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2025.03.28

【2025秋冬東京 ハイライト5】楽天ファッションウィーク東京 若手や新進気鋭の力強いコレクション

写真左から「ハトラ」「リブノブヒコ」「ペイデフェ」「サトルササキ」

 

 ショーの質を向上させるため、ビジネス的な観点も含めて審査基準を見直し、厳格化している楽天ファッションウィーク東京。表現はさまざまだが、若手や新進気鋭のデザイナーも独自性を追求した力強いコレクションや日本の強みを活かしたコレクションを見せた。また、東京都と日本ファッション・ウィーク推進機構が主催する「TOKYO FASHION AWARD」第10回の受賞デザイナーが、スパイラルホールやTODAホール&カンファレンス東京でコレクションを発表した。「ハイドサイン(HIDESIGN)」もピッティ・イマージネ・ウオモの凱旋プレゼンテーションを行った。

 

ハトラ(HATRA)

Courtesy of HATRA

 

 「ハトラ」は、TODAホール&カンファレンス東京ホールAで、ブランド設立15年目にして初となるランウェイ形式のショーを開催した。テーマは“WALKER”。都市における移動や視覚の揺らぎ、非連続な瞬間の連なりを、デジタル技術とクラフトを融合した衣服によって描き出した。

 

 ブランドのコンセプトである「リミナルウェア(=境界の衣服)」に基づき、今季は都市を歩く中での知覚の変化や揺らぎに着目。着想の出発点となったのは、アトリエ近くの隅田川沿いの夜道や、水面に反射する光の移ろいだった。デザイナーの長見佳祐は、衣服を「旅の一瞬を切り取るスナップショットの集合」として提示し、生成AIや3Dクロスシミュレーションによって「瞬き」のように印象が変わる服づくりを試みた。

 

 型紙は3Dシミュレーションソフト「CLO」で設計され、空間的なフォルムと視覚的揺らぎが共存。AIによる反復生成の中から得られた構造や配色が、予測不能な変化を纏う衣服として具現化された。

 

 素材にはニットジャカードやメッシュ、オーガンジーなどを使用。視線の角度や動きに応じてイメージが移ろうプリントや、透過性のあるファブリックが幻想的な印象を与えた。多彩なプリントやグラフィックは、脳に「揺らぎ」を与えるようにも見え、快適さを誘うデザインとして視覚刺激を重視している点も印象的だった。

 

 プリントには京セラの顔料インクジェットプリンター「FOREARTH」を用い、水をほとんど使わない環境配慮型の技術が導入された。

 

 コレクションには幾何学グラフィックとの対比で際立った黒のドレスや、折り紙や袴を思わせる構造のパンツが登場。東洋的な要素と未来的な構造が融合し、フューチャリスティックなムードをまとっていた。

 

 今シーズンはアーティストとのコラボレーションも展開。ジュエリーデザイナーSHUN OKUBOとの共作ではリング「Arrival」「Orb」が登場し、現代美術作家runurunuとのバッグ「Sucker」はソフトスカルプチャーとして制作された。また、彫金作家・久米圭子による小宇宙的なジュエリーも披露された。

 

 ミニ地球を封入したリングや、多層的に構成された球体モチーフのアクセサリーは、視点の揺らぎや宇宙的遠近感を可視化。衣服と連動したスケール感の演出や、まるで万華鏡をのぞいたような不思議で没入感あるプリントが世界観を生み出していた。

 

 長見は「今もすごく不安です。完成形はリハーサルでしか見えてないですし、本当にあっという間に終わってしまったなっていうのが正直な感想なので、もう少し時間を置かないと次のことを考えられないなと思っています。やりたいことはたくさんあるので。これまで同様に、いろんなジャンルを渦を巻くように巻き込みながら、その中にショーも入ってくればいいのかなと思っています」と話した。

 

ペイデフェ(pays des fées)

Courtesy of Japan Fashion Week Organization

 

 ホラー漫画の第一人者である伊藤潤二とコラボレーションした今回。代表作「富江」をモチーフに“分裂”をテーマしたコレクションを発表した。朝藤りむが幼少期から影響を受けてきた伊藤作品へのリスペクトを込め、少女像に「毒」と「奇妙さ」を加えた独自の美学を展開した。

 

 今回のコレクションは、「富江」における「分裂しても再生する」という超自然的な特性から着想を得た。病院の様に手術室やナースセンター、大部屋などに分かれた会場はアンティーク調の家具や装飾が配され、赤い糸や毛糸によって髪の毛を象徴する演出が施されるなど、ホラーと幻想の空間が演出された。

