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2025.03.24

【2025秋冬東京 ハイライト2】楽天ファッションウィーク東京2024秋冬閉幕 強みであるメンズデザイナーや招聘ブランドなどで話題に

写真左から「ポール・スミス」「ヨシオクボ」「ヒュンメルオー」「カミヤ」

 

 独自のスケジュールで1月や2月にショーを開催するメンズデザイナーが多かった今シーズン。楽天ファッションウィーク東京(Rakuten Fashion Week TOKYO)に参加するメンズブランドの数は少ないものの、さまざまな話題で盛り上がりを見せた。

 

 数十年にわたり人気を博しているイギリスブランド「ポール・スミス(Paul Smith)」が「by R」に参加した。FASHION PRIZE OF TOKYO 第7回受賞ブランド「シュタイン(ssstein)」のイベントや、TOKYO FASHION AWARD受賞者による凱旋ショーも開催され、今後の世界での活躍が期待される若手デザイナーが注目を集めた。先シーズンに演出が話題となった「ヨシオ クボ(yoshiokubo)」のショーへの期待や、「クリスチャンダダ(CHRISTIAN DADA)」で東京ファッションを牽引したデザイナー森川マサノリが2ブランドで発表を行うなど、多方面で関心を集めた。

 

 ヨーロッパのコレクションと比較すると時期的なハンデはあるものの、東京ファッションを世界に広める足掛かりとして、また国内マーケットの活性化のきっかけとして、今後もより多くの新進気鋭ブランドの楽天ファッションウィーク東京への参加が期待される。

 

ポール・スミス(Paul Smith)

Courtesy of Paul Smith

 

 今年1月にパリで2025秋冬コレクションを発表した「ポール・スミス」が、「by R」プロジェクトの一環として楽天ファッションウィーク東京でランウェイショーを開催した。1970年に設立以降、世界中で愛されるブランドになった「ボール・スミス」。2024年12月に楽天が運営するファッション通販サイト「Rakuten Fashion」に同ブランドが参加したことを機に、今回のショー実施が決まった。

 

 デザイナーであるポール・スミスは、これまでに100回以上東京に訪れたことがあり、日本は大切なインスピレーション源であるという。そのデザイナー自身の日本への深い愛情を改めて示す場ともなった。会場に選んだのは東京都台東区の東京国立博物館・表慶館。西洋の文化や技術が一気に国内に広まった明治時代の建築の代表作として重要文化財にも指定されており、今回のショーにはまさにうってつけの場所であった。

 

 コレクションのテーマは“アート オブ イメージ メイキング(イメージ創作の芸術)”。アメリカの写真家、ソール・ライターのカラー写真に着想を得たリッチなカラーパレットや、デヴィッド・ベイリーなど20世紀を象徴する写真家たちのスタイリングをイメージしたラフな着こなしのテーラードスタイルを打ち出すなど、フォトグラファーのアート性をコレクションに盛り込んだ。また、伝統的なテーラリング生地であるヘリンボーンウールに洗いをかけて、少し着古したような味わい深い風合いにしたり、一見するとシンプルな作りに見えるテーラードジャケットも、近くで見るとパッチワークが施されているなど、優れた職人技の中にブランドらしい遊び心も潜ませた。

 

 今回は「by R」プロジェクトのために特別にデザインされたアイテムも登場。ポール自身が撮影した写真をベースにデザインされた鮮やかな蘭の花のプリントをのせた、シャツ、Tシャツ、アクセサリーなどがシー・ナウ・バイ・ナウ形式のカプセルコレクションとして、ライブストリーミングを通じて世界中の視聴者へと届けられた。

 

ヨシオ クボ(yoshiokubo)

Courtesy of yoshiokubo

 

 先シーズン吉本新喜劇とコラボレーションしたショーで話題となった「ヨシオクボ」。「流線型をやってきたブランドとして回転アトラクションや導線にカーブの多い迷路のような遊園地は場所としていいと思った」とデザイナーの久保嘉男が語ったように、今シーズンは、東京都台東区にある日本最古とされる遊園地、浅草花やしきを舞台にランウェイショーを開催した。

 

 今シーズンのコレクションテーマは“KESSAK“”。大阪弁の“けっさく”という、想像とは違った意表をつくようなオチに出会ったときなどに用いられる「面白い」以外にも「思わず感心してしまう」といった爽快感すら伴う感情を表す言葉をテーマにした。

 

