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2025.03.12
【2025秋冬パリ ハイライト2】家をテーマにしたコレクションが散見

写真左から「ジバンシィ」「クロエ」「ガニー」「ケンゾー」
フォルムや色、素材やイメージなど、まとまった流行を全く感じなくなって久しいパリコレクション。各消費者の嗜好に合わせるかのごとく、各々のデザイナーが思い思いに服を作り、多様化・細分化し、トレンドが全く掴めない状況である。
10年程前、取材のためにパリのトレンド解析をする企業を半年毎に訪れていた。その企業は、半年毎に1年後の流行色、素材、イメージを動画にまとめて発表していたのだが、回を重ねるごとにその動画の尺が長くなっていた。内部の人間曰く、1年後の状況が推測し辛くなっているため、様々なものを詰め込む傾向が続き、動画の分数が自ずと長くなっているということだった。どれか当たれば良いくらいの考えで動画を作っていたようで、結局はその時点でトレンド解析が成立していなかったことになる。
そんなパリにあって、今季、もしかしたらニッチなトレンドになっているかもしれない、と思わされる流れがあった。それは家である。「ガニー(GANNI)」は、そのままホームをイメージし、インテリアから着想を得たコレクションを発表していた。「ジュリ ケーゲル(Julie Kegels)」もソファやインテリアをモチーフに服作りをしていたし、ハイダー・アッカーマンによる「トム フォード(TOM FORD)」は、ドレッシーなアイテムの中で部屋着としてのガウンを1点だけ披露。ジョナサン・アンダーソンによる「ロエベ(LOEWE)」は、メンズコレクションの中でチェックのブランケットを部屋着のようにアレンジしたジャケットのシリーズを発表していた。ニコラ・ジェスキエールによる「ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)」は、列車の旅をテーマにしていたが、列車の個室を家における部屋と捉えることも可能で、ランジェリーやスウェットなど、リラックスしたアイテムが目を引いた。
家を心の拠り所として捉えるという考えは、多くの人々の根底にあるはずで、活動的な場面で着用する服に、家の要素を結び付けようとしただけなのかもしれない。ただ、数ブランドのみの小さな共通項=トレンドではあるのだが。
※4日目、5日目のショーを開催順に掲載
4日目
クロエ(Chloé)


シェミナ・カマリによる「クロエ」は、パリ市テニスコートを会場にショーを開催した。コレクションタイトルは“THE EVOLUTION”。「昔から好きなものと今好きなものを組み合わせ、女性のワードローブを広げて行く」という意味のエヴォリューション(発展・進化)を見せている。
18世紀のロココ様式を思わせるジャカードによるジャケットには、モーターサイクルジャケットのディテールを配してモダンに仕上げている。エキゾチックモチーフの刺繍ジャケットには、19世紀のドレスを思わせるオペラボタンを配し、シフォンのランジェリードレスとコーディネート。DIY的な手縫いのパッチを袖に施した80年代風のジャケットには、ランジェリートップとシースルースカートを合わせてモダナイズ。
レースをふんだんにあしらったドレスには、パニエを合わせて西洋服飾史的な表現を加え、ヴィクトリアン風のブラウスや70年代風のラヴァリエールブラウスには、80年代を思わせる分厚い肩パッドを入れてストロングショルダーに。様々な時代を行き来しながら、今を生きる「クロエガール」の新しいイメージを描き出している。
ベージュなどの淡いトーンをイメージさせる「クロエ」だが、今季はパープルや深いグリーン、グレーが登場し、色合わせの美しさも印象的だった。
そして今季話題となったのが、20年前に一世を風靡したバッグ「パディントン」の復刻である。特にパッドロックの軽量化を実現し、その重さに一度は音を上げた多くの女性たちを喜ばせるに違いない。
ラバンヌ(RABANNE)


女性の二面性を表現したというジュリアン・ドッセーナによる「ラバンヌ」。コートやジャケットの見頃の裏側やドレスの裾から刺繍が覗き、テクスチャーの異なるものを組み合わせることで意外性を生む仕掛けが施されている。
身頃が二重になっているかのようなトロンプルイユのジャケットと、エコファーによる尻尾をあしらったスカートでスタート。二重の身頃が女性の二面性を表現。内側にスパンコールとビーズを刺繍したドレスには、胸元にリベットをあしらい、自らを開放するものの象徴としての鍵のペンダントトップを内側から通している。
ファーカラーのコートは、ビーズ刺繍を施した異素材ミックスの身頃を取り付け、トロンプルイユ効果を出したアイテム。エコファーのコートも、身頃を二重にしてトロンプルイユ仕立てに。鎖帷子のアンサンブルには、レースをミックスしてキャミソール風にアレンジ。コンフェッティモチーフのドレスにも、リベットをあしらい、鍵のペンダントトップを垂らしている。フォルムだけに着目すると、多くのルックに1960年代のムードが感じられた。
相反する要素をミックスすることで、秘かなサプライズを生む。ジュリアン・ドッセーナらしい、ひねりの効かせたコレクションとなっていた。
リック・オウエンス(Rick Owens)