 

 モデルは全員、異なる形で「富江」を体現。赤いドレスにはサテン素材を使用し、血のような光沢感で「ぬめり」を表現した。「アイスクリームバス」に着想を得たルックでは、1960年代風のレトロポップなワンピースが登場した。髪の毛を模した毛糸や刺繍が各所にあしらわれ、どのルックにも“分裂”というコンセプトが貫かれていた。

 

 また、ドレッシーで重厚な素材使いによって、単なるコスチュームではなく、ファム・ファタール(運命の女)のような存在としての「富江像」を再解釈。朝藤が表現する「可愛いだけでなく、毒や奇妙さを添えた少女像」が各ルックに落とし込まれていた。

 

 朝藤は、小学生の頃から伊藤の作品を読み込んできた。中川翔子が「ペイデフェ」の服を着用していたことをきっかけに、世田谷文学館でのイベントを通じて伊藤との縁が生まれ、今回のコラボが実現した。

 

 デザイナーは「『富江』という存在が持つ不死性、増殖性にシュールレアリスムを感じた」と語り、「この世界観にはランウェイという形式が必要だった」と話した。

 

 伊藤は「ペイデフェの世界観と自分の作品が想像以上に融合していた」と述べ、素材や質感の選び方についても高く評価。「自分も着たくなるような服だった」「若い才能との共作は刺激的。新たな創作意欲が湧いた」と語った。

 

 ホラー、サブカルチャー、少女像、そして高級素材を融合させることで、「恐ろしくも美しい」ファッション表現の可能性を提示した。朝藤は今後もこの路線を深化させていくといい、伊藤も「新しいキャラクターが生まれそう」と語る。

 

 血しぶきをデザインしたドレスとともにスウェットなどストリートアイテムやロリータファッションのようなものも登場しているが、漫画、ファッション、ゴスロリ、ストリートなど日本の強みに「ペイデフェ」ならではの猟奇的なムードや少女の持つ純粋さと残酷さの二面性などは、ファッションとカルチャーの両面で海外でも注目される可能性を持っているように見える。

 

ホウガ(HOUGA)

Courtesy of HOUGA/Photo by Koji Shimamura

 

 「ホウガ」は東京・自由学園明日館でコレクションを開催した。テーマは“Spell on my boundaries(自分の境界に魔法をかける)”。魔女を着想源に、自分らしさを見失っても、自らの力で境界を超えていくというメッセージを込めたコレクションを展開した。

 

 会場に選ばれた自由学園明日館は、フランク・ロイド・ライト設計による歴史的建築。創設者の「自由は努力によって得られるもの」という理念が、今回のコンセプトと重なったことから選ばれた。

 

 コレクションでは、レースやフラワーモチーフを中心としたロマンチックなスタイルが展開される一方で、黒のジャケットやトゲのようなアクセサリーが緊張感を添えた。多様性を感じさせるメンズルックも登場し、「現実を生きる魔女像」がさまざまな角度から表現された。

 

 また、今回は、シルクオーガンジーを贅沢に使用したドレスなど、新たに特別な日のためのドレスライン「ホウガバンケット(HOUGA Banquet)」も8型を披露した。価格帯は30万円や50万円などで、オーダー制も想定。オートクチュール的な位置づけとなっているという。

 

 今回のコレクションでは、バラのような立体感のあるフラワーモチーフや膨らみのあるスカート、コートが目を引いた。素材にはウールやシルクオーガンジーのほか、組紐を取り入れたバッグやスカートも登場。これらの組紐は、子育てや介護などで外で働けない人々が在宅で制作したもので、服づくりを通して社会とのつながりを築く試みも込められている。

 

 また、ミリタリー要素を取り入れた構築的なデザインや、解体と再構築を感じさせるアプローチが特徴的だった。プリーツやシースルー素材も用いられ、軽やかさと強さのバランスが際立っていた。

 

 これまでの「ホウガの国」という幻想的な世界観から、今季はより現実世界で生きる人々に寄り添うメッセージへと重心を移した。コレクション全体としては、ロマンチックさと強さ、装飾性とシンプルさが対比的に共存する世界観が提示された。

 

 石田萌は「自分らしさを見失ったり、どこにも馴染めないと感じる中でも、自分の力を信じて前に進む。そんな思いを魔法をかけるというイメージに重ね、魔女にインスピレーションを得てコレクションを展開しました。自分と社会の境界にある服という存在を通して、かつての自分が救われたように、今を生きる人たちが自分らしく輝き、前向きに生きられる世界をつくりたいという願いを込めました」と話した。

