PICK UP

2024.09.28

【2025春夏ミラノ ハイライト2】SNS社会やAIに対抗する人間らしさがトレンドに?

写真左から「エトロ」「エンポリオ アルマーニ」「マックスマーラ」「トッズ」

 

 2024年9月17日から23日に開催された2025春夏ミラノ・ウイメンズ・ファッションウイーク。前シーズンの秋冬コレクションでは、すでにクワイエットラグジュアリーの次に来るものを模索する兆しが見られ、また6月に発表されたメンズの春夏コレクションでは、戦争など様々な問題を抱える暗い現状に対し、あえて楽観主義を求める新たな傾向が見られたため、ウィメンズの春夏ではもっと弾けた大展開があるのではないかと思ったが、まだそこまではいかなかった様子だ。そんな中、今シーズンはSNS社会やAIなどテクノロジーに支配される現実への疑問を投げかけるブランドもいくつかあり、人間らしさや個性、そして伝統的な手仕事や職人技などに焦点を当てるブランドが多かった。

 

 ハイライト第二弾では、テクノロジーでは作ることはできないイタリアらしいヘリテージを持ったブランドのコレクションを紹介する。

 

エトロ(ETRO)

Courtesy of ETRO

 

 前シーズンに続き「ザ・モール」というイベント会場にてショーを開催。ランウェイには大きなアガベのオブジェが並び、地中海や南国の雰囲気を醸し出す。それは「エトロ」の精神である「旅」からの連想で、「旅で大切なのは目的地ではなく過程」であり、「創造するエネルギーもすべてプロセス」で、「それはアガベの花が一度だけ美しく咲いて、その生涯を終えるのに似ている」という考えから生まれた演出だとか。

 

 そんなコレクションでは、花や草木のエキゾチックな大柄モチーフを、レース、オーガンジー、ジャージー、ブロケード、ベルベット、ニットなど様々な素材に施しており、マルコ・デ・ヴィンチェンツォの素材使いのうまさが感じられる。サロンのように腰で結えたラップスカートをマイクロクロップトのニットやメッシュトップスでコーディネートしたり、その一方でデニムにはトレーンのように流れるロングトップスを合わせて、極端な長短のボリュームを提案する。テーラードジャケットにデニムやレザーのバミューダショーツを合わせたマスキュリンなスタイルもあれば、レイヤードフリルを裾の部分に施したアシンメトリーなドレスやスカート、レースやオーガンジー、メッシュなどで下着や水着を見せるレイヤードスタイルなど透け感を活かしたフェミニンなスタイルもある。

 

 「エトロ」は今回、ファッションブランドとしては初となるApple Vision Pro使用した没入型のショーをライブストリーミングで配信。ゲストはApple Vision Proヘッドセットを使って第二会場からこのイベントに参加したのだとか。この後、東京、ニューヨーク、ミラノの旗艦店にて、このショーを没入型フォーマットで楽しむサービスを提供する予定だ。

 

マックスマーラ(Max Mara)

Courtesy of Max Mara

 

 前シーズンに続き、「パラッツォ・デル・ギアッチョ」というイベント会場でショーを開催。今シーズンのテーマは、“SCIENCE AND MAGIC(科学と魔法)”。これまでも、歴史上の先駆的な女性をインスピレーション源としてきた「マックスマーラ」だが、今回の主役は、4世紀のアレクサンドリアで数学者、哲学者、天文学者、そして教師として活躍したヒュパティア。彼女の天文学と数学の研究がこのコレクションのキーワードとなった。

 

 ヒュパティアの三角関数にヒントを得た、平らな布地を立体的な構造へと変えるダーツがテーラードコートやドレスに使われ、彼女が研究した円錐をさまざまな角度で切り取る手法からインスピレーションを得た楕円形の切り込みが、ウエスト、肩のスリット、バックスタイルなどに応用されている。またワンショルダーやヒップから放射状に広がる折り紙のようなアシンメトリーなドレスは、ヒュパティアが身に着けていたであろうドレープガウンからの連想だ。

 

 春夏コレクションながら、カラーパレットにはコーヒー、トフィー、キャメルなどの秋色にブラック、グレーなどを加え、多くのルックは無地のトーンオントーンでまとめられている。ブラ見せやレオタードなどトレンドの要素は入れつつも、(ほとんどのブランドが提案している)オーガンジーやレースの透け素材は一切なし。テーラードスタイルを前面に出した、クールで凛としたコレクションは、独特の存在感を放っていた。

 

エンポリオ アルマーニ(Emporio Armani)