先のメンズコレクションに引き続き、イタリアの服工場が密集する工業都市コンコルディアにオマージュを捧げた「リック・オウエンス」。
メンズ同様、ジャケットやコートには高い襟、ドラキュラカラーをあしらい、アメリカ由来のアリゲーターのレザーを用いたブルゾンやドレスが登場。レーザーカットされた牛革を手作業で織り上げるチェーンリンクアイテムを作成するパリのデザイナー、ヴィクター・クラヴェリー、パリのラバーマスター、マティス・ディ・マッジオとのコラボレーションも継続。
その他にも、有機的なモチーフのニットを作成したターニャ・ヴィディッチや、レオ・プロスマンによる「チャップス(CHAPS)」など、アーティスト達との協業により、コレクションに重厚感が生まれている。作り手はそれぞれ異なるが、「リック・オウエンス」の強い世界観を生み出すエッセンスとなっていた。
メンズコレクションの時期に発表された「リモワ(RIMOWA)」のキャリーケースは、内側にレザーを用いていたが、そのアイデアがレザーのボンバースのライナーにレザーを用いるアイデアに発展。より一層ラグジュアリーなアイテムが完成した。その他にも、フェルトをチュールで包み込んだ素材のブルゾンや、ブロンズ箔とワックスをプレスして独特の質感を出したデニムアイテムなど、新しいアイデア・素材によるアイテムを随所に散りばめていた。
イザベル マラン(ISABEL MARANT)


ロックやパンクにイメージを求めた「イザベル マラン」。リベットやピアスなどのパンクロックのディテール、そしてツイードやチェックモチーフがどこかロンドンを思わせる空気感を醸していた。
ミニスカートにはリベットを打ったリボンを配し、ピアスリングを通したレザーのトップスにはハンドニット風のラインを入れてDIY風に見せている。レトロなニットプルは、ベルトでウエストを絞り、ヴィンテージ好きで古着を探すボヘミアンがカスタマイズしたイメージに。
デボレやポルカドットジャカードのドレスは、70年代のグラマラスなムード。レースのドレスやレースとポルカドットの異素材ミックスのドレスなど、レーシーな要素を加えてフェミニンでエアリーな要素を演出。多くのアイテムがショート丈で、若々しいイメージにまとめている。
それらに重厚感あるツイードのジャケットやコートをコーディネートし、マスキュリン・フェミニンな側面も打ち出し、緩急のバランスの妙を見せていた。
5日目
ジバンシィ(GIVENCHY)


サラ・バートンによる初の「ジバンシィ」のコレクションは、ジョルジュ・サンク通りの本社にて披露された。創始者ユベール・ドゥ・ジバンシィの改装中の邸宅から1952年のデビューコレクションで使用されたパターンが発見され、それがサラ・バートンのクリエーションに大きな影響を与えたという。それは、ファーストルックのバレットブラを合わせたメッシュニットのオールインワンにあしらわれた新たなロゴに表出。
ユベール・ドゥ・ジバンシィのアーカイブを引用しながらも、削ぎ落すことにフォーカスしたという今季は、立体的な新しいシルエットが生まれている。ジャケットやコートは、アワーグラスのようにウエストが絞られ、袖はコクーンのような丸みを帯びている。ジャケットに合わせられるパンツも、ふくよかなシルエット。V字に深くカットの入ったジャケットドレスは、ジャケットを後ろ前にするアイデアから導かれたアイテム。
シャンティレースをあしらったドレスは、より丈を短くカットしてモダンでフレッシュに仕上げ、アーカイブから引用されたシャツドレスも脚を見せるカッティング。
ヴィンテージのコンパクトを無数に取り付けたミニ丈ドレスは、ベッティーナ袖の語源ともなったモデル、ベッディーナの鞄の中から飛び出したコンパクトをイメージした。
サテンのジャケットドレスやモヘアのブラなど、ジョイフルネスをイメージしたという差し色のイエローが、コレクション全体をオプティミスティックなものにしていた。
イッセイ ミヤケ(ISSEY MIYAKE)


