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2025.01.23

【2025秋冬ミラノメンズ ハイライト2】職人技に裏打ちされたノンシャランなコレクション

写真左から「ゼニア」「ダンヒル」「トッズ」「イザイア」

 

 今シーズンのミラノメンズは、多くの大手メゾンを欠き、その代わりに、独自の路線を行く新進ブランド達がいくつも登場したので、傾向やトレンドを無理矢理探すことにはあまり意味がないかもしれない。が、あえて言えば、前シーズンから見られた、メンズの普遍的アイテムを、高級な素材や上質な仕立てで実現する傾向がさらに進化したと言えるだろう。つまりはラグジュアリーな日常着だ。シアリングのボアやラペルなどのディテールや、カシミア使い、ヴィンテージ加工を加えた上質なレザーなどを多用し、ゴージャスだけどノンシャランなスタイルを提案している。

 

 それには前シーズンも示唆したように、ますます先の見えない不安な社会状況が背景にある。このような不安定な時代においてイタリアンブランドは、自分たちの最大の強みである職人技や仕立てを勝負球として使う、というのが正しい攻め方ということなのかもしれない。

 

 そしてそのせいか、より人間性にフォーカスし、“本能や心が求めるファッション”をテーマとしているブランドもいくつかあった。それはファッションにおいても防備や安心を求める方向にあるのか、体を包むボリューミーなアウターや厚手のニット、巻物などが多く登場したり(暖冬で重衣料が売れないといわれる中、どのように商品化されるのかは気になるが)、自分の好きなように着こなすテイストミックスやレイヤードのコーディネート提案があった。

 

 さてハイライト2では、クラシック系のテーラーブランドや、職人技が強みのブランドのコレクションをレポートする。

 

ゼニア(ZEGNA)

Courtesy of ZEGNA

 

 今シーズンもミラノメンズのフィナーレを飾った「ゼニア」。会場となったコンベンションセンターMICOには草に覆われた丘のようなランウェイが作られ、周りには無数の羊たちが牧草地を駆け回る映像が鳴き声付きで流れている。

 

 毎回、カシミアやリネンなど、素材をテーマとしてきた「ゼニア」が今回焦点を当てたのは、同社最高峰のスーパーファインウール「ヴェリュス・オウレウム(VELLUS AUREUM)」。羊毛を原料とする糸の細さとしては世界記録を持つ9.4ミクロンの細い糸だ。このコレクションは「ゼニア」の歴史が集約されたこのファブリックへのオマージュとなっている。

 

 故に、デザイン面でも創設者エルメネジルド自身のワードローブや、彼が愛した様々なシルエットがインスピレーション源となっているとか。「各アイテムを無造作に選び、自然発生的に組み合わせ、イタリアンスタイルの名のもとにさまざまな世代の出会いを表現しました。イメージしたのは、精神的価値と物質的価値を求めて何十年にもわたり収集したようなワードローブを物色している男性です」とアレッサンドロ・サルトリは言う。

 

 テーラードスタイルでは、ボックスシルエットで丈短めのジャケットにハイウエストのタック付きワイドパンツを合わせる。ラペルの位置を低くして、開襟シャツやシャツをダブルで重ねレイヤードした胸元の遊びを強調したルックもある。ブルゾンとパンツ、厚めのシャツとパンツなどのコーディネートが多いが、ワントーンでコーディネートしているので、スーツのようなフォーマルな雰囲気が流れる。プリンス・オブ・ウェールズ、ガンクラブチェック、ドネガルなど、英国調の柄使いが各所に見られ、チェック・オン・チェックでコーディネートしているものもある。

 

 また、ニット類に焦点を当て、首周りのレイヤードの遊びや巻物類をのぞかせる大きなVネックからローゲージのアウター、パンツにタックインしたものまで様々に揃う。アイコニックな「イルコンテ」ジャケットはシアリング仕立てで登場した。

 

 脱構築的なシルエットのノンシャランなスタイルは、創業者エルメネジルド・ゼニアの時代、つまり、車産業を始めとした近代イタリアの中心地として栄えたかつてのトリノの、粋な男たちのエッセンスなのだろう。

 

ダンヒル(DUNHILL)

Courtesy of DUNHILL

 

 サイモン・ホロウェイがディレクションする3回目、そしてミラノでの発表は2回目となる今回、「ダンヒル」は「ソチェタ・デル・ジャルディーノ」というジェントルマンズクラブにてショーを開催。前回のプライベートガーデン同様、招待客たちはテーブルに着席し、サンドイッチをつまみながらスプマンテを片手にショーを見るという粋な演出がなされた。

 

