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2022.05.06

ヨーロッパで進化する店舗
ロボットからデジタル店舗まで
多様化するヨーロッパの店舗体験

アパレルウェブ「AIR VOL. 57」(2022年3月発刊)より

 今回は「店舗」のデジタル体験に着目し、欧州の最新事例をご紹介します。最初にご紹介する事例はロボットを活用した店舗です。中国のEC小売大手のJD.comがヨーロッパに進出、ヨーロッパ初の店舗「Ochama(オチャマ)」をライデン・ロッテルダム(オランダ)に展開、ファストファッションを中心としたファッションアイテムのほか、生活雑貨やコスメ、家具、食品など幅広く取り揃えています。Ochamaはオンラインと店舗のサプライチェーンにテクノロジーを導入し、ロボットも採用しています。ロボットは宅配サービス用の梱包やクリック&コレクトの振り分けにも活躍しています。また、購買した人がオンラインショップで商品を受け取る際はレジにてQRコードを読み取り、ロボットが商品をベルトコンベアで運んでくれる仕組みを展開しており、自動決済システムを導入することで、レジスタッフも在中する必要が無くなりました。

ECで注文した商品を受け取りに行った際、店舗ではロボットが商品をベルトコンベアで運んでくれる仕組みを展開

 この一連の流れは店舗に訪れた購買者も見ることができ、AGV(無人搬送車)やロボットアームが行う、商品の集荷、仕分け、移動はまさに近未来の店舗であることを予感させます。Ochamaの最高執行責任者であるマーク・デン・バター氏は「ロジスティクスとサプライチェーン管理の技術を十分に活用することで、製品価格をさらに10%下げることができる」と述べています。JD.comはOchamaの更なる拡大をオランダで計画しており、アムステルダムとユトレヒトにも新店舗を予定しています。以前のレポートではアメリカの事例を中心に店舗のロボット化、マイクロフルフィルメント化をご紹介しましたが、この流れはヨーロッパにおいても加速しつつあります。

ARとスマートミラーが店舗の利便性を高める

 店舗体験を進化させるのはロボットだけではありません。イギリスの大手小売店「Marks&Spencer(マークス&スペンサー)」が展開するスーパーマーケット「M&S」はAR(AugmentedReality・拡張現実)を取り入れたショッピングアプリを発表しました。発表されたアプリではスマートフォンのカメラを使ってARフィルターを表示させることが可能です。このARフィルターを表示させることで、利用者は目的の商品までの導線をアプリで可視化しながら店内を移動することができます。また、事前に購入予定のショッピングリストをアプリで作成することで店内を効率的に回るナビゲーションにもなります。本アプリの開発者は「将来的には利用者がつくりたい料理のレシピに沿った商品の案内やそのレシピにマッチするワインのレコメンドなど幅広いニーズに対応していきたい」と話しています。利用者の買い物時間が短縮されるこのアプリは店内の密を避けることにも繋がります。アフターコロナの今イギリスでも需要のある体験となりそうです。

スーパーマーケッM&Sは広い店内の中、目当ての商品がどこにあるのかがわかるARアプリを開発

 ここからはファッション領域の店舗事例をご紹介します。スマートフォンの位置情報を利用して、ボディサイズを計測するシステムを提供するイスラエルの「MySize(マイサイズ)」が店舗に設置するスマートミラー「FirstLookSmartMirror(ファーストルックスマートミラー)」の提供を開始しました。価格は本体が8,000ドルから12,000ドル(オプションの有無で変化)、月額の利用料が160ドルとなります。ニューヨークにて開催されたNationalRetailFederation2022:Retail’sBigShowでも展示・紹介されており、店舗とECの購買体験をシームレスにするサービスとして注目されています。スマートミラーはタッチスクリーン機能が取り入れられており、ミラーとディスプレイの両方の機能が完備されています。利用者はFirstLookSmartMirrorで自分の体を見ながら、パーソナライズ化されたサイズや提案を受け、その場で決済することも可能です。試着しながら、タブレットのように操作することができるサービスとなっています。今後はMySizeが展開している測定機能や登録されている利用者のMySizeIDを活用することで、より精度の高いサイズ、商品レコメンドが期待されています。

「FirstLookSmartMirror(ファーストルックスマートミラー)」

デジタル店舗をつくることができるサービスも登場

Emperiaが開発したがファッションブランドのバーチャルストアに特化したSaaS「Artemis」

 ここまで実店舗でどうデジタルが活用されているのかをご紹介しましたが、最後に店舗をバーチャル化させるサービスをご紹介します。VRなどの技術開発を行うロンドンを拠点とするEmperia(インぺリア)がファッションブランドのバーチャルストアに特化したSaaS型サービスのArtemis(アルテミス)をリリースしました。Artemisはブランドのデジタル店舗を簡単に作成することができ、コレクションのリリースに対応して更新や編集も容易に行うことができます。また、デジタル店舗とオンラインショップを連携させることで、在庫管理やオンライン上の決済も可能となっています。さらにトラフィック解析やユーザーの行動を追跡することで、より正確なデータ分析も行うことができます。今後はブランドが単発で企画するバーチャルショップとしてだけでなく、継続して店舗運営ができるように常に更新・編集ができる専用サービスとして提供される予定です。

 

 このようにヨーロッパでは店舗をデジタルで進化、変化させる動きだけでなく、さらにデジタル店舗をつくれるサービスも登場しつつあります。特にデジタル店舗はECとは違いよりブランドの世界観を伝えることができるサービスとして今後事例が増えていくのではないでしょうか。“体験”が重要という考えは不変ですが、その“体験”はデジタルの力でさらに多様化していきそうです。

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