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2024.10.07

【2025春夏パリ ハイライト2】革新性と実験性に富んだ気鋭デザイナーたち

写真左から「ルイ・ヴィトン」「ロエベ」「リック・オウエンス」「ラバンヌ」

 

 パリを筆頭にミラノやロンドン、ニューヨークや東京など、ファッションショーを一定期間に集約させる「コレクション」は世界各地に存在するが、パリコレクションをパリコレクションたらしめている理由は何か。それは「創造性の高さ」の一言に尽きる。

 

 パリは伝統的に異文化を許容する街であり、古くはルネッサンスの時代から、芸術や建築、料理など、様々な分野が外国からやってくる異邦人達によって花開き、それは現在でも連綿と続いている。そうして、創造性を育む土壌が生まれているのである。フランス人は刺激を受ける側に回るも、自らの感性を磨き切磋琢磨する。そうしてフランスをフランスたらしめている。

 

 ファッションも然り。パリのオート・クチュールの祖とも言われるシャルル・フレデリック・ウォルトがイギリス人であったことは象徴的であり、常に新しさを生み出し、開拓しようとするクリエーターが自然とパリに集まるのである。ただ、先進性・独創性を追求するあまり、デザイナー本人はもちろんのこと、ジャーナリストや顧客など多くの脱落者を生むこともあるのだが。

 

 2回目のハイライト記事では、そんなパリコレクションを支える、革新性と実験性に富んだブランドを中心に紹介していきたい。

 

ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)

Courtesy of Louis Vuitton

 

 ルーヴル美術館の中庭の特設テント内でショーを開催した、ニコラ・ジェスキエールによる「ルイ・ヴィトン」。ソフトとパワー、強さと繊細さ、毅然さと女性らしさ、相反する対立物を1つのルックの中で調和させ、境界線を無くし、コントラストを融合させることにより、新しい表現が生まれる、とした。その言葉通り、取り合わせの妙で魅力を放つ、大胆なアイデアに裏打ちされたルックでコレクションを構成。

 

 ショーがスタートすると、このショーのためだけに作られた1,250個のトランクを使用したランウェイがせり上がり、それぞれ独立した空気感を放つルックが矢継ぎ早に登場した。

 

 大きく膨らんだ袖のジャケットは、中世のコスチュームからインスパイアされたもので、モダンなスパッツとのコントラストを生むも、1つのルックとして調和している。石のような大きなスパンコールを刺繍したミニ丈のシャツドレスやブラウスは、初見で抱く違和感が徐々に落ち着いてくるから不思議である。

 

 ブラインドーを刺繍したストライプのショートドレス、甲冑を思わせるスリーブレスのジャケットを合わせたスカートとパンツをミックスしたボトム。遊びと引っ掛かりのあるアイテムが強い印象を残す。

 

 宇宙の光景を思わせるモチーフをプリントしたジャカード地のシャツは、ローラン·グラッソによる「Studies into the Past(過去への探究)」と題された絵画作品シリーズからの引用。スパンコールとビーズを刺繍したフリンジスカートをコーディネートし、様々なエッセンスが1つのルックの中で同居し、そのまま宇宙を思わせる。

 

 ミスマッチをハーモニーに変換するマジック。ニコラ・ジェスキエールのクリエーションの独自性を、あらためて印象付けたコレクションとなった。

 

ロエベ(LOEWE)

Courtesy of LOEWE

 

 ヴァンセンヌ城の中庭に建てられた特設テント内中央には、ターナー賞を受賞している英アーティスト、トレイシー・エミンのブロンズ作品が展示されていた。ジョナサン・アンダーソンによる「ロエベ」は「音楽からあらゆるノイズを取り除いた時に何が起きるか」をイメージし、「リズムとメロディだけが残る」という結論から、シルエットのみを残し、余分なものを全て削ぎ落す作業を経て生まれたアイテムでコレクションを構成。

 

 蝶貝によるトップスやドレープを寄せたナパレザーのパンツ、ヘムが反り上がったコートやゴールドワイヤーを配したワンピースなどは、6月に発表されたメンズコレクションからの流れを汲んだアイテム。クリノリンのようなボーンを配したドレスは、印象派の絵画から想を得た様々なフローラルモチーフのファブリックで豊かなバリエーションを見せる。ドレスは繰り返し登場し、その反復、そして歩みに合わせてドレスが揺れる様はまるで音楽のよう。今季はテントの外側に、バッハのバイオリンソナタGマイナーの楽譜をプリント。

 