 そして、そのテーマは20年間ブランドを続けてきて気づいたという究極のパターンによって表現した。幾何学模様や抽象画のアートのようにも見えるカッティングを施したシャツやジャケット。異素材が重なり合い、複雑な線を描きながら紡がれている。それは、デザイナーの言葉を借りるならばまさに「レシピの見えない服作り」であり、見る者の興味を惹きつける。また、ジャケットに重ねられた繊細な透け感のある素材にもカッティングを施し、その細やかな手仕事に「誰にも思いつかないような凝った服作りがしたい」という、ブランドのものづくりへの姿勢が表れている。

 

 印象的な大きなバッグはヨットの帆を再利用したもので、デザイナーの私物として使っていたら評判を呼び、実際に商品化することになったのだという。ラストルックで登場したのは動物のヤク型のバッグで、実際デザイナーがコレクション制作のためにエベレストまで行って受けたインスピレーションを表現したものだ。

 

 一度はランウェイショー開催を止めていた同ブランドだが、先シーズンの注目を受けてデザイナーの久保は、「あんなに多くの人が喜んでくれるなら、今後もみんなが楽しめるショーができたらいいと思っている」と語った。

 

カミヤ(KAMIYA)

Courtesy of KAMIYA

 

 青海のシティサーキット東京ベイでショーを行った「カミヤ」。今シーズンは写真家フィリップ・ビジャロボスの写真集「Messengers Style」を何気なく手に取ったことから生まれたという。その中に収められるメッセンジャーたちのスタイルから刺激を受けたコレクションを発表した。

 

 同ブランドが得意とするアメリカンカジュアルやビンテージをミックスしたルードなルック。手作業によるブラインドヘムリペアと、エッジの効いたサン・ダメージデニム、コーデュロイ、ぼかしチェックのネルシャツ、ボア、フェードする色合いや加工、様々なトーンのアーシーカラーなど、レトロな素材やカラーを使用しているのが今シーズンらしさだ。

 

 街を疾走するメッセンジャーを想起する軽快で身体を保護するアウターも印象的。ショート丈やミドル丈がほとんどで、大胆なバッフルやフリンジが印象的なパテッドジャケット、ボアのフーディージャケットやベスト、スウィングトップ、加工感のあるデニムジャケットなど、多様なアイテムをキーにしたルックが次々に現れる。

 

 ボトムスはフレアやワイドパンツが中心。ダメージと着古し感の効いたデニム、機能的なディテールを施したコーデュロイやワークパンツ、膝下のクロップドパンツなどで、ゆるっとしたシルエットをつくりあげる。モチーフはアメリカンプリミティブやスポーツ、アウトドア由来のものが中心。「KAMIYA TEAM」「KAMIYA JAPAN」といったユニフォーム風の文字ロゴも覗かせている。

 

 ショーのフィナーレではトラックバイクに乗ったモデルたちがカートを走行。今シーズンの世界観をゲストと共有した。

 

ベイシックス(BASICKS)

Courtesy of BASICKS

 

 国内外から支持され、レディーガガの衣装制作も行ったことで知られるブランド「クリスチャン ダダ(CHRISTIAN DADA)」の元デザイナー、森川マサノリによるユニセックスブランド「ベイシックス」がランウェイショーを行った。

 

 ブランドコンセプトは「日常着の循環/アウトライン(輪郭)化」だが、今シーズンは日常の中に埋もれがちな基本的なデザインや服にあえて違和感を持たせて、ファッションの無限の可能性を表現したという。その違和感は、モード、スポーツ、そしてデザイナーが「自分らしさ」と語ったフェティッシュなど、様々な要素を加えた。

 

 例えば、オーソドックスなアイテムであるシャツを、普通に着るのではなく首と腰に巻き付けて前面だけ着ている風のスタイリングできるように仕立てるなど、ちょっとした工夫で服の可能性が広げられることを示した。また、今回特徴的なのはスポーツ要素。ベースボールシャツやトラックスーツなどをフェティッシュな要素を加えることでモードに昇華していた。

 

 「『ベーシック』という点に着目して始まったブランドだが、今シーズンはよりフェティッシュという昔の自分らしさが出たと思う。特に、今は装飾的にできるウィメンズを作ることを楽しんでいる」とデザイナーの森川が語ったように、ラストルックではスポーツブランド「リーボック(Reebok)」とコラボレーションしたラッフルのボリューム感が印象的なドレスが登場。「今年中には旗艦店の出店も控えており、国内から海外へ、また広く展開していけたら」と今後の可能性にも言及した。

 

ヒュンメルオー(HUMMEL 00)

Courtesy of HUMMEL 00

 

