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2022.04.22
進化する熟年世代、SNSを騒がせるグランフルエンサー
carla rockmoresのInstagramより
若年層のビジネスに対する研究は熱心に行なわれていますが、Pew Research社によると、2016年の時点で、65歳以上のSNSユーザーは34%-45%、50-64歳では73%となっており、50歳以上の人々は米国の個人消費の半分以上、成人全体で見ると45%を占めています。この消費者層は、借金も少なく、所得の平均値が6万5,000ドルと経済的な強さがあります。ところが、ファッション&ビューティ業界では、この熟年層をターゲットにしていないため、2019年のレポートでは、20年間で150億ドルのビジネスチャンスを逃していると指摘されています。
ソーシャル・プラットフォーム、特にInstagramとTikTokでは、Granfluencers (グランフルエンサー)という新たなジャンルが登場しています。おじいさん、おばあさんを表すグランドファーザー・グランドマザーとインフルエンサーを掛け合わせた造語で、熟年世代のインフルエンサーという意味で使われており、ブランド企業からも大きな注目を浴びています。最近では、「SEX AND THE CITY」のキャリー・ブラッドショーが55歳となった続編ドラマ「AND JUST LIKE THAT」の放映が開始されています。成熟した女性のブランドアイコンとして、彼らのリアルなライフスタイルやエピソードは、多くの同世代の視聴者に共感と影響を与え、特にファッション・スタイルの面で大きな関心を向けられています。そんな、同世代だけでなく若い世代にも支持されるグランフルエンサーをリサーチしました。
carla rockmoreのTikTokより
TikTok界のキャリー・ブラッドショー
Carla Rockmore(カーラ・ロックモア・54歳)
ジュエリーデザイナーからコンテンツ・クリエーターに転向したカーラは、2020年のパンデミックが発生した年に、Instagramをスタート。螺旋階段のある自宅クローゼットの中から選んだ、カラフルでスタイリッシュな洋服たちのスタイリングのコツを紹介しており、フォロワー数は10万人を超えています。今年4月にはTikTokデビューし100万人以上のフォロワーを獲得。若い世代も、彼女の大胆で遊び心のあるスタイリングに夢中で、リアル・キャリー・ブラッドショーとまで呼ばれ、ヴォーグ誌のインタビューを受けたり、彼女のクローゼットがインテリアメディアで紹介されたりと一躍有名になりました。YouTubeでは「OVER FIFTY FASHION」を強調した自己表現を提案しています。
ユーモア溢れるTikTokでバズっているThe Old Gays
ダイバーシティ時代をリードするグランフルエンサー“The Old Gays”
自らをOld Gays “熟年ゲイ”と名乗る、60-70代の男性4人組のSNSの総フォロワー数は、なんと620万人。TikTokでは7億5,000万回再生を記録しています。自分たちが熟年ゲイであることを誇りに思う彼らのファン層は、若い人から同世代まで幅広く、強力なコンテンツとなりつつあります。TikTok界隈では親しみと尊敬を込めて「グランフルエンサー」と呼ばれているようです。ついには、リアリティショーの契約まで実現し、子どもたちからは、この人たちをおじいちゃんにしたいと言われるほどの人気ぶりです。
grayhairandtatooのInstagramより
スーパーポジティブシニア、
Gray Hair and Tattoos(白髪とタトゥー)
100万人近いTikTokフォロワーを持つLonni Pike(ロニー・パイク)さんは、両腕にびっしりとタトゥーを入れたグレーヘアの57歳の女性で、まるで現代の若者が熟年層になったかのように思わせます。TikTokの配信は新しく入れたタトゥーのことや購入したファッション、40代の頃の話などさまざま。「私は年上だけど年寄りとは呼ばないで」というサブタイトルがついたブログには若い人々へのメッセージが綴られ、自分らしく過ごすことや、歳をとることを恐れないポジティブさが若い人たちからの共感を得ているようです。
トレーニングをするジョアン・マクドナルドさん
人生に遅すぎることはない!
160万人に支持される、強靭な肉体と精神で挑戦し続ける75歳
Joan Macdonald(ジョアン・マクドナルド)さんのInstagram、Trainwithjoan(トレイン・ウィズ・ジョアン)では、独自のトレーニングやヘルシーなフードレシピなどを取り入れたライフスタイルを紹介しています。5年前は高血圧で関節炎や足首の痛みなどがあり、階段の上り下りも苦労したそうですが、iPhoneの使い方を覚えオンライングループに参加したことがきっかけで、肉体改造を行ない健康的な肉体を取り戻したそうです。70代の女性にとっては新しい領域であるInstagramも学び、堂々としたビキニ姿を披露したり、自身のウェブサイトでトレーニングのアプリを販売したりと、同世代のコミュニティを作り上げています。
その他「What Not to Wear」というTVプログラムで人気だった Trinny Woodall(トリニー・ウッドール)や、Instagramでエイジレスなファッションを紹介するGrece Ghanem(グリース・ガネム)、Accidental Iconというファッションブログで人気を博した大学教授でソーシャルワーカーのLyn Slater(リン・スレータ)、ファッションジャーナリストのNina Garcia(ニーナ・ガルシア)などは、いずれも50歳以上で、SNSのフォロワー数は50万人以上となっています。
アクティビティが増えれば、若い世代同様、それに付随するファッションやアクセサリーが必要となり、その需要は高まっています。この状態はいわば、米国市場が長い間「ビッグ市場」といわれていたプラスサイズを見過ごしてきた時のように、熟年層というターゲット層もまた、取り残されたマーケットになっているのではないでしょうか。高齢化が進み、人生100年時代といわれる中、人口統計の構成と世代別の戦略を考え直す時がきているのかもしれません。