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2022.04.28

NFT、メタバース、ブロックチェーンが流行する欧州
真価が問われる次世代のデジタル技術
オフラインとの連携がポイントに

アパレルウェブ「AIR VOL. 56」(2022年2月発刊)より

 NFTやメタバースなどこれから日本でも更に加速していく可能性が高いデジタル技術や考えを特集しました。こうしたデジタル技術の加速は欧州も同様です。NFT、メタバース、ブロックチェーンへの投資が盛んなヨーロッパの事例から、日々進化するデジタル技術がどうファッションへの影響を与えていくのかを考えます。

 

デビットカードで購入できるNFTをSelfridgesが販売

デビットカードで購入できるNFTをSelfridgesが販売

 英国を代表する百貨店のSelfridges(セルフリッジズ)ではNFTの販売がスタートしました。このNFTの販売はフランスのファッションブランドであるPacoRabanne(パコ・ラバンヌ)や芸術家のヴィクトル・ヴァザルリ氏との共同ビジネスとして実現しました。販売方法はオークションではなく、定価でNFTを販売する世界初の形として、同社は取り組みをアピールしています。具体的には、Selfridgesのロンドン店のコーナーショップにて展示・販売スペースをオープン、1,800種類以上のNFTがその場で販売されており、販売価格は2,000ポンド(約30万円)から10万ポンド(約1,500万円)となっています。また、決済は暗号通貨ではなく、通常のデビットカードが利用できる点も特徴として注目されています。店舗ではパコ・ラバンヌのアーカイブアイテムの展示やヴァザルリデザインのテキスタイルを取り入れたさまざまなファッション・雑貨の販売もラインアップされており、今回の売上はヴァザルリ氏のアーカイブと大規模なインスタレーションを展示する「建築センター」に寄付される予定です。

オフラインとの連携により価値を底上げするNFT

Egonlab は crocs のコラボレーションとしてNFT アイテムを販売

 ここからはファッションブランドがNFTをどう活用しているのか事例を見ていきます。パリファッションウィーク参加ブランドのEgonlab.(エゴンラボ)はcrocs(クロックス)とのコラボレーションにより、クリスタルを取り入れた装飾的なシューズ5点をNFTコレクションとして発表しています。こちらはオークション形式でNFTのマーケットプレイスOpenSeaに出品されています。そして、収益の一部はチャリティーとして恵まれない青少年にデジタル技術を提供する団体に寄付される予定です。ラグジュアリーブランドのGucci(グッチ)はデジタルデザイナートイブランドとして人気のSuperplastic(スーパープラスチック)とのコラボレーションでNFTを発表する予定です。3回に分かれて発表されるNFTは「SUPERGUCCI(スーパーグッチ)」と呼ばれ、第1弾は2月1日に販売されました。第1弾は10点限定のNFTであり、Gucciが手がけるコンセプトストアであるGucciVaultにて販売されます。このNFTにはGucciの職人が製作したセラミック製のフィギュア(8インチ)もセットとなっており、オフラインとも連動している点が特徴です。また、パリのブランドであるBalmain(バルマン)もバービー人形と提携し、NFTを発表しています。こちらのNFTもオークション形式で販売されていますが、実物のアクセサリーも展開しており、店舗やオンラインショップにて販売される予定です。

 

 NFTに積極的な姿勢を見せているのは、デザイナーブランドやハイブランドだけではありません。カジュアルブランドのGAP(ギャップ)もブランド初となるNFTコレクションをFrankApeのキャラクターのアーティストであるBrandonSines氏と共同で発売しています。GAPのNFT特設サイトにて販売され、一定期間販売される「Common」、数量限定の「Rare」「Epic」、オークション形式で販売する「OneofaKind」といったアイテムにより異なる販売方法をとっています。実績を見ていくと「Rare」は1月15日に6XTZ(約2,800円)で、「Epic」は1月19日に100XTZ(約48,000円)で売り切れました。また、オークション形式の「OneofaKind」は1点のみ用意され、約65万円で落札されました。

サプライチェーンの透明化を目的に開発されたAura Blockchain

ブロックチェーンにTezosを採用したGAPのNFTコレクション

 デジタル領域において、欧州で盛り上がりを見せているのはNFTだけではありません。LVMHやプラダグループ、リシュモンなどが参加し、共同でブロックチェーン開発を行う団体のAuraBlockchain(オーラブロックチェーン)は、同団体が開発したブロックチェーンの実装を今年に発表しました。オーラブロックチェーンはブランドの商品が本物であることの証明やサプライチェーンの透明化などを目的に開発されている高級ブランド向けのブロックチェーンです。第1弾として、活用されるのはHennessy(ヘネシー)のコレクターズエディションのお酒で、生産工程を遡ることが可能となります。また、同社の商品が本物である証明もブロックチェーンを活用することで可能となっており、今年の旧正月に中国で販売されるお酒には本物である証明書を同封して提供しています。また、購入者は中国のSNSであるWeChatを利用することで鑑定書を受け取ることもできます。今後はブロックチェーン上にデータを公開することで誰でも閲覧を可能にする予定と言われています。また、オーラブロックチェーンは将来的にSaaS(SoftwareasaService)としての役割も視野に入れており、小規模なラグジュアリーブランドにも価格を抑えた形でサービス提供を目指して開発が進められています。

 

デジタル技術の進歩がオフラインに与える影響は無限大

 この様にアメリカや日本だけでなく、欧州でも盛り上がりを見せる次世代のデジタル活用ですが、ファッションに落とし込む際のポイントがあります。それが「オフラインとの連携や活用」です。例えばGucciやBalmainはNFTを販売するだけでなく、オフラインと連携させることで価値をより高めています。また、オーラブロックチェーンはお酒の事例となりますが、実物商品が本物であることを証明するために活用されています。デジタル領域において、毎日の様に技術革新が起こっている今だからこそ、そうした技術がオフラインの

世界にどう影響を与えるのか、価値に繋がっていくのかを考えていく必要があります。この繋がりや影響を正確に捉えることができるブランドは今後時代をリードすることになっていくかもしれません。

 

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