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2021.01.21

バーチャルで開催2021年NRFリテールズビッグショー:ウォルマートとアルタビューティーが魅せたリアルとデジタルを融合したブランドエクスペリエンス

 毎年マンハッタンにあるジェイコブ・ジャビッツ・コンベンションセンターで開催される、全米小売業協会界(National Retail Federation:NRF)が主催するリテールカンファレンス&エキスポ「リテールズビッグショー(Retail’s Big Show)」。今年は、収束が見えないコロナウイルスの影響もあり、業界のリード企業のキーノートやセミナー、そして最新技術やサービスを紹介するエキスポもオンラインで実施されました。

 

 NRFが公開している情報によると、2020年度は4万人の業界関係者がイベントに足を運び、そのうち約7割が海外からの参加、世界96ヵ国から参加者が集まったそうです。日本は中でもトップ10に入る参加者数を記録し、昨年は528名が同イベントへ訪れたそうです。また、小売業とはいえ業界は幅広く、グローサリー、家電、家具や美容などある中、アパレル業界からの参加者が最も多かったということです。

直近の開催実績:

 

  • 100ヵ国以上、35,000社、20,000+名の参加者
  • 300名のプレス関係者やアナリストが参加
  • 300+のスピーカーとして参加
  • 80時間以上のコンテンツ、100種のセミナーセッションは30日のオンデマンドアクセス
  • 330+がエキスポ出展社として参加

 今回で110回目を迎える2021年のイベントテーマは「フォーワードトゥギャザー(Forward Together)」。1月に開催されるチャプター1の日程は、1月12日から14日、19日、21日から22日の6日間となります。今年は、QVC含む7つのブランドを持つキュレートリテール(Qurate Retail, Inc.)の社長でCEO、そしてNRFの会長も務めるマイク・ジョージ氏(Mike George)が開会の挨拶を行いました。

キュレートリテール社(Qurate Retail, Inc.)の社長兼CEOのマイク・ジョージ氏(Mike George)

コロナ禍でウォルマートはどのような変化があったのか?

Walmart(ウォルマート)、Janey Whiteside , Executive Vice President and first Chief Customer Officer(右)

 

注目ポイント:

 

  • 5年間で起こるとされていたデジタルの加速が5カ月間で起こった。特にピックアップ&デリバリーにおいては、想定していた顧客層に限らず、65歳以上の高年齢層の利用が急増した。
  • パンデミック前と比較し、ピックアップ&デリバリーの時間枠を40%増やした。
  • エクスプレス・デリバリーをはじめ、顧客ニーズに速やかに対応した。

 自宅での自粛生活が開始された頃、多くの小売業にみられた様に、ウォルマートでもほとんど毎週顧客が求める商品に変化が見られたと言います。まず、健康関連や除菌などの家庭内における掃除関連用品のニーズが高まり、続いてゲーム類や自宅学習に必要な商品へと関心が移っていったと言います。また、マスクを手作りするためのミシン、インテリアやガーデニングなど、自宅での時間を快適かつ有意義に過ごすためのアイテムに注目が集まるとその後には、自転車や釣用具などのアクティビティ関連へと顧客ニーズは移り変わっていったそうです。確かに、コロナウイルス拡大のニュースを耳にした当初はとにかく除菌しなければと誰もが考えましたよね。当時ニューヨークに居た私も外出する機会が減るのならばと、パズルやレゴでもやってみようとアマゾンで検索したことを思い出します。こうした顧客の関心・ニーズの移り変わりは、ピックアップ&デリバリーにも大きく影響し、ウォルマートではそれらに速やかに対応することでロイヤルカスタマーを増やし続けているのだと感じます。

 

 2020年のQ1のピーク時は、ピックアップ&デリバリーが300%増、新規のサービス利用者が4倍以上にも及んだと言います。これは顧客が注文した商品に対し、倉庫ではなく各店舗で(顧客による)ピックアップもしくはデリバリーに対応したことが起因します。オンラインの注文に関しても、倉庫に在庫が無い場合は店舗の在庫で対応できたそうです。ウォルマートでは、顧客が求める商品・ニーズに対応しうる調和されたサービス網が徹底されていますよね。このような対応は決してどの企業でも可能ではないと分かりますが、日本のトップ企業おいて、ウォルマートのように全てのサービス&コマースがスムーズに連携し好循環している企業は果たして存在するのでしょうか。

アプリの強化で顧客との繋がりをより深めるULTA Beauty(アルタビューティー )

ULTA Beauty(アルタビューティー )VP, Customer Marketing、 Kelly Mahoney

 米国の化粧品販売チェーンのアルタビューティーでは、顧客と有意義なコネクションを保ちながらブランド愛を育成し、長期的な視点でのロイヤルカスタマーの形成へと繋げていく事が、単に決済(購入)してもらうよりもこれまで以上に大切だと考えていると言います。アルタでは25,000の商品、500以上ものビューティーブランドをオンラインおよび店舗で展開し、集約された顧客データをもとに個々の顧客に向けてキュレートされたコンテンツやパーソナライズされたエクスペリエンスを届けています。次世代に向けたパーソナライゼーションとロイヤリティーにフォーカスしたこのセッションでは、アルタが積極的に取り組むリワードプログラムやパーソナライゼーションについて語られました。

