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2018.10.03
【宮田理江のランウェイ解読 Vol.51】2019年春夏ミラノコレクション
宮田理江のランウェイ解読 Vol.51
2019年春夏シーズンのミラノコレクションは、伝統と革新が入り交じる構図となった。歴史的な節目を迎えた老舗メゾンがヘリテージやDNAを再確認する一方、比較的若いブランドは今までとはムードを変えた新クリエーションを試した。両者に共通していたのは、コンフォートやクロスカルチャーといった大きなうねりに沿って、それぞれの持ち味を深掘りするような取り組みだ。アクティブ感とフェミニンを、仕立て文化の厚いミラノらしくミックスした「スポーツテイラーリング」も新鮮な提案と映った。
◆ドルチェ&ガッバーナ(Dolce&Gabbana)
人間愛に包まれたオペラのようなランウェイショーを、「ドルチェ&ガッバーナ(Dolce&Gabbana)」は披露した。様々な体型や年齢、人種のモデルたちが起用され、多様性(ダイバーシティ)の賛歌が会場に響き渡った。白いポルカドット柄を散らしたブラックドレスをまとって、ファーストルックを務めたのは、イタリア映画界を代表する女優、モニカ・ベルッチ。「DNA」という今回のテーマを象徴するかのように、3世代の家族も登場した。
セレブリティに加え、プラスサイズのモデルや、小柄なモデルが満面の笑顔で堂々のウォークを披露。プロ風ではないモデルが現れるたびに、会場から大喝采が巻き起こり、感動と共感の輪が広がった。幅広いターゲットとハッピーを分かち合うかのようなメッセージがシート側にも伝わってきた。150ルックを超える、壮大なショーはブラックを基調にしつつ、カラフルなフラワー柄で彩られた。
ティアードやラッフルが施されたドレスは華やぎの極み。多くのドレスには極彩色のフローラルモチーフがあしらわれ、花束を着たかのよう。十字架や聖母といった宗教的モチーフも多用された。ゴシックとロマンティックが交差するようなムードに、デザイナーの愛するシチリア島の風土が薫る。
自然の生命カや伝統の価値を重んじるまなざしがうかがえた。ウエディングドレスは紙の生地で仕立てられていて、エコ意識が感じられる。手の込んだ刺繍、まばゆい金糸使いなどが装いに重厚感とグラマラスを呼び込んだ。生きること、装うことの幸福さを歌い上げるかのような祝祭劇は、見る者を巻き込んで感動のフィナーレを迎えた。
◆プラダ(PRADA)
今やミラノ屈指の観光名所ともなったプラダ財団美術館エリアでショーを開いた「プラダ(PRADA)」はクラシックとガーリーを大胆にクロスオーバーさせた。ファーストルックはブラウンのつややかなサテン地の膝丈サイクリングパンツがスポーティなムードを印象づけた。胸に三角ロゴの付いた黒いハイネックトップスはリボンを添えてキュートに演出。ピンクのオープントゥ・サンダルも初々しい。
ボリューミーで古風なヘアバンドがレトロ感を醸し出す。ダブルブレストのアウターも60年代風味を帯びた。透けるニーソックスや巻きスカートがスクールガールの気分を漂わせる。シャツの白い襟を目立たせるレイヤードにもコケットが薫った。ただの少女テイストにはまとめず、ヘアバンドにはスタッズを配し、ノースリーブは正面のネックラインを思い切り深く下げている。トンボの目を思わせる特大サングラスも強さや近未来ムードを感じさせた。
パステルカラーやタイダイ、グラフィカル柄を投入して、装いを色めかせている。妹島和世氏を含む、3人の女性建築家とコラボレートしたバッグも企画された。精緻なテクノロジーが装いの随所に盛り込まれていた。たとえば、ボディスーツのように見えた服は実はジャカードニット仕立てといった具合だ。ミニマルとフェミニンの巧みな調和が新たな「強い女」イメージを立ちのぼらせていた。
