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2020.11.19
セカンドハンドファースト! リセールビジネスが小売業界の危機を救うか!?
BoF(ビジネスオブファッション)とMckinsey&Co(マッキンゼー&カンパニー)の調査によると、2020年の第二四半期(4-6月)の世界のファッション収益は前年に比べ34%減少、業界全体で$3,400-4,400の損失が予測されています。特にヨーロッパを中心とする高級ブランドは、中国人観光客の訪問がストップしている為、年末までに40−50%減少を予測、米国でも同程度の減少が見込まれています。現在、世界中がパンデミックの第2波に直面しており、2021年もその混乱は続き、2019年レベルまでの回復には2023年の第一四半期にまでさしかかるのではという見解です。今年の小売業界を振り返ると、コロナにより翻弄され、そして破壊された1年だったように思います。人々は本当に必要なものだけにお金を使い、できる限り安価なものを買うというスタンス、さらにサステナビリテイへの共感が強まりました。小売企業は生き残る為に消費者が求めている物をいち早く取り入れ変化していかなければならないと思います。
多くの企業が大打撃を受けたパンデミックの最中において影響が無かったのが、リセール(再販)・レンタル・リース等の循環型ビジネスを目指す企業です。アパレルと雑貨のリセールサイトThredUP(スレッドアップ)とグローバル・データ・リテイルの調査によると、リセール市場は今後、2020年の320億ドルから2023年までに510億ドルに拡大すると予測されています。昨年は高級ブランドを扱うRealReal(リアル・リアル)が上場、今年の9月には競合のPoshmark(ポッシュマーク)がIPO申請、続く10月中旬にはThredUp(スレッドアップ)がIPO申請したと発表がありました。今回は2021年も成長が期待される市場をピックアップしました。
高まる需要、小売企業がThredUp(スレッドアップ)と続々提携
リセールサイトの中でも絶好調の「スレッドアップ」は、現在も1日10万点を超えるアイテムを取り扱っており、4万5000ブランド、100種類にも及ぶカテゴリーを取り扱う中古業界のパワーハウス的存在です。格安で高級ブランドを入手したい節約志向の消費者や循環型ファッションを支持するミレニアル層を中心にユーザーの需要が高まっていますが、ベビーブーマー(とりわけアメリカ合衆国における第二次大戦終結後のベビーブームに生まれた世代を指す)世代は、長年クローゼットで眠っていたハンドバックやアクセサリーの処分に同サービスを利用しています。パンデミックによって不用品を現金化しようという傾向が高まり、同社への商品供給に繋がっています。このような背景から、メイシーズを始め、ウォルマート、アバクロンビー&フィッチ、Jクルーの姉妹店、Madewell(メイドウェル)などが続々とスレッド・アップとの提携を行っています。コロナ禍でショールーム全5店舗を閉鎖したファッションレンタルのRent The Runway(レント・ザ・ランウェイ)も今年9月からスレッド・アップとの提携を開始。同社でレンタルされたデザイナーブランドの洋服は、スレッド・アップで小売価格の80%オフの価格で独占販売、製品の寿命を4倍にする運用を目指しています。
リーバイス社も独自プログラムで320億ドルのリセール市場に参入
ユニクロ、ギャップ、H&M等が、リサイクル、リユースプログラムを進めている中、リーバイスでも、顧客が中古ジーンズを売買できる「リーバイスセカンドハンド」を自社で開始しました。顧客は自身の中古商品と引き換えに、商品の状態や年数により、5~35ドルのストアクレジットを受け取り、オンラインや店頭で中古のジーンズやジャケットの新規購入時に使用できます。オンラインで販売されている中古商品の平均価格は$30-100。リーバイスのデニムはリサイクルショップや、Z世代に人気のロンドン発のフリマアプリDepop(ディポップ)でも人気のアイテムです。いうまでもなく、リーバイスは古着市場で最も検索されているデニムブランドとなっています。自社サイト内で自社ブランドのヴィンテージや中古品を販売する取り組みは、リセール市場からビジネスを奪い、ファッション業界にとってもターニングポイントになるのではと思います。
ホリデーギフトでもOK! イーベイの再生品販売
新品価格に手が届かない場合などに、故障品や返品商品をメーカーが微調整し、値引きして販売されるリファービッシュ製品(メーカー認定の再生品)の選択肢は米国ではお馴染みですが、パンデミックの節約傾向や循環型マーケットの台頭で人気が高まっています。そのような中、イーベイが家電メーカーとの提携によって、新品同様にクリーニングされ検査に合格した製品のみを集めた「認定再生品」の販売をスタートしました。参加企業は、Dirt Devil(ダートデビル)、Hoover(フーバー)、Philips(フィリップス)、Lenovo(レノボ)、 Microsoft(マイクロソフト)、Acer(エーサー)、Bose(ボーズ)、KitchenAid(キッチンエイド)などの家電メーカーで、掃除機やミキサーといった人気家電やコンピューターなどの商品が最高で50%オフで販売されています。イーベイが今年10月に1000人を対象に行ったアンケート調査によると、78%の人が再生品のギフトを受け取ると答えたといいます。中古品の購入は特に若年層に支持されていますが、今年のクリスマスギフトでは中古ギフトに目を向ける消費者が増えると予想されています。
コロナ禍の需要にマッチ!