© ISSEY MIYAKE INC./Photo by Frédérique Dumoulin-Bonnet
近藤悟史による「イッセイ ミヤケ」は、カルーセル・デュ・ルーヴルにてショーを開催した。コレクションタイトルは“ [N]either [N]or”。相反する2つのものを結びつけ、「どちらかである(either or)、どちらでもない(neither nor)」という曖昧さを表現した。
オーストリア人アーティスト、エルヴィン・ヴルムの作品からインスパイアされ、「見慣れたものを意外で独創的な方法で見せれば、見え方が変わり、見方が新しくなる」という発想に影響を受けたという。ショーが始まる前からダンサーたちが会場で演技をし、ショーが始まってからは会場に置かれている服をまとい、不思議なフォルムでポージングし、アートオブジェと化した。
立体的な服を平面にプリントしたドレスでスタート。異なる編み組織を組み合わせることで有機的なフォルムを実現させたドレスや、着る人によって表出するフォルムが異なるシャツやブレザーは、それぞれ彫刻的なシルエットを見せる。
和紙とコットンにストレッチ素材を織り合わせた生地によるシリーズ、プリーツ加工とハンドプリーツを組み合わせたシリーズも、それぞれアシメトリーの有機的かつ彫刻的なシルエットを描き、アーティスティックな雰囲気を強く感じさせる。「どんなものでも、身体を通せば衣服になる」という発想から生まれた、紙袋のシリーズは突飛なアイデアだったが、見る者の目を楽しませた。
最後のニットのシリーズは、柔らかいはずと思っているニットへの認識を覆す作品。可塑性のある合成繊維とウール・ アルパカの混紡糸をプレス加工することで、通常のニットにはない硬質な風合いが生まれている。
アーティティックな側面が強く、不思議な気分にさせられるコレクションだったが、その面白味やユーモアへの理解が及ぶに至り、後から心に染み入って来る内容であった。
ケンゾー(KENZO)


本社ショールームを会場に、2026春夏のプレビュー的なコレクションを発表したNIGO®による「ケンゾー」。ディテールや素材にこだわり、これまで以上にラグジュアリーに仕立てられたアイテムを集めている。9月半ばより店頭に並ぶが、ショーピースのみで構成し、数を絞った店舗での販売となるという。
ヴァージンウールによるスモーキングには、レーシーなパルーンパンツを合わせて上下のコントラストを強調。市松模様のレースのシースルージャンプスーツは、アーカイブにあった招待状のグラフィックからの引用。ニューエラとのコラボレーションキャップや、「KENZO」やNIGO®の文字をあしらったラインストーンバックルのベルト、キャミソールが垂れ下がったようなディテールをあしらったパンツでストリートっぽさを加えている。アトリエのメンバーの名前を刺繍したコートやトップスは、卒業時にクラスメートの名前を服に書くアメリカの習慣からインスパイア。
40歳の誕生日にウサギの耳の付いた服を着用する高田賢三の1970年代の写真がインスピレーション源となり、ウサギの耳の付いたフーディが作られ、新しいウサギのキャラクター、ピンクのLucky MeとブルーのLucky youが誕生。今季はフランスのぬいぐるみ会社「ラ・プルシュリー(La Pelucherie)」に依頼してぬいぐるみを作成し、その二つを組み合わせたベストや、同じ素材をあしらったマフラーを制作している。
高田賢三はコレクションに必ずチェックを用いていたが、NIGO®はそれをパンク的なものに再解釈。アーカイブをフル活用しながらも、NIGO®のテイストに寄せたコレクションとなっていた。
ヨウジヤマモト(Yohji Yamamoto)


パリ市庁舎のボールルームを会場に、ショーを開催した「ヨウジヤマモト」。今季も特にテーマを設けずに自由なクリエーションを見せたが、デコラティブなアイテムとシンプルなアイテムとの対比が明確に示され、また今季はパープルという色を印象的に配して、新たな側面を切り拓いていた。
グラフィカルなモチーフを配してコードを這わせたコートドレスなど、手の込んだ装飾を配したルックがあるかと思えば、シンプルなカッティングのドレスが登場。そのコントラストが緩急のリズムを生む。
ツイード素材を有機的なフォルムにあしらったドレスや、マドレーヌ・ヴィオネを思わせる布をツイストしたドレス、長方形のパーツをリングで繋いだトップス、レザーのコルセット。様々な要素を散りばめたルックが登場するが、多くが視覚的にグラフィカルな印象。
差し色としてあしらわれるパープルは、ドレーピングのドレス2体で全面的に使用される。これは山本里美とのコラボレーションによるものだった。続いて、ライニングにパープルを配したキルティングのコート6点が登場。3組に分かれて、互いに着ているコートを裏返しにして着せ合う。この光景は、1月に発表されたメンズコレクションを想起。パープルのコート6点と、パープルのドレス2点、計8点が並び、ランウェイは何とも華やかなものとなったが、同時に艶やかさも湛(たた)える。色の視覚的効果を強く印象付けたのだった。
取材・文:清水友顕(Text by Tomoaki Shimizu)
画像:各ブランド提供(開催順)