◆フェンディ(FENDI)
現代の忙しい女性が求める機能を、「フェンディ(FENDI)」はポケットという形で表現して見せた。透明なビニール系素材のレインコートはブラウンカラーのレザーでトリミング(縁取り)されている。特大のレザーポケットがアクティブな女性像を示す。その後も「着るバッグ」と呼べそうな、大ぶりの張り出しバッグを備えたウエアが相次いで登場。パンツの膝あたりにもビッグポケットが用意されていた。
服に加え、ベルトにも収納アイテムが組み込まれた。弾倉のような小物入れ、モバイルケース、キーホルダーなどが連なり、ウエスト周りに動きが加わった。斜め掛けのボディバッグも提案されている。ウエストの正面にドレッシーなバッグも添えた。アイコンバッグの「バゲット」は多彩なバリエーションが用意されていた。
明るいブラウンやキャメルカラーをベースカラーに据えて、レザーの魅力を押し出している。上品なオレンジも装いを元気に見せた。オウムを思わせる、東洋的なバードモチーフはファニーな表情。ブランドロゴの「F」もリズムを乗せた。サイクリングパンツ風の肌にぴったりしたボトムスはアスリート気分とリュクスを交わらせていた。
◆エトロ(ETRO)
創業50周年を記念した展覧会を、ファッションウイークに合わせて開幕した「エトロ(ETRO)」は節目の年にふさわしい、「らしさ」全開のコレクションを披露した。ブランドのシンボル的なペイズリー柄をふんだんにあしらい、リゾート気分の漂うルックをそろえた。「PACIFIC ZEN」というテーマに沿って、ビーチのムードを押し出している。
サーフィンとスケートボードのカルチャーを写し込み、モデルにも小脇にボードを抱えさせた。流れ落ちるシルエットのロング丈プリントドレスに、カラーリッチなブランケットを肩掛け。サーファーの浜辺姿を思わせる着姿に仕上げた。スイムウエア風のショートトップスを組み込んだセットアップ、タキシード風ジャケットとリラックスパンツのコンビネーションといった、品格と伸びやかさが同居するスタイリングを提案。アスレジャーの先へといざなった。
トロピカルエスニック柄やデニム生地、バンダナ風モチーフなどを組み合わせたマルチムードのパッチワーク的な構成がカルチャーミックス感を高めた。ボヘミアンやヒッピーの自由な空気も寄り添わせている。1960年代の気分も帯びた。色はオレンジやイエローで太陽の陽射しを迎え入れた。アイコンのペイズリー柄を軸に据えながら、ヤシの木柄、オリエンタルモチーフなどを組み合わせている。
エキゾチックな風味を濃くした。着物ライクなカシュクール、柔道着から着想を得た布帯ベルトなど、日本趣味を盛り込んでいる。フィッシュネット素材の深い帽子、爪先ののぞくオープントゥ・サンダルもバケーションの雰囲気を帯びた。楽観が全体を包み込むような、ジョイフルでポジティブなムードが印象に残るコレクションだった。
◆ミッソーニ(MISSONI)
ブランド創設から65周年のアニバーサリーを迎えた、ニットの名門「ミッソーニ(MISSONI)」。巨大イベントホールの中庭を会場に選んだコレクション発表は、テーブルに着席した来場者が見守る中、ピアノの名手が奏でるリサイタルから始まった。ファミリーの絆で紡ぎ上げてきたアーカイブを踏まえつつ、全体に軽やかで流麗な、風通しのよいエフォートレススタイルにまとめ上げている。
チュニックの上から薄手のケープやローブ、ロングカーディガンを重ねる、エアリーなレイヤードルックを打ち出した。気負いを遠ざけ、縦落ち感を宿した装いがしなやかな女性像を描き出す。ナチュラルトーンやペールカラーを主体に、ニュートラルな色をまとった。つやめきを帯びたルーレックス糸を用いてシャイニー感を写し込んだ。ブランドアイコンとも言えるジグザグ・パターンをはじめ、顔模様やボーダー柄などクロスカルチャーを印象づける多彩なモチーフを編み込んでいる。
