーダやカジュアルの要素を入れ込めばよいという単純なことではない。「プロナウンス」は独自のアーティスティックなセンスをうまいさじ加減でフォーマルとブレンドし、完成度の高いコレクションに仕上げている。
取材・文:田中美貴
画像:各ブランド提供(開催順に掲載)
田中 美貴 大学卒業後、雑誌編集者として女性誌、男性ファッション誌等にたずさった後、イタリアへ。現在ミラノ在住。ファッションを中心に、カルチャー、旅、食、デザイン&インテリアなどの記事を有名紙誌、WEB媒体に寄稿。apparel-web.comでは、コレクション取材歴約15年の経験を活かし、メンズ、ウイメンズのミラノコレクションのハイライト記事やインタビュー等を担当。 TV、広告などの撮影コーディネーションや、イタリアにおける日本企業のイベントのオーガナイズやPR、企業カタログ作成やプレスリリースの翻訳なども行う。 副業はベリーダンサー、ベリーダンス講師。 |