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2024.10.07

【2025春夏パリ ハイライト3】異文化を許容するパリで大きな存在感を示す日本人デザイナーたち

写真左から「ヨウジヤマモト」「イッセイ ミヤケ」「マメ クロゴウチ」

 

 パリコレクションを主催するオート・クチュール組合による今季の公式カレンダーに掲載されたブランドは106で、その内、日本勢が11を数えた(フランスを拠点とする「ジュンコ シマダ(JUNKO SHIMADA)」は除外)。全体に占める割合は1割強である。今年6月のメンズコレクションにおける日本のブランドの割合が2割以上だったことを考えると、およそ半分ではあるものの、日本のブランドは大きな存在感を発揮していると言えるだろう。

 高田賢三に始まり、三宅一生、山本耀司、川久保玲といった先人達が築いてきた日本のファッションへの信頼度は、後続の努力もあり、依然として高いままである。ただ、若い世代のデザイナー達に、「イッセイ ミヤケ(ISSEY MIYAKE)」、「ヨウジヤマモト(Yohji Yamamoto)」、「コムデギャルソン(COMME des GARCONS)」程の認知度は無く、三者のようにパリにブティックを構えて定着しているブランドは皆無である。

 しかし、時代は刻々と変化し続けている。インターネットを通しての販路が整備されている状況にある中、ブティックを構えることが必ずしも現地に定着しているか否かの物差しにはならない。1つ例外があるとしたら、今年アポイント制のブティックをパリ中心部にオープンさせた「サルバム(sulvam)」かもしれない。2022年に現地法人を立ち上げ、アトリエとショールームを開設し、ドメスティックブランドの枠を超えてパリ進出を果たしている。

 いずれにせよ、世界的に各人の嗜好は分散し、それに合わせた消費性向が生まれ、一つのブランドが広く認知されにくくなっているのは事実である。そんな中で、奮闘し続けている日本のブランドによるコレクションをここで紹介したい。

 

ヨウジヤマモト(Yohji Yamamoto)

Courtesy of Yohji Yamamoto

 

 パリ市庁舎のホールにて、幅広いバリエーションのルックを披露した「ヨウジヤマモト」。今季は黒を中心にしながらも、グレーや鮮烈な赤を配し、また素材もメンズライクなウール地だけでなく、合繊素材のプリーツやレース、デニムやベルベットなど様々な素材を駆使し、表情豊かなコレクションとなった。

 

 赤いリボンを配した透ける素材のシャツドレスでスタート。ジャケットを再構築したドレスは、肌を露出部分が多く、レースがあしらわれたドレスは、艶めかしさを漂わせる。

 

 白と黒のレースを合わせたドレスや、カットした厚手のレースを重ねたドレスなど、透け感があるアイテムでも、趣は全く異なる。様々なパーツを無造作に配したドレスや、チェック地をあしらったドレスは、まるで抽象画のような印象。今季はノットも多用され、立体感やボリュームを出す重要なパーツとなっている。

 

 最後に赤のシリーズが登場。複雑な作りのドレスとは打って変わり、シンプルなカッティング。クラシカルでフェミニンなドレスの美しさに息を吞んだ。

 

イッセイ ミヤケ(ISSEY MIYAKE)

© 2024 ISSEY MIYAKE INC./Photo by Frédérique Dumoulin-Bonnet

 

 近藤悟史による「イッセイ ミヤケ」は、パリ花公園にあるパビリオンでショーを発表した。会場内では、プリーツを加工する際に出る紙を圧縮したものをスツールとして再利用。コレクションタイトルは“The Beauty of Paper”。和紙を中心とした素材を歴史から研究し、様々な特性を持つ素材を開発して服に落とし込んでいる。プリーツやニットなど、平面から生まれる立体の面白さを表現し、確固たるブランドイメージを持つ「イッセイ ミヤケ」だが、今季はそこから離れ、これまでに見られなかった側面を押し出して新鮮な印象を与えた。

 

 縦糸に大麻の和紙の糸を、横糸にモヘアとウールの混紡糸を織り合わせたシリーズや、和紙の糸とレーヨンシルクを交互に織り合わせた素材によるアイテムは、それぞれ全く異なる風合いを見せ、特性を生かしたアイテム作りがなされている。紙を含む素材の質感を出すため、折り紙のように布を折り曲げたアイテムは、独特のシルエットを描いていて目を引いた。

