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2021.02.04
コミュニケーションはBtoCからCtoCへ 時価総額1兆円超えのPOP MARTが仕掛けるコミュニケーション
アパレルウェブ「AIR VOL.43」(2021年1月発刊)より一部の内容を抜粋して転載しております。
ブラインドボックス経済で勢いに乗るフィギュアブランドのPOP MART(ポップマート)
中国ではここ数年、「ブラインドボックス経済」という新しい消費に注目が集まっています。ブラインドボックス(BlindBox/中国語で盲盒(まんは))とは、日本の食品玩具が由来で、お菓子に「おまけ」として付属している玩具のことを指します。箱の中にどんな玩具が付いているのか、開けるまで分からない、もしくは、自分が欲しいキャラクターが当たるかどうかといった宝くじのような「ワクワク感」が、食品玩具の特徴です。この体験を活かしたビジネスが、今中国で注目されています。今回はその中でも急成長している企業、フィギュアブランドの「POP MART(ポップマート)」のビジネスモデルをご紹介。多くの競合がひしめき合う市場でなぜPOP MARTが支持されているのでしょうか。その秘密に迫ります。
POP MARTで看板商品の「Molly」(https://www.popmart.co.jp/より)
Z世代・ミレニアル世代から支持されているPOP MART
POP MARTは2010年に創業、主なビジネスモデルはIP(intellectual property、知的財産)ビジネスと呼ばれるもので、同社が権利を持っているキャラクターをフィギュアやゲームなど複数の製品へ展開しています。同社が開示している情報によると、主な顧客はZ世代が約30%、残りはミレニアル世代となっており、性別は約70%以上が女性となっています。また、現在約320万人の会員を抱えており、そのうちの約58%が1ヶ月以内複数の商品を購買するリピーターとなっています。
元々は、 他社との共同ライセンスを使ったキャラクターの製造、販売がメインのビジネスでしたが、2017年に香港のデザイナーから、「Molly(モリー)」というキャラクターのIPを買収しました。このMollyが大ヒット。同社の看板商品となり、色違い、限定版商品の開発、モバイルゲームやお菓子のパッケージとのコラボレーションなど同社の 主力キャラクターとして成長し、売上が爆増しました。実際に2020年12月時点で、Molly関連の売上は全体の6割を占めています。また、他社との共同ライセンスから、自社のキャラクターを貸し出すビジネスに舵を切った結果、同社の粗利率も2017年の約47%から2020年の約65%まで高まっています。この勢いのまま、2020年に香港で上場。時価総額が1兆円を超えるフィギュアや玩具関連の企業としては最大手の企業となりました。
自社アプリでは2次流通の商品が飛び交う!?
POP MARTの公式アプリには交流フォーラムやオークション機能が実装されている
同社がここまで大きくなった理由は「Molly」というヒット商品の誕生だけではありません。POP MARTはファン同士のコミュニティをつくり、ユーザーとのコミュニケーションにも長けていたからです。具体的には「リアルイベント」の積極的な開催(コロナ以前)と「アプリを活用したデジタルコミュニケーション」の2軸で成り立っています。「リアルイベント」では、海外の他企業も巻き込み、一般人が参加できる見本市や展示会などを積極的に開催。2019年には1日に10万人を集めるイベントを開催しています。ファンはキャラクターごとに区切られたブースでデザイナーと交流することができます。こうしたファンとデザイナーが交流できるイベントを実施することで、コロナ以前はファンとのコミュニケーションを強化していました。
中国にあるPOP MARTの店舗
また、デジタルを活用したコミュニケーション、コミュニティとしてアプリを最大限に活用している点も見逃せません。一般的にはメーカーがリリースしているアプリは同社の最新情報やECアプリとしての役割が大きいのですが、POP MARTのアプリは自社製品だけではなく、玩具情報全般の情報発信、オークション機能(2020年12月に機能追加、ユーザー同士で玩具の交換も可能)、そして、ファン同士が交流できるフォーラム機能を持っています。交流フォーラムやオークション機能はファンからも好評でオークションには、希少性の高い限定版フィギュアが多く出品されるため、キャラクターの熱狂的なファンがそうした限定品を求めて、このアプリを利用していています。アプリの中で、こうした二次流通の需要やCtoCのやり取りが盛り上がっており、ファン同士のコミュニケーション、コミュニティの強化に繋がっています。類似する事例として、StockXなど高級スニーカーの二次流通のプラットフォーム(アプリ)がありますが、POP MARTの様なメーカーが自社のアプリ内で2次流通を認めている、ファン同士が盛り上がるフォーラム機能をもっている事例は珍しい事例ではないでしょうか。玩具やフィギュアのファンにとっては最新情報から購買、同じ趣味を持つユーザーとの交流まで1つのプラットフォーム(アプリ)で完結できる点も魅力的と言えます。看板商品の大ヒットとアプリを軸としたコミュニティにより、コロナ禍でも成長を続けるPOP MART。特にアプリ内でCtoC(ファン同士)のコミュニケーションを活性化させている点は注目すべき点です。BtoCのコミュニケーションももちろん大事になりますが、今後はコミュニティをより強固にするために、CtoCのデジタルコミュニケーションをどれだけ活性化させることができるのかも重要なポイントになってきそうです。