 デンマークのスポーツブランド「ヒュンメル(hummel)」が、モダンなライフスタイルにフォーカスしたデイリーウェアラインとして2025春夏に立ち上げた「ヒュンメルオー」。今期からデザイナーに「ベイシックス」の森川が就任し、初となるコレクションをランウェイ形式で発表した。森川は自身のブランドと2ブランドのショーを同じ楽天ファッションウィーク東京内で開催するという異例の大仕事を成し遂げた。

 

 「制作期間が短かったものの、今後のブランドを示すイントロダクション的なアプローチはできたと思う」と森川。「ヒュンメル」がブランド設立以降100年以上の時間をかけて紡いできたレガシーに新しい息吹を吹き込み、都市でも輝くモダンなスポーツウェアの解釈を見せた。サイジングやシルエットの誇張をせず、ベロアの光沢感や上質なウールの素材感などで、上品かつ本質的な服作りの姿勢を貫いた。

 

 また、ブランド名の由来であり、精神性を表象したロゴでもあるバンブルビー(マルハナバチ)のモチーフはビジューやカフスボタンで表現。そしてブランドの確固たるバックグラウンドであるフットボールへの敬意が、ハニカム状の生地で構成されたキルティングベストやショルダーバッグで表している。

 

 ショー終了後、デザイナーの森川は「スポーツブランドという縛りがある中でのクリエイションはこれまでなかったので興味を持って取り組めた。今回デザイナーとして指名いただけたのは光栄で、今後もショーでコレクションを発表できたらと思う」と語った。

 

タム(Tamme)

Courtesy of Tamme

 

 今回のファッションウィークのラストを飾ったのが玉田達也の「タム」。2段の構造物の間とスタンディング客の間に高く作った2つのランウェイをモデルがウォーキング。フォーマルウェアを再解釈したコレクションを披露した。

 

 ファーストルックは、ダブルブレストのフォーマルなセットアップ。袖口からはみ出した長い白シャツの袖、切りっぱなしの袖口をまくったジャケット、わざと緩めたネクタイの結び目など、ルールに囚われない自由さを感じさせる。

 

 その後もドレスダウンしたルックや、フォーマルなアイテムを差し入れることでカジュアルアップしたルックが次々と登場する。どちらでもキーとなるのはネクタイ。シャツに締めるだけでなく、素肌にゆるく締めたり、スウェットパンツの横にリボンのようにあしらったり、カジュアルなシャツと共地のアイテムにしたり……様々な提案が続いた。

 

 トレンチコートの上部分を切り離したようなベリーショートジャケット、その下部分をラップスカートのようにしたアイテム、カマーバンドをバッグにするなど、フォーマルなアイテムを解体し、スポーツやミリタリーのアプローチでリメイクしたようなデザインも魅力的であった。

 

パラトレイト(paratrait)

Courtesy of paratrait

 

 今回、初のランウェイショーを行った坂井俊太による「パラトレイト」。坂井は文化服装学院で学んだ後、渡英し、イスティトゥート・マランゴーニのロンドン校で修士課程を終了。その後、「アレキサンダー・マックイーン(Alexander McQueen)」と「バーバリー(BURBERRY)」でウィメンズウェアデザイナーを経験した実力派だ。

 

 今シーズンは、ネパール・カトマンズでの古代仏教や山岳崇拝から着想。死と生がめぐる輪廻転生の考えを、終わりと始まりが交差する瞬間としてデザインに落とし込んだという。

 

 赤い照明が小さく落ちてきてショーがスタート。芥川龍之介の小説「蜘蛛の糸」をイメージした会場演出だ。幻想的な空間の中で発表したコレクションは、西洋と東洋、フォーマルとアウトドア、それぞれを再解釈して複合したもの。

 

 ルックのベースはブリティッシュスタイル。トラッドやモッズなどにひねりを加えたルックとともに、東洋的な前合わせのアウターをキーとしたルックも登場。カラーは全体にダーク。そこに強めのブルーのパテッドジャケット、白のファー調のアウターや太ストライプのノーカラージャケット、コートなどが映えた。

 

カネマサフィル(KANEMASA PHIL.)

Courtesy of KANEMASA PHIL.