 

 既視感のあるアイテムが登場するも、そこは「イッセイ ミヤケ」らしく、他のブランドが持ち得ない繊細な技術と斬新なアイデアによって全く異なるものにしている。二着の違う服を接合したアイテムは、他のブランドでも発表されているが、「イッセイ ミヤケ」の場合は二着を同時に編み、前後を逆に、また逆さまに着用出来るのが特徴。ペーパーバッグはただのペーパーバッグではなく、和紙の糸を使用した素材を圧縮して成形しているため、日々の使用に耐え得るものになっている。

 

 もちろん、プリーツのシリーズも見応えがあり、今季は透ける素材を用いて所々にプリーツを掛け、彫刻のような美しい立体感と軽やかさを実現。常に前進する姿勢を感じさせた。

 

アンリアレイジ(ANREALAGE)

Courtesy of ANREALAGE/Photo by Koji Hirano

 

 今季も驚きと楽しさを与えてくれた、森永邦彦による「アンリアレイジ」。日本人7人で構成されるヒップホップ・R&Bガールズグループ、XGのエグゼクティブプロデューサー、JAKOPSがサウンドディレクションを務めることを事前に発表。先鋭的な音色がショー冒頭から気分を盛り上げるも、衝撃的な作品の数々が登場して直ぐに音楽が耳に入らなくなってしまった。ワンピースを着たモデル達が登場し、ランウェイで立ち止まると、突然服が風船のように膨らみ始める。会場内からはどよめきが起きた。

 

 コレクションのコンセプトは“WIND(風)”。日本の工事現場などで作業員が着用する“空調服”とコラボレーションし、目に見えない風の力を可視化し、新たなシルエットを生み出すことに成功。

 

 今回は、特別に開発された気密性のある素材、髪の毛の約3分の1の太さの糸で織り上げた薄いナイロンテキスタイルを使用。1平方メートルあたりわずか23グラムと世界最軽量で、わずかな風で膨らみやすくなっている。風の存在をより強く印象付けたのが、ポルカドットやチェック、フローラルなどのモチーフ。京セラが開発した、水を極力使わないサステナブルなインクジェットプリンター、フォレアス(FOREARTH)によってプリントされている。

 

 最終章を飾った角が飛び出たようなドレスは、奇想天外という言葉が相応しく、招待客達に笑顔をもたらす。フィナーレで登場した空調服姿の森永邦彦は、正に現場の作業員のようだった。

 

マメ クロゴウチ(Mame Kurogouchi)

Courtesy of Mame Kurogouchi

 

 毎シーズン、日本の伝統工芸からインスパイアされたコレクションを発表している黒河内麻衣子による「マメ クロゴウチ」。今季もレストラン「オガタ」を会場にショーを開催し、インスピレーション源となったイメージの数々をショー前に別室で披露。そこには、1978年に発刊された画集「日本のかたち」が置かれ、黒河内によるデッサンを描いたノート、黒く塗りつぶしてシルエットを強調したポラロイド写真が展示されていた。

 

 今季は「かたち」に着目。偶然手にした石や豆、ルーシー・リーによる陶器のボタン、工場の備品など、異なる文化や時代のオブジェ、自然の産物、行灯や包丁などの日本の工芸品まで様々な「かたち」が反映され、コレクションは表情豊かなものになっている。

 

 オーロラの糸をあしらって螺鈿のように表現したジャカード素材のワンピースやジャケットには、繊細さと無骨さを兼ね備える編み込みのバッグが合わせられる。絞りのような素材のアンサンブルやグラフィカルなニットアイテムは、立体的に仕上げて彫刻のような美しさを見せていた。

 

 日本の伝統的な用の美と、西洋服飾史的な装飾性を融合させながら、新しいモダンウェア像を描き出していた。

 

ウジョー(Ujoh)

Courtesy of Ujoh

 

 今夏の日本の酷暑がクリエーションの原動力となったのかはわからないが、西崎暢による「ウジョー」は、風を通す涼しげなテイラードを提案した。

 