 トレイシー・エミンの作品は鳥がモチーフとなっており、羽を刺繍したトップスと呼応。土産物のTシャツ、あるいはロックTシャツからインスパイアされ、ゴッホやマネ等の絵画やバッハやショパンの肖像画をプリントし、そのコントラストが遊びになっている。

 

 今季は、針で穴を開けて引っ張ることで凹凸を出したサテン地によるアイテムも登場。大きなパーツや刺繍で飾り立てるのではなく、素材感やフォルムそのもので各ルックの強さを表現するという実験的な姿勢を貫いていた。

 

バルマン(BALMAIN)

 via Youtube @BALMAIN

 

 ショー会場となったシャイヨー宮の周囲の地下鉄の出入り口や道路は閉鎖され、物々しい雰囲気となった「バルマン」。それもそのはず。マクロン大統領夫人がフロントローに姿を現したのだった。オリヴィエ・ルスタンは、自らのスタイルをより一層推し進め、精緻な手仕事に裏打ちされるドレス群でコレクションを構成。

 

 シードビーズで埋め尽くされたドレスでスタート。唇のモチーフや、アフリカインスパイアのアイテムは、2024秋冬のメンズコレクションからの流れを汲んだ作品。強い肩のシルエットは多くのジャケットやトップスで見られ、「バルマン」を象徴するシルエットとなっている。

 

 香水瓶を思わせるフォルムのドレスや、樹脂で固めたヌーディなワンピースなど、独創的なドレスが目を引く。アフリカの仮面を思わせるドレーピングのドレスは、ジャン・ポール・ゴルチエのオート・クチュールを彷彿とさせ、2022年にゴルチエのオート・クチュールを手掛けているルスタンによるオマージュと受け取れた。

 

 フィナーレでは、The Carsのリック・オケイセックの元夫人、80年代に活躍したスーパーモデルのポーリーナ・ポリスコワが登場し、会場を沸かせた。

 

リック・オウエンス(Rick Owens)

©OWENSCORP

 

 これまで通り、パレ・ドゥ・トーキョーの噴水広場で屋外ショーを行った「リック・オウエンス」。雨の予報だったが、ショー直前に晴れ渡り、来場者達は一様に安心した。6月に披露されたメンズコレクション同様、10人のモデルのグループが20組、計200人が登場するメガショーとなった。モデルはパリ市内のファッションスクールに通う学生や教職員達を主に、アーティストやオウエンスの友人も含まれている。コレクションタイトルもメンズと同じく“ハリウッド”。音楽はリヒャルト・ワグナー作曲の「トリスタンとイゾルデ」の前奏曲。

 

 異形を愛でる独特の表現は健在で、コレクション全体を特異なものにしているが、各アイテムに目を向けると、このブランドらしいカッティングの美しさで彩られている。

 

 環境に配慮した素材使いも継続。オーガニックシルクによるシフォンのケープなど、天然繊維については有害な化学物質を使用せずに製品化されたものを使用。透明なジャージーのフード付きチュニックは、綿の廃棄物から作られた分解性のあるキュプラで作製している。

 

 ゴールドのメガクラストコーティングを施したデニムは、洗浄用の水を最小限に抑えたZDHC認定を受けたものを使用。環境保全への意識の高さを保ちつつ、クリエーションを前進させる姿勢を貫いた。

 

ラバンヌ(RABANNE)

Courtesy of RABANNE

 

 “マテリアルガールズ”と題してコレクションを発表した、ジュリアン・ドッセーナによる「ラバンヌ」。今季は、世界一高価なナノバッグを制作して話題となった。これは、1968年にブランド創始者、パコ・ラバンヌが今年逝去したフランソワーズ・アルディに販売した、18金のパーツと100カラットのダイヤに覆われた世界一高価なドレスへのオマージュ。紀章を制作してきたフランスの老舗「アルテュス・ベルトラン(ARTHUS BERTRAND)」とのコラボレーションで、価格は25万ユーロ(約4,000万円)。その他に、「アスティエ ド ヴィラット(Astier de Villatte)」とのコラボレーションによる陶器パーツのナノバッグと、ムラノ島のヴェネツィアンガラスの老舗「ヴェニーニ(VENINI)」とコラボレーションしたガラス製ナノバッグも発表。

 

 コレクションは、ミントグリーンやパープル、ピンクなど、柔らかいパステルカラーを使いながらも、異素材をミックスし、レイヤーリングでエッジーに見せている。

 

