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2018.09.28
【現地レポート】ブロードウェイミュージカル上演などエンターテインメント性強める靴見本市「MICAM」
(写真左)華やかなミュージカル『キンキーブーツ』の上演/
(写真右)トミー・ヒルフィガー氏(左)
靴の総合見本市「ミカム(MICAM)」が2018年9月16~19日、ミラノ見本市会場「フィエラミラノ・ロー(FIERA MILANO RHO)」で開かれた。1396社(前年同期比3.1%減)が出展し、うち778社(同2.4%減)がイタリア企業。来場者数は45424人(同20.6%減)となった。初日の夜には、各種アワードの贈呈式の後に、ブロードウェイで人気の靴工場をテーマにしたミュージカル『キンキーブーツ(Kinky Boots)』のダイジェスト版が上演され、華やかにレセプションパーティーが開かれた。2日目には若手デザイナーを支援するゾーン「エマージング・デザイナーズ(Emerging Designers)」の合同ショーが開かれ、アワードのプレゼンターにトミー・ヒルフィガーが登場した。特徴的な出展ブランドと日本からの出展者の動向を紹介する。
クラフトマンシップかテクノロジーを象徴するメーカーに存在感
「ポール・サイレンス」
ストーンウォッシュにより、ソールの柔らかさが増す(写真下左)
「ポール・サイレンス(paul silence)」は、1974年からマルケ州フェルモ県モンテグナーロで代々続く工房、リネア・イタリア・カルツァトゥーレが1年前に始めたブランドで、4人のスタッフにより日産50足。自然へのリスペクトをコンセプトにナチュラル素材、ベジタブルタンニングなどによるコンフォートシューズを生産する。ティントカーポ(製品染め)やブラックラビッド製法(マッケイ・グッド)の中物をストーンウォッシュによる破壊で柔らかくするなど凝った物作りを行っている。日本人専用のラスト(木型)も7~8型作り、独占輸入卸の中山靴店との連携を深めている。希望小売価格は4万~4万5,000円。
「クラッセ・トスカーナ」
ハンドペイントでイタリアらしい鮮やかな発色を楽しめる「クラッセ・トスカーナ(CLASSE TOSCANA)」は、2003年にスタートしたトスカーナ州フィレンツェ県フチェッキオにあるカルツァトゥリフィチオ・ムスタングによるファクトリーブランドだ。従業員45人で年産1万足。ヌメ革へのハンドペイントは1足あたり約30分。白と金以外の「パントーン」全色に対応し、オリジナルカラーがオーダーできる。オリジナル色はミニマム100足、既存色は20足からで10型、39~47サイズ(メンズ)に対応している。FOB(本船渡し)価格は80~130ユーロで、韓国には卸しているものの日本へは未上陸。
「アーキスター」
真ん中の中空構造が圧力を分散させるという
一方で伝統的な製法とは真逆のテクノロジーを生かした靴生産に乗り出している会社もある。ベネト州パドヴァに本社を置くデザイン会社のアルベルト・デル・ビオンディは、靴底にかかるすべての圧力を均等に分散させるソール形状をルッカ大学と共同開発した。さらに3Dプリンターとアッパー用の編機も有し、自社内ですべてのサンプルを生産できるラボを持っている。こうしたインフラがあるため、サンプル修正も素早くでき、リードタイムの削減のみならず、サンプルアップの効率化も進んでいる。ブランド名は建築家のスターを意味する造語で「アーキスター(ARKISTAR)」。ソールの内部が抜けているニットスニーカーなどで今シーズンから日本へも上陸する予定だ。希望小売価格は2万円台を予定している。
「ルッツ・ウォーク・イン・コーク」
素材はコルクのほかオーガニックコットンやビーガンマテリアルを使用
エコロジーの流れも見逃せない。ポルトガル・リスボンのザ・コルクガニック・コーの「ルッツ・ウォーク・イン・コーク(rutz walk in cork)」は、ポルトガルの主要産品でもあるコルクを使ったシューズを生産している。スニーカー、メンズドレスシューズ、バレリーナ、ローファー、デッキシューズ、エスパドリーユ、サンダルまで一通りあり、ベビーキッズサイズも展開している。素材はコルクのほかオーガニックコットンやビーガンマテリアルを使用し、資材から組み立てまで全てをポルトガルで行う。FOBは50~250ユーロで、100~120ユーロが中心価格帯。日本とは以前ショップチャンネルとの取引があったという。
「エマージング・デザイナーズ」会場
「ゼイ・ニューヨーク」