Courtesy of EMPORIO ARMANI

 

 自社施設「アルマーニ / テアトロ」にてショーを行った「エンポリオ アルマーニ」。ランウェイにはトム・マンローが撮ったネクタイを締めた女性の写真が飾られている。これはもともと女性がジェンダーの平等を謳う挑発的なアイテムとして身に着けていたネクタイが、遊び心あるトレンドになったこと体現し、このコレクションのキーワードとなる、マスキュリンとフェミニンのミックスをメインとした自由でアイロニカルな着こなしにも繋がる。

 

 テーラードスーツから、ジャケットにフラワーモチーフのロングスカートやワイドパンツを合わせたコーディネートまで、タイドアップのコーディネートが様々に繰り広げられる。またはジョッパーズパンツをブラトップや透け感のあるメッシュのトップと合わせたり。ブルゾン、パーカー、トレンチコートなどのマスキュリンなスタイルと、透け感のあるドレスやスカート、光沢感のあるトップやセットアップ、バルーンシェイプのアイテムなどフェミニンなスタイルが交互に登場する。

 

 カラーパレットは、全体的に優しく、ピンク、セージグリーン、ライトグレーに、鮮やかなブルー、フューシャピンクが差し込まれ、水彩画のようなプリントやフラワーモチーフやビジューの刺繍もアクセントを添えている。

 

 今のトレンドがほどよく盛り込まれながらも、あくまでジョルジオ・アルマーニらしいスタイルを貫く様子には、変化を受け入れながら変わらないという姿勢が表れている。90歳になった今も変わらず、ミラノの帝王としての揺るがぬ存在感を見せつけていた。

 

トッズ(TOD’S)

Courtesy of TOD’S

 

 元鋳物工場「フォンデリア・マッキ」にてショーを行った「トッズ」。ランウェイには同社のクラフツマンシップを象徴するように、アーティストのロレンツォ・クインが手掛けたレザーバンドを握る巨大な手のインスタレーションが設置されている。今回のテーマは、“アーティザナル・インテリジェンス/職人知能”。同社会長のディエゴ・デッラ・ヴァッレは前回の秋冬シーズンの頃からインタビューでこの言葉を使っていたが、これは「アーティフィチャル・インテリジェンス/人工知能」に対して「いかなる革新もその裏に、それを作る人々の知識や手が存在する」ということを示唆している。

 

 イタリアらしい地中海沿岸がムードとなっており、洗練されていながら着やすくリラックス感にあふれるアイテムが揃う。オーバーめのシルエットのジャケット類や、ソフトなレザーによる流れるようなシルエットが多い。軽い素材使いが多く、コットンのシャツ、ウインドブレーカー、トレンチが登場。とはいえ、コットンのコート類にも裏地部分やディテールにレザーを施して、「トッズ」らしさはアピールしている。

 

 カラーパレットはブラウン、サンド、ブロンズといったナチュラルな色調をメインに、草原のグリーン、海のブルー、大地のレッドなどイタリアの風景を思わせる色を使用した。

 

 シューズではぽってりしたフォルムが特徴的な「ゴンミーニ グローブ」、そしてサンダルやハイヒールも登場。バッグでは「トッズ ディーアイ バッグ フォリオ」にホーボーが仲間入り。リップケースやサングラスケースなどのミニ小物にも注目だ。

 

 マッテオ・タンブリーニのフレッシュな感覚で、「トッズ」らしいタイムレスなエレガンスにカジュアルさやリラックスさをプラスしたコレクションとなった。

 

フェラガモ(FERRAGAMO)

Courtesy of Ferragamo

 

 「MICO」という展示会会場にてショーを行った「フェラガモ」。今回のコレクションでは、バレエとフェラガモの関係にフォーカスする。創業者サルヴァトーレ・フェラガモは、ダンサーで人類学者のキャサリン・ダナムや、バレエダンサー、ルドルフ・ヌレエフのために靴を作っており、マクシミリアン・デイヴィスは特に自身がルーツを持つカリブの舞踏を研究していたダナムに共感を与えたようだ。

 

 バレエダンサーの練習着から着想を得たコレクションは、全体的に動きやすさやリラックス感が漂う。レギンスやレオタード、それにあわせるクロップト丈のアイテム、メンズ風のトラックスーツ、バレエシューズのように足首に巻き付けるリボンが付いたクロップドパンツなど様々だ。そしてバレリーナのようにシルクリボンを編み上げたポインテッドスタイルのパンプスやグラフィックサンダルが足元を飾る。または、ポリエステルメタルが入って形状記憶機能があるトレンチやレザーコートなど、ヌレエフのオフスタイルをイメージしたオーバーサイズのテーラリングも。