 

ノントーキョー(NON TOKYO)

Courtesy of Japan Fashion Week Organization

 

 市毛綾乃がデザインする「ノントーキョー」は、2025秋冬コレクションを約3年ぶりにショー形式で発表した。会場は東京都千代田区の科学技術館。今回のテーマは“競馬場にいるおじさんのファッション”。ブランドのコンセプト「ロマンティックレジャー」と掛け合わせ、現代的な視点で再解釈した。

 

 ショー会場では、椅子の上に競馬新聞風のプレスリリースと、予想を書くためのボールペンが置かれるなど、演出面からも「ギャンブラー」の世界観が表現された。

 

 コレクションは、乗馬パンツやマニッシュなコート、ダウンジャケットなどをベースに、ミリタリー要素にフリルを加えるなど、マスキュリンとフェミニンの対比が際立った。ミニスカートといったアイテムも登場し、異なる要素のミックスが独自のムードを生んでいる。ウエストはアウトドア由来のアスレチックコードでマークされ、実用性と装飾性を併せ持つ構成となった。

 

 「ノントーキョー」の特徴の一つでもある転写プリントは、馬や自然風景、雪山といったモチーフが登場。背中に馬のプリントを施したアイテムも見られた。プリント素材には、日常の散歩中に撮影した写真や、フォトグラファーによる旅行先の風景、SNSを通じて知り合った人物から提供された競馬場の写真などが使われている。ピンク色の馬など、AIで生成した「存在しない風景」も取り入れられ、コレクションに幻想的な要素を加えている。

 

 素材は、撥水・防水・イージーケアといった機能性を備えたものを基本に、裏ボアのリバーシブルやチノクロス、カラーファーなどを組み合わせた。「おじさんが着ていそうな素材」をブランドらしくアレンジしたアイテム群が並んだ。

 

 市毛綾乃は今回のコレクションについて、「3年ぶりのショーだったので緊張もありましたが、『ロマンティックレジャー』というブランドのベースに、競馬というテーマを設けたことで、よりアウトラインをはっきり見せられたと思います」と語った。

 

サトルササキ(SATORU SASAKI)

Courtesy of SATORU SASAKI

 

 「サトル ササキ」は、TODAホール&カンファレンス東京のホワイエでコレクションを発表した。今シーズンのテーマは“プリミティブフューチャー”。抽象画家マーク・ロスコの作品に着想を得て、「感情で見るファッション」を提示することを目指した。

 

 ショーはミニマルな演出で構成され、照明や装飾を抑えた静かな空間が衣服そのものを際立たせた。ランウェイの終盤にもフィナーレ演出はなく、観客に余韻を委ねる形式を採用。見る者が自身の感情に向き合うような体験を促した。

 

 会場選びにもデザイナーの哲学が反映されている。「いつもミニマルなものを、そぎ落とすということを大切にしている。ショーでも余計なものを感じさせたくなかった」と佐々木悟は語る。その意図から、直線的なランウェイをホワイエ空間に設置。また、ロスコの作品もミニマル・アートの文脈に位置付けられることから、空間演出と芸術的テーマの親和性も意識したという。

 

 今季は赤や青がコレクション全体を貫くキーカラーとして用いられた。幕開けは、ローズレッドのグラデーションが美しいアシンメトリードレス。続いて、若々しさを象徴する赤のクロップドニットやミニドレス、バラのモチーフを編み込んだニットなどが登場。さらに、インビテーションにも使用された赤いバッグもランウェイに現れ、ブランドの世界観を視覚的に統一した。

 

 赤は、情熱やエネルギーの象徴として機能し、幾何学模様や黒いコートとのコントラストがドラマティックな印象を与えた。

 

 ロスコからの影響について、佐々木は「いつも作品というより考え方のほうに影響される」と語る一方で、作品からの直接的な着想も大きかったという。「カラーパレットにもロスコのペインティングを意識していて、ニットの表現でもそれが感じられるようにした」と述べている。

 

 デザイン面では、赤3色と2種の糸番手によるループ編みで構成されたハンドニットが象徴的。絵をそのまま着たようなデザインも登場した。さらに、チェックのスーツには職人が一点ずつ手作業で施したニードルパンチ技法が用いられ、手仕事の温もりと造形の力強さを両立させていた。

 

リブノブヒコ(RIV NOBUHIKO)

Courtesy of Japan Fashion Week Organization

 

