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2025.03.27
【2025秋冬東京 ハイライト4】楽天ファッションウィーク東京 次世代を担うデザイナーたち

写真左から、「チカキサダ」「テルマ」「ハルノブムラタ」「ティート トウキョウ」
日常と幻想、静と動、個と社会。2025秋冬楽天ファッションウィーク東京では、次世代を担う6ブランドが、それぞれの美学でファッションの可能性を追求した。
「ハルノブムラタ」は身体と所作を通じてエレガンスを再構築し、「テルマ」は夜の幻想と技術の融合を、「チカキサダ」は衣服が持つ自由な可能性を提示。「ヴィヴィアーノ」はルールから解放された、自由な感性を追求し、「ケイスケヨシダ」は個人的な記憶と都市のリアルを表現した。「ティート トウキョー」は北欧ホラーの世界観を取り入れた。それぞれが自身の考えや今の時代を深く掘り下げた。
デザインではマスキュリンとフェミニン、エレガンスとカジュアル、透ける素材とハードな素材、クチュール的美しさとストリート的な自由さなど、相反する要素の共存が目を引いた。
ハルノブムラタ(HARUNOBUMURATA)


ハルノブムラタ」は、東京都千代田区のkudan houseでコレクションを行った。会場は来場者との距離が近い小規模な空間。テーマは“A DISTINGUISHED WOMEN MOTORISTES(エレガンスの操縦者)”。20世紀初頭の女性レーシングドライバー、ドロシー・レヴィットの生き方に着想を得て、優雅さと大胆さの共存、そして所作と衣服の関係性を通してエレガンスの再定義を試みた。
前シーズンで彫刻家ブランクーシの思想に基づく静的な美を探求した村田晴信。今シーズンは、動的な美しさへと視点を拡張。レヴィットが持つ、無機質なマシンを操る繊細な所作や、強さと優美さのコントラストに着目。ワークウエアの構造を取り入れた流線的なシルエットや、速度と解放感を感じさせるスタイリングを通じて、衣服と身体、意志とエレガンスの関係性を掘り下げた。
コレクションでは、女性の身体に美しくフィットするニットとフレアな布帛をドッキングしたようなドレスを中心に、リブニットやコットンボア、ウール、ダウン、エナメル素材を重ね、流線的なシルエットで力強さを表現。動きに応じて軽やかに意味を変えるドレーピングが、身体の輪郭を形作る。円形に膨らんだコートはクラシックなクチュールを彷彿とさせる構造を持ちながら、軽やかさと現代性を兼ね備えていた。ドレープやプリーツ、シワ加工が施された白シャツや、黒のコーティング素材などによって、光と影の対比が演出された。
プリントは、レヴィットが提案した「手鏡」の視点に着想を得たもの。切り取られた景色を閉じ込めたようなビジュアルが、静と動、意志と偶然を内包する視点のメタファーとして作用している。
衣服は身体とともに変化するものという考えから、所作や意志が生み出す美しさへの関心を強調。過去の女性像を現在の視点で読み替え、自由とラグジュアリーの可能性を探る姿勢を見せた。
2024年には毎日ファッション大賞「新人賞・資生堂奨励賞」を、今年は楽天ファッションウィーク東京直前に第21回ベストデビュタント賞を受賞した村田。毎日ファッション大賞「新人賞・資生堂奨励賞」の授賞式後には「
テルマ(TELMA)


Courtesy of Japan Fashion Week Organization
中島輝道が手がける「テルマ」は、TODAホール&カンファレンス東京 ホールBでコレクションを開催した。前回のショーで注目を集めたテルマ。今回は「夜」や「クリーピー(不気味さ)」をキーワードに、幻想的で重厚感のあるコレクションを展開した。
会場には白いカーテンが張り巡らされ、狭い空間で服そのものに集中できるような演出が施された。前回のショーでは産地や関係者への感謝を込めて技術力を前面に押し出した構成だったが、今回は明確なストーリー性に基づく演出が際立った。星や月、夜景といった自然の情景を思わせるモチーフと、黒を基調としたカラーリングが会場に幻想的な空気をもたらした。
コレクションはビジューをあしらった黒のジャケットとスカートのルックからスタート。黒と白を軸に、プリーツによる陰影の強調や、シルバーで描いた柄を配したジャケット、チェック柄やドット柄のルックが続いた。中盤以降には茶色や紫も加わり、構築的なシルエットと抑制された色使いの中に多様な表情を見せた。素材面では、環境配慮型素材であるフォレアスや、レジンを使わないプリント、光る糸を用いたヘリンボーン織、動物柄のリバーレース、星モチーフのレースなど、日本の技術と持続可能性を融合したディテールがポイントとなった。
デザイナーの中島は今回のコレクションについて、「都会の夜のクリーピーで美しい空気感」をインスピレーション源といい、「“おやすみ”を言ったあとの子供時代の空想のような、パーソナルな世界を演出したかった」と語った。また、アール・ヌーボーの曲線美や違和感にも着想を得ているという。
「エレガンスというよりは、着る人が美しく見えるシルエットを意識している」と語る中島は、今回新たにイブニングウェアにも挑戦。星モチーフのレースは桐生の職人と試行錯誤して作ったという。
今回の会場選びについては、服をより丁寧に見せたいという狙いから、TODAホールのホールBという小規模空間を選択。東京での発表は「より親密な形でのコミュニケーション」を目指す姿勢の表れでもある。
今後については東京と海外の両軸での展開を視野に入れながら、「ショーの形式にはこだわらず、独自の伝え方を模索していきたい」と語った。
チカキサダ(Chika Kisada)


