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2012.08.27

【宮田理江のランウェイ解読 Vol.1】パリ・ミラノ 2013春夏コレクション

 2012-13年秋冬・ウィメンズファッションのワールドトレンドは全体に気品や洗練を重んじる傾向が濃くなる。伊達男の粋をまとう「ジェントルマンレディー」や、バロック美術のエッセンスを持ち込んだ「中世貴族モード」などが秋冬のおしゃれに格調高いエレガンスを注ぎ込む。その一方で、ボリュームで遊ぶ演出や、スポーティーとロマンティックを交差させる提案も大きなうねりになりそうな気配。パリ、ミラノ、ロンドン、ニューヨークの世界4大コレクションで発信されたネクストトレンドはノーブルにりりしく、そしてファンタジックにファッションシーンを華やがせる。

◆ジェントルマンレディー

 マニッシュの流れがさらに深まって、英国紳士を連想させるような装いに到達。「ダンディーレディー」「ジェントルウーマン」とも表現される、品格と強さを兼ね備えた女性像を描き出す。名探偵シャーロック・ホームズを彷彿させる膝下丈のチェスターフィールドコートに代表される凛としたムードを醸し出す。

 

 これがなくては始まらないと言えるほどのムードメーカーになるのが、正面にしっかり折り目のついたセンタープレスのパンツ。丈は足首がのぞくクロップトが新定番に。全身を男っぽく固めないで、フェミニン靴で合わせ、足元につやめきを添えたり、メンズ風革靴で逆に女らしさを際立たせたりするテクニックも使いでがある。

クロップトパンツ
(左) Christian Dior A/W 2012 Paris Photo by Koji Hirano
(右)BOTTEGA VENETA A/W 2012 Milano Photo by Koji Hirano
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 ミリタリーのテイストも男の薫りを添える。フライトジャケットのような軍装品の味わいが着こなしをたくましくする。エポレット(肩飾り)や金ボタンなどのアイコン的ディテールを生かしつつ、軍服っぽくはまとめないで、エレガントに整えるのが、この秋冬の手つきだ。

 

 タフ顔のレザーアイテムもマスキュリンな空気を濃くする。黒革で仕立てたスカートやパンツはレザーの質感がりりしい。ロングトレンドになったライダースジャケットは、たおやかなボトムスと合わせて、ジェンダーミックスを楽しみたい。

 

 黒の存在感は装いの重みも増す。黒一色のコーディネートも試したくなるが、スタイリッシュに決めやすいのはブラック×ホワイトのツートーン。両脇に白いラインを走らせたパンツルックはクールで軽やか。黒レザーをまとえば、漆黒のつやめきも手に入る。白いブラウスやスカートと重ねれば、モノトーンのコントラストを操れる。

◆オーバーボリューム

 過剰なまでのビッグサイズやふくらみで、シルエットにサプライズを持ち込む「オーバーボリューム」の戯れはこの秋冬で最も劇的な演出となる。両肩が落ちてしまうほどのオーバーサイズのコートは象徴的なアイテム。なだらかに垂れるフォルムが身体を包み込むようで、穏やかな印象が自然と目に忍び込む。

 

 前年の冬はポンチョがヒットしたが、今季はマントとケープに主役が代わる。中南米エスニックを感じさせるポンチョとは違って、マント、ケープはヨーロピアンな貴婦人のたたずまい。優美な曲線が肩から下をソフトに覆い、ノーブルな装いを引き寄せる。

 

 厚手のチャンキーニットはボリュームで遊ぶ着こなしにうってつけのニューカマー。ほっこりした表情が出るので、装いにのどこで朗らかな雰囲気を寄り添わせてくれる。「chunky」は「厚手」という意味の英語。少しずんぐりしたトップスに見せられるから、ボトムスは細身のパンツで合わせると、ボリュームの落差を印象づけやすい。うねの高いケーブル編みを選ぶと、1枚で着ても、ニットの編み模様や風合いが動きをもたらす。

チャンキーニット、クロップトパンツ
Just Cavalli A/W 2012 Milano Photo by Koji Hirano
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 ウエスト下に裾広がりの飾りを配したペプラムは分かりやすい新ディテール。腰周りにもう1つのスカート裾のようなふくらみが生まれるので、ウエストと脚を細く見せられる。ジャケットの裾にあしらう例が一般的だが、ブラウスに添えるパターンも相次ぐ。ドラマティックなたっぷりドレープが目を楽しませる上、体型カバーにも役立つ。

ペプラム
(左) Christian Dior A/W 2012 Paris
(右)EMPORIO ARMANI A/W 2012 Milano
Photo by Koji Hirano

ペプラム
Burberry Prorsum A/W 2012 London Photo by (c)BURBERRY
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ケープ、マント
GUCCI A/W 2012 Milano Courtesy of Gucci
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 袖にボリュームを与える試みも相次ぐ。まるでバナナのようにゆったりと肌から離れて泳ぐバナナスリーブはコケットな表情。ニットでもブラウスでも優美な袖景色を描き出す。袖にだけファーをどっさり配したファースリーブはかえって華奢な体つきを目に焼き付ける。トゥーマッチな腕周りのふくらみが異素材感も手伝って、意外感いっぱいのスタイリングを成り立たせる。

袖にだけファーをどっさり配したファースリーブ
JASON WU A/W 2012 Newyork Photo by Kenji Mori
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◆中世貴族モード

 ヨーロッパの上流階級からインスパイアされたノーブル(高貴)なムードが装いの品格を引き上げる。王侯貴族が贅を競った中世の美術に着想を得たバロックモチーフがおしゃれをアートと歴史に近づける。宮殿や食器を彩ったような幾何学的模様をプリントしたパンツは所作まで優雅に見せる。