 

 一方、シルクやスエード、オーガンザで仕立てたオペラコートやパラシュートドレスなどのバルーンシルエットで自由な動きを表現し、取り外しすることで長短で使えるラムナッパレザーコートや、レイヤードジャケットにもコートドレスにもなる2ウェイのアイテム達が機能性を強調する。

 

 マクシミリアン・デイヴィスは「フェラガモの魅力は共感できるストーリーがたくさんあること。どの靴にも意味があり、どの靴にもストーリーがある」とコメントしている。「常に私や私のヘリテージに親近感を覚えるさまざまな歴史的時代をコレクションに取り入れてきた」と言う彼にとって、様々な歴史的側面を持つ「フェラガモ」はインスピレーションの宝庫であろう。そしてそれを確実に現代らしいモードに高めているのは彼の力量がなせる技だ。

 

エルマンノ シェルヴィーノ(Ermanno Scervino)

Courtesy of Ermanno Scervino

 

 前シーズンに続き、「ザ・モール」というイベント会場でショーを行った「エルマンノ シェルヴィーノ」。“Tailoring Freedom(テーラリング フリーダム)”というテーマで、1960 年代から 70 年代の革命的な精神を、伝統的な職人技による質の高いモノづくりの中に反映する。

 

 マスキュリンとフェミニンのミックスやコントラストが多くみられ、ダブルブレストのテーラードジャケットは、砂時計フォルムでウエストを強調し、テーラードスーツはブラトップとコーディネート。サファリシャツにはレースのミニドレスやブラトップを合わせ、透け感のあるランジェリードレス類にレザーブルゾンを合わせる。スタイルはモダンなのだが、素材や仕上げ、装飾には「エルマンノ シェルヴィーノ」らしい手の込んだ職人技が生きている。

 

 また今シーズン目を引くのはデニムクチュールの提案で、視覚的効果の技法によってデニムのように変貌した生地によるテーラードスタイルやイブニングドレスや、抽象的な花柄のモチーフをあしらった、デニムのデヴォレパンツスーツが登場する。

 

 多くのルックはワントーン、またはトーンオントーンで、カラーパレットは白と黒に加え、ミントグリーンからシトリンイエロー、ピーチピンクなどの優しいペールカラーが使われている。

 

 エルマンノ・シェルヴィーノらしい、ぶれのない職人技の追求。今のトレンドにもマッチする上質のエレガンスが発揮されたコレクションで、今回も安定したクリエーションを披露していた。

 

スポーツマックス(SPORTMAX)

Courtesy of SPORTMAX

 

 ブレラ絵画館の回廊にてショーを行った「スポーツマックス」。今回のコレクションは、「スポーツマックス」の芸術性に捧げられたものだとか。そんなテーマは世界有数の芸術的作品を所持する美術館であり、アーティスト達を輩出する美術大学も付属しているこのロケーションに繋がる。

 

 首の部分で繋げたようなドレープの入ったドレスや身体にまとわりつくようなチュールドレスなど柔らかく造形的なスタイルから、深いVラインやスリットが入ったドレスやマキシコート、布を張り合わせたようなトップ、テーラードジャケットやスリムパンツなど直線的でソリッドなスタイルまで、両極のスタイルが繰り広げられる。

 

 長めの袖のトップスにブルマを合わせたニットのセットアップや、バンドブラにゆったりしたパンツを合わせたコーディネートなど、ボリュームのコントラストを利かせたものもある。ほとんどのルックはワントーンのコーディネートでまとめ、ミニマルなイメージが漂うが、フリンジを施したTシャツや、極端に袖を長くし胸元には大きなフラップを付けたシャツなど、強調されたディテールがアクセントを添える。

 

 このところ攻めた提案が多かったように思う「スポーツマックス」だが、今回はエッセンシャルにアーティスティックなタッチを加えて、都会的な女性像を描いた。

 

ブルネロ クチネリ(BRUNELLO CUCINELLI)

Courtesy of BRUNELLO CUCINELLI

 

 “Echoes of a Journey(旅の余韻)”というテーマで、旅がキーワードとなったコレクション。海のリゾート地であるリヴィエラをイメージしたマリンスタイルと、砂漠の旅をイメージしたサファリスタイルという2つの異なる旅のスタイルを呼応させたり、ミックスすることでコレクションを形成する。

 