東京都江東区のGARDEN新木場FACTORYで発表した。テーマは“Eclipse(エクリプス)”。久しぶりに大規模な会場を使用し、幻想的かつパワフルな世界観の中で、光と影、自由と拘束、静と動といった相反する要素が交錯する衣服を展開した。
コレクションは「静寂を切り裂くビート」から始まる詩的な演出で幕を開けた。会場では、着せ替え人形や子ども時代を思わせるモチーフも登場。おもちゃの車を入れた箱や人形を手にしたモデルたちが、強い動きを伴って歩き、空間に動と静のコントラストを生み出した。
テーマに込められたのは、伝統や慣習の進化、そして対立概念の融合。「何者でもなく、何者にでもなれる服」をめざし、衣服が持つ自由な可能性を提示している。
コレクションでは、グリーンの布を重ねたドレスに黒いミニスカートを合わせたルックをはじめ、レザーのジャケット、ピンクのダウン、クロップド丈のコートなどが登場。
ミリタリーテイストとフリルや透ける素材を組み合わせたアイテムも見られ、異素材の対比が際立った。ニットの上にダウンをコルセットのように重ねるなど、構造的なレイヤリングも特徴的だった。
シルエットはスキンコンシャスやボディコンシャスを基調としながら、バレエに着想を得た曲線美を再構成。ムーブメントやレイヤリングによって動きを意識したフォルムが強調された。モデルたちは子供時代に戻ったり、自由でありながら着せ替え人形になってしまったようにも見えた。
デザイナーの幾左田千佳は、リリースに「余白が形を生み出し、伝統や慣習の進化が、曲線美の新たな解釈を導きだす」と記載。小規模な会場での発表が続いていた中で、今回は空間的制約からも解放され、より自由度の高いビジュアライゼーションと身体表現を追求した。
幻想と現実、力強さと繊細さが交差するようなコレクション。演出・空間・衣服まで、“Eclipse(エクリプス)”というテーマが一貫して視覚化されていた。小規模会場での展開を経て、ブランドの表現がさらなる進化と深化を目指しているように見えた。
ヴィヴィアーノ(VIVIANO)


デザイナーのヴィヴィアーノ・スーが手がける「ヴィヴィアーノ(VIVIANO)」は、2025秋冬コレクション「Colpo di Fulmine(恋に落ちた瞬間)」を恵比寿ガーデンホールで発表した。今回のショーは、1980年代のディスコを想起させる空間演出と、直感的かつ自由なクリエーションを重ね合わせた、ヴィヴィアーノの世界観が凝縮されたような内容となった。
“Colpo di Fulmine”は、イタリア語で「雷に打たれたような恋」を意味する言葉。本能や衝動に従う直感的な創作を重視し、「決まりきった形」「誰かが決めた正しさ」といったルールから解放された、自由な感性がテーマとなっている。ヴィヴィアーノは、リリースで「言葉や定義はいらない。ときめきは理屈ではなく感覚」と語っている。
会場にはコレクションが夢のようだった1980年代のコレクションのように高いステージが設置され、天井からはミラーボールが輝くなど、夢のようだった80年代へのオマージュが込められた演出。前回、小笠原伯爵邸で行われたサロン風のショーとは対照的な、ダイナミックな構成となった。
ランウェイには、サテンにウエスタン柄のキルティングを施したルックや、1960年代の織機で織り上げたヴィンテージ風レース、リズミカルなチュール、シルバーのバブルスカート、花をまとったようなドレスなど、多彩な要素が登場。オートクチュールを彷彿とさせるクラシカルなツイードジャケットや黒のロングドレスに加え、クロップド丈や裾のほつれ、スパンコールといったアバンギャルドなディテールも見られた。足元にはウエスタンブーツ風のピンヒールがあしらわれ、ドレッシーなドレスにハイソックスを合わせるスタイリングなど、自由な着こなしを提案した。
幻想的なステージで展開されたコレクションは、オートクチュール的な華やかさとストリート的なリアルさを共存させた。「ザ・ファッションショー」と言えるような華やかな演出の中に、日常的な感覚を差し込む手法は、今後も「ヴィヴィアーノ」のアイデンティティとして発展していきそうだ。
ケイスケヨシダ(KEISUKEYOSHIDA)