 今シーズンは、1930年代にロンドンのテーラー、フレデリック・ショルティが考案した、ウィンザー公爵の象徴的なイングリッシュ・ドレープ・スーツに込められたアスレチシズムを考察したとか。アームホールや胸元、裾に余裕を持たせた立体的なデザインを基調にしたスーツ、ジャケット、チェスターコートなどのテーラードアイテムが、チョークストライプやプリンス・オブ・ウェールズ、ウインドーペーンやガンクラブチェックなど、クラシックな英国風パターンも盛り込んで繰り広げられる。

 

 フォーマルな中にもインフォーマルな要素を加えるべく、ニット類を差し込んでいるのも特徴。厚手のセーターにパピヨンを合わせ、シャツの代わりにスーツにタートルニットをコーディネート。またはスーツにニットを肩掛け、ニットジレをパンツにイン、ニットから片方だけ襟やカフ出し・・・など、小技のきいたコーディネートも見られる。

 

 またアーカイブからのインスピレーションで、「ダンヒル」のアイコンであるカーコートがスエードシアリングとウールのホイップコード仕立てで登場。チロル地方にインスパイアされた、ホーンボタンが刻まれたキャルバリーツイルのドライビングジャケット、ダブルフェイスのローデンコートなども差し込まれる。

 

 イブニングのシリーズでは、ネクタイやパピヨンにスカーフを重ねたり、スーツとコートをあえてチェック・オン・チェックにするなど、ミスマッチの遊び心も見られる。小物では、レザーグッズのアイコンバッグであるセンチュリーや、ハイブリッドスニーカーのデイヴィスの新色、メイド・イン・イングランドのタッセルローファーとストラップローファー、サイファー・ニードル・ジャカードのギリシャスリッパが登場する。

 

 ウィンザー公の洒落者ぶりを彷彿させるような、クラシックな中にも、華のあるリラックス感が漂うコレクションだった。

 

ブルネロ クチネリ(BRUNELLO CUCINELLI)

Courtesy of BRUNELLO CUCINELLI

 

 例年通り、ピッティに続いてミラノショールームでもプレゼンテーションを行った「ブルネロ クチネリ」。今シーズンのテーマは“アナムネーシス(ANAMNESIS)”。今回も「ブルネロ クチネリ」らしい奥深いお題が掲げられているが、これは古代ギリシャ、プラトン哲学で使われる「想起」という言葉で、「魂は肉体を持つ前に真を知っており、学習や哲学を通して思い出すことで真に至ることができる」ということだそう。つまり、今回のコレクションは「本質的なメンズファッションのアイテムやスタイルの魅力を再発見(想起)し、注意深くミックスコーディネートし、現代に再解釈した」のだとか。

 

 その軸には「ブルネロ クチネリ」らしいスポーツシックラグジュアリーという原点を見直す姿勢があり、そこに英国調、アメリカンカジュアル、カントリーなどの様々なテイストが混ざり合う。タイドアップしたスーツスタイルの上にカントリーテイストのカーディガンやスポーティなブルゾンを羽織ったり、デニムで仕上げたクラシックなテーラードジャケットにプリンス・オブ・ウェールズのスラックスを合わせたり。また、メタルボタンを施したマットな素材のブレザーのように素材のコントラストもあり、オフホワイトなどのニュートラルカラーのトラウザーにバーガンディなどのパンチのきいた濃い色とコーディネートしたものもある。スーツにニットを肩掛け、クラシックなボトムにニットをイン・・・などの着こなしの技の提案も見られた。

 

 会場は「BC Radio」と銘打った80年代後半から90年代のラジオステーションのムード。「Break the silence」というキーワードがカバーに描かれたビニール盤が並べられ、新たな時代の幕開けを告げるようなイメージを演出していた。

 

ブリオーニ(BRIONI)

Courtesy of BRIONI

 

 今年80周年を迎える「ブリオーニ」は、セルベッローニ宮の荘厳な広間で、コレオグラファーのジュリー・ブリュイエールが手掛けたコンテンポラリーダンスを交えたプレゼンテーションを行った。それは今回のテーマ“A movement in style(動きに宿るスタイル)”というテーマを象徴しており、ダンサーたちはすべて「ブリオーニ」のアイテムを纏い、大胆な動きもしなやかに表現する「ブリオーニ」の軽さや浮遊感を証明した。

 

 75周年のイベントの際、音楽家たちが「ブリオーニ」を纏って演奏するというパフォーマンスを行ったが、今回は演奏をはるかに超える運動量。体の動きに合わせた可動域を作り、着やすく動きやすい洋服を仕立てる同社テーラーのテクニックがあるからこそ、それに耐えられるということを物語っている。

 

 コレクションでは、フィールドジャケット、ダブルスプリッタブル素材のトレンチコート、ブルゾンなどテーラーの仕立ての技をアウターにも生かしたアイテムが揃う。シアリングを施したディアスキンのレザーボンバーにはストレッチ素材のインナーを使ったり、アーカイブのブルゾンをテクニカル素材で再現するなど、ラグジュアリーと機能性のミックスも見られる。カラーパレットはニュートラルカラー、ダークグレーやブラウンといったシックな色調にパウダーピンクやティールブルーが差し色として使われ、ワントーンでコーディネートしているルックが多いのが特徴的だ。