リワードプログラム「Ultamate Rewards Program(アルタメイトプログラム)」のエンゲージメント:

 

  • 会員数3,000万人 (30M+ members)
  • 売上の95%以上はリワードプログラム会員によるもの
  • リワードプログラムの45%以上が、頻繁に購入し、最も購入額の高いダイヤモンドもしくはプラチナ会員

 リワードプログラムでは、ステータスを「メンバー」「ダイヤモンド」「プラチナ」の3段階に分けており、上記の数字を見る限り、売上に貢献する顧客の半数近くが頻繁に買い物をするリピーターであるという事がわかります。アルタでは、徐々に店舗営業が再開された昨年の夏の終わりに、8週間以上ぶりに開店しお客様を迎える喜びを伝えるにあたってのイベント「We Love Our Members Month(お客様大好き月間)」を開催しました。この際のイニシアチブでは、リワードプログラム会員に向けた特別なプロモーションや、新たな方法でポイントを獲得できるチャンス、サプライズなどが用意され、顧客から高い評価を受けたそうです。アルタビューティーのZ世代の顧客の50%は、店舗ショッピングの過程で、デジタルコンテンツを通じてオススメ商品やレビューをチェックします。同時に、ブランドが提供するプロモーションも確認するなど、頻繁に何かしらの(主にアプリ)デジタルツールを活用しているそうです。

 

 又ティーン世代から特に人気の高いアルタは昨年、自社モバイルアプリをさらにパーソナライズ、リワードにフォーカスした内容にリニューアルしたそうです。リニューアルの目的はユーザー主体の内容にすることだったと言います。私もマンハッタンに唯一あるアルタビューティーの路面店へはたまに買い物へ行くことがありましたが、特に夕方や週末は若い顧客が多いなという印象を受けていましたので、アプリ強化はブランドにとって優先的な改善業務だったのかもしれません。

Glam Lab (メイクアップ、ファンデーション、ヘアカラーをバーチャルで試すAR機能)

リワードプログラムが注力している機能:

 

  • リワードランクの確認
  • 顧客ごとにパーソナライズされたプロモーション
  • 購入履歴に基づいた商品のレコメンデーション
  • 再購入のお知らせ(及びその他オプションのレコメンデーション)
  • Glam Lab (メイクアップ、ファンデーション、ヘアカラーをバーチャルで試すAR機能)

 再購入のお知らせのサービスは一見簡単そうなサービスに感じられるかもしれませんが、ビューティーの場合、配信のタイミングを図るのがとても難しく、単に再購入のお知らせをするだけでは顧客は満足しないということが分かったそうです。そこで、前述したアプリリニューアルの際、過去に購入した商品だけではなく、その他のいくつかのオプションも共に表示されるようアップデート(お知らせはスマホのプッシュ通知機能でも同時に実施しているとのこと)。そして、AR機能を活用した「Glam Lab」は店舗閉鎖中に特に人気となったサービスで、2020年はエンゲージメント率が9倍にも伸びたそうです。

 

 また、2020年11月、アルタビューティーはリテール業界でも飛躍的な成長を遂げるTARGET(ターゲット)とのパートナーシップ提携を発表しています。このパートナーシップによって、アルタの既存顧客にとってはブランドとエンゲージする機会、購入する機会がさらに増える一方、ターゲットの既存顧客へ新たにアルタブランドの認知を促進する相乗効果を生むと自信を持っているようです。世界中で様々な事が変化する中、アルタビューティーでは、顧客が抱く美に対する熱い思いを無駄にせず顧客の声をキャッチすることで、共感されるサービスを提供し続けることに成功しているのだと感じました。これは前述のウォルマートにも同様に言えます。

 

 2020年はたった1年の間に、私たち個々のライフスタイル、そして考え方をも大きく変えてしまいました。ブランドや小売業は前例にないスピードでアジャストし、サービスを進化させ対応せざるを得なくなりました。2021年はまた違った意味で変化・進化が必要でしょう。その為には、図らずも壊されてしまった習慣を修復するのではなく、新たな方法、新たな基盤づくりを行っていくことが重要なのだと思います。今年もデジタルエクスペリエンスは加速します。コラムを読んでくださっている皆さまは昨年、失敗をしてでも試行錯誤しながら、自社の顧客や消費者が今何を求めているのか模索してきたでしょうから、きっと2021年の新たな基盤の方向性が見えているはずだと思います。今年もデジタルエクスペリエンスは益々加速するでしょう。


 

 

R I N A

90年代の米国がネットバブルだった頃に米国にて日本向けのファッションポータル事業にコンサルタントとして関わる。

 

以降、「ファッション」と「インターネット」上で行われるビジネスを中心とした事業に15年ほど携わり、Web製作やディレクション、ビジネスのコンサルタントを行う。現在は米国のファッション事情やトレンド、ファッションとIT関連を中心とした執筆、今までの経験と知識を活かしビジネスサポートも行っている。

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