エマージング・デザイナーズには80人近い候補から選出された12人のクリエーターが出展していた。ニューヨークで活動する兄妹のデュオによるスニーカー「ゼイ・ニューヨーク(THEY NEW YORK)」は17年春夏のスタートで、ソーホーに直営店を持ち、ECを中心に販売しているほか、ブルーミングデールズ、ギャラリーラファイエットにも口座を持つ。ミカムは2回目の出展で、日本の卸も今回見つかったという。通常はインスタグラムなどSNSを通じて拡販しており、今風の戦略だ。コンセプトは安藤忠雄や原研哉などの建築・インダストリアルデザインや侘び寂びからインスパイアされ、構築的なディテールに落とし込んでいる。もともと祖父が台湾で靴のOEM工場をしており、日本のスニーカーブランドの生産を担っていたことも日本に傾倒するきっかけになったそうだ。希望小売価格は285ドルほど。
ランウェイでも披露され、トミー・ヒルフィガーから表彰を受ける「グッドバイブス」
エレガントなパンプスやサンダルの「グッドバイブス(good vibes)」は、デザイナー、アルフォンソ・フィゲラスがマークジェイコブスを経て2年前に立ち上げたブランドでミカムは2回目の出展となる。ミニマルでありながらジオメトリックパターンや極彩色のナポリカラーを採り入れた遊び心あるハイヒールが目を引く。足首に纏わり着くようなストラップが妖艶な雰囲気を醸し出す。また大きなボウタイをイメージしたアッパーのフロント部分も印象的だ。欧州を中心に30店ほどの卸先を持ち、希望小売価格は250~400ユーロ。日本へは未上陸。
日本からはジェトロ(日本貿易振興機構)ブースに6ブランド、ほか2社3ブランドが出展
(左から)「ニチマン」「ビナセーコー」
(左から)「ベルパッソ」「マツモト」
(左から)「宮城興業」「荒井弘史」
経済産業省の委託を受けたジェトロブースは従来のホール7から念願のホール1(ラグジュアリー)へ移動した。開放的な作りに紅葉や盆栽を持ち込み、枯山水の石庭など和の雰囲気を強調した。「受注というよりは、まずは見てもらうというお披露目的なスタンスで臨んだ」という。またフォロワーを多く持つインスタアカウントも活用し、情報発信も行った。「低価格帯のホール7でなく、ラグジュアリー寄りのホール1で高品質な商品を打ち出すことにより、ヨーロッパで真っ向勝負しようという試み」となった。来場者からは、クラフトマンシップは高く評価されたが、価格面で抵抗感が強かったという。出展企業は、宮城興業、荒井弘史靴研究所、ベルパッソ、ビナセーコー、オリエンタルシューズ、ニチマンの6社。次回からは、より商売ベースで受注を取りに行く姿勢を強めるそうで、10社まで規模を拡大する予定。
「キセカエシューズ・ジョニー・アンド・ジェシー」
アッパーとソールはジップ一つで取り外せる
ジェイジェイジャパンの「キセカエシューズ・ジョニー・アンド・ジェシー(Johnny & Jessy)」は、15年秋冬から出展しており、アッパーとソールをジップで取り外しできるシューズが特徴。アッパーは200種類、ソールはラバーやエスパドリーユなど3種類から選べる。イタリア、ロシア、ウクライナ、UAEなどに卸してきたが、現在英国のエージェントと交渉中だ。ムービーにも反応があり、足を止めてもらえるという。希望小売価格はソールが6800円、アッパーが3900~5900円。中国生産に切り替えることで価格対応を強めていくそうだ。
「ユウコ・イマニシ・プラス」
コンコルディアは日本生産の「マナ(MANA)」とバングラデシュ生産の「ユウコ・イマニシ・プラス(yuko imanishi +)」を出展した。2011年9月から7年出展しており、既存ではカナダ、イスラエル、オーストラリアにディストリビューターを持ち、イタリア、フランス、米国など7ヶ国に卸している。特にユウコ・イマニシ・プラスはFOBで35~45ドルと価格競争力があり、かつ日本の強みでもある引き算のデザインが受けている。モダン、コンフォータブルでコンテンポラリー、かつアーティスティックなフォルムが特徴で、ヒールの形やラストの違いを理解され、装飾過多なデザインが多い中、差別化につながっている。
ミカムが靴業界の中でミーティングポイントとしての役割を担ってきたことは間違いない。出展者数、来場者数ともに有数の見本市でもある。しかし、ファッション流通やライフスタイル分野への広がり、ECを始めとする直販の拡大など課題は山積しており、変化の激しい時代に業界に対するソリューションを提示するのも見本市の大きな役割だ。こういった視点から、イタリア靴メーカー協会(ASSOCALZATURIFICI)のアンナリータ・ピロッティ(Annarita Pilotti)会長に単独インタビューを行った。