 

 ゴールドを惜しげもなく注ぎ込んだリュクスグリッターなエンブロイダリー(刺繍)がまばゆくきらめく。光を反射するビジュウをちりばめた服はまとった人をモダン貴族のステータスにまで導く。

中世貴族モード
BALMAIN A/W 2012 Paris Photo by Koji Hirano
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 肌を隠す秘めやかな演出も高貴な気配を深くする。襟が高く、首の詰まったブラウスやアウターは気高いイメージを立ちのぼらせる。襟周りや袖先に施された、手の込んだ刺繍が、着こなしに別格の上質感を添える。

 

 深いワインレッドのバーガンディーは貴族趣味と重なる今季のトレンドカラー。「Burgundy」はフランスの名ワイン産地、ブルゴーニュの英語読みだ。光に映えるベルベットの風合いも上流階級の毛並みに通じる。舞台俳優を引き立てるコスチュームジュエリーは日常から離れた異空間へ誘う。

バーガンディー
DKNY A/W 2012 Newyork
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◆パンツレイヤード

 有力メゾンが競い合うように打ち出した新スタイリングが、スカートとパンツのレイヤード(重ね着)。ボトムスの2大アイテムをダブルで重ねるという大胆な提案だ。日本では早くも「スカパン」という呼び名がついたこのコーデは両方を同じ生地で仕立て、しかも縫い合わせて一体化していて、ワンアイテムで見た目上のレイヤードを実現している(セパレートの提案もある)。

「スカパン」ルック
VIVIENNE TAM A/W 2012 Newyork Photo by Kenji Mori
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 スカートは広がりすぎない形を選び、細身のパンツと重ねるのが今季のスタイル。緩やかでドレーピーな形のスカートを選ぶと、埴輪(はにわ)のようなユニセックスっぽい見栄えに仕上がる。パンツはスリムなほうがレッグラインがスレンダーに映る。フェミニンと躍動感が一度に手に入る、見るからに鮮度の高いスタイリングだ。

◆スポーティー×ロマンティック

 肌になじむストレッチ素材のスポーティーなウエアを、あえてロマンティックに味付けして着るのが、今季の欲張りな着こなし。シンボリックなアイテムは裾がリブ編みですぼまったジャージー風のスウェットパンツ(トラックパンツ)。足首辺りでキュッと締まっているから、レッグラインもシャープに見える。

 

 丸首クルーネックのニットとスポーツ顔のスウェットパンツの組み合わせはアクティブな印象を押し出す。リラクシングなブルゾンをかぶせたり、若々しいスニーカーを添えたりすれば、重たい見栄えになりがちな秋冬に、はつらつとした装いが手に入る。ハイネックのカットソーや普段使いしやすいスウェットシャツなどもスポーティーな味付けに役立つ。でも、必ずアウターや靴、小物などでつやめきを差し込んで、「運動着」調にまとまりすぎないアレンジを心がけたい。

スポーティー×ロマンティック
(左)CYNTHIA ROWLEY A/W 2012 Newyork Photo by Kenji Mori
(右)DEREK LAM A/W 2012 Newyork Photo by Kenji Mori
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◆カントリー&ブリティッシュ

 ヨーロッパの田舎町や自然の豊かな北欧などをイメージソースに据えた、どこか牧歌的でノスタルジックなスタイリングがこの秋冬の新潮流。ざっくりした編みのニットのような穏やかな風合いが、飾らない人柄を感じさせる。ノルディックモチーフのセーターといったフォークロアテイストのアイテムが着る人のハートまでぬくもらせる。

 

 脚光を浴び続ける英国の装いは「ジェントルウーマン」とも「貴族モード」ともシンクロする。新たなブリティッシュモチーフとして急浮上してきたのは「乗馬」。最もハイソサエティーなたしなみとされるだけに、乗馬帽子やジョッパーズブーツなどにもクラス感が漂う。チェック柄はさらにアレンジの幅が広がり、英国らしいオーセンティック(正統派)なムードを、自分好みのスタイリングに落とし込みやすくなっている。

カントリー&ブリティッシュ
(左)MICHAEL KORS A/W 2012 Newyork
(右)DAKS A/W 2012 London
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 4大コレクションが打ち出した秋冬トレンドに共通するのは、おしゃれの世界にこれまであったルールや境界線をこれまでにも増してダイナミックに踏み越えようとするチャレンジスピリットだ。性別や歴史、階級、シーンといった旧来の枠を意図的にまたぐ試みは、ジェントルマン、貴族、バロック、スポーティー、ミリタリーなどのインスピレーションをもたらした。ミックススタイリングの軸線をさらに延長し、異なるテイストや方向性をねじり合わせるハイブリッドの挑戦は、ファッションの進化が向かう道筋を照らし出してもいる。


 

 

宮田 理江(みやた・りえ)
ファッションジャーナリスト

 

複数のファッションブランドの販売員としてキャリアを積み、バイヤー、プレスを経験後、ファッションジャーナリストへ。新聞や雑誌、テレビ、ウェブなど、数々のメディアでコメント提供や記事執筆を手がける。

コレクションのリポート、トレンドの解説、スタイリングの提案、セレブリティ・有名人・ストリートの着こなし分析のほか、企業・商品ブランディング、広告、イベント出演、セミナーなどを幅広くこなす。著書にファッション指南本『おしゃれの近道』『もっとおしゃれの近道』(共に学研)がある。

 

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