風をはらむドレッシングガウンやゆったりシルエットのパンツなどがほのかなファンタジーをまとわせる。透ける素材が重たさをそぎ、ノマディックなたたずまいに導く。深めのU字ネックラインも自然体を印象づけた。肩から落とした位置に添えるショールやストールはノーブルな風情。多様な文化を受け入れながらも、ファミリーの持ち味をぶれさせない懐の深さは、65年の厚みに裏打ちされていた。
◆マックスマーラ(MAX MARA)
メゾンのヘリテージを再評価する試みが相次いだ今回のミラノで、「マックスマーラ(MAX MARA)」はクラシックな装いをリアレンジしてみせた。肩を張ったパワーショルダーが80年代パワーウーマンを思わせる、凜々しい輪郭を描く。神話や古典をテーマに選んだコレクションにふさわしく、ワンショルダーのシルエットを多用。女神のイメージと、強い女のムードを響き合わせた。
ブラウンやベージュ、ホワイトなどのワントーンで着姿を染め上げた。ジューシーなイエロールックはフレッシュな着映え。生地の上質感を映し出す、アースカラー系の無地に加え、ポルカドットやチェック柄も投入。トレンチコートをはじめ、ミリタリーの風情も濃くした。
膝丈のパンツを組み込んだセットアップのように、オーソドックスな装いに、丈感のアレンジで表情に深みを加えた。パンツを重ねたようなボトムスレイヤードも披露。袖やパンツの両サイドに長くラッフルを走らせ、フェミニンを薫らせた。細かいフリル使いやギャザー、ドレープ、アシンメトリーといったディテールも着姿に程よい華やぎを添えていた。
スポーティな気分を象徴したのは、斜め掛けのボディバッグ。引き締まったくびれをベルトで強調するウエストマークもフォルムに抑揚を付けている。イスラム教の女性が髪を覆うスカーフ「ヒジャブ」にも似た、頭を完全に包み込むヘッドアクセサリーを繰り返し登場させたのも目をひいた。透ける黒のロンググローブはミステリアスな気品をまとわせていた。
◆サルヴァトーレ フェラガモ(Salvatore Ferragamo)
メンズとウィメンズを合同で発表した「サルヴァトーレ フェラガモ(Salvatore Ferragamo)」はお得意のレザーを多彩に生かしてみせた。革をまるで布のように軽快に操り、エフォートレスな着姿に整えている。レザー仕立てのスカートは裾が不ぞろいのハンカチーフヘムで動きを加えている。革小物のデザインにも手仕事技が注ぎ込まれ、小さなポーチ付きの細ベルトは腰周りにウィットを添えた。
ワークウエアが着想源になっている。カーキを多用して、ミリタリー気分を招き入れた。エメラルドグリーン、カリビアンブルー、バイオレット、バーントオレンジなどの大胆な色も使って、ニュートラルカラーを引き立てている。アーカイブから掘り起こした植物モチーフはパンツのセットアップを彩った。ソフトになめされたレザーはオーバーオール、コート、パンツ・セットアップなどに用いられ、静かなつやめきを帯びた。フィッシュネット仕立てのロングドレスは新鮮に映った。
ウィメンズ・クリエイティブ・ディレクターのポール・アンドリュー氏はもともと靴のデザイナーだっただけに、シューズのバリエーションにも抜かりがない。レザーのハンドウーブン(手編み)はクラフトマンシップの確かさを証明。日本の下駄を思わせる厚底のトングサンダルも装いにドラマをもたらしていた。
◆アニオナ(AGNONA)
最高級のカシミアに代表される、上質素材で知られる「アニオナ(AGNONA)」はミラノで初めて公式日程の本格ランウェイショーに臨んだ。アーティスティック・ディレクターのサイモン・ホロウェイ氏は気負うことなく、リラクシングなスーツドレッシングを提案した。トレンチコートやポンチョのシルエットもセットアップに取り入れて、堅苦しさを遠ざけつつ、統一感の高い装いに仕上げている。