 ジャケットとパンツを解体して再構築。ダブルブレストジャケットは両サイドをカットし、バックサイドから見るとトレンチコートのようなフォルムに。インナーのシャツやトップスも極力短い丈にし、パンツはただ太くするのではなく、畳み込んで前方にスリットを入れている。風をはらみ、その動きは実にエレガント。オーガンザによるシースルーのジャケットと、深いスリットを入れたパンツの組み合わせは、スポーティでありながら優雅。

 

 バッサリと横にカットしたかのようなショート丈、ショートスリーブのジャケットには、深いスリットのロングスカートを合わせ、リーフグリーンの色も相まって爽やかな印象。今季は、ブランドのシグネチャーカラーであるサンドベージュの他に、先述のグリーンやライラック、スカイブルー、テラコッタを交えて美しいカラーパレットを揃えている。

 

 今季は、「リーボック(Reebok)」とのコラボレーションアイテムも発表された。グラフィカルな切り替えしのゆったりとしたシルエットのブルゾンとスカート、大きなポケットを配したトップスなど、撥水性のあるナイロンワッシャーを使用した全8型。デザイナーが古着に目覚めた90年代の記憶を投影したといい、エレガントなテイラードやドレス類にも馴染むシックな仕上がりを見せた。

 

シーエフシーエル(CFCL)

Courtesy of CFCL Inc.

 

 高橋悠介による「シーエフシーエル」は、これまでのブランドイメージから離れて、新たな方向性を模索する姿勢を見せた。

 

 前シーズンは、パリコレクションを主催するクチュール組合の公式カレンダー上で初めてのショーを行い、ショーケース的な内容だったが、今回は趣を変え、自由な発想でコレクションを構成したかったという。これまで通り、コンピューターニッティングの作品を主軸に、手作業の要素を多く取り入れている。職人の手によるスパンコール刺繍のテクニックは既に3シーズン目を迎えるが、今季は特にフリンジのドレスを一から制作。機材を揃えてラボを設け、手作業で2,000個のフリンジを縫い付けたそう。

 

 ろうけつ染めなど世界的に点在する伝統技術に造詣の深い高橋は、シルクロードやアフリカ、アジアなどのエッセンスも散りばめ、絞り染めのイカットをニットで表現する「ニカット」を開発。

 

 楽器を制作して想像上のフォークロアな音色を奏でる、スロヴェニアのミュージシャン達によるライブ演奏と見事にマッチしていた。

 

メゾン ヨシキ パリ(MAISON YOSHIKI PARIS)

Courtesy of MAISON YOSHIKI PARIS

 

 X JapanのYOSHIKIによる、パリにおけるファーストコレクション。ひろゆきこと西村博之や藤原ヒロシなど、交流の広さを感じさせる友人たちが来場したほか、会場となったシャイヨー宮前にはファンが大挙して押し寄せた。

 

 構想に10年、スタッフを揃えて発表に漕ぎ着けるまでに7年を要したという。昨年の9月に予定されていたパリコレクションでのデビューショーは、YOSHIKIの体調不良のために延期となり、2024秋冬コレクションを今年2月にミラノで発表。今回は、パリコレクションを主催するオート・クチュール組合の公式カレンダー外ではあったものの、満を持して臨んだパリコレクション・デビューとなった。

 

 黒で統一した前シーズンとは対照的に、今季は白を基調とし、ピスタチオやレモンイエローなど、パステルカラーをアクセントにしている。ショー当日の朝まで議論を重ねたというコレクションは、セクシーさとエッジーさを兼ね備えたアイテムで構成。大胆さを必要とするものの、ウェアラブルなアイテムを揃えている。

 

 白地に黒とゴールドのペンキでペイントしたビスチェ風トップスは、フランスに帰化したドイツ出身の抽象画家、ハンス・ハルトゥングにインスパイアされたもの。最後に登場したシリーズは、YOSHIKIのポートレートがアメリカンポップアート風にアレンジされた、グリッターなAラインのドレス。YOSHIKIが再登場し、「La vie en rose(バラ色の人生)」を演奏。ショー後にはカクテルが催され、YOSHIKIとポメリーとのコラボレーションシャンパン「Y」が振舞われた。

 

 

 

取材・文:清水友顕/Text by Tomoaki SHIMIZU

画像:各ブランド提供

>>>2025春夏パリコレクション

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