PICK UP

2018.09.28

【インタビュー】イタリア靴の最高のショーケースがミカム イタリア靴メーカー協会・アンナリータ・ピロッティ会長に聞く

 靴業界の見本市としては世界のトップを走っていると言っても過言ではない「ミカム(MICAM)」。それを統括するイタリア靴メーカー協会(ASSOCALZATURIFICI)のアンナリータ・ピロッティ(Annarita Pilotti)会長に単独インタビューを行い、靴業界や見本市の在り方、日EU経済連携協定(EPA)などについて話を聞いた。

――今回のMICAMで絶対に見逃せないものはありますか?

 

 見逃せないイベントはたくさんありますが、今回は全く新しい企画が二つありました。まず、数々の賞を受賞しているブロードウェイ・ミュージカル『キンキーブーツ』のプレビュー公演を行いました。靴製造に携わる青年が主人公で、経営不信となった家族経営の会社を立て直すために、今までの製品とは全く違う「オルタナティブ」なコレクションを作り上げていく物語です。ミカムとイタリア靴メーカー協会が今回この公演を強く望んだのは、家族経営企業における世代交代の重要性を来場者および業界の人々に考えてもらえたらと思ったからです。もう一つの新規イベントは「エンヴィ・フォー・ミカム(Envy for MICAM)」(エマージング・デザイナーズ)というプロジェクトで、12人の新進気鋭のデザイナー達が競い合いました。展示会の2日目には、審査員団から受賞者の発表があり、授賞式には来賓として、アメリカのデザイナー、トミー・ヒルフィガーが参加してくれました。

ブロードウェイ・ミュージカル「キンキーブーツ」のプレビュー公演(画像:MICAM)

――テクノロジー応用の分野で、ミカムとして業界に向けての提案は何かありますか?

 提案というより助言と言った方が良いでしょう。テクノロジーの応用がもたらすチャンスを掴むことは重要ですが、製品のクリエーションにおけるクラフトマンシップや伝統を放棄するべきではありません。刻々と変化する市場で競争力を保ちたければ、製品開発にできるだけの資源を割くことが必要になってきています。特に小企業や零細企業にとっては、サンプル製造のために投入する資源は予算の中で莫大な割合を占めることになりますが、革新のために必要な投資なのです。ファッション部門全体の国際競争力に関わってくる問題ですから、課税免除などの政策で優遇措置を図ることが必要でしょう。

――協会として、現在強化している点は?

 

 中小零細企業の多い業界ですから、国際化へのサポートは欠かせません。日本、ロシア、中国、韓国、米国などへ向けてのワークショップ、見本市への参加や展示会の開催などを行っています。また人材の育成にも力を入れており、カンパーニャ州やベネト州など地方では、靴作りやマネジメントなどの分野で若い人を育てることに投資しています。

――日EU経済連携協定(EPA)に向けて、イタリアやヨーロッパの製靴産業がとらなくてはならない方向性、あるいは対策はあるのでしょうか?

 

 世界経済を脅かしている保護主義の風を遠ざけるために、引き続き尽力していくことが必要です。メイド・イン・イタリーの重要品目の一つを担う製靴業界にも大きな影響を及ぼす可能性があるからです。この点に関しては、欧州委員会がこの数年、野心的で積極的な貿易政策を追求してきたことに満足しています。日本との協定により、世界で最も大きな自由貿易圏が誕生します。世界経済の三分の一を占め、6億人の人口を擁する経済圏となります。協定に謳われているように、両者とも関税の99%までを廃止することになるでしょう。関税がなくなることで、ヨーロッパ企業は年間およそ10億ユーロ分の負担が減ります。製靴業界にとっては、この協定はもちろんプラスになります。関税が段階的に廃止されていくことで、イタリア製品の対日輸出が増加することになるでしょう。

――近年、ファッション関連の大イベントやトレードショーが難しい状況になってきていると言われています。原因やそれに対する対策は?

 

 私は大イベントが難しい状況になっているとは思いません。数々のトレードショーの中での自然淘汰が起きているということではないでしょうか。展示会に代表される大イベントは、ファッション部門にとっては今でも掛け替えのないビジネスツールです。細かなニーズを満たしてくれる製品やアイデアを求める人間と、それをクライアントのニーズに合わせて提供できる人間が直接に出会えるという機会に優るものはありません。ミカムはそうした例の代表と言えます。ミカムは世界のシューズ市場の動向を最も忠実に示す「バロメーター」へと成長しましたし、メイド・イン・イタリーのシューズにとって最高のショーケースです。ハイファッションの老舗も数多く参加する、唯一無二の素晴らしい展示を見ていただくことができます。

~イタリア靴工業会(ANCI)からイタリア靴メーカー協会(ASSOCALZATURIFICI)へと名称変更を行っても、いまだにアンチの呼称で通じる長い伝統を持つ団体の歴史の中で、初の女性会長となったピロット氏。女性らしい華やかさで、今回の『キンキーブーツ』のようなエンターテインメント性を強めているのが窺えた。一方で、この10年のミカムのバロメーターは決して予断を許すものではない。2009年9月展では出展者数が約1600だったので、10年を経て約13%減、前年同期比では、出展者数が約3%減、来場者数に至っては約20%減となっている。地域毎に存在するサプライチェーンを生かしながら、イタリア靴産業の強みを伸ばしつつ、世界の耳目を集める革新的な展示会の有り様も求められている。~

前へ | 1 | 2 | 次へ

メールマガジン登録