 小浜伸彦とリバー・ガラム・ジャンによる「リブノブヒコ」は東京・TODAホール&カンファレンス東京ホワイエでコレクションを発表した。ブランドにとって初となるランウェイショーとなった今シーズンのテーマは“LEE(リー)”。共同デザイナーのリバー・ガラム・ジャンの母の姓に由来し、強さと繊細さを併せ持つ現代女性像を、母親へのオマージュとして表現した。

 

 コレクションは、クラシックなオフィスウェアを基調に、繊細な手仕事や個人的な記憶を織り交ぜた「ツイストクラシック」スタイルが軸。たとえばテーラードジャケットに白い花のモチーフをあしらい、クラシックとフェミニンの対比を際立たせた。

 

 象徴的なルックの一つでは、ドレスにバッグを融合。バッグは実用品ではなく造形的ディテールとしてドレスに付属し、「働く女性」と「繊細な少女性」の両面を一つのスタイルに落とし込んだ。モデルがバッグを力強く握る演出も印象的だった。

 

 花のモチーフには、母との記憶の写真に写る桜を思わせる白い花を用いた。素材はレーザーカットしたナイロンやポリエステル製のオーガンジーで、抽象的に表現。女性ボクサーの「女性は飾りではない」という言葉を背景に、「自立した女性への贈り物としての花」という逆説的な意味が込められている。

 

 花と円形、フープを使ったドレスなど、1960年代の未来派デザイナー、ピエール・カルダン、クレージュ、パコ・ラバンヌらを想起させる要素を取り入れながらも、全体のムードはあくまで自然体。エレガントでありながらカジュアルな雰囲気にまとめられていた。

 

 リバー・ガラム・ジャンは「新しいチャレンジはドキドキしますが、やっぱり楽しい。これからもいろいろ挑戦してみたいです」。小浜伸彦は「怖さもあり、本当にできるのか不安もありました。でも実際にやってみて、やっぱり良かったなと感じています。できるかどうかわからない境界を少し超えることに、ブランドとしての価値があると思っています。これからも続けていけたら」と話した。

 

ハイドサイン(HIDESIGN)

Courtesy of HIDESIGN

 

 1月にイタリア・フィレンツェで開催されたピッティ・イマージネ・ウオモにて発表したカプセルコレクション「オールゾーン(ALL ZONE)」を、東京・日本橋の住友化学「シナジカ(SYNERGYCA)共創ラウンジ」で凱旋プレゼンテーションとして再披露した。ミラノで発表したルックに、日常での着用も意識した新たなプロダクトを加え、科学とIT、ファッションが交差する未来志向のウェアを提示した。「オールゾーン」は、マイナス20度から40度という極端な温度環境への対応を想定した機能性コレクション。

 

 アウターは外部環境からの保護を、インナーは衣服内環境の調整を担い、それぞれが明確な役割を持ちながら連動し、都市生活者が直面する気候変動やヒートアイランド現象といった課題に対応することを目指している。

 

 今回のプレゼンテーションでは、4つの代表的な最新プロダクトが紹介された。バッテリー駆動の小型ファンを内蔵したアウター「エアフローウェア バージョン2」は、軽量化・小型化・静音化に成功し、都市部での日常使用も想定された設計となっている。

 

 歩行時の負荷を軽減する立体構造のパンツ「3Dプレッシャーレスストラクチャー」は、独自センサーによりゼログラム圧力を確認できるほどの構造で、長時間の着用でも快適性が保たれる。

 

 インナーでは、住友化学と共同開発した温度調整素材「コンフォーマー」を使用した「テンプチューンファブリック」が注目された。熱の吸収と放出を繰り返すこの素材は、スウェットやカットソーとして展開され、分子レベルでの温度制御によって年間を通じて着用できる。

 

 さらに、「ヒートウェア」はカーボンナノチューブを用いたフィルム「ヒートシート」を採用。スイッチを入れてからわずか3分で40度まで発熱し、低温やけど防止の設計も施されている。家庭での洗濯も可能で、実用性にも配慮されている。

 

 これらの各アイテムは単体で完結するものではなく、アウターとインナーの連携によってその真価を発揮する構造となっており、全方位型の衣服として提示された。

 

 これまではコレクション全体の統一感を重視し、色彩を抑える傾向が見られたが、今回はファッションに欠かせない黒などの色も取り入れられ、より日常に取り入れやすいアイテムが増えた印象だ。サイズ展開にも広がりが見られ、女性でも着用可能なモデルも提案されており、汎用性の高いウェアとしての進化が感じられた。

 

 

 

敬称略

取材・文:樋口真一

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