 

 もちろんクロコレザーのジャケットや、手作業でビーズを施したドレスジャケットなど、「ブリオーニ」らしい究極の豪華アイテムもあるのだが、今回は実用性のあるアイテムやレジャーウェアを強化し、時代の流れにもマッチしている。

 

トッズ(TOD’S)

Courtesy of TOD’S

 

 今シーズンもお馴染みのネッキ宮で展示会を行った「トッズ」。今シーズンの推しのひとつは「パシュミー」で、会場の入り口には、レザーの厚さを測ったり、手で触ってその感触をチェックする職人たちが。このパシュミーとは、その名の由来であるパシュミナの繊細さと上質さを想起させる、とても柔らかくシルキーな軽いレザーで、上質なスエードと超軽量ナッパレザーの2つのバリエーションで繰り広げられる。これらをコレクションの最もアイコニックなアイテムに採用しているが、今回新クリエイティブディレクターのマッテオ・タンブリーニが関わる初のメンズコレクションでは、パシュミーレザー製のボンバージャケットやシャツジャケットが加わった。

 

 また同社のアイコン的シューズ、ゴンミーニにも焦点を当て、モダンな雰囲気の新シェイプの「シティ ゴンミーニ」や、自然な色合いのスエードで、アンクルブーツ、デザートブーツ、ローファーの3つのスタイルを提案した「ウィンター ゴンミーニ」が登場する。

 

 バッグ類では、「ディーアイ バッグ フォリオ」や「ウェイブ」など、ウィメンズのアイコン的バッグがメンズとして登場した。

 

イザイア(ISAIA)

Courtesy of Isaia

 

 前回に続き、ランウェイショーを行った「イザイア」。今回はナポリ出身の作家、映画監督、脚本家、俳優のルチアーノ・デ・クレシェンツォに敬意を表しており、会場も「チルコロ・フィロロジコ」という古い文化センターの建物をセレクト。このコレクションのインスピレーション源となった、デ・クレシェンツォがナポリについて語った作品「Così parlò Bellavista(ベッラヴィスタ氏見聞録)」をもじった“Così parlò Isaia(イザイア見聞録)”というテーマで、「皮肉と深みの間でデ・クレシェンツォが語る知的で感傷的なナポリの真髄をコレクションに投影した」のだとか。

 

 コレクションは「イザイア」らしいテーラードテイストを活かしつつ、アウターやニットなどカジュアルなアイテムに焦点を当てている。アウターでは、ファーストルックのイザイアレッドのダッフルコートに始まり、ダブルカシミア、アルパカ、ブークレなどの上質な生地を使用したマキシコート、ナッパやスエードのボンバージャケット、ボリューミーなシアリングコートなどが登場する。ニットはタートルニットをスーツやテーラードジャケットに合わせたり、スーツスタイルに肩掛けで羽織ったり、またはカウチンセーターも存在感を発揮する。そこで使われているのはバーガンディ、レッド、ライトグレー、ダークグレーといった深めの暖色系のカラーパレットで、ワントーンでコーディネートしているのが特徴的だ。それによって、全体的に洗練された雰囲気が流れる。

 

 今回のニュースとして、ランウェイショーとしては初のウィメンズコレクションもお披露目された。ナポリのテーラードテイストを活かしたパンツスーツやジャケットなど、マスキュリンなテイストを生かしたスタイルとなっている。

 

 CEOのジャンルカ・イザイアは「これは、ゆっくりと時間をかけて考え、文化の変革力を祝うための招待状です。ランウェイ上の一歩一歩が創造と交流の行為だからです」と語る。ランウェイは単なるショーの場ではなく、伝統と革新が融合する「アイデアの回廊」だと考える「イザイア」。この2シーズン、同社がショーを行っている理由はここにありそうだ。

 

取材・文:田中美貴

画像:各ブランド提供

>>>2025秋冬ミラノコレクション

 

 

田中 美貴

大学卒業後、雑誌編集者として女性誌、男性ファッション誌等にたずさった後、イタリアへ。現在ミラノ在住。ファッションを中心に、カルチャー、旅、食、デザイン&インテリアなどの記事を有名紙誌、WEB媒体に寄稿。apparel-web.comでは、コレクション取材歴約15年の経験を活かし、メンズ、ウイメンズのミラノコレクションのハイライト記事やインタビュー等を担当。 TV、広告などの撮影コーディネーションや、イタリアにおける日本企業のイベントのオーガナイズやPR、企業カタログ作成やプレスリリースの翻訳なども行う。 副業はベリーダンサー、ベリーダンス講師。

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