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2024.12.06
【宮田理江のランウェイ解読 Vol.101】 自然体クチュールの新・楽観主義 2025年春夏・パリ&ミラノコレクション
写真左から「ロエベ」「プラダ」「ミュウミュウ」「ヴァレンティノ」
楽観とデコラティブがゆっくりと勢いを増し始めた。ミニマルとクワイエットラグジュアリーに抑え込まれてきた「飾り気」が2025年春夏のパリ&ミラノコレクションでは弾んだ。目立った提案は「日常のリュクス化」。エフォートレスなリゾート風ルックが相次いだ。ミニマルなシルエットにロマンティックムードや工芸技を注ぎ込んで、やりすぎを控えた「自然体クチュール」の装いに整える試みは新たなロングトレンドに育つ気配を見せている。
■パリ・コレクション
◆ロエベ(LOEWE)
シルエットの冒険を大胆に取り入れ、フレア(裾広がり)と戯れた。シアー生地で仕立てたドレスはエアリーで優美。ワイヤーを入れて、クリノリン風やペプラム状に裾を広げている。全体はミニマルでありながら、朗らかな動感が際立つ。広がったヘムラインをダイナミックに躍らせて、軽快でフェミニンな雰囲気に。トップスには音楽家の肖像画や印象派の名画がプリントされている。余計な装飾を削ぎ落とし、輪郭を際立たせるアプローチでミニマルの表現可能性を押し広げてみせた。
◆ミュウミュウ(MIU MIU)
スポーツウエアを街着使いするスタイリングにひねりを加えた。スイムウエアをボディスーツ風にまとい、ブレザーやプリーツスカートとミックス。良家テイストとアクティブ感をねじり合わせている。健康的なセンシュアルも忍び込ませた。トラックジャケットは短め丈でコンパクトに。ニットトップスはビスチェ風に巻き付けている。ガーリーさを帯びつつも、エイジレスにまとえる、自由度の高い着こなしだ。ウインドブレーカーといったスポーティーウエアもお出掛けルックに格上げ。ゴージャスなベルトの重ね巻きはトレンドを予感させた。
◆ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)
複雑なカルチャーミックスで歴史とテイストを交差させ、フェミニニティーの多面性を示した。相反するボリュームや質感を引き合わせ、趣の深いノイズを奏でている。パフスリーブのシャツジャケットにはボディスーツ風のバイカーショーツをマリアージュ。上下で量感コントラストを際立たせている。ミニドレスはウエストシェイプを利かせ、裾をペプラム状に広げた。ショルダーラインに構築性を持たせ、裾に向かって流動感を出すシルエットが艶美。じゃらじゃらと重ね付けしたロングネックレスが落ち感を強調した。立体的なカボションビジューやフリンジで仕立てたスカートなど、工芸品レベルのアートワークを施している。
◆ヴァレンティノ(VALENTINO)
装飾主義の花を咲かせたアレッサンドロ・ミケーレ氏は老舗のクチュールメゾンでも独自の美学を貫いた。アーカイブのロングドレスやパワースーツに敬意を払いつつ、ディテールに持ち味の過剰感と折衷主義を注ぎ込んだ。刺繍、リボン、タッセル、プリーツ、ラッフル、ペプラム――。クチュール的技巧を持ち込んでロマンティックとマキシマリズムを歌い上げた。チャームのような感覚で提案されたバッグ2個持ちや、繊細なレース手袋、ターバン風の帽子などの小物使いもアイキャッチー。創業者譲りのシックさを保ちつつ、ジェンダーとカルチャーのダブルフリュイドを仕掛けている。
■ミラノ・コレクション
◆プラダ(PRADA)
華やぎとスポーティー感を交錯させた、自由度の高いミックススタイリングを披露した。あえてコレクションに一貫性を持たせず、矛盾や不ぞろいをあらわに。フォルムは細身のミニマル寄りなのに、サプライズやいたずらがいっぱい。イブニングドレスにはナイロンパーカを重ねた。ベルトは高さがアンバランス。大きなパンチング穴を開けたつやめきスカートから素肌をのぞかせている。襟やベルトをプリントで偽装して、トロンプルイユを多用。まとまりや規則性へのしたたかな反抗が裏テーマ。型にはまらない自由な表現が没個性型ミニマルへのリセットを促すメッセージとして打ち出された。
◆フェンディ(FENDI)
透けるウエアを軸に据えて、エフォートレスとスポーティーを融け合わせた。シアー素材のタンクトップやTシャツに、刺繍やビジューでクラフトマンシップをまとわせている。ソックスを多用してガーリー感を忍び込ませた。ワークブーツでタフさを加え、女性像の多面性を印象付けた。シルク、オーガンジー、レザーなどの異素材ミックスがコレクションの奥行きを深めている。多彩なチャーム類で飾ったにぎわいバッグはヒットを予感させる。イブニングウエアとデイウエアを交わらせ、創業当時の気分も盛り込んで、100周年を間近に控えた老舗メゾンらしいコレクションにまとめ上げた。
◆グッチ(GUCCI)
クワイエットラグジュエリーのデイリー版を打ち出した。タンクトップとデニムパンツの上下に、床に届くほどのロングコートをオン。カジュアルとドレスアップを交差させている。ジャクリーン・ケネディ・オナシスをミューズに据えて、1960年代気分とリッチリゾートを同居させた。クラウンが深い帽子やヘッドスカーフは暑さ除けにも役立ちそう。全体に細身でスポーティー。ジャージードレスやストラップドレスは流れ落ちるアシンメトリー仕立て。ミニスカートのセットアップがみずみずしい。ベアショルダーのような素肌見せをあちこちに取り入れ、スリットは腰に迫る。奇をてらわず、さりげない日常リュクスに誘った。
◆ジル サンダー(JIL SANDER)
ノスタルジックなムードを漂わせて、タイムレスな装いにまとめ上げた。玉虫色のジャケットやコートがムードメーカー。花柄はトーンをセピア系にくすませている。丸襟のシャツやリンガーTシャツも懐かしげ。ビッグシルエットの角張ったジャケットには、ショートパンツや細身パンツでスーチング。ロングベルトを垂らし、カフスを遊ばせた。ガーリーなニットアップも披露し、着こなしの選択肢を増やした。これまでに引き続き、工芸とカジュアルのクロスオーバーを試している。各種のバッグは抱え持ちを繰り返した。ロマンティックとレトロを響き合わせて、日常をアップグレードしていた。
型にはまった印象を避ける着こなし方が提案され、多文化ミックスが一段と広がった。地域や時代に加え、フォーマルやビジネスといったシーンを越えた掛け合わせも進んだ。猛暑しのぎに役立つシアー素材や素肌見せはもはやニューノーマル化。ガーリー感を持ち込む切り口とも好相性だった。自然体クチュールを取り入れた新・楽観主義は「日常リュクス」のミックススタイリングへと導いてくれそうだ。
宮田 理江(みやた・りえ)
複数のファッションブランドの販売員としてキャリアを積み、バイヤー、プレスを経験後、ファッションジャーナリストへ。新聞や雑誌、テレビ、ウェブなど、数々のメディアでコメント提供や記事執筆を手がける。 コレクションのリポート、トレンドの解説、スタイリングの提案、セレブリティ・有名人・ストリートの着こなし分析のほか、企業・商品ブランディング、広告、イベント出演、セミナーなどを幅広くこなす。著書にファッション指南本『おしゃれの近道』『もっとおしゃれの近道』(共に学研)がある。
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