 メタルパーツや鎖帷子がラバンヌの象徴的素材となっているが、今季はニットやギピュールレース、ランジェリードレスに箔を載せて、「柔らかいメタル」を演出。

 

 刺繍を施した三角形のパーツを繋いだドレスや、このブランドらしい鎖帷子のドレス等の他に、ゴールドの刺繍を施したチュールドレスを重ねたタンクトップドレスやボーダーのTシャツドレスなど、スポーティなイブニングが目を引いた。

 

キコ・コスタディノフ(KIKO KOSTADINOV)

Courtesy of KIKO KOSTADINOV

 

 19世紀中期の建築物であるアメリカン・カテドラルでショーを行った、ロンドンを拠点とするブルガリア出身のキコ・コスタディノフ。今季は、フライトスーツやパイロットの制服など、ユニフォームからインスパイアされたフューチャリスティックなルックが目を引き、ネオゴシック様式の会場と不思議なコントラストを生んでいた。

 

 パイピングで縁取られたスーツ類でスタート。抽象的かつインダストリアルなモチーフのピンバッジを飾り、ワイヤー入りのスカーフをコーディネートして独自性の強いスタイリングを見せた。シルクのドレーピングドレスは、オレンジにパープル、コーラルにマスタードと、色合わせも独特。

 

 旅先で買い集めた切手をイメージしたというプリントのセットアップは、「リーバイス(Levi’s)」とのコラボレーション。同じプリントのシルクスカーフドレスも登場し、両者とも「旅先での思い出」というノスタルジーの要素を加えている。

 

 グレーにヌードカラー、ダークブルーとグレーのグラデーションドレスや、グレーとスカイブルー、ブラックとグレーのラフルコートなども目新しい。これまで以上に寸分の隙の無い、美しい仕立てのアイテムで構成されたコレクションとなった。

 

イザベル マラン(ISABEL MARANT)

Courtesy of ISABEL MARANT

 

 適度なカジュアルさとドレッシーさ兼ね備えた創作をし、常にリアルな目線による女性像を描くイザベル・マラン。今季は、中米から南米を想起させるフリンジやフォークロリックなモチーフで彩られたアイテムを披露した。

 

 刺繍を施したフリンジドレスや蝶の羽を思わせるモチーフのミニ丈ドレス、ストライプのシャツドレスには、グラディエイター風のサンダルやハイカットモカシンをコーディネート。シースルーのロングニットドレスや、スパンコールを刺繍したレースドレスにもサンダルを合わせ、今季はハイヒールが一足も登場していない。

 

 フォークロリックなアイテムの合間に、ブルゾンスタイルのドレスやライダース風のジャケットなど、よりカジュアルなリアルクローズが挟み込まれるが、それぞれレースアップのディテールで今季らしさをまとわせている。

 

 ワークウェアやスポーティなアイテムをミックスしてリアルクローズの側面を出しつつ、中南米、南米をモチーフに適度な装飾性をプラスしたアイテムで、多様な文化を受け入れて来たパリジェンヌの折衷主義を体現した。

 

ルオハン(RUOHAN)

Courtesy of RUOHAN

 

 中国出身のデザイナー、ルオハン・ニー(若涵聂)による「ルオハン」は、百貨店ギャルリー・ラファイエットがマレ地区で運営するイベントスペースにてショーを開催した。

 

 ルオハンは2020年にパーソンズを卒業。在学中に「ザ・ロウ(THE ROW)」などのブランドでインターンを経験し、2021年3月に独立して自らのブランドをスタート。2022年9月にはクチュール組合の公式カレンダーに掲載され、今年6月のコンクールANDAMではファイナリストに選出された。ミニマルなスタイルで注目を集め、ギャルリー・ラファイエットなどの百貨店やユナイテッド・アローズなどのセレクトショップでの取り扱いを増やし、販路を広げている。

 

 総勢22名のミュージシャンが、テリー・ライリーのミニマルミュージックを奏でる中、21名のモデル達がウォーキング。幼少期からピアノなど様々な楽器に触れて来たというルオハン。今季は楽器からインスパイアされた、造形的なフォルムのアイテムの数々を見せている。細長いバッグも楽器ケースをイメージ。

 

 ボトムにボリュームを出したロングシルエットのドレスや、サイドにギャザーを寄せたシースルードレス、アシメトリーにドレープを配したドレスなど、カジュアル感と適度なラグジュアリー感をバランス良く配したルックで構成している。

 

 

 

取材・文:清水友顕/Text by Tomoaki SHIMIZU

画像:各ブランド提供

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