ソフトな仕立てのスーツを主役に、マニッシュな風情のスレンダーな着姿に整えた。奇をてらわない、ミニマルでエレガントなフォルムは、選び抜かれたマテリアルの質感を引き立てている。とりわけ、ヴィキューナとセンチュリー・ダブルフェイス・カシミアの穏やかな風合いは装いに格上感を宿らせていた。素材感を生かした無地が大半を占める中、オウムやインコなどの鳥類が唯一のプリントモチーフとして動きを添えている。
巧みなレイヤードでほっそりしたシルエットにまとめ上げた。着丈が長めのセーターやチュニックが落ち感を引き出している。ライトなガウン風の羽織り物も風をはらみ、エフォートレスな着映えに導いた。長いベルトを二重にゆるく巻いて、余った端を垂らす小技ものどかなムードを醸し出す。布をたっぷり使ったワイドパンツ・セットアップは余裕や落ち着きを感じさせる。
ナッパレザー製のエプロンベルトはワークウエアの雰囲気を帯びた。カシミアが施されたスニーカーにも意外感とリュクスが注ぎ込まれている。全体に控えめでさりげない見せ方にタイムレスな品格が伴っていた。
◆ヌメロ ヴェントゥーノ(N°21)
フェミニンストリートやミックスレイヤードの魅力をモードに生かす先駆者的存在となってきた「ヌメロ ヴェントゥーノ(N°21)」は、リトル・ブラックドレス主体のエレガントなコレクションを打ち出した。色数やフォルムを抑え、クチューリッシュな装いにまとめ上げている。
ノースリーブのミニ丈ワンピースが主役を演じた。コンパクトなシルエットに仕上げながらも、オストリッチ風のフェザーをたっぷり配して、ファビュラスな気品をまとわせた。ビーズで華やがせたストラップドレスにもあでやかな色香が漂う。控えめなセンシュアリティ(官能性)がスタイリングの隠し味になっている。
タイトなペンシルスカートがすっきりした着姿を切り出している。抑制的なフォルムが「新しいスポーティ」を感じさせる。大ぶりのリボンは静かなリズムを添えた。黒を軸に据えながら、ピンクやグリーンでフレッシュな色味も乗せた。
ビニール系素材でつややかなコーティングを施し、なまめく光沢を宿した。ミニ丈ドレスもシルキーな質感がリュクスな風情を醸し出している。ボクシーなフォルムのジャケットにはマイクロミニ丈でコーディネート。ストラップのサンダルでヌーディな足元を演出した。色や柄で飾り立てすぎず、マテリアルの上質感と精緻なカッティングで「スポーツクチュール」の扉を押し開けたような意欲的コレクションだった。
◆スポーツマックス(SPORTMAX)
アスレティックなムードを強める流れがグローバルに加速している中、「スポーツマックス(SPORTMAX)」はサーフィンカルチャーをコレクションの柱に据えた。ビキニトップスやサーフパンツを取り入れながらも、ビーチムードに寄せすぎず、紳士風の正統派ジャケットを重ねて、「トラッド×サーフ」のミックスコーデに仕上げている。
イタリアンスーツを変形したかのような、ジャケットと膝丈パンツのセットアップで幕開け。ダイビングウエアを思わせるフーディーを重ねて、軽やかな装いに。足元は裸足に履いた、浜辺気分のフラットサンダル。ボディにぴったりフィットしたウエットスーツ風のドレスはスパンコールできらめきを帯びた。テイラードジャケットを羽織って、マリンスポーツ気分とイタリア流サルトリア(仕立て職人)文化をクロスオーバーさせた。
海を象徴するようなマリンブルーやターコイズが涼やかなイメージを呼び込んだ。カラーブロッキングでアクティブ気分を際立たせている。ウエットスーツ風のレギンスをレイヤードに組み込んで、タイト感を引き出していた。リバーシブルのパーカ、クラシックなレインコート、ロング丈のジレ(ベスト)などがダイナミックなシルエットを描き出した。サーフとスーツの融合という「スポーツテイラーリング」は新鮮に映った。