アウトドアブランドREI(レイ)が中古ギア販売を拡大
REIが定期的に行っている「ガレージセール」は、返品された商品などが大幅なディスカウント価格で購入できる為、前夜から店頭に列を作る程の熱狂的ファンがいる事で知られています。同ブランドは2018年にオンライン販売をスタートし、今年の10月には、ロサンゼルスとペンシルバニアに中古品のみを取り扱う店舗をオープンしました。今年は、コロナ禍で様々なイベントが中止となる一方、リモートワークやステイホームの合間の息抜きとして山歩きやキャンプといったアウトドアスポーツに人気が集まりました。アウトドア初心者は商品知識がそこまで深く無い為、本格的な商品よりも価格重視の幅広い品揃えを好みます。今年のReiの中古ギアビジネスは昨年と比較して100%の増加が見込まれているそうで、同社のリセール市場の拡大は、現在の消費シチュエーションにマッチし、タイミングが良かったと言えます。
家具インテリア業界にも循環型マーケット
中古商品の販売やレンタルの傾向はインテリア業界でも同様の動きがでています。IKEA(イケア)では顧客の中古家具を買い戻し、英国とアイルランドの店舗にてリセールする取り組みを発表しました。中古家具を提供した顧客は引き換えとして、商品の状態により、次回の購入時に最大半額の割引を受けられる無期限バウチャーを受け取ることができ、別の中古商品の購入につながります。また、インテリア雑貨のPottery&Barn(ポタリー&バーン)は、The Renewal Workshopとの提携で、「Pottery Barn Renewed」というリセールの取り組みをスタートしました。寝具、枕、テーブルクロスなど、返品された商品を、種類や商品の状態により分類、消毒、修理、検査、検証の6段階のプロセスを経て、再販専用のワークショップサイトで販売する取り組みです。
これまで、若年層は都心を好む傾向がありましたが、パンデミックにより職を失い、親元へ戻るケースや、郊外へ引っ越しをするケースが増加し、都心離れが進んでいます。リモートワークが新常識となる中、オフィスの環境を整える為の家具や、一時的な新居に高級品を選ぶ傾向は少なくなり、中古品やレンタルという選択肢はそのような人々の需要の変化にマッチしていると言えます。また、家具のレンタルは都心に住む高所得者向けに有効なサービスでもあります。例えば、ソファー、サイドテーブル、キッチンテーブル、椅子4脚のレンタルに月額200ドルがかかるとしても、親世代に比べ職の変更や移動が多いとされるミレニアル世代にとってレンタルは、手持ちの家具が新居に合うか考える必要がなく、引っ越しの際にはレンタルした家具を返却すれば良いだけという手軽な点において理にかなっているのでしょう。ホームグッズ関連の需要の高まりを受け、アパレル中心のレンタル企業「レントザランウエイ」や「Poshmark」もWestelmなどのインテリア雑貨の追加提供を始めています。
Fernish(ファーニッシュ) |
2017年に設立。PB商品から「クレート&バレル」の様なインテリア専門店家具のレンタルを行う。ロサンゼルスとシアトルで販売しており、今年後半、他の州にも拡大予定。月額$99。 |
Feather(フェザー) | 月額わずか$19で150種類以上の家具の中からレンタルができるサブスクサービス。送料無料。需要増加により、WFH(Working From Home) コレクションを拡大。月額$33~。ニューヨーク、カリフォルニア、サンフランシスコで販売。 |
Casa One(カーサ・ワン) | 2017年設立。ニューヨーク、フィラデルフィア、ロサンゼルス、ベガスなど10州で販売。エリア別に整理されたウェブサイト。家具の他、寝具、キッチン家電、モニターやキーボード、フィットネス器具までワイドセレクション。 |
Furnishr(ファーニッシュ) | 米国とカナダで利用可能。好みのスタイルと予算に合わせ家具やインテリアをコーデイネートして貰える。基本的なリビングで月額$1,500〜。パッケージデザインには、配達とセットアップコストが含まれる。 |
家具のレンタル企業一覧
中古品をギフトにするというカルチャーは以前では考えられませんでしたが、大量生産のファストファッションに囲まれて育った若年層が古着やヴィンテージ雑貨などに対してユニークな個性やこだわりを見出すことは理解できます。古着屋を巡るようにオンラインで古着を探し、ワードローブやギフトに取り入れることが一般的になりつつあり、アパレルやファッション雑貨から先行したリセールやレンタルがカテゴリーの一つとして拡大しています。中古品の販売は2021年も引き続き重要なセクターになると予想される中においては、小売企業は中古品と新品が混在するマーケットの構築を早急に検討していく必要がありそうです。