「ケイスケヨシダ」は、東京・池袋のロサ会館でコレクションを発表。ゲームセンター横の通路などを舞台に、静けさと喧騒、孤独とエレガンスといった対照的な要素を織り交ぜた構成で、日常に潜む感情や記憶を衣服に落とし込んだ。ブランド創立10周年の節目を迎える今シーズンは、内省的なテーマとクラシカルな美意識が共存している。
「僕の中で現実に向き合う作業だったし、
コレクションでは、黒のコートやグレーのジャケット、スカート、白いシャツ、ブルーのピンストライプのシャツなど、落ち着いたトーンのアイテムが登場。さらに、コートやダウンなども加わり、静かな存在感を放っていた。
ロサ会館のロゴにちなんだバラのモチーフや、商店街に見られる古い柄、シャギー風の柔らかい素材なども使用された。かつてのような極端なシェイプは抑えられ、日常に馴染むフォルムへと変化。ジーンズに合う素材や、肌になじむ感触が重視された。
ウィメンズだが、デザイナー自身も袖を通し、着心地を確かめたという。体と心の近さ、着る人にとってのリアリティが意識されたつくりとなっている。
吉田は今回のコレクションについて、「孤独をエレガンスと呼べるようなブランドにしたい。初期は自己への関心が強かったが、現在は社会や他者との関係に意識が移ってきた」と説明。
「支えてくれる人が増えたことで、表現の幅が広がった」と話した。素材や仕立ても変化した。これまでの硬質なテーラードから、より柔らかく身体になじむ方向へと進化している。
「1面のラストの余韻のようなコレクションであり2面の始まりかもしれない」という吉田。今シーズンはブランドにとっての転機を象徴する内容となった。アバンギャルドからクラシックへ。個人の表現から社会との接点へと、「ケイスケヨシダ」の視点は変化しているようだ。
ティート トウキョウ(tiit tokyo)


Courtesy of Japan Fashion Week Organization
京橋のTODAホール&カンファレンス東京のホワイエでコレクション発表した「ティート トウキョウ」。今シーズンのテーマは“Sparkle(スパークル)”。北欧映画「その獣は月夜に夢を見る」に着想を得て、切ない運命を背負う少女の内面を、静謐なホラーのムードとともに再構成した。
インスピレーション源となった映画は、少女が自らの中に獣性を抱え、恋をしながらも破滅へ向かう北欧の物語。デザイナーは「物語をなぞるのではなく、そこに漂う空気、色彩、ムードを落とし込んだ」と語る。
会場に選ばれたのは、ガラス張りで自然光が差し込むTODAホールのホワイエ。新たな施設としての開放感と、時間とともに変化する光が、コレクションの余韻を引き立てた。
青みがかった北欧的な暗色、涙をイメージしたヘアメイクでは夕暮れをモチーフにしたビジュアルが展開された。「絶望の中にかすかに未来が見える」映画の結末を、ファッションでも同様に再構築しようと試みた。
「希望まで届かないまでも、悲しみの中にポジティブな感覚を残したい」と話すように、キラキラとした素材や不穏な色彩のジャケット、スタイリングの自由度が感情の揺らぎを示している。
マニッシュなグレーのジャケットとパンツ、クラシックなツイードのパンツスーツ、ミルキーカラーや光沢のあるドレスが交差する。中には、下着や部屋着のようなリラックス感のあるルックも登場。袖をまくったジャケットでは裏地のストライプを見せるなど、スタイリングにも“ゆるさ”と“遊び”が加えられた。
オートクチュールを想起させるツイードジャケットやヌードカラー、ゴージャスなファーなど、強さと女性らしさの両面が融合。「閉鎖的でない」「かちっとしない」服づくりが、女性の自由さを象徴していた。
デザイナーは「理屈で固めたくない。感覚的なバランスで見せたい」とコメント。ツーウェイで着用できる服や、スタイリングの自由度も、解放感を象徴している。
「この物語ですと説明されるような明確な物語性よりも、空気のように共有できるムードを重視する」というアプローチ。ブランドのコンセプトである「日常に描く夢」を体現した。
取材・文:樋口真一