 カラーパレットは両方の地に共に共通している光をイメージしたパナマホワイトを軸に、前者では海を感じるネイビーやオックスフォードブルー、海辺に映える太陽や夕陽を思わせるレッドやリヴィエラを象徴するラベンダー、マリンルックのストライプやボーダーが登場する。一方、後者はアースカラーを中心としたニュートラルカラーをメインに、メンズにも多く登場した深みのあるタバコカラーやダークブラウンに、アニマルパターン、リーフ柄も多用される。

 

 テーラードスタイルは全体を通じて重要となっているが、その中にもソフトなリラックス感や機能性を求めるものが多い。そこにニットをあわせるようなルーズ感のあるスタイルも提案している。ニットはマクラメ、オペラニット、クラック加工など手の込んだものが多様に登場する。フリンジスカートやバルーンスカートなど、フェミニンなアイテムも揃い、コレクションは益々バリエーションが豊かになっている。

 

ブリオーニ(BRIONI)

Courtesy of BRIONI

 

 ここ数シーズンで、ウィメンズコレクションにもかなり力を入れている「ブリオーニ」はミラノ新ショールームにて展示会を開催。メンズの春夏コレクションとリンクするようなシルエットや素材を、ウィメンズに反映させ、ブランドならではの最高級のクラフトマンシップを存分に発揮する。「ブリオーニ」が得意とする軽さと着心地は、メンズに続きウィメンズでもキーワードとなっており、軽量ウール、リネン、コットン、シルク、クレープ、シルクファイユを多用し、動いたときに流れるようなシルエットを生み出す。

 

 様々なコーディネートを提案しているのも今シーズンの特徴だ。クロップ丈ジャケットとロングシャツのレイヤードもあれば、ロングスカートにマキシコートのコーディネートもあり、長さの遊びがなされる。ニットロングスカートやTシャツドレスとテーラードジャケットを合わせるなど、マスキュリンとフェミニンをミックスしたコーディネートも。オーバーサイズシャツと同素材のショートパンツやトラウザーズのコーディネートによるセットアップも登場。また、「ブリオーニ」らしい職人技は、2枚の布を細かく縫い合わせたダブルスプリッタブルの仕組みが見えるシルクのコートや、手作業によるシルク糸のノットで8000 個のクリスタルを付けたブラックディナージャケットで体現される。

 

 今シーズンは、ミニランウェイを設置して、初めてモデル着用で一部のルックを披露した「ブリオーニ」。人の動きが加わることにより、その軽さやシルエットが際立っていた。

 

ヘルノ(HERNO)

Courtesy of HERNO

 

 ミラノショールームにて展示会を行った「ヘルノ」。トータルブランドとしてコレクションを益々強化しており、今シーズンは特に長い期間にわたって着回しができるアイテムの充実に注力している。5つのテーマから構成されており、カシミアやリネンなど高級素材によるさりげないラグジュアリーを体現する「エクセレンス」、キャラメルとパステルグリーンを主役にモダンなテイストを表現する「コンテンポラリー」、ヘルノの原点であるトレンチコートとレインコートを強化した「レインワールド」、リゾート感溢れる軽さとさわやかさが特徴の「サマーレジャー」、エレガントなブラックやスパンコールが使われた「イブニング セレクション」というキーワードがラインナップ。

 

 ナイロンウルトラライトで仕立てたシャツジャケットやキモノスリーブのダウンジャケットや、ディスプレイのお馴染みだったフックのオリジナルプリントされたシルクのシャツやパンツなど、「ヘルノ」ならではのアイテムから、フリンジ付きのカシミアケープや、クロシェ編みのセットアップ、クロップ丈のコットンギャバジントレンチなど、モード感溢れるアイテムまで様々に揃う。

 

取材・文:田中美貴

画像:各ブランド提供(開催順に掲載)

>>>2025春夏ミラノコレクション

 

 

田中 美貴

大学卒業後、雑誌編集者として女性誌、男性ファッション誌等にたずさった後、イタリアへ。現在ミラノ在住。ファッションを中心に、カルチャー、旅、食、デザイン&インテリアなどの記事を有名紙誌、WEB媒体に寄稿。apparel-web.comでは、コレクション取材歴約15年の経験を活かし、メンズ、ウイメンズのミラノコレクションのハイライト記事やインタビュー等を担当。 TV、広告などの撮影コーディネーションや、イタリアにおける日本企業のイベントのオーガナイズやPR、企業カタログ作成やプレスリリースの翻訳なども行う。 副業はベリーダンサー、ベリーダンス講師。

アパレルウェブ ブログ

メールマガジン登録