◆ブルマリン(BLUMARINE)
ロマンティックでフェミニンな装いを持ち味とする「ブルマリン(BLUMARINE)」はサイクルパンツをキーピースに選んで、アスレティックなムードを招き入れた。レーシーな軽やかアウターを羽織って、エレガンスを添えるのも忘れてはいない。シャイニーで肌ぴったりのバイシクルショーツの上から、透けるローブ風アウターを重ね、スポーツとエフォートレスを交差させている。
ネオンカラーを多用して、フレッシュな元気感を強めた。つやめきを帯びたオレンジやピンク、グリーン、ライラックなどが着姿をポジティブに彩った。スネークスキン柄やフローラルもたおやかな風情を醸し出した。キーホルダーを兼ねた長いネックストラップを垂らす小技にもアクティブ感がうかがえた。
ネオンカラーのサイクルパンツはボトムスレイヤードに組み込んで、ブランドロゴをあしらったウエストゴムを腰周りからのぞかせている。オフショルダートップスやスポーツブラなどの軽やかなウエアでスポーティ気分を勢いづかせた。
サイクルギアとサマードレスという、ムードが正反対とも言えそうなアイテムをテイストミックスし、心地よい「ずれ感」を生み出した。モードの最重要テーマとなりつつあるスポーツとフェミニンの響き合いを鮮明に打ち出した。
◆アルベルタ フェレッティ(ALBERTA FERRETTI)
ミラノエレガンスを代表する「アルベルタ フェレッティ(ALBERTA FERRETTI)」はサファリとイノセントが交差するようなコレクションをランウェイに送り出した。アイキャッチーなマルチポケット使いがユーティリティ感を宿らせている。デニムジャケットは左右に3個ずつの張り出しタイプを備え、別のサファリ風ジャケットにもビッグポケットが4個付いていた。
アースカラーやイエロー、ピンクなどのパステルカラーで着姿を染め上げた。やや色あせたソフトトーンが懐かしげで穏やかなムードをまとわせている。デニムジャケットやオーバーオールにはヒッピーの風味も漂った。一方、ドラマティックなラッフルブラウス、レーシーなワンピースなど、ガーリー気分を帯びたアイテムも登場。たっぷりしたカーゴパンツまでもが愛くるしさを引き出している。
大ぶりサイズの斜め掛けトートバッグやバックパックがボディを華奢に演出。全体に旅やボーホーの雰囲気も感じられた。総レース仕立ての流麗なドレスは風が吹き通り、涼やかでリュクスな着映え。レディー感とユーティリティを巧みに同居させた提案は次の夏旅に誘うかのようだった。
◆エムエスジーエム(MSGM)
「DREAM」というテーマを掲げ、ハッピームードを押し出したのは、ミラノモードを引っ張る「エムエスジーエム(MSGM)」。ピンクやイエロー、赤、グリーンなどの鮮やか色を注ぎ込んで、ランウェイに多幸感をまとわせた。服や靴にフェザーをあしらって、パーティルックのわくわく感も呼び込んでいる。
カラーブロックやカシュクール風、ワンショルダー、アシンメトリーなどドレスのバリエーションが豊富。身頃を斜めに横切ってラッフルが流れ落ちるドレスは優美なイメージを寄り添わせた。ナイトクラビングに出掛けたくなりそうなエナジールックだ。足元のウエスタンブーツにもアクティブな遊び心が宿った。
サイケデリックなマルチカラーのフラワープリントが着姿を弾ませた。デニムブルゾンの不規則ブリーチやタイダイ柄はノマドやヒッピーの気分を帯びた。逆に、これまで目に付いたロゴは影を潜め、ムードチェンジを感じさせた。