 

 1964年創業のニットメーカー、カネマサ莫大小株式会社が手掛けるオリジナルブランド「カネマサフィル」。TOKYO FASHION AWARD 2025の受賞により、楽天ファッションウィーク東京(RFWT)内でショーを開催した。

 ランウェイをふらりと歩くモデルたちがまとっているのは、リラックスしたブリティッシュトラッド。シンプルなデザインのアイテムやワンカラー、トーンオントーンのカラーリングが、現代の空気感を表現する。秋冬コレクションでありながら、ホワイトやサックスブルーといったサマーカラーやニュアンスカラーを用いることで、清涼感とレトロなムードを漂わせた。

 ジャケット、シャツ、スラックスなど、すべて自社製のジャージー生地を使用している。ハイゲージのウールヘリンボーンやカシミヤの高密度タイプライターによるセットアップ、ダイヤ柄のキルテッドアウターなども印象的である。
海外進出も視野に入れる同ブランド。日本のシンプルさと高度な技術を強みに、今後どのような展開を見せるのか注目される。

トキオ(tokio)

Courtesy of Japan Fashion Week Organization

 

 2021年デザイナーの木村登喜夫によって設立されたメンズブランド「トキオ」。TOKYO FASHION AWARD 2025を受賞し、今回ブランドとして初となるランウェイショーを行った。

 

 2025秋冬のテーマは“I’m Stranger”。アワードを受賞したが、デザイナーの木村は「その中でも自分は異端児だと思う」と語り、外から見たらごちゃ混ぜに見えるコレクションでも、それが「トキオ」なんだという強い自信と熱い想いを詰め込んだという。

 

 パンク、ロック、テーラリング、カジュアル、モード。ルックを見ていて次々に浮かんでくるキーワード。ともすると統一感がないコレクションにも思えるが、ただ不思議なことに全体を通してこのブランドの強さと一貫性が伝わってくる。それは、ひとつひとつのアイテムに詰め込まれた繊細なクラフト感。しっかりとした質感のある素材の良さや手の込んだ刺繍、計算されたダメージ感、それらが丁寧に作られていることが手に取るようにわかるのだ。印象的なのはパッチワークのデニム。ブランドのものづくりへの姿勢を体現したようなこのアイテムは、上半身はアクセサリーのみというシンプルなスタイリングで登場した。

 

 アワードのサポートで行ったパリでの合同展示会での手ごたえは、「正直なかった」とデザイナーの木村。ごちゃ混ぜの世界観は「もっと整理した方がいい」といったフィードバックもあったと言うが、「ブランドとしてやりたいことをやっているので、それを変えるのではなく、『どう伝えるか』が大事だと思う。今回はとにかくありのままで飛び込んでみたので、ブランドを理解して広めてくれるパートナーを探していきたい」と、パリで今後のビジネスでの課題を見つけたようだ。

 

エムエスエムエル(MSML)

Courtesy of MSML

 

 ボーカル、ベーシスト、ドラマーの3人がデザイナーを務めるブランド「エムエスエムエル」が初ショーを開催。“DREAMIN’” をテーマに、街になじむアイテムに反骨精神たっぷりなデザインを施したコレクションを発表した。

 

 「夢を引き裂く圧倒的な日常という現実」と「圧倒的な日常という現実さえも覆い隠す夢」という言葉を、コレクションノートのテーマに添えた同ブランド。アメリカンカジュアルやスポーツアイテムにキャッチーなデザインやメッセージ、モチーフをのせた。

 

 全てのルックに通じるのが、普段着の格上げ感だ。「ダル着」の象徴であるスウェットは綺麗なブルー、トレーナーの首元にはスカーフを巻いて、シャカシャカなパンツにはロングのファーコートを纏って、都会に住むアウトサイダーのライフシーンを切り取ったかのようなショーであった。

 

 最後には、耳をつんざく爆音の演奏を行い、ゲストに強い印象を残した。

 

ヘヴン タヌディレージャ(HEAVEN TANUDIREDJA)

Courtesy of Japan Fashion Week Organization

 

 インドネシア、バリ島を拠点とする「ヘヴン タヌディレージャ」が東京都港区青山の会場でランウェイを開催した。東京でのショーは約2年ぶりで、今回は一般観覧客の募集も行い、幅広い層へブランドの認知を広げた。

 

 2025秋冬コレクションのテーマは“Repetition compulsion”。この言葉は、過去のトラウマ的な経験を無意識のうちに繰り返し、それが行動や無意識の身体反応を引き起こすという心理現象を指す。デザイナーのヘヴン・タヌディレージャは、この人間の特性に着目し、自身のこれまでの作品を振り返りながらコレクションを紡ぎあげたという。

 

 それぞれが独自の反復するトラウマ的な記憶を象徴するように、何度も繰り返されるパネルを用いた構築的なシルエットのドレスやジャケット、繊細な生地で仕立てられた装甲のようなウエスト、過去の作品を用いて大胆にパッチワークしたドレスなどが登場。また、シューズは「グラウンズ(grounds)」と3度目となるコラボレーションで制作した。「グラウンズ」のアイコニックなシューズに、ブランドらしいスパンコールやシルバージュエリーなどの職人技が光る装飾を施した。

 

 

 

文:山中健、アパレルウェブ編集部

 

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