フェザーをどっさりとあしらい、ボーダー柄に仕立てたミニ丈のコンパクトなドレスもフィナーレに繰り返し披露。盛り上がるミニ丈の打ち出しはトレンドセッターならではの仕掛け。ミニの復活は今シーズンのミラノで目立った傾向だった。
◆モスキーノ(MOSCHINO)
「モスキーノ(MOSCHINO)」のジェレミー・スコット氏は、考えがうまくまとまらないと、紙にサインペンで波線をぐちゃぐちゃと書いてしまうような「ぐちゃぐちゃ波線」をキーモチーフに選んだ。チェック柄や花柄のような整った図柄ではなく、あえて「失敗」の象徴を使うあたりに、ジェレミーらしいウィット感があふれている。
大胆の極みとも言えそうなモチーフとは反対に、ウエアのバリエーションは古風。ウエストのくびれを強調したタイトスカートのスーツはいかにもクラシックなシルエットだ。クラウンが浅く平べったい帽子を斜めに傾けてかぶるのも、オールディーズの風情。ロンググローブやシガレットパンツにもレトロな淑女ムードが薫る。その一方で、服や脚を埋め尽くしているのは、殴り書きの「ぐちゃぐちゃ波線」。正統と異端のアンバランスがミックスされた。
ミニ丈ワンピースや細身パンツ・セットアップなど、ノスタルジックな古典的シルエットをリバイバル。往年のクチュールを彷彿させた。終盤には服作りに欠かせない鋏やメジャーを服に仕立てるトリッキーな試みも披露。最後をマリエ(ウエディングドレス)で締めくくるという、伝統的なファッションショーの作法も守って、クチュールの歴史にオマージュを捧げることも忘れていなかった。
◆ジョルジオ アルマーニ(GIORGIO ARMANI)
ミラノモードの重鎮「ジョルジオ アルマーニ(GIORGIO ARMANI)」は海や水をイメージソースに、まるで露や波をまとったかのような、つややかでまばゆい装いを紡ぎ出した。陽光を浴びて、水面がキラキラ照り映えるような効果を呼び込んだ。複雑に光を跳ねさせるホログラム加工を施した布や、スパンコール、ビーズなどを多彩に用いて、光輝を迎え入れている。
シルバーグレー、ブルーメタリックなど、海中や深海を連想させるきらめき色で着姿をシャイニーに彩った。モデルが歩みを進めるたびに、ライティングの当たり具合が変わって、別のリフレクション(反射)が生まれる。魚のウロコが見せるような、ナチュラルなグリッターを帯びた装いはしなやかにボディラインを描き出す。液体のように流れ落ちる、ドレスのシルエットとの相乗効果が生まれている。
サンゴを思わせるピンクを差し色に使って、水やミネラルのイメージを宿したルックとのカラーバランスを整えた。ビジュウやプラスティックの透明感やつやめきもスーツやワンピースのドレッシーな装いにリュクス感を添えている。手の込んだ刺繍が醸し出す格上感が、シグネチャー的な流麗シルエットを引き立てた。
今回のミラノ全体に言えるのは、サイクリングパンツに象徴される、アスレティックなピースの台頭だ。スイムウエアやサーフカルチャーの取り入れも目立った。その一方で、ラッフルやフェザーを生かした、フェミニニティの演出も盛り上がった。ミニ丈ドレス、ピンク、レースの打ち出しも相次ぎ、若返りも進んだと見えた。
宮田 理江(みやた・りえ)
複数のファッションブランドの販売員としてキャリアを積み、バイヤー、プレスを経験後、ファッションジャーナリストへ。新聞や雑誌、テレビ、ウェブなど、数々のメディアでコメント提供や記事執筆を手がける。 コレクションのリポート、トレンドの解説、スタイリングの提案、セレブリティ・有名人・ストリートの着こなし分析のほか、企業・商品ブランディング、広告、イベント出演、セミナーなどを幅広くこなす。著書にファッション指南本『おしゃれの近道』『もっとおしゃれの近道』(共に学研)がある。
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